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これはハヤカワ文庫から出ている佐藤 高子氏訳のオズの魔法使いがあまりにもそのままだったためキャラ名を差し替えて遊んだけのものです。創作ではなくネタとしてお読み下さい。
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さて、魔女達が消えてしまってパステルは起きてきてからまだ何も食べていないことに気が付きました。
戸棚からパンを取り出して少し切り、バターをたっぷり塗って朝食にします。
「そういえばわたしはまだあなたのことを聞いていないわ」
先ほどつまんでいたにもかかわらずパステルの向かいに座って同じくパンを食べている男の子にパステルは尋ねました。
「あなたもこの国に住んでいる方なんですか?」
「まあ、そんなところだな」
口の中のパンを汲んできた水で流し込み終えた男の子はぶっきらぼうに答えただけでした。

パステルは他にも色々な質問をしてみたのですが、どの質問に対しても男の子は満足行く答えを返してくれません。
多少苛立ちながらパステルは聞きます
「じゃあこれが最後の質問、あなたの名前はなんて言うの?」
テーブルの上に並べられたさいごのパンのひとかけらを飲み込んで男の子はその質問だけ答えてくれました
「トラップ、とでも呼べばいいさ、それよかさっさと支度はじめるぞ」

エメラルドの都へは遠い道のりだと言います、旅の支度は十分にしなくてはなりません。
表の小川で体を十分きれいに洗うと白と青のギンガムチェックの可愛いワンピースに着替えます。ピンクの日よけボンネットに、小さなバスケットの中には戸棚のパンをぎゅうぎゅうに詰め込みました。
しかし、靴だけはボロボロにすり切れてとても長旅には耐えられそうにありません。
丁度その時例の銀色の靴が目に留まりました。
こうしてよくよく見れば銀色の靴は大変可愛らしく、 オマケに丈夫で、サイズもぴったりのようです。

「これならすりへりそうにもないかしら」
靴も履き替えて、これで準備もばっちりです
「まあ、及第点って所かな」
トラップが頭のてっぺんから足の先まで見下ろして言いました。
いつのまに仲良くなったのでしょうかシロちゃんを肩に乗せて、ドアの前で待っています。
「あなたは何も準備しなくても良いの?」
どうもこの男の子には謎が多いようです、パステルは少し不安になりましたがそれでもこれから先の旅1人でも人数が多ければどれほど心強いだろうと思うと 、パステルは頼らずに入られないのでした。

エメラルドの都への道は黄色いレンガ道をまっすぐだとトラップが教えてくれました。
言われたとおりしばらく辺りを探すと直ぐにその黄色いレンガの道は見つかります。
パステル達は西へ西へと道を進んでいきます。
太陽は明るく輝き、辺り一面には美しい田園風景が広がっています、森に目をやれば鳥たちが美しい声でさえずり、銀の靴は歩くたびにちりんちりんと楽しげな音を立てました。
だからパステルは一人きりで見知らぬ国の真ん中に取り残されたのだからさぞや、と思うほどには落ち込んでいなかったのです、
勿論、パステル自身がものすごく立ち直りの早い女の子だということもあったのですが。

畑の向こうに見える家はどれも屋根を青い色で塗ってありました。どぷやらこのダリの国では青い色が好まれるようです、畑で作業をしている人たちも、悪い「東の魔女」をやっつけてくれたパステルを見ると皆一様に深々とお辞儀をしました。
すっかりパステルのことはこの国中に知れわたっているようです。
どんどんと調子よく歩いていたパステル達ですが、日が暮れ歩き疲れ、さて今夜はどうすればよいのだろうと言うところで1件の大きなお屋敷が見えてきました。
家の造り自体は他の家と余り代わらないのですが、その家はどの家よりもおおきく、そしてにぎやかでした。
沢山の人々が集まり、楽しげな音楽が聞こえてきます。
トラップが早速一晩の宿を頼みに行きました。

もちろん、ここの家の人々もパステルが魔女をやっつけたことを知っていましたし、丁度今夜はそのお祝いのパーティの真っ最中だったのです。
パステル達はたっぷりの夕食とをいただき、その後はダリの人々がダンスをするのを眺めていました。
トラップなどはとうとう一緒になって踊り始めています。
パステルが長椅子に座っていると、主人がやってきてパステルの靴に目を留めました

「あなたはきっとえらい魔法使いに違いないですね」
「どうして、そうおもうのですか?」
「あなたは銀の靴を履いておられるし、悪い魔女をやっつけて下さいました、オマケにあなたの服には白い色が入っています、白い服は魔法使いだけが着るものですからね」
パステルは自分の着ているドレスに目をやりました、

「わたしのドレスは青と白のチエックだわ」
「わたしたちに気を使ってその服を着て下さっているんですね、青はこの国の色、白は魔女の色、だからあなたはわたしたちの味方の魔女だと言うことが解るのです」
これにはパステルもまいってしまいました、この国の人たちはみなパステルがすごい魔女だと思っているのですが本当はパステルはただ、たつまきに飛ばされてきただけの、ただの女の子なのです。

通された寝室でその事をトラップに話すと、彼はさも当たり前といった風に笑い飛ばしました。
「実際はどうであれ結果的にお前さんはこの国を助ける結果になったんだ、感謝の気持ちくらい受けるのは当然だろう?」
パステルは本当はまだ納得したわけではありませんでしたが、なによりも食べ物や泊まるところには困っていたのでそれ以上何も言いませんでした。
「エメラルドの都ってどんなところかあなたは知っているの?」
そのかわりパステルはこう尋ねました。
「ああ、すごい都だぜ、町中にはダイヤモンドやエメラルドがちりばめられて、ぎらぎらと輝いているんだ、この国の奴等が皆青い服を好むようにエメラルドの都の奴等は緑色を好むんだ、どこもかしこも緑色だぜ」

とても自慢げにトラップが言いました。
「もしかして、あなたはエメラルドの都の人なの?」
そう思ってよくよく見ればトラップは緑色のタイツをはいています。
「ああ、そうさ、エメラルドの都はこのオズの国で一番の都さ!」
「じゃああなたはオズ大魔王様を知っているのね」
パステルは続いてこう尋ねたのですが、トラップは何故か苦笑いをしただけでした。

それでもエメラルドの都を知っていると聞いてこれまで不安だったパステルは随分と心強くなりました、危険な道のりもこの男の子はそのエメラルドの都からやってこれたということなのですから。

翌朝、パステル達はダリ達にさよならをいうと再び黄色いレンガの道を歩き始めました。
広々としたトウモロコシ畑を延々と続く道です
数マイルほど歩いたところで一休みしようと思い、道の脇にある柵に2人腰かけると、パステルはぼんやりとそれほど遠くない畑の中にあるかかしをじっと見つめていました。
頭はわらを詰めた小さな麻袋でそこに顔がかかれているはずです、いるはず、というのは髪の毛のつもりなのか、青っぽく染められたわらがかぶせてあったのですが、あんまりにもぼさぼさすぎて顔の半分が隠れていたからです。
服はどこかの農夫のお下がりなのでしょう、すり切れた上下の服ひと揃いにこれまたすり切れたブーツを履いていました。

こんないでたちでかかしは背筋をしゃんと棒で支えられ、トウモロコシよりもたかく掲げられていました。
このみょうちくりんなかかしをパステルがぼーっと眺めているうちに、かかしの口がパステルに向かっておもむろににやあっと笑いました。
これにはパステルもびっくりしてこれはきっと何かの見間違いだと思いました、シルバーリーブにはにやっとするかかしなんていませんから、
ところが少ししてこんどは親しげに頭をこっくりするではありませんか

「ねっ、ねえっトラップ、あれ見てよ!あれ」
隣でこれまたぼーっとどこかを見ていたトラップの腕をパステルはグイグイと引っ張ります。
今度はトラップがびっくりする番でした、かかしはこんどはゲハゲハと笑い出したからです。
パステルはトラップの腕をつかんだまま、おそるおそるかかしに近づいていきました。
シロちゃんも一足先にかかしの支えられている棒の足下に駆け寄ってはグルグルと回っています。

「こんにちわ」
かかしはすこしかさかさとした声でいいました。
「あなたしゃべれるの?」
「まあ、そんなところですね、ごきげんはいかかですか」
「まあまあです、どうもありがとう」
パステルは多少困惑しながらも礼儀正しく答えました
「あなたはどうですか?」
「それが、イマイチよろしくないんですよね」

かかしは苦笑いをしていいました
「なんていったって夜も昼もこんな所にのっけられてカラスを追い払うだけだなんて退屈の極みですからねぇ」
「んな事言ったってそれがかかしの仕事だろうが」
トラップがそう言うとかかしも負けじと言い返します
「わたしだって好きでかかしに生まれたわけではありませんよ、気が付いたときにはもうかかしだったんですから」
「じゃあ降りてくればいいじゃんかよ」
「それがこの棒がつっかえ棒になってましてね、降りるに降りれないのですよ、参りましたねーこりゃ」

そういってまたゲハゲハとわらうかかしの笑い声があんまりにもうるさかったのでたまらずパステル達はこのかかしを降ろしてあげることにしました。
かかしは中が藁なので大変軽いのです。
「いやぁ、どうも助かりました、何だか生まれ変わったようですよ」
地面に置いて貰ったところでかかしはお礼を言いました。
「で、あなた様はどちらさんでして、と、こりゃあ失礼、まずは聞く方が自己紹介をしなければなりませんね、わたしの名前はキットン…いえ、これは今自分で勝手につけたんですけどね、なにしろわたしにはこの数日前からの記憶がとんとありませんでして。」

このおしゃべりなかかしはパステル達が口をはさむ間もなくどんどんと続けます
「 何しろ作られたのが一昨々日のことでして、それ以前のことはそれこそなあんにも知らないんですよ、
まあ幸いお百姓がわたしの頭を作ってくれたときにまず初めにしたことがわたしの耳を作ってくれたので、どういうことが起こっているのかは聞こえたんですけどね。
もう1人そのダリ族のお百姓のお友達がいてお百姓がこう言ってるのがまず耳に入りました。

「耳はこんなもんでどうだい?」
「ゆがんでるなぁ」ともうひとりがいいます
「なぁにどうってことないさ、これでも耳は耳さ」いや、全くその通りでしょう?
そのあとお百姓とそのお友達はわたしに目と鼻と口を付けて下さって、わたしの胴体をつけるのをわたしはじいっと見ていたんですね、そうしておしまいに2人がわたしの頭を結わえ付けたときにはわたしはもう大満足でした。
これでわたしも りっぱな一人前の人間なんだと思いましたがね。

「コイツならカラスだってへっちゃらだろうな」
「なかなかどうして、コイツはもう人間だよ」
だからこれにはわたしも全くの異議なしでしたよ、それからお百姓とお友達はわたしをトウモロコシ畑に運んで、あの高い棒の先にわたしを取り付けたあと、直ぐにどこかへ行ってしまいました。

わたしは置いてきぼりは嫌だったのでその後を追おうとしたのですが、どうにも足が地面に着かないんですよ、で、仕方なく棒の上にいたんですけどね。
何と小心細い暮らしでしたよ、なにせちょいと前に作られたばかりでしょう?何も考えることがないんですから!
多くのカラスやそのほかの鳥たちがトウモロコシ畑に飛んできましたが、わたしを見るなりお百姓かと思ってまた飛んでいってしまいました。
これは嬉しかったですねぇ、何だかとてもエライ人になった気分でしてね。
そのうち1羽の年を取ったカラスがやってきました、いえ、カラスだと初めは思ったんですけどね、よくよく見るとそいつはなんか黒い別の生き物みたいでした。

そいつはしばらくじっとわたしを見た後ひょいとわたしの肩に飛び乗ってこう言ったんですよ
「ふん、あのこざかしい百姓めが、こんなことでこのJB様をだまくらかせれると思ったか。
ちょいと頭のあるやつならおまえさんがただのわら人形だって事くらいお見通しさ」
それからそいつがわたしの足下に飛び降りてトウモロコシを食べまくるのを他の鳥たちも見ていて一斉に食べにきたものですからわたしの回りはまたたくまに鳥の大群です。
わたしもこれには悲しくなってしまいました、つまるところわたしはたいしたかかしではないということですからね、でもそのJBとやらはわたしを慰めて曰く

「おまえさんのおつむに脳ミソさえありゃあ、おまえさんだって人並みの人間になれようし、だれかさんたちよりゃましな人間にだってなれるだろうさ。人間だろうとカラスだろうと、この世で持っている値打ちのあるものといやぁ脳ミソくらいのものだな」
そいつらが行ってしまった後わたしも考えましてね、勿論わたしの頭の中は藁だけで、脳ミソなんてこれっぽっちもつまっちゃあいないんです。それで何とかして脳ミソを手に入れようとは思ったんですけどこれが全く検討つかない!」

この長いかかしの話の間にトラップは昼寝を始めていましたが、パステルは熱心にかかしの話を聞き終えると、すばらしい事を思いついてかかしにいいました。
「それならあなたもエメラルドの都に行ってオズ様にお願いすればいいのよ!」
「はぁ、そのエメラルドの都というのはどこにあるんですか?」
「あなた、知らないの?」
パステルはビックリして聞き返します。
「ぜーんぜん、何も知らないんですよ、だからこそわたしは賢い脳ミソが欲しいのです、そのエメラルドの都に行けばオズ様とやらはわたしに脳ミソをいくらかわけてくださるでしょうか?」
「それはどうかしら?でも良かったらわたしたちと一緒に行きませんか?駄目で元々っていいますし」
「そうですよね」

かかしのキットンはそういってそれからこっそりとうち明けてくれました
「別に手や足が詰め物でも構わないんです、なにしろ痛くなるって事がありませんからね、つねられろうが、踏んづけられようがちっとも平気なんですから。
でもみんなにバカ呼ばわりされるのだけはもう我慢がならないんです。わたしの頭がこれから先もずうっとただの藁だとしたら、一体どうやって物事を覚えれば良いんですか」

パステルは心の底から本当にこのかかしが気の毒だと思いました
だからキットンの手を取ってこう言ったのです。
「あなたの気持ちよく解るわ、わたしエメラルドの都に着いたら出来るだけのことをしてオズさまにあなたのことをお願いしてみる、だから頑張ろう?」

そのことばにキットンは本当に嬉しそうに笑ったのでした。