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琵琶湖の湖岸周辺や富山湾周辺に発生する蜃気楼には、上位蜃気楼と下位蜃気楼の2種類があります。
両者共に、観察者の前方約5キロメートル以上遠方から現れ、十数キロメートル遠方によく現れます。
しかし、単純に両者ともに遠方ものを蜃気楼像として見えると思うのは間違いです。その理由には、光の屈
折方向=(曲がり方)の違い、水平線の存在にあります。ここでは、水平線と蜃気楼についてふれてみたいと
思います。
私たちが海岸や湖岸で見ている遠方の水平線について考えて見ると、水平線より下の部分(図6の斜線部分)
は、物体の高さや距離により見えない場合があります。港を出て行く船の姿を眺めていると、だんだん小さくなっ
ていきますが、船の下部から徐々に見えなくなって最後には水平線の彼方へと消えていきます。
その理由は地球が丸い(球状)ためです。図6は極端な図にしていますが、水平線の延長線より下の部分にか
くれた物体は観察者からは見えないことを示しています。
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| 図6 水平線 |
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では、我々が湖岸や海岸で見ている水平線はいったいどれくらいの距離にあるのでしょうか?答えは下の
図7にあります。「水平距離に対する球面までの落差の式(以後落差の式とよびます)」を導く説明は省略し
ますが、高校生程度の数学で簡単に求めることができます。
地球は大きい!ので地面は平らのように思えます。図7では「落差の式」のX(水平距離)に10[km]を代入す
ると、Z(高度)は−約7.8[m]となります。観測者の位置から水平方向に10[Km]先の地点では、球面によ
る効果でこの地点から約7.8[m]下方に球面があるわけです。この式から「落差」は距離の2乗に比例して大
きくなることが分ります。逆に水平方向5[Km]程度ならば、10[km]の場合の1/4の約2[m]程度の「落差」に
なります。
次に述べる“水平線までの距離”でふれますが、我々がふだん湖岸や海岸などの低い場所から遠方を眺
める場合は「落差」を意識しなくてかまいません。
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| 図7 水平線から球面までの落差 |
『水平線までの距離』の話が後になりましたが、図の観察者(身長170[cm])が見ている水平線は、図中の
『落差の式』の右辺に観察者の身長(地面から目までの高さ)を加えて、Xについて方程式を解けば、約4.7
[km]となります。(地面から目までの高さhを170[cm]として)思ったより近い距離に驚かれたかも知れません。
例えば海岸や湖岸で観察する場合、人間には約5[km]先からは“水平線の下”になり、この延長線より下
に位置するものは“見えない”ことになります。ですから、先に述べた『人間が湖(海)岸で遠方を眺める場合、
「落差」を意識しなくてよい』ということは、水平線が“約5[km]”遠方になりますから、この範囲内では2[m]以
内の落差になります。その先の“落差”が大きくなる遠方は水平線の下になりますから、我々の目に見えま
せん。
観察者から見て、水(海)面より“高い”物体(風景や船など)は、その高さに応じて水平線の延長線より一
部で上に出ていれば、当然見えるわけです。今は観察者が“海抜0[m]の位置から眺めた場合の話でした
が、観察者が“小高い丘”などの湖(海)面より高い場所からは、さらに“水平線”までの距離が伸びます。
つまり、遠くまでよく見えるということです。(この場合は『落差の式』の右辺に身長+自分のいる高度を加
えれば、水平線までの距離がわかります。)|Top|
(ア) 下位蜃気楼の場合
下位蜃気楼が発生する大気の状態は“上冷下暖(上密下疎)”の空気の層が存在する場合でした。
水平線の話では“観察者から見た水平線の延長線より下にあるモノ(例:図8の船)は、通常見えません。”と
いうことでした。
では下位蜃気楼が発生した場合はどうなるでしょうか?水平線下にある物体から出た“光”は“上密下疎”の
空気の層のため、より密度の大きい(温度の低い)層へ進路を変えていきます。“光は下に凸の弧”を描いて
進みます。ですから、観察者の目に物体からの光は届きません。つまり、“下位蜃気楼の場合、水平線下に
ある物体は観察者に見えない!!”ということです。(図8参照)
よく秋冬に『蜃気楼が発生した!ふだん見えないものが見えてびっくり!』という話を聞きます。写真を見て
下位蜃気楼の類(浮島現象や逃げ水現象)ならば、写真や映像に写っているモノは、“ふだんから見えている
モノ”とともに、元のモノが下方倒立したり、下方に伸びた像といっしょに見えているだけです。
図8 水平線と下位蜃気楼 |Top|
(イ) 上位蜃気楼の場合
上位蜃気楼が発生する大気の状態は“上暖下冷(上疎下密)”の空気の層が存在する場合でした。
通常、観察者から見て、水平線の延長線より下にあるモノは見ることができません。上位蜃気楼が発生して
いる場合、光はより密度の大きい(温度が低い)層へ進路を変えます。ですから、上述の下位蜃気楼の場合
と全く逆の“上に凸の弧”を描いて進みます。図9は誇張した表現ですが、水平線下に隠れていた物体から
の光が“地球の表面”に沿うように進み、観察者の目に届くことを示しています。この場合は“見えないモノが
見えた!!”ということになります。
水平線下にある見えない光景を蜃気楼として見ることができるタイプは“上位蜃気楼のみ”ということです。
しかしながら、遠方からの光が湖(海)面に沿って届くということは、その間は“上暖下冷(上疎下密)”の大気
層が続いている必要があるため、特殊な条件が成立しない限り、富山湾周辺や琵琶湖湖岸からは遠くても
数十キロ遠方の光景が上位蜃気楼化して見える程度です。
特殊な条件とは、“暖気−冷気−暖気”とサンドイッチ状になった大気が存在する場合です。この層が広く
続くならば、この層の中で光はこの層から出られずに進みます。“光ファイバーの中を光が伝わる”ようなも
のです。この現象は“ダクティング効果”とか“ノヴァヤ・ゼムリヤ効果”と呼ばれています。記録では数百キ
ロメートル遠方のモノが上位蜃気楼像として見えたとあります。
それにしても、水平線に隠れて見えないはずのモノが見えるてしまうということには、驚かされる事実です。
図9 水平線と上位蜃気楼
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