骨粗鬆症

骨粗鬆症とは何か


高齢になって転んだ、骨折!、寝たきりにならないために

高齢化社会になって骨粗鬆症の患者が増えています。Ca不足なのか、ホルモンの関係か、食べ物は? 運動は?さぁ、勉強しよう。


  1. 語源は?

    骨粗鬆症の語源を辿りましょう。

    「粗」は<あらい>です。次の何やら難しい漢字「鬆」を字源(昭和32年34版)で引くと、

    • 髪の亂れる貌。
    • あらし(粗)ゆるし。
    • すべて物が虚にして實ならず。又、寛くして急ならず

    とあります。解り難いので平凡社の大辭典で「鬆」を引き直すと、
    • 牛蒡・大根・蕪菁の根の中心部の組織が粗鬆になれるをいふ。かくの如き根菜を鬆入りといふ。
    • 鑄物の内部に生じたる空隙をいふ

    とあり、要するに鬆が入って透か透かになった大根のようになった骨の状態を骨粗鬆症と言うのだと推測されます。英語の名称“osteoporosis”のosteoは骨、porosisは<多孔性のある>という意味で、英語でも細かい隙間の空いた骨の状態を言い表わしています。

    骨は体内の総Caの99%を貯蔵しています。骨の表面は骨膜で覆われ、表面近くには緻密な皮質骨(緻密質}、内側は海綿体で作られ、骨全体の量を骨量といいます。この骨量が病的に減るのが骨粗鬆症です。骨量が減ると、皮質骨は幅が薄くなり、本来緻密だった組織が隙間の多い海綿状になり、内側の元々の海綿骨は骨梁が細くなり、まばらになって空間が増え、透か透かになるという訳です。

  2. 原因は?

    老化です。人間の身体の骨量は成長に比例して増えていき、20〜30歳頃に最高に達します。それ以後は次第に減っていき、特に女性は閉経後急速にエストロゲンというホルモンが卵巣から出なくなるため、骨量が減少します。ですから、骨粗鬆症は高齢者、特に女性に多く、女性は50歳代の閉経期を迎える頃から圧倒的に発生頻度が高まり、加齢と共に更に増加していきます。男性は60歳代頃から加齢と共に増加し、80歳代の高齢に至って発症頻度が急増しています。ですから、超高齢者社会に入った日本では、今後益々増加していくことが予想されます。

    老化や閉経に因らない骨粗鬆症もあります。これを2次性の骨粗鬆症といい、他に何かの病気があって、そのために骨粗鬆症に罹る2次性の病気で、この場合は若年者も罹患します。原因となる1次性の病気には、甲状腺機能亢進症(バセドウ氏病)、クッシング症候群(ステロイド剤の長期投与者も含む)、性腺機能低下症、糖尿病などがあります。

    加齢や閉経など骨量減少が起こりやすい状態になっても、そのまま骨粗鬆症に進展するとは限りません。このような状態に発症を促す因子が加わると、骨粗鬆症になります。

  3. 発症を促す因子

    1. 運動

      年をとると運動量が減り、筋肉量も減っていきます。実は筋肉は常時使用していないと痩せていくのです。運動量の減少が骨量の減少を招きます。長期間の寝たきりや、ギブス固定はかなりの頻度で骨粗鬆症を起こします。又、骨粗鬆症による骨折で寝込んだ老人が、長期間寝込むことによって、ますます症状を悪化させます。

    2. 栄養

      高齢者の食事は往々にしてCaや蛋白が不足しがちで骨粗鬆症の発症に深く関与しています。

    3. 体型

      若い頃から体育やスポーツ嫌いで身体を動かしていなかったり、乳製品や小魚が嫌いでCa摂取が少ないために骨量が少ない人は骨粗鬆症に罹る頻度は高くなります。又、痩せた体形の女性も発症頻度は高い傾向にあります。これは、閉経後の女性でも太っていれば脂肪でエストロゲンを合成して、ある程度発症を防げるからだと言われています。

    4. その他

      上記以外にも、遺伝的素因、人種差、アルコールの多飲、喫煙などが、骨粗鬆症の危険因子として知られています。

  4. 骨粗鬆症によって起こる障害

    1. 椎体の変形で背中が曲がる

      骨粗鬆症の変化は緻密な皮質骨より海綿体により強く現われます。臨床上特に骨粗鬆症の症状が出るのは脊椎の腹側の椎体ですが、これは椎体の内部組織の大部分が海綿体である上に、身体の支柱として荷重負担が大きいため多発します。即ち、骨粗鬆症が起こると、椎体内部の骨梁は萎縮して減り、椎体の間でクッションの役目をしていた椎間板の弾力性が無くなって、内部が粗になりもろくなった椎体を圧迫して、椎間板が椎体内部に入り込むような形に変形してゆく、このような状態を椎体の魚椎化といいます(図2)。この椎体の変化がすぐに姿勢の変化に現われます。第11、12胸椎や第3腰椎といった、動きが激しく、荷重が特に掛かる椎体の変化が著しいため、脊椎は前傾し、背中が曲がっていきます。こうして背中が曲がる上に一つ一つの椎体が萎縮するので、脊柱の短縮し、年をとると身長が低くなるのです。幸い、かなり重症の椎体の破壊があっても、脊髄神経の通っている脊椎の後方の部分は骨粗鬆症では破壊、変形を受けにくいため、脊髄損傷による神経症状はめったにみられないのです。

    2. 腰痛に影響すつオーバーワーク

      骨粗鬆症の主訴は、慢性的な腰や背中の痛みです。じわじわと椎体の破壊、変形が進行していく場合には、付纏うような鈍痛を伴う事も少なくありません。腰や背中の慢性的な痛みは、脊柱の支持機構が椎体の弱体化で変化することによって起こる場合が多いのです。

      本来、脊椎はS字型に湾曲して直立する人間の身体の重心を保ち、支えています。所が、骨粗鬆症によって脊椎の変形が起こると重心は前に傾き、重力に対して身体を直立させておく力が低下します。そこで、腰、背中、腹筋などの筋肉が脊椎の代りに身体を支えようと過緊張し、このために、筋肉疲労が起き、痛みが生じます。更に、筋肉の過緊張をキャッチした自立神経の作用で、筋肉の反応を抑制する反応が生じ、そのため筋肉内の循環障害が亢進して結果的には更に筋肉の疲労度が高まります。

    3. 病的な骨折の好発部位

      骨に鬆が入ってもろくなった骨粗鬆症のお年寄りは僅かな衝撃、例えばよろけて壁に手を突いたり、尻餅を搗いた丈で、手首や腰椎の骨折が頻発するようになります。年間約400万人の骨粗鬆症患者の内、骨折約10万人に発生しており、老人医療費にも多大の影響を与えています。その好発部位は脊椎、大腿骨頚部(股)、橈骨末端(手首)です。

      1. 脊椎圧迫骨折

        椎体が所所に潰れていく脊椎変形に臨床所見(腰痛など)は似ていますが、骨折の場合は尻餅を搗いたりなど、何らかの衝撃を受けて急激に椎体が潰れる状態で、急激な激しい痛み、突然の背中の変形等を伴います。

      2. 橈骨末端骨折(コーレス骨折)

        女性の骨量減少は50歳代から60歳代において急速に進みます。特に橈骨(前腕の二本の骨の内親指側の太い方の骨。細い小指側は尺骨)では、閉経後から60歳までの中年期に骨量減少が著しくなり、転んで少し後に手を突いただけでも骨折するようになります。従って、橈骨末端骨折は45歳以上の閉経後の女性に急増しますが、老齢に達するとその発症頻度は緩やかになります。このため、この部位は加齢よりも閉経の影響を受け易い事が推測されます。他の脊椎、大腿骨頚部に比べて骨量減少の程度が大きく、このため骨折発症も多いと考えられます。

      3. 大腿頚部骨折

        60歳代頃から発症頻度が高まり、70歳代以降に急速に増加します。やはり女性に多いのですが、男性にも比較的多く発症するので、閉経よりも加齢による影響を強く受ける部位と考えられます。

  5. 骨発症頻度の地域差

    骨折は、Caと蛋白摂取量の少ない地域に多発します。言葉を変えると、Ca摂取の少ない地域に骨粗鬆症が多いと言えます。更に、骨粗鬆症は日光照射量にも関係します。腸管からのCa吸収に欠かせないビタミンDは、日光に当たることで体内で活性化するからです。日光照射量の少ない欧米では、積極的に日光浴を楽しむ習慣がありますが、これは単なる民族的な習慣でなく、健康上必要なものと言えます。かって、アジア地域から欧米に移民した人々に、くる病や骨粗鬆症が多発しました。これはアジア人種は欧米人に比べてCaと蛋白質の摂取量の少ない食事を好み、その上日光浴の習慣がなかったためと言われています。

    日本の土壌は酸性傾向にあり、ここで育つ食物はCaの含有量が少ない上、乳製品や肉類からのCaの補給も欧米程ではありません。このような国に生活する日本人は、日頃からCa摂取と日光浴に心掛けるべきといえます。(しかし、最近の学説では過度の日光浴は紫外線とフリーラジカル酸素(O3)のために身体の癌化を促進することがあるという話なので、何事も「過ぎたるは及ばざるが如し」と言えましょう。)

  6. 患者さんの生活指導

    治療の第一は骨量の減少を改善して骨折を予防する事であり、第二は腰背部痛を和らげて、患者さんの苦痛を取り除く事にあります。第一としては、Caの骨内維持を助ける女性ホルモン(エストロゲン)や腸管からCaを吸収するのに必要な活性型ビタミンD、また骨吸収を抑制するカルシトニンなどの薬の投与であり、第二は湿布療法や理学療法などがありますが、詳細はかかりつけ医に任せてここでは詳細は省かせて頂きます。 更に、骨粗鬆症の進行を止めるため、又予防のために日常生活では次の3点を心掛けましょう。

    1. Caの接種

      骨粗鬆症では、体内のCaの絶対量が不足しがちになります。日本人の平均的な食事ではCaの含有量が低めだと言われます。できる限りCa含有量の多い食品を摂取しましょう。必要なCa摂取量は成人は1日800g、成長期の子供は1日1500gですので、骨粗鬆症の患者さんは1日800g以上は摂取しましょう。

    2. 運動量の増加

      骨代謝は骨にかかる刺激で活性化されます。ギプスなどで長期間身体の一部を固定しておくと、その部分の骨の代謝は著しく低下します。適度の運動で骨に刺激を与え、活性化させるのも効果的な治療の一つです。また日光によく当たってCa吸収に必要な活性型ビタミンDの体内での活性化を高めるため、外出したり、野外でのスポーツなどを積極的にしましょう。

    3. 禁煙・アルコールの多飲を避ける

      煙草はニコチンが神経毒、タールが発癌物質です。多飲すると、骨代謝に悪影響を及ぼします。アルコールの多飲は嗜好性を生んで、規則正しい生活態度を狂わしますし、アルコールによる脂肪肝は種々の代謝活動に障害を与えます。骨粗鬆症の患者さんは骨代謝に影響を与えて悪化させます。禁煙、禁酒に努めるのが肝要です。

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