——そして、娘は多くの財宝を持ち帰り、幸せに暮らしたのでした——

 

「なんだそりゃ、いくら何でも都合良すぎるんじゃねーのか」
「だって、やっぱり最後はハッピーエンドがいいじゃないの」

ふかふかの落ち葉の上を音もなく歩くおれとは対照的にざかざかと大きな音と共に枯れ葉を巻き散らしながらパステルは後ろをついてきていた。

「だいたい何なんだよ、その「謎の光が吹き出した」ってのは」
「あ、知りたい?これはね次の話でわかるんだけど…」
「…………(最後はハッピーエンドじゃなかったのかよ)」

ややうんざりかげんで少し歩みを早めた。
べつにパステルの話が面白くないわけでは…少しはあるかもしんねえ。所詮こいつもお子さまだしな、どうしても絵本みたいな話になってしまう。

「どうせならもっとスリルがあるやつがいいよなー、ホラーもんとか」
「ええーイヤよぉ、怖いもん!」
「んじゃあ推理モン。凶悪殺人事件を華麗に推理する美青年探偵♪おっ、おれモデルになってやってもいーぜ」
「だからあ、読むぶんにはいいけど、やっぱり自分で書くとなるとさあ、なんだか本当に起こっちゃいそうで怖くない?」

なんだ、コイツこんな事考えてやがったのか

「起こるわきゃねーだろうが、そんなもん書いて見なきゃわかんねーってもんだろ?」
「うーん、でも書いてみたことないからなあ」
「どんなんでもいいんだよ、とにかくまずはこう、読んだやつがびっくりするような導入部だな。」

「……びっくり?」
「なんかねーのかよ?いきなり主人公が行方不明から始まるとか…おい?」

あれだけざかざかいっていた足音が聞こえねえ。気になって後ろをふり向いたおれの目に映ったのは…

「パステル?」

舞い上がった色とりどりの落ち葉達だけ。
それらも時間と共に地面へと舞い降りていった。

 

 

「わたしね、こんな事起きないかなとか、こうなればいいなとか。そんな風に思っているうちに話が出てくるんだ。」

<引っ張り上げるおれの手をしっかり握りしめてパステルは答える。

「で、坂から転げ落ちたいと思ってお前はこうころころと転がっていった訳だ」

なんのことはねえ、案の定こいつは話に夢中になるうちに足を滑らせ、ズベズベとなだらかな土手を転がり落ちていただけだった。

「もう、意地悪ー!!」

意地悪なのはどっちだよ、おれがどれだけ…焦ったと思うんだ。まさか本当に消えてしまうなんて思いもしなくて、ばかみてーな話、ひたすら自分の言った言葉に後悔した。
呆然と立ちすくんでいた耳に届いたかすかな声。
足下からおれを呼ぶその小さな声が聞こえてすぐさま覗いてみれば枯れ葉まみれののんきな顔。

「思った通りだった」

「何がだよ」

「教えたげない」

手を離してしまおうかと思ったが、がっちりつかんで離さやがらねえ。
やっとの事で上まで引っ張り上げてやるがやたらとにやにやしていて不気味なことこの上ない。
「おまえなあ、何か言うことはないのか?」

するといきなりパステルは顔を真っ赤にして手をぱっと離す。

「えっ?!」
「礼ぐらいいえねーのかっていってんだよ」
「ああ、そっかそうだよね…ありがと、トラップ」

真っ赤になった顔のままにっこりと笑った。

極上の微笑。
やっぱりこいつには幸せな物語を紡いでいるのが似合っている。

「…今なら書けそうなんだけどな」
「なにがだよ」

相変わらず後ろからはざかざかと大きな足音。

「今までで一番、幸せなはなし」

服の裾が軽く引っ張られ、ゆっくり立ち止まる。

振り返ったその先には———