■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□ 注意書き
これはハヤカワ文庫から出ている佐藤 高子氏訳のオズの魔法使いがあまりにもそのままだったためキャラ名を差し替えて遊んだけのものです。創作ではなくネタとしてお読み下さい。
■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□

 

さて、森の王者ライオンのクレイを加えた一行はその後、夕食を取り、各々の夜を過ごしました。
もとより食事のいらないキットンとのノルはそのまま進むことも出来たのですが、暗い森の中を進むことは出来ません。
唯一、クレイだけがくらやみでもよくものをみることができたのですが、それでも眠らなくてはいけないのでした。

夜があけるとパステル達は近くの小川で顔を洗い、再びエメラルドの都を目指し始めたのですが、このひは旅人達にとってなにかと事件のおおい一日になろうとしていました。
1時間とあるかないうちに目の前におおきな亀裂を発見したのです。
亀裂は深く、そこのほうは真っ暗でなにもみえません、ただ、縁の所にはおおきなぎざぎざのついた岩がせり出していて、とても恐ろしい様子です。
「どうしよう、このままじゃあ先に進めないわ」
エメラルドの都へと続く黄色いレンガのみちは亀裂の向こうに続いています。
「われわれにはこの亀裂を飛び越えることは出来ませんねぇ、それはわかりきってます、かといってこの大きな谷に下りていくことも出来ないし、あとはこの上を飛び越すことも出来ないとなると、ここで諦めるしかなさそうです」
かかしは人事のようにいいました。
そのとき、森の奥からなんだかききなれない声がしました、低くひびくなんだかとても嫌な声でした。
ずっと、なにか思案に耽っていたクレイが思い出したと呟きます
「そうだ、このあたりにはやつらの住処があるんだ」
「やつら?」
同じように考え込んでいたトラップが聞き返します。
「カリダだよ」
クレイがそう答えるとトラップもおびえたように肩をすくませます。それは、カリダがなにか全くしらないパステルにでさえとても恐ろしいもののように思えました。
「胴体は熊で、顔が虎のような怪獣だ、やつらの爪はものすごく長いうえにとがっていておれなんてあっという間にまっぷたつにされるだろうね」
なんて、おそろしい生き物なのでしょうか。パステル達は一刻もこの森から出たいと思いましたが、そのためには目の前にあるこの深い亀裂を渡らなくてはいけないのです。

「おれ、そこの木で橋をかけてみる」
すぐ脇にあった大きな木に手を掛けてノルが言いました。
たしかに、この木なら太くて大きなクレイがわたってもびくともしそうにありません。
ノルがそのぴかぴかのオノをうち下ろすと、大きなきはずしんと音を立てて倒れます。
「こんなの、わたしにわたれるかしら?」
おっかなびっくり、この風変わりな橋をパステルが渡ろうとしたときでした、するどいうなりごえがして、一同がはっと顔を上げるとなんともおそろしいことに2頭の大きな獣がこちらに駆けて来るではありませんか!
「いそげ、奴らが来る前にわたるんだ!」
始めにトラップが渡り、そのあとにシロちゃんを抱いたパステル、キットン、ノルが続いて渡りました。
クレイは怖くて仕方が無く、足はぶるぶると震えていたのですがくるりとガリダのほうに向き直るとものすごい声で吠えました。
その声と来たらものすごくて、向こう岸にいたパステルは悲鳴を上げてシロちゃんを落としそうになるし、キットンは腰を抜かしましたしあのガリダまでが一瞬立ちすくんだほどでした。
けれども、自分たちがクレイよりおおきいことは一目瞭然でしたしこちらは2頭だということに気が付いたガリダは再びこちらに迫り、橋を渡ろうとしました。
「だめだ!きっと奴らは俺たちを八つ裂きにする気なんだ!でも、生きている限りは戦って見せるからみんなが逃げる時間くらいは稼いでやる!」
「バカ!とっととわたってこい!」
そんな間にももう2頭のガリダは丸太の橋に手を掛け、こちらにわたってこようとしていました。
その間もキットンはずっとどうすれば良いのか考えていたのですが、ひらめくとすぐさまノルに声を掛けました。
そして、ガルダ達の鋭い爪があわやクレイの体に向けられようとしたそのときトラップが大きく叫びました
「飛べ!」
クレイが振り返ると、ノルのオノがきらりと光ったのがわかりました。考えるよりも早くクレイはありったけの力でジャンプをして向こう岸へと着地します。
ライオンというのは助走なしに大きく跳躍することが出来るのですが、ここではそれが役に立ちました。
ガルダの爪が中をからぶりしたかと思うと、ノルのオノで丸太の橋はあっけなく落とされ2頭のガルダもろとも亀裂のそこに落ちていきました。
真っ暗な暗闇の中にすべてが消えてしまって、クレイはほーっと大きくため息を付きました。
「やれやれ、どうやらもうすこし寿命が延びたみたいだ、ありがたいことだよ、だって生きていないって言うことはとても不自由なことに違いないからね、あんまりにも恐ろしい思いをしたからまだ心臓がバクバクいってるよ」
「ああ、」
ブリキのノルは悲しそうに言いました。
「おれにもドキドキする心臓があればいいのに」

どちらにしても、この一件でますます皆この森から抜け出したいという思いが強くなりました。そして大変急ぎ足で進んだのですが、とうとう森の木立が薄れ、きらきらと反射する光とともにおおきな川が目の前に現れました。
急流の向こうには美しい田園風景が続き、色鮮やかな花々が点々と咲き、おいしそうな実をたわわに実らせた木々が道を縁取っているのがわかりました。
このすてきな土地を目の前にして一行はすっかり嬉しくなってしまいました。

「どうやって川を渡ろうか?」
パステルが尋ねるとキットンが答えました
「そんなの簡単ですよ、ノルにイカダをつくってもらえばいいんですよ」
しかし、いくら腕のいい木こりといってもこの人数がちゃんと乗れるだけのイカダ作るのは結構大変なことで、夜になってもその作業は続きました。
疲れることのないノルとキットン以外は夜になると休まなければいけません。
たき火を囲みながらパステルはトラップに尋ねました
「エメラルドの都まで、あとどれくらいなのかしら?」
西の国をでてからもう随分と歩いてきましたし、昼間に見た川の向こうに広がる田園風景はいかにも大きな都のように思えました
「ああ、もうちょいって所だな、でも気をぬくんじゃねぇぞ、いままでだって結構大変だったんだから、ここから先がいきなり簡単な道になるなんてあり得ないんだ」
浮かれるパステルを諭すようにトラップは言いましたが、パステルはもう半分以上うとうとして聞いていませんでした。
そして、美しいエメラルドの都で優しいオズ大王にシルバーリーブへと送り返してもらう夢を見ていたのでした。