「どう見ても下着よね」
包みを開いて一番上に載せられたソレは、生地こそ厚手のものだが、黒い2等辺三角形の形はあきらかに女性用下着のソレであった。
「黒、ですか…すこし大人の雰囲気ね。」
隣から覗き込んだ雛がずれた感想を述べるなかパルスィは包みの提供主である汚い忍者を見た。
「…一式の中身なんて俺は知らねぇよ、受け取ったのならとっとと着替えて来やがれ」
日々の涙ぐましい金策生活の成果として各自に渡された新装備は、ヴァナ人達が好んで着用しているジョブ専用装備のさらに上位版、レリック装束…だと忍者は言った。
通常ならとても店やバザーで買えるはずのないこれら装備は、預かり所からの質流れ品だという。
パルスィには緋色鮮やかな甲賀装束を
雛には聖なるクレリック装束を
メディスンには黒地のビロードにブルーのラインが美しいソーサラー一式、これはタルタル用でもサイズが大きすぎたため今雛が裾詰めをしている。
トンガリ帽子だけは被ると装備者にピッタリ合うよう魔法がかかっていたらしく、スーさんと交互に装備して遊んでいた。
汚い忍者自身と不破の分は今回はめぼしい物が無く、購入を見送ったという。

「中古の下着を強要するなんて…あなた変態?」
「ノブオのヘンターイ」
「ヘンターイ」
「……んっ!」
「だから知らねぇって」

手にとってしげしげと眺めてみる「こんなところで取り出すなよ」とかなんとか後で忍者が喚いていたが雛の「忍者さんって案外純情ですよね」の一言が急所にヒットしたらしく乱暴に部屋を出て行ってしまった。
多分これらの装備にも魔法がかかっているのだろう、どれも新品にしか見えない。
「拙も表へ出ていよう、支度が整ったら声をかけるがいい」
忍者が出て行った為、女性陣が移動するよりも自らが動いた方が早いと判断した不破が忍者の後を追って出て行った。
その時には他の窓や襖障子を閉じていくことも忘れない、気配りだって完璧な漢、それが不破刃。凄い漢だ。

裾上げの終わったソーサラートンパンをメディスンが履く、臑が出る長さまで裾上げされた縦縞模様のズボンから、重ね履きしたドロワーズのフリルが覗いていてとても可愛らしい。
ソーサラーコートは手触りの良い紫織物で縁取られており、良くみると細かな守りの紋章が縫い込まれてある。
コートはチュニックとボレロの2部式になっていて胸元のボタンは金飾り、スーさんに手伝ってもらいつつ、おぼつかない手つきで一つ一つはめ込んでいった。
ふわふわの髪の毛が絡んでしまわないようパルスィが持ち上げ、雛が持ち上げたボレロに片腕ずつ通し、大きくふくらんだパフスリーブの袖を同じ金の留め具を付けて完成だ。
それぞれの金具にも精密な装飾が施されて、魔力が込められているのだろう、身体の奥から沸き上がる魔力に気持ちが高揚し、唱え始めたウォタガの詠唱を慌ててパルスィが止めた。
「っぐ、むむぅふぅー」
詠唱完了のタイミングをまって手を離す。中断したと思って油断したところに古代着弾で小屋建て直しはもうこりごりだ。
「大丈夫だよーちゃんと手加減するから!」
「その手加減が信用できないから止めてるのよ」

新しい服というものは不思議だ、袖を通す前でも手にとった瞬間から心が浮き立ってくる。
雛がワンピースのリボンを解くと、開放された豊かな胸が下着ごとぷるんと震えた。
上機嫌なままチーッチチッチと振り付きで歌い出したメディスンを笑顔で殴打してからクレリクブリオーに着替え始めた。

はじめに黒の上下インナーを着用する、どちらも身体にぴったりと沿ったもので装飾は袖口衿口の金ラインのみだ。
鏡に映った自らの姿を眺めながら雛が呟く。
「地霊外れににこんな感じの青い人達がいたわよね…」
急にあらがえない欲求が沸き上がってくる、やってはいけない、そう思うのにいけないと思えば思うほど耐え難い衝動に突き動かされて、そろそろと腕を腰にあてる。
鏡に対して斜めに立ち、アゴは軽く引く、そして脚の組み方はこんな感じ…
「それをやってはいけないわ!!」
不穏な空気に気が付いたパルスィが慌てて飛びつく、大きな音をたててふたり倒れ込み、畳みかけたメディスンのドレスが宙を舞った。
「あ、…危なかったわ、水橋さんありがとう」
どきどきしながらパルスィの下からはいだそうとするが、何かがおかしい
「水橋さん?」
「…ムキュン」
抱きつく様に倒れ込んだため密着度は相当なものだった、そして今雛は厄除けの靱皮紙どころか、ほぼ素肌にインナーのみの姿である。
ダイレクトに厄を喰らって昏倒していた。
「いやーーーーーーーーーーー!水橋さんっ!水橋さん」
抱き起こすことで追撃のアンラッキーは加速した。合掌
結局数メートル先から靱皮紙を投げつけてみたところ、パルスィが復活するまでに投てきスキルが1.7も上がったことを付け足しておく