絵 小山裕子(1972)
番外編
医学講座
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緑色野菜は食べてはいけない?
傷の消毒は止めるべし
睡眠不足は肥満を招く
ウジ虫による傷の治療
うつ病の糖尿病モデル論
文明の発達と心身の余剰機能(06.6.16)
痛みの悪影響(03.7.29)
植物の発熱
「貧乏ゆすり」の すすめ
70歳の青年海外協力隊員
インターフェロンのこと
精神安定剤の知識
1000年後の日本人の人口は?
起立性低血圧の治療
メニンガー三角
ケネディ元大統領の姉の精神療法
青年海外協力隊員の死亡率
眼の痛みの心理学
統計の嘘
扁桃腺肥大の心身医学
コムラ返りに芍薬甘草湯
血液型と心身症
性格と心身症
若年者の発ガンと性格
「ある種の降圧剤をのんでいる人は、グレープフルーツの摂取禁止」 「ワーファリンという血液をサラサラにする薬をのんでいる人は、納豆の摂取禁止」
以上は、医学的に納得できる説明です。しかし最近になって、食事に関して、細か過ぎる注意を患者さんにする医療関係者が多いと感じます。たとえば、さきほどのワーファリンという薬について。ある医療関係者は、「ブロッコリンや緑色野菜をとるとワーファリンの効果が減弱するから摂らないように!」と患者さんに強く言われました。言われた患者さんが戸惑う姿が目に浮かびます。確かに、緑色野菜がワーファリンの薬理効果をある程度減弱することが、医学的に明らかにされています。しかしです。ワーファリンがその発売前に、臨床試験で1日分の適当な必要量が決められたとき、その被験者は普通に緑色野菜を食べていた人たちなのです。普通に緑色野菜を食べていた人たちを相手にして薬の必要量が決めらたのです。そのため、緑色野菜を止めてしまうと逆にワーファリンの効果過剰という事態すら危惧されるのです。緑色野菜が摂れない食卓など、一般家庭では想像できません。医療を行う場合に、患者さんの生活の質(QOL
と言います)についても考えねばなりません。誰でも守れないような細かい強迫的な食事指導は、不安を増す弊害になるでしょう。それこそQOLの視点を無視した人間不在の食事指導です。昨今の医療は、疾患(disease)だけでなく、病者・病気(illness)をみるという全人的医療へと回帰する傾向にあります。親切すぎる説明が、全人的医療にそむく「ありがた迷惑」にならないよう、医療者は注意しなければなりませんね。自戒をこめて。
傷の消毒はやめるべし
昔から、切り傷や火傷などのケガは、まず傷口を消毒してバイ菌を殺すことが傷を早く治すために大切である、というのが医療の定説でした。しかし最近、そのような治療方法が正しくないことがわかってきたのです。すでに日本医師会の広報でも、その新たな見解は積極的に広められつつあります。傷を消毒することが何故良くないのか。それは、消毒が傷の治療にとってほとんどプラスになりえず、逆に傷の治りを遅くする可能性が高いからなのです。これまで消毒液(イソジンやリバノール)は、普通の病院で当たり前のように傷の消毒に使われてきました。患者さんも消毒されることで安堵したものです。ところが傷口を消毒液で消毒しても、ほんの数時間で傷口のバイ菌は元通りの数にまで回復してしまうのです。そしてなによりも消毒の弊害は、傷を治すために利用される皮膚の再生細胞(傷口の汗腺組織内に残存する表皮細胞)を死滅させてしまい、傷口の治りを格段に遅くしてしまうことにあります。今や消毒に関するこの新しい知見は、多くの医師に目から鱗が落ちるような衝撃を与えています。 では、傷口は何もせずにただ放っておけばいいのかというと、そうではありません。傷口に付着している泥などの異物は水で綺麗に洗い流す必要はあります。異物が残存すると、それが感染の温床になるからです。そして、その洗い流す水は特別な滅菌水ではなく、普通の水道水が適していることも判っています。ある病院は、外科手術後の傷を毎日せっせと消毒するよりも、何もしないで放置しておく方が傷の治りが早く、縫った傷口が開くなどの合併症も少なくなったと報告しています。手術後の傷には消毒液を使わず、手術の翌日から綺麗な水道水で洗い流す(水道水のシャワーをかける)ことが良い方策なのです。 また、昔から「傷口は乾燥させると治りが早い」とも言われてきました。実はこれも誤りで、傷口の新たな皮膚の再生は「傷口の湿潤状態」が一番良いということもわかってきたのです。さらに、傷口にはガーゼを当てるのが良いとされてきましたが、ガーゼという材質は傷口に当てるには最悪の物質であることも判明しています。ガーゼは傷口を乾燥させてしまい、おまけに出来上がりつつある再生上皮を剥がしてしまいます。ガーゼは、ドイツ人医師によって100年以上前に考案されて世界中に広がり、現在もなお傷口に使用されています。
最先端の医療技術が開発される一方で、このような基本的な医療技術の誤りがほとんど検証されず現在まで持ち越されてきたことは、不思議な現象と言わざるを得ません。幸い、これまでの消毒法はすでに多くの病院で見直されつつあり、ガーゼに替わって傷口を湿潤させる新製品が使用されるようになってきました。ついでに記しますと、予防注射などをする前に必ずアルコール綿で注射の刺入部位をゴシゴシ拭いて皮膚消毒をします。しかし最近のデーターでは、拭いても拭かなくてもバイ菌の感染率に差はないとされています。これ以上書きますと、無用な医療不信を助長する危惧がありますので、この辺でやめておきます。
睡眠不足は肥満を招く
米国の大学の研究報告から。約20000人の30歳から60歳くらいの人を調査した研究で、7〜9時間眠るヒトに比べると、4時間以下しか眠らないヒトは肥満になりやすいことが分かりました。5時間で50%、6時間で23%それぞれ太りやすいのです。原因としては、夜間起きていることによる消費カロリー以上に、夜間つい食べてしまうという行動の増加が推測されています。 そして、その理由としてレプチンとグレリンというふたつの体内物質が関係しているのではないかと考えられています。レプチンは脂肪組織で作られる物質で、脳の食欲中枢を抑制する働きがあります。グレリンという物質は胃で作られ、食欲を亢進させる作用があるようです。実は、睡眠時間が減ると、この食欲抑制物質であるレプチンが減って、逆に食欲亢進物質であるグレリンが増えるということが分かってきたのです。睡眠不足のままに遅くまで起きていると、つい冷蔵庫をあけてしまうのは、これらレプチンとグレリンという二つの物質の増減によるのかもしれません。手術で胃を取ってしまうと食欲が進まないのは、グレリンを作る場所がなくなってしまうからでしょうか? このグレリンは日本人が発た物質ですが、京都大学医学部付属病院探索医療センターでも現在グレリンの作用を食欲のない患者さんを相手にして研究中とのことです。昔から、睡眠を多くとると体重が減りやすいと言われていました。その原因がやっと明らかになりつつあるようです。
ウジ虫による傷の治療
岡山大学心臓血管外科で昨年、足の糖尿病壊疽(血流低下により、足先が腐り潰瘍になる傷)に無菌ウジ療法が行われ成功しました。「無菌ウジ療法」(Maggot
Debridment Therapy)は、2mmくらいの幼いウジを傷口に植えつけます。すると、傷の汚い部分をウジが旺盛に食べつくし、無菌的に傷をきれいに掃除してくれるという治療法です。この治療は70年前位から多くの医学論文で効果が報告されていました。さらに1990年になり、抗生物質耐性の細菌がふえてきたために、抗生物質を使わないウジによる治療効果が再び見直されてきたのです。ウジはある種の昆虫ホルモンを出し、傷の修復に向けた刺激を傷に送り、傷の回復を早める作用や殺菌作用をもたらすことが明らかになっています。治療コストも安く(オーストラリア産の養殖無菌ウジは1匹250円位)、副作用もなく、痛みもないため麻酔もいらない。これにより、糖尿病壊疽で足を切断しなければならないような重症患者さんが切断をまぬがれる場合もあり、評判もすこぶるよいとのことです。最近では、この無菌うじ虫は『小さな外科医
』と呼ばれているようです。これからは、「ウジムシ」という蔑んだ言葉が、美しいイメージへと変身するかもしれません。「ウジムシのような人」とは、世の中に役立つ美しい人々を意味する日がくるのでしょうか。
うつ病の糖尿病モデル論
うつ病の病態と治療を分かりやすく考える方法として、糖尿病を類似したモデルとして見るやりかたがあります。うつ病の治療に対する考え方を、糖尿病に対する考え方と類似するものとして捉えると分かりやすいからです。糖尿病の多くは、遺伝的な体質がその発症に大きく関与しています。同時に日常生活のありかた(食事や運動)によっても血糖は悪くなったり良くなったりします。同じように、うつ病も遺伝的と思われる体質・気質がかなり発症に関与しています。同時に日常生活のあり方(ストレスや疲労)によってもやはり良くなったり悪くなったりします。治療・予防においては糖尿病もうつ病も、悪化因子(糖尿病ではカロリー過剰、うつ病ではストレス過剰)に配慮した生活様式が大切であり、それがうまく守られれば、軽症化あるいは治癒していきます。しかし生活様式が破綻していくと、どちらの病気も容易に増悪するはめになります。症状がひどくなれば、どちらの病気も生活の改善(うつ病ではストレス環境の修正、糖尿病では食事・運動の修正)がさらに大切になります。そのような生活改善でもよくならなければ、薬(抗うつ薬や糖尿病薬)の服用が必要になってきます。一方、うつ病にも一部の糖尿病と同じように、あまり生活の仕方が発症に関連しない内因性のものがあります。このような糖尿病はT型糖尿病と呼ばれますが、うつ病では内因性うつ病と言います。ひとくちに糖尿病、うつ病といっても、いくつかのタイプに分けられ、治療法はそれぞれに合ったものを選択していく必要があります。うつ病も糖尿病も、無理をしない等の生活のあり方が予防法として大切であり、悪くなったら薬の力を借りることができ、幅広い治療の選択を患者さんが選ぶことが出来ます。どちらの病気も、基本はやはり生活の自己修正にあるようです。うつ病にかかって、これからどんな治療方針がとられるのかなと疑問になる場合には、この糖尿病モデルの考え方がとても参考になると思われます。・・・以上は、ある精神科医が着目された合理的な考え方なのです。
文明の発達と心身の余剰機能
人類は脳の発達に伴い脳頭蓋を膨らませ、逆に食生活の変化に伴って顎の骨は小さくなったといわれます。昔の人は硬い粗食を食べ咀嚼筋がきたえられることで下顎が発達していました。ところが文明の発達とともに食べ物が柔らかくなり、強く噛む必要がしだいになくなり下顎骨も小さくなったそうです。このように文明の発達によって生活スタイルが変化し、身体機能もそれらに少しずつ順応してきたようです。しかし一方で、急激な文明の発達にヒトの身体機能が追いつけていないのではないかと思われる現象も多々あるようです。そして文明の発達と身体機能のミスマッチが、興味深いことに、多くの現代病として現れてきているのではないかと最近考えられているのです。古代人は、日々の狩猟や裸の生活のため外傷をうけることが多く、命にかかわる出血機会も多かったと推測されます。そのため人類は、外傷を受けても迅速に止血できるように、血液の凝固能力を発達させてきました。しかし現代人が出血をする機会は、古代人に比して極端に少ないのです。そのため生体の「止血凝固機能」は現代人にとって過剰となってしまい、その機能余剰が血液を凝固しやすくさせ、脳血栓や心筋梗塞など血管がつまる病気を増加させるはめになってしまったのです。同様に、現代人のアトピーなどアレルギー疾患の増加についても考察できます。古代に生きる人類は怪我をする回数も多く、幾多の病原菌にさらされました。そのため人類は多くの病原菌に対抗する免疫力を徐々に発達させましたが、現代人は古代人ほど怪我をすることもありません。そのため体内に発達させた免疫能が行き場を失い過剰となって、アレルギー疾患という免疫過剰病を蔓延させる結果にとなったといわれます。また、古代人は、水分や塩分を自由に摂取できる機会が少なく、その結果体内に水分や塩分を保持する能力も発達させてきました。しかし現代では塩分・水分がいくらでも摂取できる状況となり、このことは現代人に高血圧という現代病もたらすことになったと言われます。たとえばアフリカ奴隷の末裔であるアフリカ系米国人(黒人層)は、白人層に比べて高血圧の人が多いとされます。その理由は、彼らの祖先がアフリカからアメリカ大陸に移送される奴隷船内で、水や塩分を十分補給されないという過酷な状況にあい、水分・塩分の保持能力が高い黒人だけが生き残り米国に上陸できたからだといわれます。これが結果として米国の黒人には高血圧の人が多いという事実につながっているという説があるのです。さらに、古代人は滅多に食事にありつくことも出来ず食事内容も粗食でした。総じて古代人は摂取カロリーが少ないため、飢餓に備えて体内に皮下脂肪を蓄える遺伝子を発達させてきました。しかし現代は飽食の時代であり、古代人が生き残るために発達させた脂肪蓄積の力は現代人にとって過剰なものとなりました。その結果、「肥満や糖尿病や高脂血症」などの病を現代に増加させたことになったらしいのです。それゆえ、糖尿病になる人たちの先祖は貧しい食生活をせざるをえなかったグループではないか、と語る糖尿病研究家は少なくありません。では、もうひとつの現代病であるメンタル系の病(うつ病やパニック障害など)の増加は、文明の発達とどうかかわっているのでしょうか。ここが本題です。高血圧や糖尿病などと同じ論法に従ってみましょう。原始時代、人類は生きるか死ぬかという闘いや災害に絶えず遭遇せざるをえなかったと推測されます。そのため人類は、警告サインとしての交感神経系の作動により、動悸・発汗・筋肉緊張・不安・驚愕反応などは日常的に必要とされていたと考えられます。それは生きぬくために備えられた必要最低限の防御態勢だったでしょう。しかし文明が発達し、文明に守られることで、現代人の生死に及ぶ危険場面は極端に減少し、比較的安穏とした生活状態を人類(先進国の人類)は得ることになりました。そのため余剰となってしまった驚愕・不安反応機能は、その活躍場面が極端に減りました。より些細な日常の変化にしか出番はなくなってしまったのです。平穏な日常のなかで、驚愕不安反応系それ自体が行き場を失い、厄介な自動的発動性をえるはめになったのではないか。そのことが、平穏な日々に突如前ぶれもなく生じるパニック発作へと変貌したのではないかと・・・・。
メンタル系の病のメカニズムがまだ十分解明されてないため、これらはただの推測に過ぎないのですが。
痛みの悪影響
疼痛は生体の免疫力を抑制し癌遺伝子にもなんらかの悪影響を及ぼすことが指摘されるようになりました。動物実験で、ネズミの足に強い痛み刺激(電撃痛)を与えると、@血液中にあるナチュラルキラー細胞(NK
cell;癌細胞をやっつけてくれる最前線の兵士のような細胞)の力が弱まる。A実験的に転移した癌細胞の拡大を招く。これらふたつの効果が認められています。これらの結果は、痛みが癌の悪化を促進させやすい可能性を示唆するものです。痛みに限らず精神的ストレスや身体的ストレスが、癌を悪化させやすいことは昔から言われてきました。痛みは、神経を介して脳に伝達され「痛み」を感じることになるのですが、実は神経系と免疫系は非常に連携したネットワークを体中に張り巡らせています。たとえば自律神経を興奮させると、免疫をコントロールするリンパ球の成分が変化することが分かっています。 神経因性疼痛(neuropathic
pain)というものがあります。これは、ケガなどを受けてからしばらく時を置いて出現しやすい痛みであり、時に数ヵ月後に出現してくる場合もあります。その原因は、痛みによる末梢での神経の感受性の亢進や脳・脊髄の変化に基づくものであろうと推測されています。この理論では、痛みが長期に続くと痛み自身が神経そのものに癒し難い悪い変化を与える可能性があり、痛みは我慢せずになるべく早期に除去した方がよいということになります。たとえばウイルスによる帯状ヘルペスなどでも、発症後なるべく早期に痛みへの対症療法を行わないと、半永久的に痛みが残存する後遺症につながってしまうことがあります。体の痛みは、末梢の神経を通って、まず視床下部に行き、ここからさらに「意識」に関与する大脳皮質に伝わります。それによって初めて「痛み」と感じられ認められるわけです。 ところで手術時の全身麻酔は、大脳皮質が痛みを感じたり認めたりすることを出来なくさせます。しかし全身麻酔中でも視床下部までは、一応きちんと痛み刺激は伝えられているのです。そのため視床下部に伝わった痛み刺激は、そのまま免疫力の抑制など生体に様々な悪影響を及ぼす可能性があります。それゆえ今までの全身麻酔のみの方法を変え、全身麻酔に加えて手術部位の局所の麻酔も同時に行った方が良いのではないかということが麻酔科で議論されているのです。そのような新しい方法によって、術後肺炎などの合併症をもっと少なく出来るかもしれないと言われています。 痛みは、生体に対して「警告」というサイン以外にも、様々なプラス面やマイナス面を持っているようです。
植物の発熱
興味深いことですが、ある種の植物では開花の時期に熱を発することがあるそうです。そのような現象が確かめられているのは、ハスなどのサトイモ科植物で、早春の寒い時期に15〜35℃の温度を保つそうです。サトイモ科植物では、花の細胞内部(特にミトコンドリア)に「エネルギー発生装置」が存在するらしく、このような高い熱を作り出せるとのことです。そこで、何のために発熱するのかという理由ですが、動物が感染などによって発熱する場合とは理由が全く異なるようです。現在、発熱の理由として以下の2つがあげられているようです。ひとつは、温度をあげることによって花が本来のもつ匂いをふんだんに効率よく出す事ができます。強い匂いは、より多くの虫を誘い出すことが出来、それにより花の受粉能力を高めようという作戦のようです。もうひとつの説は早春のまだ寒い時期に虫に暖かい場所を提示し、魅力的な場所として誘い込もうとするものです。多くの虫は、音度が下がると活動が低下せざるをえないため、温かい花は虫にとって非常に居心地のよい場所になるようなのです。 匂いの良い暖かい懐(フトコロ)は人間にとっても居心地がいいものですから、以上の理由づけは人間様の勝手な解釈に過ぎないかもしれませんね。
「貧乏ゆすり」のすすめ
貧乏ゆすりは、はた迷惑な行為として捉えられることが多いようです。しかし貧乏ゆすりが、嫌われながらも「自然発生的に」生じる行動であるなら、健康にとって何がしかの利点があるのかもしれないと考えたくなってしまいます。ところで、『エコノミークラスシンドローム』という言葉を最近よく耳にします。この病気は、海外旅行などで狭い座席に長時間にわたって座ったあとに発生します。飛行機が目的地に到着して急に立ち上がった折りに、下肢が鬱血したために作られた血栓が突然剥がれて血中に流され、肺塞栓などを起こす状態を言います。ひどい場合にはショック状態になり死にいたることもあります。エコノミークラスの座席の幅は他のクラスよりも狭く下肢の動きが制限されるため、このような血栓が生じる危険性が高く、エコノミークラスシンドロームと命名されたのです。このような下肢血栓による症状は、実は飛行機旅行の時だけでなく、長時間継続したデスクワークなどの後にも発生しうるのです。そこで、このような下肢にできる血栓予防のために、貧乏ゆすりが案外役立つのではないかと思えるのです。貧乏ゆすりは下肢筋肉の律動的な動きですから、当然下肢の血流は円滑になり、鬱血の解消になるはずです。ただし、これはまだ単なる私見であって医学的に確かめられたものでもありません。 一方最近は、エコノミークラスシンドローム予防のために、日本航空などの機内でも着陸前に下肢運動のビデオが乗客に見せられているようです。
「貧乏」ゆすりとは、まさにその名の通りに、エコノミークラスに座っている人達向けの健康法と言えるようです。
青年海外協力隊の応募年齢が20歳〜70歳にまで幅がひろげられるそうです。我こそはと思われる御年輩の方にはまたとない朗報と思い、簡単ですが記載いたしました。
インターフェロンのこと
インターフェロンとは、体がウイルス等の侵入を受けた折りに、体内でウイルス等の敵をやっつけるために増産される体内物質です。当然、インターフェロンには、体の免疫力(癌免疫も含む)を強力にアップさせる作用があり、C型肝炎や悪性腫瘍の治療に現在用いられていることは有名です。 一口にインターフェロンと言っても、いくつもの種類があり、その活動性もそれぞれ個性的であることが分かっています。ところで、このインターフェロンには、免疫力のアップ以外に、生体に発熱をおこさせたり、食欲をなくさせたりという作用があります。人の心理を「うつ病」へと誘導する力もあります。そのため、うつ病の既往のある人にはインターフェロンを用いた治療は危険とみなされています。 さて、このインターフェロンの副作用(発熱、食欲低下、うつ状態など)は、よくよく考えてみれば、動物がウイルス等の病原体に感染したおり、体力を温存し早く病状から回復するのに役立っていると言えるのです。 動物は病気になっても、空腹感がつのれば安静にせず動き回って餌をさがすことになるでしょう。ところがインターフェロンが体内に増産されるおかげで、食欲がなくなり、気分はうつ状態で動くことも減り、結果として、「身体の安静が守れる」ことになるわけです。食欲が一時的に減ることは、外傷の治癒機転にもプラスに働きます。(たとえば、数10年前のウサギの実験で、絶食にしたウサギの方が食事を摂らせたウサギよりも傷が早く治癒した、という立派な医学論文もあります) 我々人間界では、病気になると少しでも多く食べるようにと周囲の人達が励まし、本人もそれを受けて多く食べようとします。しかし以上の点に鑑みると、それは生体維持の摂理に反したマイナス行為になっているのかもしれません。
精神安定剤(minor tranquilizer)は、不安、焦り、心の緊張を軽くする薬として需要が急速に高まっています。その精神安定剤という薬について少し説明をしておきたいことがあります。精神安定剤は、心の緊張や不安を軽減してくれるので、感情の過剰な起伏が抑制され楽になったような気分になります。これだけの事ならば良いことばかりで、話は簡単に終わりそうです。しかし話はそんなに簡単ではありません。 というのは、もう一度言いますと、精神安定剤は心の抑制を取り除き気分を開放的にしてくれる作用があるのです。 つまり「心を抑制している部分」、すなわち「心の中でグッと我慢している部分」そのような自己コントロール系の抑制も同時に除いてしまうのです。ですから、それまで我慢していた葛藤や心の緊張が行動などで爆発的に発散される道筋もつきやすくなってしまいます。脳生理学的な表現をしますと、脳の「抑制神経系の抑制」をもカットし、脳内放電(インパルス)を過剰に招来させるということにもなりかねないのです。このことは、ヒトに麻酔をかけた場合に、浅い麻酔のままでは却って抑制がとれて興奮状態に陥ってしまう現象と類似しています。このような現象は、実際の臨床場面でいくつかの行動変化として観察されます。たとえば、家庭内暴力、自傷行為、痴呆老人徘徊などのケースに精神安定剤を安易に処方されると、期待に反してさらにそれらの行動がエスカレートしてしまう現象がみられるのです。このような「逆現象」は、精神安定薬に関する知識としてとても大切なことなのです。もし精神安定剤が処方された時期から上記のような行動が増悪している場合には、このような薬剤の作用による可能性があるため、精神安定剤を中止したり衝動を抑えるため他の薬を追加する必要があるでしょう。もちろん主治医の判断に従ってですが・・・。
1000年後の日本人の人口は?
現在日本の人口は1億2000万人。それが2007年には1億3000万人となり、人口の最大ピークになります。ところが現在の日本人の出生率をこのまま維持していくと、2007年以後から確実に減り始め、100年後には、人口は6000万人に半減すると試算されています。
さらに「現在の出生率の固定」および「平均寿命80〜90歳くらい」として試算し続けていくと、
1000年後の日本人の人口は、なんと200人なのだそうです。ひとりの女性が一生に産む子供の数が現状のままである限り、そのような驚嘆する結果になると、ある日本の女性学者が報告しています。
急に起立したとき、しばらく起立状態を続けたとき、入浴中などに、脳貧血とおぼしきメマイや立ちくらみが頻回に生じる場合、起立性低血圧を疑います。これは、体位の変換に応じて、重力の関係で、血液が頭部から引き、下半身方向へと移動していくために起きる現象によります。
ちなみに、キリンが、頭を下ろして水を飲んだ直後に頭をビューンと上に持ち上げても、脳貧血が生じないのは何故か? ということが一時不思議な現象として動物学の分野で研究されていたようです。答えは聞いていませんが。 特に、中学生くらいの年齢で、急速な身長の伸びに心臓や循環器系の発達が追いつかない場合にもよく発症します。この場合は、内臓の発達とともに殆どが自然治癒していくことになります。 ところが成人になっても、この症状が持続すると、いつも疲労感が認められたり、精神的な集中力も減退するという事態が合併しやすくなります。原因として、やはり循環器系(心臓)の相対的な未発達が考えられます。なかにはsmall heart syndrome といって実際に心臓の形が小さ目の人がおられ、そのため起立時に高位置となる脳に充分量の血液を供給できないわけです。この場合は心臓の超音波や胸のレントゲン写真で診断が可能です。また、心臓の拍出能力に問題がなくても、下肢の血管に血液が貯留しやすいというタイプの本症もあります。この場合は、起立時に下肢血管が収縮しなければならないのに、うまく収縮できず、その結果頭部への血液循環量が乏しくなるという事態が生じるのです。健康人では、急に起立した時などきちんと下肢の血管は収縮しますから、大丈夫なのです。 問題は、治療をどうするかです。当然、脳へ行く血液循環量を増やせばいいという事になりますが、案外これが難しい。リズミックという薬が起立性低血圧の特効薬と言われますが、実際あまり効果は期待できない。 そこで薬物以外の治療法として、現在、次のような治療法が考えられています。
# 毎食事時と各食間に、梅干しとコップ一杯の水を飲む。(これは食塩と水分を多めに補給することで、体を循環する血液総量を増やし、脳の血管にハリを与えるというものです。つまり、高血圧治療の逆を行うという事です)。
# 強めのタイツをはき、下肢の血管や筋肉を締め付ける。これにより下肢血流のウッ帯を防止します。結果的に脳や上半身への血流が増します。
# 下肢や下半身に冷水をかける。これにより下肢血管平滑筋の急速な収縮能力を強化します。これは一種の鍛錬法です。
# 食事を多くとり、体重を増やす。体重増加は血圧全般を高くさせ、その結果脳での血圧を高めに変化させます。
# 運動を定期的に行う。これは新陳代謝を高め、循環器系の活性化を図ります。
# 重症例ではホルモン剤(ステロイド系)や交感神経活性薬などが使用されることがあります。これら薬物の効果は人によって大きく異なり、副作用への配慮が必要です。
# 規則正しい生活を守ります。深酒、喫煙、睡眠不足は大敵です。
メニンガーという精神分析の大家によると、心理面接中の人間関係の話題は主に3つの部分に分けられるとされる。ちなみに、メニンガーの所には今も日本人が分析を習いに次々と留学しているようです。 ところで、その3つとは、「現実環境での人間関係(恋人、友人、同僚など)」、「幼児期での重要人物との人間関係(おもに両親)」、「今ここでの人間関係(治療者)」です。そしてこれら3つの人間関係についての話題が、あたかも3点からなる三角形の辺上をグルグル回り続けるごとく円滑に次から次へと推移していくことが有効治療のキーポイントと言われます。そしてメニンガーによると、この周り方が右回りか、左回りかによって、効果があったり、なかったりという具合になるらしいのです。
その周り方の有効性は置いておくとしても、ここでの幼児期の母への非難が実は目前の治療者への批判の置き換えであったり、会社の上司への怒りの話題が実は過去の父親への怒りの代償であったりと、心理面接ではこの3つの人間関係は絶えず連鎖・重複・投影されながら話題として浮上してきます。治療者は、その3点の複雑な絡みをヒモ解きながら、患者さんの話題に耳を傾けねばならないのです。場合によっては、過去の父親への怒りと現在の会社上司への怒りが治療者像に勝手に重ねられ、治療者がいわれのない激しい攻撃にさらされる事態も生じます。治療者もまた、このような場面で感情的に逆上し(逆転移感情)、両者がなじりあうという、およそ心理療法の場とは思えない修羅場に成り代わることもあります。 治療者も人の子、このような患者さんの態度に対して感情的になて当然でもありますが、冷静な良い治療者というのは、そこでの自らの感情の揺れにも深い光を当てます。そして、反応している自己の姿を素材にして目前の患者さんを分析するヒントを得ようとするのです。精神分析治療において治療者が自己分析(教育分析)を不可欠とされる所以です。 そのような治療場面での修羅場の源泉が、実は(無意識的な問題を抱えた)治療者の側にあって、患者さんは単に治療者の奥深い感情に反応しているに過ぎないのだ、という場合も少なくないようです。
暗殺された元米国大統領ケネディの実姉は、ある精神症状のために長期にわたって(5年以上)精神療法を受けていました。おそらく精神分析的な治療だったと思います。しかし一向に病状はよくならない。そこで彼女は精神療法をやめ、薬物(向精神薬)療法に治療方法を変更しました。すると短期間で病状は嘘のように好転したのです。この事実を知ったケネディ大統領はとても立腹し、精神医療の国家予算を脳の生物学的研究(薬の開発など)の方に大きく振り当てました。そのため以後しばらく、米国の精神分析に関与する治療者達は冷や飯を喰わされることになったということです。 この事実は決して精神分析的な治療の有効性を揺るがすものではありませんが、精神療法というもののひとつの盲点をついた出来事であったようです。ところで、今の日本でも多くのカウンセラー(臨床心理士)が活躍されています。そして彼らの仕事が精神的な重労働である事は、少しづつですが認められつつあります。しかしながら、いわゆる精神医学を十分に学び研修していないがために、彼らの治療法の選択には、往々にして問題がみられます。ケネディの姉を引用するまでもない事ですが、精神療法よりも薬物療法に治療の重点を移すべきケースが、カウンセラーの元で延々と治療されている例がしばしば見られるのです。 元々薬物を使う資格が与えられていないカウンセラーの方々は、こと病的な心理を扱うかぎりにおいて、医師と緊密な連携を図り、独り歩きをしすぎない事が大切です。臨床心理に理解ある医師とカウンセラーがうまく連携すると、これまで医療から疎外されていた多くの病める患者さんに、もっと光が当たるようになるでしょう。
青年海外協力隊員(JOCV)の死亡率
1980年から1990年までといいますと少し古い話になりますが、その10年間の協力隊員の海外赴任中の死亡率は、約200人に一人という状況でした。死亡原因は交通事故と脳性マラリアが主ですが、アフリカの隊員に限って計算しますと実に100人に一人という高死亡率だったのです。ベトナム戦争に派遣された米兵の死亡率が約50人に一人と言われていますから、その約半分の確率です。まさに戦場に送られるボランティアとも言える状況でした。現地医師による医療過誤、自殺などいろいろな死亡原因もありましたが、いまだ真相が不明なままの例もあるようです。 現在では、AIDS禍や民族紛争が隊員の身の危険を倍加させています。さらに帰国直後には、逆カルチャーショックという魔手も待ち受けています。今でも現地で会った彼らの日焼けした真摯な顔が脳裏に浮かびますが、2年間のボランティアを終えて帰国した彼らを迎える日本社会は、雇用態勢ひとつとっても誠に冷たいものでした。
若い女性の心身症の症状に、よく「眼の奥が痛い」というものがあります。 もちろん眼科を受診しても異常なしと診断されるのですが、どうも若くてヒステリカルな女性にこの訴えは見られやすいのです。実は精神分析的な観点からは、「眼」というのは性器の代理象徴とも捉えられ、性的な意味合いが眼痛に潜んでいることが多いとされます。眼は、「め」「まなこ」と口述されますが、「め」「ま」という音はご承知の通り女性性器を示す言葉に含まれやすいのです。ただしこの発想は単なる私の思いつきではなく、数年前の精神分析学会場での討論内容からの抜粋です。 ところで心因性盲目という病気もありますが、これは性的なニュアンスよりも、身近な嫌な現実を見たくないという身体言語であることが多いようです。 もちろん目の奥の痛みには、「群発頭痛」や「偏頭痛」など脳波異常を伴いやすい一連の頭痛もあり、その症状に心理要因がどのように関係しているのかは、心身両面から慎重に評価していかねばなりません。誤った無意味な治療を予防するためにも。
統計の嘘に注意
統計上、交通事故の件数は、赤信号を渡っている人の場合より青信号を渡っている人の場合の方が多い。 これは事実です。しかし「だから赤信号を渡る方が安全だ」ということにはなりません。これは最も単純な統計の数値のまやかしです。
次に「みそ汁を毎朝呑む習慣のある人にガンの発生率が少なかった」という調査報告が以前ありました。そのため一部の人は毎朝みそ汁を呑む習慣をつけようとしました。しかし、みそ汁にガンを抑える力があるかどうかは実はこの調査では全く不十分なのです。つまり「みそ汁を呑む」ことと「ガンの発生が少ない」ことに、「関連性」があっても「因果関係」までは証明されていないのです。 どういうことかと言いますと、みそ汁を呑む習慣のある人は、おそらく規則正しい健康な生活をされているのであって、野菜をとる習慣や愛情に包まれた精神的に比較的満たされた生活背景が連想されるわけです。ですから実は、みそ汁そのものにガンを抑える効果があるのではなく、そのような連動するライフスタイルの他の要素にガンを抑える力があるのかもしれないということなのです。
このように「関連性」と「因果性」の違いにごまかされることなく、巷の統計的な数字を読み取らなければなりません。 同様な例で「便秘になると、顔に吹き出物ができる」と語る女性が結構おられます。これも便秘が吹き出物の原因とは実は言えないのです。つまり便秘になるような「体全体の不調」が同時に顔面の皮膚症状を誘発していると言い換える事ができるのです。ですから「顔に吹き出物が出来ると便秘になる」という逆表現も真のようであり、間違っているのかもしれません。
扁桃腺肥大の心身医学
扁桃腺肥大は、小児期までは普通にみられ(軟性肥大)、病的な意味は余りありませんが、成人後まで持ち越す肥大(硬性肥大)は病的とみなされます。扁桃腺肥大の人達は種々の病気にかかりやすく、全身的な免疫系の働きに若干ながら問題があるようです。 これまでのフィールド調査では、扁桃腺肥大の人は非肥大者に比して、小児でも大人でも肥満傾向にある人が多く、自らの身体的な疲労を感知しにくいため生活で無理をしやすいと報告されています。また、その性格は反社会的傾向が低く、比較的従順であり、神経症傾向が少ないと報告されています。ただしこれは、あくまで扁桃腺肥大者とそうでない人達の「集団間」での比較であり、例外と言える人達は数多く存在されるのです。(これは日本心身医学会誌に掲載された私の原著論文「慢性扁桃肥大の心身医学的検討」からの抜粋です)
コムラがえりに、芍薬甘草湯
過剰運動や寒さによって下肢の血液循環が変化すると、コムラ返りが起きやすくなります。コムラ返りは脱水による筋肉の電解質のアンバランスで生じると言われます。下肢の冷えには「トウキシギャクカゴシュショウキョウトウ」という舌を噛みそうな名前の漢方が有効と言われます。一方、コムラ返りに最も効くとして巷の医者の間で話題になっているのは、漢方の「芍薬甘草湯」です。コムラ返りに毎夜悩まされている人、一度試されてはかがでしょうか? ただし、なぜコムラ返りがよく起きるのか、糖尿病や高脂血症でもコムラがえりは生じやすくなりますので、それらのチェックも大切です。 さらに一言。一般に筋肉のケイレンは、怒りなどの感情の昂ぶりによっても誘発されます。元ボクサー(たぶん闘争心の強い人がなる職業でしょう)に結構コムラ返りに悩まされている人がおられるのです。現役時代と違って怒りを発散する試合がなくなるからでしょうか? つまり、気持ちをまるく鎮める練習もコムラ返りには有効と考えられるようなのです。
血液型と心身症
以前あるドイツ人医師による医学論文で、O型の人に胃潰瘍が多いという報告がされました。それ以後、ABO血液型と心身症の種類に直接ふれた報告は見あたりません。しかし血液と性格については他に面白いデータがあります。例えば健康な若い男女において、男女ともに血液中の赤血球の数が少ないほど心理テストで「分裂気質」が高くなるという報告があります。同様に、血液中の白血球数が少ないほど、やはり分裂気質傾向が高くなるという報告もあります。人間の体の中で、新しい物事を記憶する力(記銘力)のある細胞は「脳神経細胞」と「白血球(特にリンパ球)」です。白血球は、その組成や抗原性の類似点から血液に浮かぶ脳細胞とまで言われています。このようなことを考えると案外、血液型と性格、そして心身症の発症のあり方には無視できない関係があってもよいように思われるのです。(赤・白血球数とパーソナリティの関連については、日本心身医学会での私の口演発表からの抜粋です)
性格と心身症
胃潰瘍になる人は「潰瘍性格」、気管支喘息になる人は「喘息性格」であることが多いと以前から言われています。 「潰瘍性格」とは、競争心、闘争心が強いとされ、そのことは逆に挫折心を抱く場面にも出くわしやすく自己卑下的に抑うつ感情も持ちやすいという事になるわけです。 「喘息性格」には、passive
aggressive、 すなわち受け身的で「暗に他人に期待しているのに、期待通りにしてもらえない」事に対して不満状態が持続し内面に怒りを保持しやすいという特徴があります。特に、成人発症(成人になってから発症する人)にこの傾向がよく認められると言われています。そのため喘息の心身医学的な治療は、「内面に抑圧された不満の言語化を図り、周囲への過剰な迎合(過剰適応)の習慣を修正する」ということになります。
もちろん胃潰瘍も喘息も、ピロリ菌や低気圧、体質など多くの要因が複合して発症にいたるのですが、このような性格的な課題も症状発現の「あげ底」要因として関与しているのです。 ちなみに、肺結核の重症化と性格の関連を世界で初めて報告したのは、ある日本人医師でした。それは感染症という病気の予後に心理面が関係することを証明した世界で最初の報告でした。もう何十年も前のことですが。
■ 若年者の発ガンと性格
数年前米国で、若年者の「悪性メラノーマ」という皮膚癌の患者さん達の性格テストが行われました。その結果、この患者さん達は、自己犠牲的、過度に良心的、温和である等の性格傾向があることが明らかになりました。年をとると癌免疫も徐々に低下し発癌の危険性が誰しも高まりますが、特に若年者で種々の癌を発症する人達でこのような性格傾向が強いと言われます。このような性格を、専門的に「C型性格」と命名されています。しかし残念なことに「C型性格」を何とか修正すれば発癌の危険性が減るのかという研究はまだなされていません。現在、精神腫瘍学
psychooncology という領域でこれらのことは専門的に研究されつつあります。私の病院でも若年者の胃癌や膵臓癌の方が時々発見されますが、やはりこの「C型性格」と言える人達が多いという臨床的な印象が非常に強くあります。
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