( 京都 心療内科 たかはしクリニック )

過換気症候群(過呼吸症候群ともいう)


 はじめに
 過呼吸症候群は、若い女性に多い病気ですが、男性や高齢者にもみられることがあります。この発作が生じると、息があらくなり(
息のあらさに自分で気づかない場合も多い)、両手の指先や口の周りがしびれたような感覚がおきてきます。原因は、何らかの誘因により呼吸中枢(脳内にある)が過剰に刺激され、呼吸を多くしすぎるために血中の二酸化炭素が減りすぎて、さらに呼吸が乱れ苦しくなるというものです。過呼吸状態になると、実際には血中の酸素濃度は普通以上に高くなりますが、本人は空気が吸い込めないような苦しさ(空気飢餓感)を強く感じます。
 

過換気症候群について
症 状 突然あるいは徐々に呼吸が苦しくなり、しだいに不安がつのり、両手の指や口の辺りがしびれた感覚に襲われます。胸苦しさや死の恐怖などを伴い、ひどい場合はテタニー症状と言って、指が痙攣したようになります。 また非常にまれですが、意識がモウロウとする場合もあり、この折りには激しい過呼吸の相と無呼吸の相が交互にくり返す状態になったりします。放置すると発作は数10分以上続きますが、決して死ぬことや後遺症を残す事はなく、どんなに強い発作でも、時間とともに必ず軽快していきます。過呼吸発作は、一生に一度しか出ない人もあれば、時期によって毎日頻発することもあります。

元々、何事に対しても不安になりやすい性格の人に生じやすいようですが、性格に関係なく現実の過剰な心理的ストレスや、運動(マラソンなど)でも誘発されることがあります。
たとえば女子高校のマラソン大会でゴール直後に過呼吸発作を生じてしまうケースも珍しくありません。遊び心で、意図的に呼吸を数分間わざと早めるだけで過呼吸発作を誘発してしまう場合もあります
 過呼吸発作は、パニック障害の一症状としてみられる場合もあります。持続的な不安・不満や心理的緊張、怒りなど、気分を興奮させる状況で生じやすく、過労、寝不足、風邪による発熱でも発症は助長されます。 しかし「あーそうか、これが原因だ!」と、簡単に分からない場合も多く、幸せいっぱいの平穏な生活を送っている人に生じる場合もあります。この場合、案外、平穏ゆえの空虚感、漠とした自分でも自覚しがたい焦燥感が背後に横たわっていることが少なくないのですが・・・・・・。
 人のストレスの身体反応には臓器選択性というものがあります。ストレスによって、ある人は胃腸症状になり、ある人は頭痛になり、そしてある人達は過呼吸症状になります。そのため、おそらく過呼吸発作を生じやすい体質というものが存在するのだろうと考えられるわけですが、このような臓器選択性と体質の関連についてはまだ医学的にほとんど分かっていません。
 
診 断
発作時に、動脈血の酸素濃度と二酸化炭素濃度を病院で調べてもらえば、診断は容易につきます。これは少量の採血で即刻(1分間)診断されます。発作時には血中の二酸化炭素濃度が異常に下がり、逆に酸素濃度は高くなっています。また、同様の採血で血液のPHがアルカリ側に偏移(呼吸性アルカローシス)しています。まれに、狭心症、気胸、気管支喘息、脳腫瘍、脳炎、日射病との鑑別が必要な場合があります。とくに高齢者では、過呼吸症候群が狭心症を誘発することがあり注意が必要です。診察室で1分間ほど速い呼吸をさせ過呼吸を誘発させる「過呼吸誘発テスト」という補助的な診断方法もあります。

治 療 (1)以前はペーパーバッグ法といって、紙袋を口にあて、吐いた空気を再度吸い込む方法が一般的でした。しかし最近は、ペーパーバッグ法は危険な場合もあるだろうということであまり薦められていません。(注:ペーパーバック法にすでに慣れ親しんでいる方は、空気が漏れないようにと紙袋を口にぴったり当てすぎると酸素不足になってしまいますから、少し隙間は作っておきます)。また、「息を吸えない、吸えない」とあせっている場合には、一度大きく息を吐ききると次に自然と息が肺に入り、安心感が出て落ち着きます。
 現在は、口をすぼめて(ローソクの火を吹き消すときの口の形)、ゆっくり口から息を吐くという方法が推奨されています。吸気時は、鼻か口から普通に空気を吸い込みます。
(2)突然の過呼吸発作のため不安になって病院に駆け込んでくるような人は、不安が強すぎるために自分の努力や工夫だけではなかなか発作は治まりません。このような場合には、精神安定剤の注射が非常によく効きます。
(3)しかし、病院(注射)にばかり頼っていては、自力で発作を抑えるコツがつかめないという事態になってしまいます。軽い発作であれば、「来たな!よし!」という心構えで、不安なことはなるべく考えずに、時間とともに過呼吸は自然とおさまっていくのだという体験を得ることが大切です。当然、このような体験は過呼吸発作に対する自信につながります。この折り、なるべくゆっくりした腹式呼吸もするように心がけてください。
(4)どんな心身症にも言えることですが、病気について主治医から詳しい説明を受け、とりあえずこの病態について知識をしっかり身につける事が大切です。発作用にいつも精神安定剤の頓服を携帯するという手段など様々な安心方法を身につければ、しだいに過呼吸発作が怖いものでなくなってくるでしょう。発作自体に慣れてしまえば、しめたものです。慣れは心の余裕をもたらし、次回の発作はきっと軽いものに変化していくはずですから。
(5)もし発作の原因となるような日常生活での不満、不安、怒り、というものがなんとなく自覚できるならば、さらにその点を整理し、明確にしていくことが治療に有利であり、カウンセリングなどで、それらを言語化し発散していくような治療がいいでしょう。
(6)何度も過呼吸を繰り返していると、発症の仕方や治まり方が段々分かってくるようになります。敵がどこから攻めてくるのか、一種の情報戦のようであり、敵の参謀の攻略が見抜けるようになってくるでしょう。
(7)若い女性が患者である場合、周りが過剰に心配し反応すると、本人が余計に心をかき乱され、症状が悪化することさえあります。発作がおきても周囲の人はなるべく冷静に対処しましょう。これも治療の重要なポイントです。

追 加   過呼吸症状は、うつ病、パニック障害、強迫神経症など幾多の精神的な疾患の随伴症状として生じることがあります。その場合は、それら元の病の治療も併せて行っていかねばなりません。過呼吸の多くは、「体質的なもの」と「心理的興奮」の協同合作です。私の臨床的な印象では、周囲に迎合しすぎる自己犠牲的な人も少なくないように思われます。


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