中学生になると、部活が活発になります。高校受験を控えてあまり熱心でない生徒も居ますが、特に運動部では、「巨人の星」的に練習の虫に成り勝ちです。どんな事に注意して部活をしたら良いのでしょうか。見てみましょう。
球技の部活では関節損傷が多く、ねんざは関節包や靭帯が過度に伸展したり断裂したものを言います。指、足、膝などが好発部位で、程度によって治療は異なりますが、腫れのひどいものや痛みの強いものは固定などが必要になります。
突き指はたいした事はないと思い勝ちですが、骨折から脱臼、ねんざ、単なる打撲などがあります。。痛みが強い場合や曲げると痛い場合、腫れのひどい場合はX線撮影と医師の診断が必要です。
特殊な骨折として筋力による骨折があり、投球したとき、上椀骨に強い捻転力が加わり上椀骨がらせん状に折れる上腕骨投球骨折、
鉄棒の蹴上がりをした時、上椀三頭筋の強い牽引力により肘頭が裂離する尺骨肘頭裂離骨折、
ランニングで前上棘に付着する筋(大腿筋膜張筋、縫工筋)の強い牽引力によりその部が裂離する腸骨前上棘裂離骨折、
短距離走やキックにより、下前棘に付着する大腿直筋が強く収縮することによりその部が裂離する腸骨前下棘裂離骨折、
ジャンプ、跳び箱の踏切などで、大腿四頭筋の強い牽引力により、その付着部である脛骨粗面が裂離する脛骨粗面裂離骨折、
過度のランニングやジャンプで足や脛の骨に起こる疲労骨折などがあります。
以上は転位の少ないものは保存的に、大きいものは手術的に整復固定します。
成長期に特定の部位を酷使すると、関節軟骨下組織が痛んで、骨片が剥離して関節の中を自由に動くものを関節鼠といいます。肘や膝の関節に見られ、野球肘、サッカー膝などと言われますが、こうなると選手生命が断たれる場合もあります。
ジャンプ時に膝の前面に痛みが起きるのはオスグット・シュラッテル病が多く、ジャンプを繰り返すと踵骨々端炎によってアキレス腱付着部が痛みます。いずれも成長期の過度の練習で起こります。
オスグット・シュラッテル病:10〜14 歳の主として男子に見られる脛骨粗面部(膝蓋骨の下)の骨端炎で、自発痛、圧痛、軟部組織の異常な腫脹が見られる。85%は自然治癒する。
格闘技競技では、鎖骨骨折、肩関節脱臼や膝内障、足関節ねんざが多く、膝内障では靭帯損傷、半月損傷を伴うもの、足関節では内反ねんざと外反ねんざとあり、いずれの場合も靭帯損傷を伴うものがありますので、レントゲンなどでの診断が必要になります。骨や靭帯の損傷では手術的に治療しなければならないものもありますので、医師に必ず相談して下さい。又肩関節脱臼などは習慣性となりやすいので注意して下さい。
筋肉の損傷としては肉離れがあり、肉離れは顕微鏡単位での筋肉の断裂から起きます。受傷後は冷却、安静、固定が必要です。
「根性」という言葉があります。東京オリンピックの女子バレーの金メダルに見るように、昔の人気アニメ「巨人の星」に見るように、過度の練習を、しかも子供の内からやるのがメダルへの早道で、日本人の根性だと、美徳化された時代もあります。
しかし、まだ骨の出来ていない小学校、中学校の時から反復した過度の運動を骨や筋肉に与えるのは、医学的には間違いです。まず、骨と筋肉の成長を時代を追って見てみましょう。
膝や肩、肘などの関節は成長期には大部分が軟骨で、骨の断端にある断端線の軟骨部で骨は成長しています。すっかり骨ができあがるのは個人差もありますが、成長の止まる高校生位です。
膝の筋肉では屈筋群、伸筋群共に9才位から徐々に発達し屈筋群は17ー18才で急成長して止まるのに対し、伸筋群では14ー15才に成長のピークがあります。このため14ー15才で過度のサッカー練習をすると、軟骨と屈筋、伸筋の成長のバランスを崩して、痛みを伴うサッカー膝となり、不可逆的な変化を伴うと一生膝の痛みを抱える事になります。
同じことは肩関節や肘関節にもいえ、小学校や中学校から変化球を投げるなど、無理を続けると野球肩、野球肘となり、痛みのため運動制限を来たすようになります。特に肘の関節は小学校ではまだ殆ど軟骨ですので、変化球を投げ続けると、自分の筋力のために腱が軟骨から外れる剥離骨折や、過度の刺激から疲労骨折を起こす場合もありますので、注意しましょう。
また、成長期には骨の発育が早く、筋・腱の伸展が追い付かないために不揃いになり、結果的に筋・腱の過緊張を生んで一種の成長痛を生む一連の病気があります。伸び過ぎ症候群(オスグット病、シンディング・ラルセン病など)と呼ばれますが、このような症状のある場合は、過度の練習は不揃いを増長させますので、禁忌です。
一般に小学校ではスポーツ運動への移行的段階にあり中枢神経系の発達を促すスマートな動きや俊敏生を目指し、中学校では骨格筋系の発達に応じた基礎体力作りに専念し、骨格筋系や呼吸循環器系の発達期にある高校生からハイパワーに向けての練習を開始すべきでしょう。