心因性嘔吐とは?


   概 略
心因性嘔吐には、吐き気が主体で嘔吐を殆ど伴わないもの、激しい嘔吐が頻繁に繰り返され点滴をしながら1日中寝込まねばならない重症のもの、治療中に摂食障害(拒食症・過食症)へ移行していくものなど何種類かの病態が含まれます。よってひとつの疾患単位というより症候群としてとらえるべきと考えられます。
 また、うつ病の身体症状として嘔気・嘔吐がみられる場合があります。胃ガン・膵ガン・脳腫瘍でも心因性嘔吐と誤診しやすいケースがあり診断は慎重にすすめる必要があります。一般に症状は日によって大きく変動し、症状のため職場や学校へ行けない日と殆ど症状のない日が繰り返されやすい。原因として職場、学校などで本人にとっていやな現実があり、そこに足を向けようとすると吐き気や嘔吐が生じてくる場合が多い。ただしそのいやな状況を、周囲どころか本人すら自覚されない場合も少なくありません。嘔吐症状のため1年以上寝込んでいた主婦は、初診時「ストレスとなるような事は何もありません」と言い切っていました。しかし治療を進めていくなかで、育児の不安、夫への不満などが浮き彫りになり、結局はこれらの解決の方向性が得られたことを契機に軽快されました。
  他の心身症と同様、身体症状には一種の「目くらまし忍法」の側面があります。身体症状が前面に表現されることによって心理的課題を敢えて気づかずにすむ、という心身のカラクリが背後にあるわけです。身体症状と心理的要因の関連に気づくことを、「心身相関の気づき」と言いいます。この気づきは、本来の「悩み」を「心」の側が受容できる態勢が整わないと、なかなか促進されません。そして、ストレスをストレスとして心が自覚できないと、身体が身代わりとして反応し症状化してしまうということになってしまいます。心の問題が身体症状に置き換わって表現されることを「身体化」と言いますが、嘔吐は文字通り「受け入れがたい現実を、身をもって吐き出す」現象であると、精神分析的な解釈がなされることもあります。

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