( 過食症・拒食症 )

                       

はじめに

  摂食障害(拒食症・過食症)は、その記載がとても難しいというのが本音です。その理由として、まだ病態の解明が充分になされていないこと、そのため治療理論や治療方針がまだ十分に確立しているとは言い難いからです。しかし解明が不十分だからといって悲観する必要はさらさらありません。毎年、世界中で数千に近い医学・心理学の論文が摂食障害を中心に報告されており、その病態理解も治療方法も数年ごとに進展しつつあるからです。
 ところで、ひとくちに摂食障害といってもその臨床的な範疇は広く、古い言葉で「中核群」と呼ぶべき比較的重症の患者さんから、「辺縁群」と呼ぶべき比較的軽症の患者さんまでおられます。また、拒食症と過食症が摂食障害という言葉でいつもひとくくりにして言われるのは、拒食症と過食症という病状が相互に移行しやすく、一見正反対の病気のように見えても実は背後の心理的な課題が類似しているという理由があるからです。
 たとえば最初、誰かに「太っている」と言われた事を気にしてダイエットを始めます。ダイエットは予定通りに運び、体重はどんどん減っていきます。しかし何故か予定のダイエット期間や目標体重を過ぎても、体重をさらに減らす事にこだわり続け、食事のコントロールが不可能になってきます。寝ても覚めても体重とカロリーのことが頭から離れません。無理なダイエットを続けるうちに自然な空腹感や満腹感が損なわれ、食事そのものが怖くなってしまいます。急激な体重減少はホルモン系統を狂わせ、生理は何ヶ月もストップします。このような状態が拒食症(神経性食思不振症)です。やがて脳のカロリー不足は性格の変化をもたらし、いろんな心の衝動をコントロールすることが難しくなったり、人間関係の維持が難しくなったりします。時には自暴自棄な自傷行為や自殺行為にまでいきつきます。
 そして過食症は往々にして、この拒食状態からまさにリバウンドのように発生してきます。つまり過食症の前段階として拒食の時期がよく先行します。過食状態になると、さらに人によっては意図的な嘔吐(喉の奥に指を入れて嘔吐を誘発)が加わったり、下剤の乱用が起きたりします。食事をいっぱい食べてすぐに嘔吐するため胃も脳もびっくりして、さらにそれらの機能失調が悪化していきます。
 どの段階で症状が停滞しうるかは患者さんによって様々であり、その治り易さも十人十色です。ただ、これだけは言えます。「治りたい、治したい」という気持ちが心のどこかにある限り、いつでも治療は可能なのです。実際、病院を訪れる殆どの患者さんが病的な「強いヤセ願望」と同時に、「治りたい、治したい」という健康な気持ちを持たれています。葛藤しながら病院に来られる方が多いわけです。「治したいのに、健康になりたいのに、点滴はイヤだ!」、「入院治療の方が治療がうまくいきそうなのに、入院すると太らされるから入院は絶対にイヤだ!」という具合に、心が強く葛藤しているのです。
 患者さんによっては、家にひとり引きこもったり、とても外出どころではない心境に陥ったりします。一方、毎日過食・嘔吐をしながらも、仕事、通学、主婦業などをそつなく維持されている方もおられます。症状に悩まされつつ出産や育児をされている方もおられます。
たとえ葛藤しながらであっても、「治したい、治りたい」という一抹の願望さえあれば、時間がかかっても治療者と連帯して健康な心の部分が病的な心の部分を抑え込み、病気になる前のような物事に感動する自分を取り戻す事は可能なのです。
ちなみに、摂食障害とは、この社会で「より生きやすい自分を作るための成長過程である」として、前向きにこの病態を捉えようとする見方もあるのです。ある文化人類学者は、拒食症者がとる拒食行動は成人になるために自らの体に課したイニシェーション(成人儀式)に近いものであろうと推察しています。
 ここで以上をまとめた、病状(症状)による病型の分類を表にして見てみましょう。

症状による分類(専門的な分類ではありません)
  拒食のみのタイプ
  過食のみのタイプ
  拒食と過食の相を交互に繰り返すタイプ
  過食に嘔吐や下剤乱用を合併するタイプ

■ これらの型分類は時期により相互に移行しうるものです。過食症と拒食症は症状が正反対なのに根っこが同じと言われる所以のひとつです。
■ 背後の心理的・身体的な課題も多彩です。体重に関しても、痩せている過食の人もあれば痩せていない過食の人もいます。ひとことで「過食」といっても、一度にとる摂食量は患者さんによって大きく異なる。正常に近い量を過食と呼んでいる人もいます。
■ 過食・拒食以外に、併存する思考・行動の問題も十人十色です。自傷行為、閉じこもり、対人緊張、心理的退行現象などもみられやすい。逆に日常生活(通学、出勤、友人関係、恋愛、結婚、出産、育児など)を健康人と同じ様に維持されている場合も少なくありません。
■ 摂食障害の類縁疾患に、神経性嘔吐、大食症、神経性反芻などがあり、鑑別の難しいケースもあります。
■ 拒食症の診断には、他の脳や消化器の疾患との鑑別が大切です。誤診例の報告は少なくありません。とくに「うつ病」に伴う食欲低下を拒食症と混同される場合があり注意が必要です。妊娠初期のツワリを拒食症と誤診された人、胃癌を拒食症と誤診された人、脳腫瘍を誤診された人など枚挙にいとまがありません。そのため診断には身体面の検査が不可欠です。


  低カロリー・低体重・嘔吐の悪影響

  摂食障害者の思考(認知)の特徴について

過食・嘔吐への対処について

摂食障害者の空虚感について