だんだんと寝息が大きくなっていく。
どうやら、やっと寝付いてくれたみたい。
今日はルーミィ一日ゴキゲンだったからな、昼間買ってあげた一冊の絵本を
とっても嬉しそうになんども読んでくれとせがむルーミィ。
さすがにあれだけ騒いでいたから疲れ果てたのか、こうなってはどんなことがあっても朝まで起きないだろう。
ゆっくりとのびをして、わたしもばふっと自分のベットの上に寝転がった

…まだ約束の時間まではあるよね…

時計なんて高価な物もってないけれども、まだそんなに時間がたった訳じゃないって事ぐらいわたしにだって判る。

「…どうしようかな」

できたら本当はこのまま眠ってしまいたいところなんだけれども。
そうなると、後が怖いというか、なんと言えばいいんだろう、
きっと怒るんだろうな、でも
別にきちんと約束した訳じゃないし、だいたい一方的にそんなこと言われたって、ねぇ。
見下ろしてみればルーミィのぷくぷくほっぺ、
見ているだけで幸せになれる。

「ふふ、かわいー」
あーあ、わたしも眠くなってきてしまった。
やっぱり、このまま寝ちゃおうかな?
そう思えば思うほどどんどんわたしのまぶたは重くなっていって…
と、思ったのに!

少しは時間という物を考えてくれないんだろうか?
乱暴に開かれたドアの音が今にも安らかな眠りにつこうとしていたわたしの頭をひっぱたいた。
そちらを見るまでもなく、原因は分かってる。
こんな時だけちゃっかり迎えに来ないでよね…
ゆっくりと身を起こしてドアの方を振り返った。
「……遅せぇ」
やっぱりむすっとした顔。
でも、やっぱり一方的に怒るわけにも行かなくて、困ったような、でもやっぱり不機嫌な表情
それが何だか少し可愛くて思わず笑みがこぼれた。
「あに笑ってんだよ」
ずかずかとその招かれざる侵入者…トラップは何の遠慮もなしに部屋に入ってくると
これまたどかっとわたしたちのベットに腰掛ける。
「別にー。あ、あんまり乱暴にしないでよ、ルーミィが起きちゃうじゃない」
今のショックですこし毛布がずれてしまったみたい。
そっと彼女に毛布をかぶせ直してあげる。
「コイツがそんな簡単に起きるわけねーだろ」
そういってこつこつと布団から覗くシルバーブロンドをこつこつ叩く。
「それともなんだお前ここがいいのか?」
…!たく、コイツはどうしてそう言う考えが浮かんで来るんだろう!
思いっきりひっぱたいてやろうと手を振り上げてみたら、その手をグイッとつかまれてしまった。
引き寄せられて、じっと見つめられる。
何だか妙に神妙な…表情
「………嫌か?」
そんな顔でそんなふうに聞かれたら、わたしは何も言えなくなってしまう。
「……と、だから、そうじゃなくて」
必死に視線を逸らしながら言葉にならない言葉を返す
自分でも顔が赤くなってるのが判る、鼓動もどんどんと大きくなってこのままじゃあ押しつぶされてしまいそう。
「……じゃ…ないけど」
ぎりぎり聞こえるかくらいの声でそれだけを呟く
嫌じゃないの、嫌じゃないけど…
「うーし!」
変に調子のいい声が聞こえたのが次の瞬間。
「しかと聞いたからなっ、ちゃんと自分の行ったことは責任取れよ」
有無を言わさず立ち上がると私の手を取ったまま立ち上がり、部屋を出ていこうとする。
…罠だったんだ!そう気が付いたものの後の祭り
「…ひどーい!ヤダヤダヤダヤダー絶対嫌だからねーーっ!」
「んー何だぁ聞こえないなぁー」
どこまでも嬉しそうなトラップを後目にせめてもの抵抗を試みるわたしだけど
ベットの柱をつかもうとした手は毛布をつかんだだけで、そのままずるずると毛布を引きずりながら扉へと一直線。
薄暗い廊下へと連れ出されてしまった。
でも、この時わたしもトラップも気が付いていなかったんだよね、
わたしのつかんでいた毛布が誰に掛かっていたか、なあんて。
結果わたしはこのおかげで助かったというのか、その……ええと。
まあいいや!済んだことを考えていてもしかたがないもんね!

ぎゅうっと後ろから回された手、それはとても暖かくて、気持ちがいい。
ああ、結局わたしこのぬくもりが大好きなんだな。
色々とひどいなぁとも思うけれども、こうして抱きしめてもらうだけで
そんな思いはどこかに吹っ飛んでしまって、
後に残ったのは計り知れないおおきな幸福感。
それを確かめるように強く抱きしめ返せば、また響きあうように強く抱きしめてくれるあなたが好き。
そうっとシーツに身を隠しながら振り返ると、胸にあたったわたしの前髪がくすぐったかったのかな?
ちょっぴり体がこわばった後、わしゃわしゃと頭を半ば押しつけられるようになでられた。
それから逃れる様に手をつかんで握りしめる。
見上げると、滅多に見れないかお。
きっと、彼のこんな顔を見れるのはわたしだけ、それがわたしのほんの少しの独占欲を満たしてくれる。
握りしめた手はそのままに、顔を寄せ、唇を合わせる、
じゃれ合うようなキスからだんだんと深い物へ。
わたしの体に回されたもう一方の腕に力が込められて、ゆっくりと滑り落ちる

「…わ…るぅ…」

どこからともなく聞こえてきたその声にわたしたちは硬直してしまった
「…空耳…だよなぁ」
わたしもそう思いたかったけど、でもその声はどんどんと大きくなっていって。
「…起きちゃったんだ」
今更ながら部屋を出るときにルーミィの毛布をかけ直していなかったことに気が付いた
いくら一度眠ったら起きないルーミィとはいえ、流石に深夜は結構冷えるこの季節。
どうしたらいいんだろう、
とっさに思いつかなくてしばらくあたふたしていたんだけど
「あれ?止まった?」
そう、一度はあんなにはっきりと聞こえていたはずの鳴き声がぴたりと聞こえなくなる
「やっぱり、空耳だって」
いくら何でもそんなわけはないでしょうと言いたいけど、
でもたしかにしばらく待ってみても泣き声は聞こえてこなかった。
そのかわりに今度はぱたぱたと誰かの足音
すこし騒がしくなったかと思ったら、今度はどんどんと何かを叩く音
「キットン!起きてくれ!」
…もしかしなくても、一番大事になっちゃったのかも知れない…

クレイまで起きて来ちゃったんだ!
こうなると完全にわたしの頭はパニックしてしまってどうすればいいのかなんて判らない
たちまちわたしと同じように、ううん、もしかしたらもっと焦ってたのかもしれない
隣でまだ固まったままのトラップの腕をゆさゆさと揺すった。

「ねっ、ねえどうしよう…」
「どっ、どうしようたって、なんとかするしかねぇだろうが」
そんなうちにとうとう扉がノックされると見事に慌てまくった形相のクレイが飛び込んでくる。

「トラップ、起きてくれパステルが急にいなくなったんだ」
「…なんだよ…うるせぇなぁ…」
「だ・か・ら!パステルがいないんだってば!」
うう、ゴメンナサイここにいます…とは流石に言えるわけがない。
でもさすがトラップと言うべきなのか、クレイが部屋に入る瞬間わたしを素早く
自分の足下に押し込むとがばっと毛布でくるんでしまった。
当然、トラップ自身も肩まで潜っていたから、クレイからは普通に眠っていたようにしか見えないだろう。
「たく…またあの馬鹿なにかしでかしやがったのか?」
馬鹿って…馬鹿ってあんたのせいでしょうが!
思いっきり目の前にあった太ももをつねってみる
相当痛かったはずだけどここで騒いだら元のもくあみだもんね、
必死に耐えてる様子が変におかしかった。

「じゃあ5分後だな!二度寝するんじゃないぞ!」
どうやらクレイが出ていったらしい気配、うう、ごめんねクレイみんなぜーんぶコイツが悪いんだから!
せめてわたしが充分ここで懲らしめておいて上げるから
調子に乗ってもう一回つねってみた。
「痛いってんだろうがー!」
とうとう、我慢の限界を超えたらしい一気に引き上げられるとぎっと睨み付けられた
「言ってないじゃないよぉ」
あんまりにもおかしくって、涙まで出てきてしまった。
必死に笑いをこらえながらそれでも延々と笑い続けた。

って、笑ってる場合じゃないんだけどさ。
トラップと言えば、なんだか「クレイの野郎…」とかぶつぶつ言いながら着替え始めている。
「ほれ、さっさとおめえも支度しろって」
「あ、はいはい」
せかされて同じようにつっこまれていたシャツに手を伸ばす。
「で、どうすればいいわけ?」
こう言うときはおとなしく彼の言うことを聞いておく方が得策だ
「なんだよ、気持ちわりぃな」
「べっつにー♪」
「ちぇ、つまんねぇーの」

結局わたしたちの取った手はどこまでもレトロな手段。
「ええーわたしそんなに寝相悪くないわよ!トラップじゃあるまいし!」
「そりゃぁ悪うございましたね!」
トラップが指さす先はベットと壁の狭い隙間、
ここに落ちて眠っていたことにしておけというのだ。
でもね、床だよ床!冷たいし、何だか埃っぽいし、気が進まない
「ほーう、じゃあお前にはほかになにか良い案があるって言うのか」

…あるわけないけど

「文句言わずにさっさと入る!」
口をとがらしてふくれるわたしを押し込める、

…本当!いつも強引なんだから!

でもまあ他に良い案も思いつかないし、覚悟決めるしかないんだろうな…
床にほっぺをくっつけてごろんと横になる、うう、冷たいよぉ
「おーし!んじゃおれがいいって言うまで起きるんじゃねぇぞ」

風邪ひかないといいんだけど。
ぼんやりとしているうちにだんだんと自分の体温で床とはいえ少しづつ暖かくなってくる。
起きろっていわれてももう起きれないもんね…
いい気持ちでうとうと始めた頃
今度は頭に強い衝撃。

「……トラップ…何するのよ!…ったたたっ」
いくら何でもそんな起こしかたってないんじゃないの!
文句を言ってやろうと勢い良く起きあがったら今度はベットの柱に頭を打ちつけてしまった。
すっかり床の上だってわすれちゃってた!
辺りを見回すとすっかり泣き疲れたようすのルーミィが駆け寄ってくる

「ぱーるぅ、ぱーるぅ、ルーミィさみしかったんらおうー!!」
「ごめんね、ルーミィ、もう大丈夫だからね」
すっかり安心したのかそのままわたしの腕の中ですやすやと眠ってしまうルーミィ
これは朝まで離れないね、おそらく
ゆっくりとルーミィの髪をなでているわたしにクレイが声を掛けて部屋を出ていく
「ルーミィ、こんどはパステルがベットから落ちないようにしっかりと見ててやれよ」
それにしても、さっきの蹴りは痛かった…!
すこしは手加減って物が出来ないんだろうか
そう思ってクレイに続いて部屋を出ていこうとしたトラップの背中を憎々しげに睨み付けてやる
と視線に気が付いたのか、ゆっくりと当の本人が振り向いた。
思わずどきっとして動きが止まってしまう
「え?」
何か言ってる?
口元をゆっくり観察すれば確かに何か言おうとしてる
「さっき…?」
ゆっくりにやにやとした表情を張り付けたまま数回繰り返した

———さっきの、しかえし

「……自業自得でしょ!」
そう言ってわたしの投げた枕はむなしく扉に当たっただけだった。