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これはハヤカワ文庫から出ている佐藤 高子氏訳のオズの魔法使いがあまりにもそのままだったためキャラ名を差し替えて遊んだけのものです。創作ではなくネタとしてお読み下さい。
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愛犬のシロちゃんを抱えたままパステルは途方にくれていました。
いえ、正確に言うと途方にくれるくらいしか他にする事がなかったからです。

 

孤児のパステルを育ててくれたぶっきらぼうながらも優しいおじとおばとシルバーリーブの村のはずれに暮らしていたパステルでしたが、
突然襲ったたつまきは、逃げ遅れたパステルとシロちゃんをいれたままあつという間にちいさなその家ごと空高く持ち上げてしまいました。
ぐるっと家が2、3かい回ったかと思うとまるで気球のようにふわっと浮かび上がって行ったのです。
北風と南風がちょうど家の建っているところでかちあい、そこでちょうど竜巻の中心になってしまったのです。
竜巻のてっぺんに乗っかったまま家はまるで羽毛のように軽々と運ばれていくのでした。
はじめは、この家がもう一度地面に落っこちてしまったら、わたしもシロちゃんもお家と一緒にきっとバラバラになってしまうんだわと考えて不安になったりもしましたが、いくら待っても恐ろしいことは怒らなかったので、ひとまず怖いことを考えるのは後回しにして、揺れる床を這っていってベットに横になり
そして家は相変わらず風に揺られっぱなしだというのに、パステルはすぐに目を閉じて眠りについてしまったのでした。

 

 

次にパステルが目を覚ましたのはがくんという強いショックを受けたときでした。
やわらかいベットが衝撃を多少吸収してくれていたのでなければ捻挫の一つもしていたかも知れませんでした。
慌ててベットからどびおきて何事かしらと辺りをうかがいます。
いつの間にか起きていたシロちゃんが足下にすり寄って鼻をこすり寄せていました。
家はどうやらもう動いていないようです。
窓からはまばゆいばかりの朝日が射し込み、覗き込んでみればそれは素晴らしい風景が覗いていました。
いてもたってもいられなくなりドアから外に飛び出してみるとパステルのお家は辺り一面青々と続く芝生の真ん中にそっと着地していました。
取り囲む木々には甘い香りのするみずみずしいくだものと目も鮮やかな花が咲き乱れています。
その美しい景色にしばらく見とれていると遠くの方から何者かがやってくるのが解りました。

きらきらと光る星のスパンコールをちりばめた白い服と同じく白いとんがり帽子をかぶった女の子と少し青黒い肌の色をした男です。
男の方はとんがった耳と、これまた青い服が印象的でした。
背丈はパステルの胸の辺りまでしかありません。

その人達はパステルが立っている戸口の前までやってくると、まるでパステルを恐れるかのように少し離れたところに立ち止まり、しばらくひそひそと何事かを耳打ちした後、やがて帽子の先についた小さな鈴をりんりん鳴らしながら、女の人が進み出てきてうやうやしくお辞儀をするのでした。

「これはこれは、世にも気高い魔法使い様、このダリの国へようこそおいで下さいましたですわ。」
明るい巻き毛を揺らしてニッコリと微笑み掛けてきます。
「あなた様があの悪名高い「東の魔女」を殺して下さりわたくしどもをいましめから解き放って下さったこと大変感謝しております」
パステルは訳が分からなくてただぼんやりとその向上を聞いていました。
この女の人はパステルを「魔法使い」と呼んで、しかも悪い魔女を殺しただなんて 、
パステルはただ竜巻に運ばれてきた無邪気で明るい女の子です、これまでに何かを殺した事なんて一度だってありません。

しかし、女の人はパステルが返事をすると思いこんでいるようでじっとこちらを眺めています。
パステルは仕方なしに答えました。
「それはおそれいります、けれども何かの間違いではありませんか?わたしは何も殺してはいませんけど」
「……結果的にはあんたの家が殺したんだから同じ事じゃねーの?」
突然後ろから声がしてパステルはびっくりして後ろを振り返りました。

そこにいたのは明るいオレンジ色の髪をした1人の男の子でした、いつの間にやってきたのが家の中においてあったパンをかじりながらこちらを見下ろしています。
「そのとおりですわ♪ほら、こちらをご覧下さいまし」
さもその男の子がそこにいるのが当然と言ったふうに女の人は何も動じないまま家の角を指さしました。
「魔女の足の先が二つ、まだそこの土台の下からはみ出しているでしょう」
指された先を見てパステルはぎょっとしました。たしかに家の一角、土台になっている大きな角材の下から先のとがった銀色の靴を履いた脚が二本、にゅっと付きだしているではありませんか。

「やだ!どうしよう!」
パステルはただただおろおろして手をもみ合わせながら大きな声で言いました。
「家が上から落ちて来ちゃったに違いないわ、どうしたらいいんだろう」
「どうしようもないんじゃないですの?」
女の人はすました顔で言いました、見てみれば隣の男も、赤毛の男の子もうんうんと頷いています。
「でも、この人一体だれ?」
パステルが尋ねました。

「さっきもいいましたように悪い「東の魔女」ですわ、この魔女は長い間ダリ達をとりこにして夜も昼も奴隷にしておりましたの 、それがみんな自由の身になって、あなた様のおかげだと皆感謝しているのですよ」
「ダリってどんな人たちなんですか?」
パステルが尋ねました
「あの悪い魔女が治めていたこの「東」の国に住んでいるダリ族達のことですよ」
「あなたはダリ族なんですか?」
「いいえ、わたくしは「北」の国に住んでいるマックスと申しますの、ダリ族とは古いつき合いでして、「東の魔女」が死んだとわたくしのもとへこのウォーレスが使いに来ましたのでわたしも早速やってた次第ですの」

マックスがそう言って隣の男に目をやると男は自慢げに胸を反らせてみました。
「そして、わたしも魔女「北の魔女」ですのよ」
「まぁ!」
パステルは叫びました
「あなたも魔女なんですか?」
「その通り」
マックスは答えます

「でもいい魔女なんでございましてよ、みんなわたくしのことを好いていてくれていますし、しかしわたくしにはここをおさめていたその悪い魔女ほど魔力が無くて。さもなければとっくに自分でこの人達を自由ににして差し上げてていましたものね」
初めて目にする魔女にパステルはどきどきしてマックスを見つめました、そう言われると白いローブも、不思議な帽子もそれらしく見えてきます。

「でもわたしはてっきり魔女という者は悪い者ばかりと思ってたわ」
「いいえ、それはとんでもない間違いなんですわよ、このオズの国には全部で4人の魔女がいるだけでございますけど、そのうち2人で「北」と「南」だけがいい魔女なんですの。
それが真実であることはわたくしが保証しますわ、だってそのうちひとりがわたくしなんですもの、そして「東」と「西」に住んでいるのが悪い魔女で、
けれどもあなたさまがその1人をやっつけて下さいましたから悪い魔女はこのオズの国に後1人だけですわ」
「お言葉ですが、もう魔女はいないと叔母がいってましたわ」
「あら、あなた様はどちらから参られたのですか?もしかして外の文明国の方なのでしょうか?」
「それはどうかは解りませんが、遠いところには違いないみたいですね」

なにせ一晩中ずうっと飛び続けていたのですから、遠いところには違いありません
「確かに文明国にはもう魔女は1人もいないと思いますよ、でもこのオズの国にはまだ女や男の魔法使いがいるんですわ」
マックスは地面を見つめながらいいました。
「男の魔法使い!?」
パステルが尋ねました。
「オズ国王様自身が大魔法使いでいらっしゃいますのよ、あの方はわたしたちをひとまとめにした以上に強い魔力をお持ちで、エメラルドの都にお住まいでいらっしゃいますの」
パステルは次の質問をしようと思いましたが、その時後ろでなにやらキョロキョロとしていた男の子が不意に叫びました。
「おい、なんか話ってところ悪りーんだけど、足、溶けちまったみてーだぜ!」
魔女が横たわっていたはずの辺りを指さします
「あらあら、すっかひからびてしまったんですわねー」
マックスはけらけらと笑い出します
「んじゃあこの靴はあんたのってわけだ」

男の子は靴を拾ってパステルに差し出しました
「でっ、でも…」
「いいからもらっとけっての!」
パステルは半ば無理矢理に押しつけられた銀の靴を受け取ると一旦家の中に入りその靴を机の上に置きました、
そう言えば一体この男の子は何者なのでしょうか
再びマックスの待つ表に出るとパステルは男の子を指さして尋ねました。
「あの、こちらの方はどなたなんですか?」
「さあ?知らない方ですわね」
てっきり知り合いだと思っていたパステルは拍子抜けしてしまいました。
「まぁまぁ、気にすんなって、ところでお前どこから来たんだ?」
男の子がなれなれしくパステルの肩に手を掛けて尋ねます。

「そうだわ!わたしシルバーリーブに帰らないといけないんです!今頃きっとおじとおばが心配しています!」
マックスとウォーレスはしばらく顔を合わせて、そのあとパステルの顔を見て、頭を振りました。
「このオズの国は回りを広い砂漠で囲まれていまして外に出ることは出来ないのです」
マックスが大変申し訳なさそうに言いました。
「まあ、あきらめるこったな」
謎の男の子がポンポンとパステルの背中を叩いた途端、パステルは悲しくて涙がぽろぽろとこぼれてきました。
ウォーレスがすぐさまハンカチを取り出してくれましたが涙は一向に止まりません。

一方マックスはかぶっていた帽子を脱ぐととんがった先を器用に鼻の頭に乗せて何か小さく呟きました。
すると帽子はたちまちのうちに石版に代わりました。表面には白いチョークで大きな字が書かれてあります

 

パステルをエメラルドの都へ行かせなさい

 

マックスは帽子をひょいと下ろすとそこに書かれた文句を読み、尋ねました
「あなたのお名前がパステルですの?」
「ええ」
やっと涙の止まったパステルが頷きました。
「それなら「エメラルドの都」へいらっしゃなければ、きっとオズ大王様が手を貸して下さるでしょう」

「その都はどこにあるんですか?」
「オズの国のちょうど中心にありましてね、ほら、わたくしがお話ししました大魔法使いのオズ様が治められている都ですわ」
「その人、いいひと?」
パステルは心配顔で尋ねます
「あのかたはよい魔法使いですよ、わたくしはお会いしたことがないので「ひと」かどうかは解りかねるのですが」
「そこへはどうやっていけばいいんですか?」
「お前オズに会いに行く気か?」
信じられないといった風に男の子が言います。
「だってそれしか方法がないんじゃ仕方ないじゃない」
「とおいぜ、歩いて行かなきゃ何ねーし、それに道中かなり危ない所もあるって話だ」
男の子があんまりにも脅すのでパステルは恐ろしくなり、マックスに頼みました
「あの、一緒に行って貰うわけには行かないでしょうか」
「すみませんわね、それはできないんですの」
本当に申し訳なさそうにマックスは答えました
「その替わり、わたくしのキスを差し上げますわ「北の魔女」にキスされたと解って手を出す者はいませんからね」
そう言ってマックスはパステルのおでこにそっと手を掛けその柔らかい唇を押し当てました、唇が当てられたところはうすぼんやりと輝いて残っています。

「それに、あなたが一緒に行ってくれるのでしょう?」
さも当然と指名され男の子はぎょっとします
「はぁ?なんでおれがこんなガキのお守りしなきゃいけねーわけ?」
たとえ相手が正体不明であろうとも1人(正式には1人と一匹)では余りに心細すぎます。
パステルはすがるような目でその男の子を見上げました。
「オズなんかに会いに行ったところでどうにもならねぇとおもうけどなぁ」
男の子は少し考え込んだ後こうしぶしぶ了承したのでした。
「それではあなた様のよい旅をお祈りしていますわ」
マックスはそう言うとかかとでくるりと回り、次の瞬間にはその姿はどこにも見あたりませんでした。

それを見たシロちゃんは驚いてつい「ワンデシ」と鳴きましたがパステルはきっと魔女ならそう言った消え方をするのだろうと思っていたので全然驚きませんでした。