京都市 心療内科 たかはしクリニック

    社会不安障害SAD     
(あがり症)

 
SADとは、人前でのスピーチ、会議の発表、会食などで、心身の過剰な緊張(あがり)が生じてしまい、そのような状況を強く恐怖する病態です。心身の過剰な緊張により、声が上ずり出にくくなる、声や手足が震える、息苦しくなり激しい動悸がうつ、緊張で倒れそうになる、何も考えられなくなる、食事がとれない、顔がひきつる等など多彩な症状が生じます。最近は、どんな職場でもコミュニケーションや情報交換が大切にされるため、会議や会食する場面が増えています。SADの人にとっては生きづらい世相と言えるかもしれません。昔流に言えば、このようなあがり症状は、「恥ずかしがり屋」、「内気な性格」、「臆病者」である証拠となり、勇猛果敢さが大事とされた価値観の時代(戦争時など)には、情けない人物として評価されるのが普通でした。本人もそのように思われがちな自分の「性格」を卑下するために、さらに緊張の度が増す緊張スパイラルの悪循環に陥りがちです。ある会議や会食の時に過剰に緊張してしまい、そのときから会議での発表や会食の何日も前からまた同様の事態が起きないか心配になり、心がソワソワ(ザワザワ?)します。このような前もっての不安を「予期不安」と言います。この予期不安のために、緊張場面を回避する行動をとろうとし、損な人生選択をとってしまうことも少なくありません。三人よれば社会が出来ると言われますね。SADは、他人の存在によって成り立つ病態です。SADは、人前での発表や会食など特定の状況のみで緊張するのが特徴です。特定の状況に関係なく四六時中緊張する場合はSADとは呼ばず、全般性不安障害(GAD)という病名になります。俗に、視線恐怖、赤面恐怖、多汗症などと呼称される病状があり、これはSADの部分症状であったり、別の病態である場合があります。これらの病態のすべては不安を中心としたものであり、過去にはまとめて「神経症・ノイローゼ」と呼ばれていました。ところで最近の医学データでは、SADの家族内発症率(遺伝性などによる)は、全般性不安性障害と比べて特に高くないとされています。米国では約10%近い人がSADに罹患しているとされており、SADは決して珍しい病態ではありません。また、SADはうつ病の合併率が比較的高い病態であると報告されています。         
 



  治 療

  
当たり前のことですが、人前でスピーチをする場合に全く緊張しないという人はおられません。あくまで、その緊張の強度が臨床的に問題となるのです。それゆえ治療目標として、緊張をゼロにすることを目指すのは理に合いません。本人が納得できる程度にまで症状を軽減させることが、治療の目標になります。

■ 薬物による治療

 詳細は割愛しますが、最近の脳生理の研究から、SADの発症にはセロトニンという脳内の神経伝達物質が関与していることが推測されています。そのため、脳のセロトニン関連に作用する「SSRI」という類の薬剤が効果が高いとされています。現在日本では、数種類のSSRIが医師によって処方されています。医師の処方箋なしでは薬局で買えません。
 しかし例えば、1年や1月に1回しか開かれないような会議のためにSSRIを毎日服用し続ける事は、症状に対する過剰防衛のような感があります。そのため、不安を即効的に軽減させる精神安定剤を、不安な会議や会食の前にだけ服用するという方法(頓服)も実用的です。また、緊張時の生じる動機や震えなどの身体反応を抑えるためにβブロッカーという高血圧用の薬を使用することもあります。もちろん、重症の人にはこれらの薬をうまく組み合わせて使用することもあります。

 
ちなみに、社会不安障害(SAD)に対する薬剤の有効性は患者さんが予想する以上に高いものです。


  薬剤以外の併用治療

 治療初期には薬剤の助けを得ながら、症状が実際にかなり軽減することを実感してもらいます。ある程度の自信が体得できれば、次に種々の心理的な治療を併用していきます。
 @ 病態メカニズムについての正確な知識の獲得、
 A 症状を悪化させている生活の改善(運動の奨励、嗜好品の点検など)、
 B リラクゼーション法の習得、
 C 行動療法(暴露法など)、
 D 症状をカミングアウトすることの吟味、
 E マイナス思考の修正、
 F 環境調整、
 G 森田療法

 などがあります。
本人に合った治療法をケースバイケースで取り入れ、薬剤を本人のペースに沿って徐々に減らしていく方針を取り入れます。社会恐怖は、心療内科や精神科が対処する病気の中では治療によって最も軽快しやすい病態です。それゆえ、ひとりで悩まないで気軽に専門医を受診されることを薦めたいと思います。ただし、うつ病の合併や人格の問題が深く関わる場合(このような場合は厳密にはSADとは言えませんが・・・)は、治療が難渋する場合が少なくありません。そのあたりの診断は、専門的な診療によって明らかになります。まれに甲状腺機能亢進症がSADと似た症状を招くので診断上、要注意です。

  【ケースの紹介】 
  
最近ある会社で部長に昇進されたAさん。新しい部下の前で訓示をする役を指示されました。以前のAさんは、人前で話すことをまったく苦痛に感じませんでした。しかし部長になり新しい部下の目を意識しすぎたせいでしょうか、ある日、皆の前で話をしている折に、急に激しい不安と動悸に襲われました。立っているのが精一杯といえる強い緊張でした。とりあえず、なんとかその場は必死でしのぎました。 しかしその日を契機に、部長として挨拶をする場面を想像するだけで、強い予期不安に襲われるようになりましたこんな部長としての自分を情けないと感じつつ、なぜ自分がこのような状態になったのか不思議でなりませんでした。一時は、会社へ足を向けることも苦痛に感じるほどでした。そしてある日、意を決して専門医を訪れました。病状の詳しい説明を受け、SSRIの投与を受けられました。服薬1週間目ごろから、人前で話すことの不安が半分以上減少してきたことに気づきました。しだいにそのような状況に慣れ、自信がついてくるとともに、少しずつですが薬の減量も可能となられました。病態についての納得できる説明、薬剤の投与、そして状況への自信回復による慣れが、症状の軽快につながったのでした。それまで病知らずであったAさんにとって、このようなSAD発病・治療体験は、職場での「部長人間としての見識を深める」ことにも役立ったようです。それは他の社員への共感が深まるなど、以後の社会生活に多くの利をもたらしたようにも思われます。この病によって得られた心理的な収穫は、貴重なものであったに違いありません。
「転んでもただでは起きない」というタフさと言えるでしょう。


 

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