dignity
忘れるはずがないその鼓動
香り存在感

「いいじゃない、2.3日で直るっていうのなら、私たちだけで行ってこようよ」
一度、ほっとした空気が再び皆の肩に重くのしかかった。

「まあ、パステルがそういうんだったら、それでもいいけど」
思いっきり不思議そうな表情で渋々肯くクレイ、思い当たるフシはいくらでもあったけれども、ここでそれを聞くのはやめておいた方がいいと判断したようだ。
そんなに急ぎの仕事でもない、どうせなら回復を待って、それから出発しても決して遅くはなかったのだが、そのことは皆承知であったにもかかわらず、結果的には勢いに押される形となった。
無理矢理に平然を装ったパステルがまくし立てる。

「だから、マリーナしばらく…お願いするね」
ちらりと顔を上げれば、クレイと同じように何か言いたげなマリーナの顔。
それでもどうしようもない、彼の名を口にすることももう、できない。
「ルーミィ、行こう」
吹っ切るようにくるりと振り向くと、ルーミィの手を引いて半ば飛び出すように部屋を後にした。

自分の気持ちに気がついたのが少し前のこと、
気がついたとたん、その想いが止まらなくなって、それと同時にどうしようもなく悲しくなった。
口にすることなんて絶対にできない、彼に迷惑がかかるだけだ。
彼には別に想う人がいる、そんなことはずっと前から知っていたこと、
けれども、彼がわたしの名前を呼ぶ度に、わたしに触れるそのたびに、
わたしの鼓動は早くなって、「すき」があふれてしまいそうになる。
まともに顔も見れなくなって、ここの所あらかさまに避けてしまった
明らかに自分でもおかしかったと思う、
案の定すぐの問いつめられそうになって、

わたしは逃げることしかできなかった。

でも、
雑踏の中に紛れていても、
木々の梢に姿を隠してみても……

きっと、逃げ切れない。

「おい」
後ろから不機嫌そうな声、ものすごく怒っているんだろうな。
それも当然だと思う、だってこの1週間ほどの間一度だってまともに会話をしていないし、顔も見ていない。
今だって、必死に顔を背けて平静を装うとする。
でも、緊張で肩がふるえる、泣きたいくらいにどきどきしてる
こんなわたしを見られたくない、きっと気付かれてしまうから
返事もせずに、その場から離れようとしたら、腕を強くつかまれ、強引に正面を向かせられる。
「こっち見ろっていってんだろ」
「……」
うつむいたわたしの頭上から彼の声、つかまれた腕の辺りがとても、熱い
これ以上ここにいたら、きっとわたしはどうにかなってしまう。
黙ったままのわたしにしびれを切らした彼が、今度はわたしの両頬を抱えて顔をのぞき込む、包み込んだ大きな手

目が合った、わたしの予想に反して、そこにあったのは強い光を放ちながらも
どこか悲しげな茶色の瞳
抗いようもなくその瞳に引き込まれる、
このままではいけないと体中が警告する、
一刻も早くここから逃げないと、離れないと、
そう思った瞬間、ありったけの力で彼を突き飛ばしてしまった。
すぐ後ろに迫っていた木に体が叩きつけられ、細身の幹が大きくしなる。
「ごっ、ごめんっ」
慌てて駆け寄ると、視界に見覚えのある明るい色。
何だろう、何だったかな?
ぼーっと上から舞い降りてくるそれを眺めていた、だんだんと影が大きくなってくる。
あれは、たしか…
もう少しで思い出せそうになったとき
「馬鹿!ぼっとしてんじゃねえ!」
「えっ」
声をかけられてはっと我に返る、
いけない、そう思ったけれども体が動かなくて、次の瞬間、強く抱きしめられていた。
こんな時だって言うのに、鼓動が早くなる
「トラッ……」
久方ぶりに呼んだ名前は、最後まで彼に届いたのだろうか?

木の上にはどうやらムウオウの群が止まっていたらしい、それをわたしが大きく揺らしてしまったために一気に舞い降りてきたんだ。
わたしはまともにその下から見上げていたことになる。
それでも、半日ほどで何とか視力は回復した。
問題はわたしをかばうために飛び込んできたトラップのほう、
どうやら直接羽に触れてしまったようで当分の間は一切目が見えないらしい。
ひとまずエベリン近くまで来ていたから、マリーナの所に運び込んでキットンにゆっくりと看て貰う。
初めから1時的な物だと解ってはいたし、他に具合の悪いところもないようで2,3日もゆっくりすれば元通りだとキットンは言った。
わたしのせいでという、責任感よりも
正直、わたしはほっとしていた。
とっくにトラップの前で平静を装うには無理がきていたから。

それに、早く、忘れなきゃいけない。

「いつまでもおれたちがいるとおもうな」
何度も聞かされた台詞、いつか来ることは解っていた。
きっと今がそのとき
それだけのこと

焚き火の前でぼんやりと膝を抱える、背中にもたれて眠るルーミィの体温が暖かい。
眠れないから、そう言って一人寝ずの番を買って出た。
寝れそうにないのは本当のこと、考えないようになんてできるはずがない、
今頃どうしているんだろうか、
せっかくお膳立てしてあげたんだから男を見せてあげてよね
次に会うときまでには、頑張って笑えるようにするから。

だから今は泣いても、怒らないでね、
いっぱいいっぱい泣いて、全部忘れてしまうから。

涙を覆うように、膝に顔を埋めて泣いた。
誰にも気付かれないように、声を押し殺して
どうしたって忘れられないよ
彼の姿を思い浮かべる度に、わたしの鼓動は早くなっていく
呼吸が苦しい。
いっそこのまま心臓も、息も止まってしまえばどんなに楽なことだろう。

「トラップ、の馬鹿」
小さく呟くとまた、心臓が跳ね上がった。
どうして、こんなに好きになってしまったのか
いつも人のことをからかってばかりのトラブルメーカーで、
振り回されて、腹が立って、
でも、たまに優しかったり、よくやったなって笑いかけてくれたりするとものすごく嬉しくなる。
いつだって子ども扱いされて悔しかったりするけど、
だからこそ認めて欲しくて。

「パステル」

不意に頭に大きな手の感触、顔は上げずにそのままその手の主に語りかける。
「ごめんね、クレイ心配かけて」
たぶん彼はずっとわたしの様子を気にかけていてくれたんだろうな
何も言わずにそのままわたしの髪をゆっくりとなでた。
ダメだよ、そんなに優しくしたら
「ふくっ…うっ」
最後までこらえていたはずの嗚咽が漏れ始めた、こうなるともう止まらない
クレイの肩に瞼を押しつけてぼろぼろと泣き崩れる
わんわん、大きな声を上げて、いつまでも泣き続けた。

みんな、ごめんね、それから、ありがとう
ルーミィまで一生懸命気付かないフリでたぬき寝入りをしてくれた。


翌朝、近くの川で顔を洗いながら、はれてしまった目を冷やす。
泣くだけ泣いて、ほんのすこしだけすっきりした頭で思ったのは
やっぱりトラップが好きだと言うこと。
しばらくは、やっぱりつらいと思うけどきっと、もう大丈夫
わたしはこの自分の気持ちがあるだけで満足だから。

大きく息を吸い込んで皆の元へと戻る、
早くいつもの元気なパステルに戻らなきゃならない、ルーミィにまで心配かけてしまって、このままじゃ保護者失格だよね。
しっかりと大地を踏みしめるようにして歩く

ちゃんと一人で歩かなきゃ。

 

「ああ、パステル、丁度いいところに帰ってきました」
待ちかまえていたキットンがわたしの腕を取った
「どうしたの?」
「話は又後で、とりあえず急いで下さい、もう準備はできていますから」
何がなんだか解らない、キットンに促されるまま指し示す方へと歩いていく。
向かった先にはクレイが待っていた、それから1台の乗り合い馬車
クレイは御者のおじさんと何か話していたみたいだったけれども、わたしに気がつくと大きく手を振った。
こちらに走り寄ってわたしにリュックを押しつける。
「クレイ?」
「会いたいんだろ?」
首を傾げたわたしにクレイはそういってやんわりと笑いかけ、続ける
「無理に止まってもらったんだ、さあ、早く」
「でっ、でもっ」
「パステル」
今度は強引に体が持ち上げられた。そのまま馬車へと押し込まれる
「散々悩んだんだろう?悩むだけ悩んだら今度は体で動くんだ、悩んでる…考えているだけじゃなにも変わらない、自分の力で」
馬車がゆっくりと動き出す、キットンが合図をしたらしい。
「すべてを、見ておいで」

揺れる馬車の中ですっかり涙もろくなってしまった目尻を軽くこする。
どうすればいいのかなんてまだ解らない、
結論はもう少しで出そうなところで引っかかってる
けれども、走り出した馬車はもう止まらない。

向かう先は、砂漠の大都市エベリン

dignity
その暖かさを
忘れることはできない

 

馬車を降りたとき日はまだこうこうと高く、相変わらずの流れる人々と、ざわめき、自分の意志とは関係なく絶えることのないそれは、どこか己を別世界に運ぶような感じすら受ける。
古びた階段を上り詰めたそこに待つのは1枚の扉、
伸ばした手がためらいがちに止まり、引き戻された。

いざ、ここまでやっては来たものの、最後の勇気がどうしても出てこない、
一度、水でも飲んで落ち着こうと階段を降りきったとき、階下のケーキ屋さんから見覚えのある人影。
「あ…」
予測していなかった訳じゃないけれどもとっさに何を言っていいのか解らない。
口元を押さえたまま、立ちつくしていると、向こうから声をかけてきた。
「あれ?パステルもう帰ってきたの?」
「え、うん、まあね」
取り繕ったような返事になってしまった、1瞬、奇妙な間が流れる。
「丁度よかった、パステル、少しの間留守番お願いするね」
気がついているのか、いないのか、勿論前者であろうけれども、何事もなかったようにマリーナはわたしの肩をポンと叩いて通りに消える。
わたしはというと、何がなんだか解らなくてぼーっとしていたんだけども、返事を待たずに行ってしまったってのはきっとわたしに気を使ってくれたんだろう。
覚悟、決めるしかないか

どうすればいいのかな?
なんて言えばいいんだろう?
ぐるぐるぐるぐる、考えるのはやめたはずなのにいろんな想いが浮かんでは、消える。
思い切って開いた1枚目の扉、衣装独特のくすぶったような香り、一番奥には寝室へと続くドア。
一歩一歩ゆっくりと歩み寄る、とっくに心臓ばくばくと破裂しそうで本当は今にもここから逃げ出してしまいたい。

でも——

ふるえる手を落ち着かせながらノブをひいた。
かちりと小さな音を立てて扉が開く

開け放たれたカーテンの向こうからはあふれんばかりの午後の日差し。
それから、どうしても目をやらずにいられない、ベットにごろんと横たわる細身の影
なんだかずいぶんと久しぶりにその姿を眺めたような気がする、ずっと避けまくっていたんだから、当たり前といえば、当たり前か。
この部屋に鏡がなくて本当によかった、
きっと今のわたしの顔を自分で見たら、又悲しくなってしまうから。

「おい、買い物いつまでかかってんだよ、なんかくいもんはねーのかぁ」
いつも通りの憎まれ口を叩きながらトラップが起きあがる。
違うのは両目に巻かれた白い包帯だけ、あとはなんにもかわりない、
さらさらの赤毛も、少し意地悪な声も、
無言のままそっと近づく

お願い、これが最後だから
だから、今だけ許して下さい。

「……お前?」

怪訝そうな表情でこちらを見上げる彼の頬を両手で包みのぞき込む。
閉じられたその瞳の奥にはいまも彼特有の強い光がともっているのだろうか
そんなことを思いながら引き寄せられるように顔を寄せて、
彼の口元に自分のそれをあてがった。
唇には触れずに、頬をなぞるようなキス。

「……!!」
すると、腕が回され、強く抱きしめられた。
見た目よりずっと大きな胸板
聞こえる彼の鼓動がだんだん大きくなっていく。
ずっとこうしていたいけれども、この鼓動はわたしの物じゃない

そんなことずっと前から解っているつもりだったのに、
最高に幸せで、最高に悲しい現実

迷いを振り切るように腕から逃れて部屋を飛び出した。
頬を伝う涙の理由は自分でも解らない
階段を駆け下りたところでマリーナが待っていた、やっぱり気を使ってくれていたんだ、その胸に飛び込んで、瞳を伏せた。
「わたしっ…来てないから」
「パステル?」
「トラップには言わないで、わたしはずっとクレイ達と帰ってこなかった」
マリーナはそれ以上何も言わず、そのままわたしを抱きしめてくれた。
心の中で何度もありがとうとごめんねを繰り返しながら
しばらくの間、彼女の胸に顔を埋めていた。

 

そのときの様子をクレイに言わせれば「全く持ってあいつらしいというか、なんといえばいいんだろうな」とあきれたような苦笑を浮かべながら語るだろう。
皆がはらはらしながら見守るなか、辺りを見回しての第一声がこれだ。

「おい、あの馬鹿はどうした」

結局、思ったよりも完治に時間がかかって、包帯が取れるまで1週間かかってしまった。
とうに残りのメンバーもエベリンに帰ってきて、まあ、のんびりとした気性のメンバーのこと、皆それぞれに回復をまってのんびりとしていたのだ。
対象が誰とは聞かずにマリーナが歩み寄り、開いたばかりの瞳に指を突きつけ、さも面白そうにくすくす笑う。

「本当の馬鹿は、誰なのかしらね」

机の前に広げられた真新しい原稿用紙。
ストック分はみすず旅館においてきてしまったのでエベリンで新しく買い求めたんだ。
原稿を口実に彼に会いたくなかったのは、自分でも認める。
もう覚悟はできたつもりだけれども、できれば少しでも長くその時がこなければいいと思う。往生際が悪いってまた言われちゃうね。

思い出しながらペンを走らせるのはいつもの冒険談。
とてもにぎやかで、楽しくて、大好きなわたしのパーティ。
大切なわたしの…家族。

うん、大丈夫。
つらかったことも、楽しかったことも
ちゃんと思い出にしていけるよ。

だから、急に部屋へと予想しなかった客人が現れたときも、
わたしはそれほどうろたえたりはしなかった。

「どうしたのよ!まさかここまで走ってきたの!?」
思っていた以上の自然体で話しかけれた、
ドアにもたれかかったまま、荒く呼吸を乱したトラップに。
「全く、何考えてるんだか!」
イスから立ち上がって、駆け寄る
「…うっせえ、」
ついさっき間で寝たきりだったのに、急に走ったりするから、ただでさえ減っていた体力をかなり消耗したらしい。
苦しげにそう呟く、
相変わらずの憎まれ口。
「ほら、こっちで休みなよ」
彼の体を支えながらソファーへと移動させた。
「お水、くんでこようか?」
「なにやってんだよ、お前」
何とか一息ついたとたんギロリと睨み付けられてしまった。
1週間ぶりの強い視線に体がこわばるのが判った。

「なにって、……原稿」
我ながら、身もフタもない答えだと思う。
「ふうん、」
てっきりまた怒鳴られると思ったけれども、以外に彼は落ち着いた様子で机に広げられたわたしの原稿を手に取るとざっと目を通しはじめた。
紙をめくる音だけが、静かな部屋に響く。
一体どうしちゃったんだろう、なんだか様子が変だってことくらいわたしにだって解る。
わたしは何を言っていいのか解らなくて、ただじっとその様子を見ていた。
「おれさ…今まで結構おめえのことわかってるつもりだった」
しばらくの沈黙の後、ぼそりと急にそんなことを呟く。
そのままベットにごろんと横になって、原稿がふわっと宙に舞う。
「ちよっと、投げないでよね、大事な原稿なんだから!」
床に落ちた原稿を拾い集めながら考える。

わかってるつもりってどういうことだろうね、
わたしはトラップが思うほど単純じゃないよ。
いっぱい悩むし、あなたの知らない気持ちも…ある。

ヤダ、思い出したら苦しくなってきた。
じっと床を見つめて何とか落ち着かせようとする。

卑怯だよ、トラップ。
せっかく人がなんとか立ち直ろうとしているって言うのに
こんなに近くにいたら、また苦しくなるじゃないの。
二人きりだなんて、また意識しちゃうじゃないの。
わたしの勝手な言い分だってことくらいわかってるけれども
卑怯だよ。

こらえきれなかった涙が一粒、原稿をぬらした。
慌てて手の甲で頬を拭う。
「…おめえは、何かいいたいことはねえのかよ?」
「え?」
何のことだかわからなくて、ベットの上に相変わらず横になったままの彼を見上げた。
によきっと、彼のひょろ長いうでが伸びてきて、ちょいちょいとわたしを手招きする
立ちあがって、ベットのはしっこにちょこんと座る。
びくびくしながら彼の言葉を待った。
でも彼は何も言わない、相変わらずねっころがったまま。
「トラップ?」
しばらく待ったのち、おそるおそる声を掛けてみた。
「ひゃっ」
そのとたん、がばっとトラップが起きあがった。
「びっ、びっくりするじゃないの!もうっ」
「…びっくりしたのはこっちだっての」
一体何のことだか聞き返す前よりも先に、肩に何か重みがのしかかる、
彼の、頭だ。
鼻先をくすぐる彼の香りにわたしの顔が赤くなるのが判る。
「ねえっ、トラップってば」
この状態から何とか抜け出そうと、慌てて彼から身を離そうとしたら、今度はぎゅっと抱きしめられた。

わたしの心臓はといえばもうパンク状態だ。
この間のことを思い出してはさらにドキドキは早くなる。
このままじゃ、気づかれてしまう!
ありったけの力で彼の腕から逃れる、
「やめてよねっ、トッ、トラップはこういうこと馴れてるのかも知れないけど、わたしはそうじゃないんだから、からかわないでよっ」
「まだ気がつかねえのか?」
息をあらげて、赤くなってしまった頬をごまかすように一気にまくし立てるわたしをさも面白そうに眺めながらトラップは続けた。
「なにがっ…」
くすくす、こぼれおちた笑みは、とっても優しい微笑み

「ああ、そうだよな、それがおめえだもんな」
バカにされてるのに、ちっとも腹が立たないのはどうしてなのかな。
「ドジでおっちょこちょいで、方向音痴のマッパーで」
だって、トラップの表情がとても嬉しそうだったから
「それから…」
その後に続いたセリフは良く聞き取れなかった、ううん。
思いも寄らなかったから、にわかには信じられなかったのかも知れない。
でも…
「逢いたかった」
そういって抱きしめられたとき、さっきの言葉がもう一度、わたしの頭の中でリフレインされた。

……それから、おれの一番大事なモン

「…人を、モノあつかいしないでよ」
言いたかったのはそんな事じゃあないのに、肝心の言葉が出てこない。
だから、素直にそのまま彼の言葉を繰り返した
「わたしも、逢いたかったの」
こうしてていいの?あなたの胸の中にいてもいいの?
瞳を閉じて、感じるのは
規則正しく脈打つあなたの鼓動、
力強く、それでいてやさしく包み込まれたあなたのぬくもり
忘れられないあなたのすべて。

くいっとあごが持ち上げられ唇がつばまれた。
あまりに突然のことでおもわず目を大きく見開いて彼を見上げる
「この間の続き」
しれっとそんなことを言う、この間の続きって、やだなあ、もう。
って、ええっ?
「トラップ!あなた!」
「おれがお前を間違えるわきゃねーだろ」

なあんて、照れくさいことを堂々としかもえらそうに言ってのける。
「コラ、病み上がり」
繋いだ手をぎゅっと握りしめて、こつんとおでこをくっつける。
「いつまでも病人あつかいすんなって」
たわいのない会話がものすごく嬉しい。

言わないけどね、
きっとわたしも忘れないよ
あなたのすべてを。