■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□ 注意書き
これはハヤカワ文庫から出ている佐藤 高子氏訳のオズの魔法使いがあまりにもそのままだったためキャラ名を差し替えて遊んだけのものです。創作ではなくネタとしてお読み下さい。
■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□

 

そうこうするうちに夜は明け一行は再び黄色いレンガの道をあるきはじめました。
森は相変わらず薄暗く、どこまで続いているのか解りません。
パステルはノルに尋ねてみましたが彼もこの森の向こう側には行ったことがないのだと言います。
「でもおれの父が昔エメラルドの都まで行ったことがあると言っていた」
ノルのお父さんは昔一度だけエメラルドの都に行ったことがありました、それはとても美しく、すばらしい都ではあったのですが、そこまでの道のりはとても危険で、何度も命の危険にさらされたのだといいます。

「おれ、油差しさえあれば怖くないし、キットンはケガをしない、それにパステルには良い魔女のキスがあるから大丈夫」
オノを掲げてノルはニッコリと笑いました
「おい、それじゃあおれとシロはどうなるんだよ」
トラップがふてくされて言いましたが
「あら、あなたはエメラルドの都から来たのでしょう?それに危なくなったらノルに守って貰えばいいのよ」
と、パステルに言われてそのまま黙り込んでしまいました。

その時でした、森の中からスゴイほえ声が聞こえたかと思うと、大きな一匹のライオンが道に飛び出してきました、そして前足でキットンを軽く跳ね飛ばしたかと思うと、ノルを鋭い爪でがっと引っ掻きましたが、傷一つ付かないその様子をみてライオンは驚いたようにその場に立ちすくんでしまいました。
シロちゃんは、敵が目の前に現れたので、さあこいとばかりに吠えたてながら向かっていきました。大きいケダモノが、大きく口を開いてシロちゃんに噛みつこうとしているのを見たパステルは思わずだっと飛び込みました。

そして、大声で
「シロちゃんに噛みついたら承知しないわよ!あなたみたいに大きな獣が、こんなにちいさな子犬に噛みつくなんて恥ずかしいと思わないの!」
そう叫んで、ライオンの鼻面を思いっきり平手打ちしました。
ライオンはぶたれた鼻を前足でさすりながらいいました。
「おれ、かみつかなかったのに」
「そうね、でもかみつこうとしたでしょう?」

思ったよりもおどおどとしたそのライオンの様子にすっかり調子に乗ったパステルは言いました。見れば後ろではキットンやトラップが何か恐ろしいものでも見るようにこちらを見ていましたが、パステルは気にもとめません。
「やっぱり女ってのはこええよなぁ」
過去によっぽど酷い目にあったんだろうと勝手に解釈することにしました。
「あなたは体は大きいのに、随分と臆病者なのね」
「そんなこととうの昔からわかってるさ、でもだからといってどうすればいいんだ?」
恥ずかしそうにうなだれてライオンは言います
「そんなこと知らないわ、かかしさんみたいなぬいぐるみの人間をぶつなんて」

ライオンは、パステルがキットンを拾い上げてたたせポンポンと埃を払いながら元通りにしている様を驚きながら眺めていました。
「こっちは、ブリキな」
トラップがノルを助け起こして言います。
「ああ、だからか、もう少しでおれの爪をダメにしてしまうところだったよ、引っ掻いたときには背筋がぞーっとしたもんなぁ」
「で、そのきみが大事にしているその小さい動物はなんだい?」

「わたしの犬、シロちゃんよ」
パステルが答えました
「それ、ブリキで出来ているの?それともぬいぐるみ?」
「どっちでもないわ、ええと…このこは…ええと」
「まあ、いうなら肉で出来た犬だな」
「まあ、それじゃあまるで食べ物みたいじゃないの!」
トラップのことばに驚いたパステルが言います。
「でも、地方によっては犬を食べるところもあるんだぜ?白いのが一番美味いんだってよ」
「いやあね、やめてよ」

2人がそんな言い合いをしている間もライオンはじっとシロちゃんを眺めていました。
シロちゃんはまだ少し警戒したようにグルグルと吠えていました。
「こうしてみると君は本当にちいさいんだね、おれみたいな臆病者じゃなけりゃあとてもかみつこうなんて誰も思わないはずだよ」
そうしてごめんねとシロちゃんの長くて艶やかな毛並みをなでました。

「どうして、あなたが臆病者なの?」
自分で言いだしたと言うこともすっかり忘れてパステルが尋ねます。トラップとの言い合いにも飽きてきたからです。
それに、このライオンはとても大きくて、不思議で仕方がありません。
「それが、わからないんだ、多分、きっとそう言う生まれなんじゃないかな、森の動物たちはおれを強い者と思いこんでいるだろう?」

ライオンは続けます

「どこでもライオンは獣の王だからね、おれが大きな声で吠えたらみんな腰を抜かして逃げ出したよ。一度吠えてみてわかった、
それ以来、おれは人間に会うたびに怖くて、恐ろしくて吠えると皆逃げ出したよ
…もし、クマやトラや、ゾウなんかに出逢っていたなら逃げ出していたのはおれの方なのにな、おれはそれくらい臆病なんだ、ところがおれが吠えるのを聞いた途端みんな逃げ出してしまう、おれは追いかけるどころじゃない」

「それはいけませんねぇ、「百獣の王」が臆病ではいけませんよ」
すっかり復活してきたキットンが言いました。
「わかっているさ」
ライオンはしっぽの先で目頭をこすりながらいいました
「それが残念でたまらないよ、おれの一生を不幸にしているんだからね、でも、恐ろしいことがあるとおれの心臓はドキドキしてたまらなくなるんだ、自分でもどうしようもない。
臆病な自分に震えながら小さくなるしかないんだ」

ノルはこう言いました
「心臓がドキドキするのは心臓病とかじゃないのかな」
「そうかもしれないな」
「なら君は喜ぶべきだ、心臓があると言うことだから、おれには心臓無いから心臓病にもなれない」
「心臓さえなければ臆病じゃなかったかもな」
「あなたには脳ミソがあるのですか?」
今度はキットンが尋ねました
「あると思うよ、確かめたことはないけどね」
「わたしは偉いオズ様に脳ミソを頂に行く所なんです、わたしの頭の中には藁しか詰まっていませんのでね」
そう言ってゲハゲハと笑い出します、それは大変耳に付く笑い方でしたがパステルはいつのまにかもうすっかりとこの笑いにも馴れてしまっていました。

「おれは心臓を貰いに行くんだ」
誇らしげにノルも言います
「わたしは、シロちゃんと一緒にシルバーリーブに帰して貰うの」
トラップは呆れたように一同を見回し、そしてライオンを見やりました。
言葉にこそしませんでしたが、目で自分の言葉を待っているのだとライオンには判りました。
「オズ様はおれに勇気をくれると思うかい?」
「わたしに脳ミソを下さるくらいなら、そんなことは朝飯前でしょう」
「おれに心臓をくれるくらいなら」
「わたしをお家に送り届けてくれるくらいなら」

「……てめえら、好き勝手いってんじゃねえぜ…」
ひとり、頭を抱え込むトラップを除いて皆、自信満々に答えます。

「そう言うことなら、もし、君たちさえよければおれも一緒に行ってもいいかな?
勇気が足りない毎日なんて、もううんざりなんだ」
「あなたなら大歓迎よ」
パステルがライオンの手を取って言いました。
「だって、あなたがいれば他の獣たちは寄りつけないでしょう?それに、あなたに怯えているような他の獣たちは、あなたよりもよっぽど臆病だとわたしはおもうわ」
「そう言ってもらえると何だか少し気が楽になるよ、でもおれはおれが臆病だと思い続けている間はちっとも強くなれないと思うし、それがおれの不幸の元でもあるんだよ」

そうしてパステル立ち一向に新しい顔ぶれが増えることになったのでした。
はじめ、シロちゃんはこの大きな生き物が気に入りませんでした。
なにせ、このおおきなキバとキバの間に挟まれそうになったのですから
「さっきは済まなかったね。おれの名前はクレイっていうんだ、小さなナイトとして宜しく頼むよ、先輩」
でも、そんな気持ちもしばらくするうちにすっかりと薄れ、2人はとても仲良しになったのでした。

それから、ちょっとした事件がありました。
ノルが道を這っているカブトムシを間違って踏みつぶしてしまったのです。
このことは大変ノルを悲しませる事になりました、ノルは日頃からよく気をつけていたからその惨めさはなおさらでした。
ノルは歩きながら悲しみと後悔の涙をぽろぽろと五、六粒流しました。この涙がノルの顔をゆっくりと流れてアゴのちょうつがいにかかったものですから、アゴはたちまちさび付いてしまいました。

ほどなくしてパステルが話しかけたのですが、両アゴが合わさったまましっかりとさび付いているので口をきくことが出来ません。すっかり困り果てたノルは身振り手振りで助けを求めましたがパステルには何のことか判りません、クレイや、キットンにも判りません。
ところが、トラップは違いました。パステルのカゴからさっと油差しを取り出すとノルのアゴにちょいちょいとさしてやりました、おかげでしばらくのうちにノルは話せるようになりました。

…といってももともとノルは余り饒舌な方では無かったのですが。

「良い勉強になったと思う、これからは足下に気をつけるようになるから
こんどまた甲虫を踏みつけるようなことがあったらおれまた泣き出してしまう。
泣いたらアゴがさび付いて話せなくなる。」
それ以後、ノルは道に気を配ってようよく気をつけて歩くようになりました。小さなアリなどが、えっちらおっちら通りかかるのを見つけると、ケガをさせないようにとまたいで通りました。

ノルは自分に心臓がないことを重々承知していましたので、何に対しても決して酷い仕打ちをしたり、不親切になったりしないようにたいそう気を使ったのです。
「みんな、心臓をもっているひとは導いてくれるものがあるから間違ったことをする心配が無くて良いけれども、おれには心臓がないから、ないからこそうんと気をつけないといけないとおもんだ」

パステルはそんなふうに思えるノルは大変優しい心をもっていると思いましたが、
みんなが何も言わなかったので、自分も何も言わないことにしました。