大乗起信論別記 法蔵 


大乗起信論別記
底本 京都書林 永田調兵衛 版

大乗起信論別記
崇福寺沙門法蔵撰

 釈題目。頌中敬意。仏宝中義。法宝中蔵義。用大唯善義。覚不覚義。釈随染二相義。釈本覚義。本有修生義。生滅因縁中七科義。生滅中一科義。染法熏中四科義。浄法熏中七科義。略科文。分別発趣中四種発心義。科釈正行義。色心不二中一義。釈頼耶識有惑義。如来蔵中恒沙功徳義。生滅不生滅和合成梨耶義。九相義。真如二義。智浄不思議相義。覚体相中四鏡義。始本相依文。染法熏習中無明妄心各有二義。浄分縁起中有四句義。生滅門中真妄縁起義。法身義。真妄心境四句義。二諦無礙義。二諦義。染浄義。如来蔵。四謗義。KHbekki-01R,01L
  (〈1〉題目を釈す。〈2〉頌の中の敬意。〈3〉仏宝の中の義。〈4〉法宝の中の蔵の義。〈5〉用大唯善の義。〈6〉覚・不覚の義。〈7〉随染二相の義を釈す。〈8〉本覚の義を釈す。〈9〉本有・修生の義。〈10〉生滅因縁の中の七科の義。〈11〉生滅の中の一科の義。〈12〉染法熏の中の四科の義。〈13〉浄法熏の中の七科の義。〈14〉略して科文分別す。〈15〉発趣の中の四種発心の義。〈16〉科、正行の義を釈す。〈17〉色心不二の中の一義。〈18〉頼耶識有惑の義を釈す。〈19〉如来蔵の中の恒沙功徳の義。〈20〉生滅・不生滅和合して梨耶を成ずる義。〈21〉九相の義。〈22〉真如の二義。〈23〉智浄・不思議相の義。〈24〉覚体相の中の四鏡の義。〈25〉始本相依の文。〈26〉染法熏習の中の無明妄心におのおの二義あり。〈27〉浄分縁起の中の四句ある義。〈28〉生滅門の中の真妄縁起の義。〈29〉法身の義。〈30〉真妄心境の四句の義。〈31〉二諦無礙の義。〈32〉二諦の義。〈33〉染浄の義。〈34〉如来蔵。〈35〉四謗の義。)KHbekki-01R,01L

【01-01 題目 大乗起信論】
 一釈題目者。大乗有七義故。名為大乗。一道上故。論云。於二乗為上。故名大乗。二能至大処故。論云。諸仏最大。是大乗能至故名大。三大人所乗故。論云。諸仏大人乗是乗故。四能弁大事故。論云。能滅衆生大苦。与大利益事。故名為大。五大士所乗。亦名多人所乗。論云。観音等諸大菩薩之所乗。故名為大。六尽法源底故。論云。能尽一切諸法底。故名為大。七摂法周備故。論云。如般若中。仏説摩訶衍義無量無辺。以是因縁故名為大。KHbekki-01L,02R
  (一は題目を釈せば、大乗に七義あるが故に、名づけて大乗となす。一は道上の故に。『論〈十二門論〉』に云く「二乗に於いて上と為るが故に大乗と名づく」。二は能く大処に至るが故に。『論〈十二門論〉』に云く「諸仏最大なり。この大乗能く至るが故に大と名づく」。三は大人の所乗なるが故に。『論〈十二門論〉』に云く「諸仏大人、この乗に乗ずるが故に」。四は能く大事を弁ずるが故に。『論〈十二門論〉』に云く「能く衆生の大苦を滅す。大利益の事を与うるが故に名づけて大となす」。五は大士の所乗なり。または多人の所乗と名づく。『論〈十二門論〉』に云く「観音等の諸大菩薩の所乗なるが故に名づけて大となす」。六は法の源底を尽くすが故に。『論〈十二門論〉』に云く。「能く一切の諸法の底を尽くすが故に名づけて大となす」。七は法を摂して周備するが故に。『論〈十二門論〉』に云く「般若の中に、仏、摩訶衍の義、無量無辺なりと説くが如し。この因縁を以ての故に名づけて大となす」。KHbekki-01L,02R

【01-02 題目 大乗】
 又釈大乗有三義。一弁名有四。一約法有三。謂三大二運。如下論説。二約行有七。如集論等弁。三約人法有七。如十二門論説。四直弁大。即当法為因。苞含為義。KHbekki-02R
  (また大乗を釈するに三義あり。一は名を弁ずるに四あり。一は法に約するに三あり。謂く三大・二運なり。下の論に説くが如し。二は行に約するに七あり。『集論』等に弁ずるが如し。三は人法に約するに七あり。『十二門論』に説くが如し。四は直ちに大を弁ず。即ち当法を因と為す。苞含を義と為す。)KHbekki-02R

【01-03 題目 乗】
 又弁乗義。寄喩為名。運載為功。体能合挙。故云大乗。又論云。乗大性故。名為大乗。解云。此即真性該周。故云大。即所乗也。妙智乗之。故云乗。即能乗也。依主釈也。論云。亦乗亦大。名為大乗。此即当体。智能運転。故名乗。性広博故名大。此持業釈。KHbekki-02R,02L
  (また乗の義を弁ず。喩に寄せて名と為す。運載を功と為す。体、能く合して挙ぐるが故に大乗という。また『論〈摂大乗論釈 玄奘訳〉』に云く「大性に乗ずるが故に名づけて大乗と為す」。解して云く。これ即ち真性該周するが故に大という。即ち所乗なり。妙智これに乗ずるが故に乗という。即ち能乗なり。依主釈なり。『論〈摂大乗論釈 玄奘訳〉』に云く「また乗、また大なれば名づけて大乗と為す」。これ即ち当体なり。智能く運転するが故に乗と名づく。性広博なるが故に大と名づく。これ持業釈なり。)KHbekki-02R,02L

【01-04 題目 乗】
 二明体性有二。一正以無分別智為乗体。兼即摂所依真如及余勝行等。二正以真如為乗体。智等亦兼摂。以彼皆為真所成故。KHbekki-02L
  (二は体性を明かすに二あり。一は正しく無分別智を以て乗の体と為す。兼ては即ち所依の真如及び余の勝行等を摂す。二は正しく真如を以て乗の体と為す。智等また兼ねて摂す。彼皆、真の所成たるを以ての故に。)KHbekki-02L

【01-05 題目 乗】
 三業用有二。一約三仏性義。如仏性論。自性為所乗。引出為能乗。至得果為乗所至処。此中所乗是乗(去声)能乗此是乗(平声)。二約運因成果義有三。一運行令増。二運惑令滅。三運理令顕。初是能。後二是所。此即是涅槃中三徳。謂般若解脱法身文是。三転依。如集論説。一心転。謂真性現故。二道転。謂行漸増故。三対転。謂惑障滅故。文此論中。破和合識等是転滅。顕現法身是転顕。智純浄是転増。余義准之。KHbekki-02L,03R
  (三は業用に二あり。一は三仏性の義に約す。『仏性論』の如し。自性を所乗と為し、引出を能乗と為し、至得果を乗所至処と為す。この中、所乗はこれ乗〈去声〉。能乗はこれはこれ乗〈平声〉。二は運因成果の義に約して三あり。一は行を運びて増せしむ。二は惑を運びて滅せしむ。三は理を運びて顕さしむ。初はこれ能。後の二はこれ所。これ即ちこれ『涅槃』の中の三徳、謂く般若・解脱・法身。文〈又か?〉この三転依は『集論』に説くが如し。一は心転。謂く真性現ずるが故に。二は道転。謂く行漸く増するが故に。三は対転。謂く惑障滅するが故に。文〈又か?〉この論の中、破和合識等はこれ転滅、顕現法身はこれ転顕、智純浄はこれ転増。余の義はこれに准ぜよ。)KHbekki-02L,03R

【01-06 題目 大乗起信論】
 一言大乗起信者有二門四義。初心境門中。一大乗是能起。信心是所起。故云大乗之起信也。二起信是能信。大乗是所信。故云大乗之起信。二体用門中。一約摂用帰体弁。即此信心。是真如内熏及外縁所成。不異本故。是真故。起信即是大乗。故云大乗起信。二直就業用弁。謂此信心即広博。故云大。即従微至著。運転義故。名之為乗。即是起信。亦是大乗。故云大乗起信耳。KHbekki-03R
  (一には「大乗起信」というは二門四義あり。初は心境門の中に、一は大乗はこれ能起。信心はこれ所起なるが故に大乗の起信というなり。二は起信はこれ能信。大乗はこれ所信なるが故に大乗の起信という。二は体用門の中に、一は摂用帰体に約して弁ず。即ちこの信心。これ真如内熏及び外縁の所成。本に異ならざるが故に、これ真なるが故に。起信は即ちこれ大乗なるが故に大乗起信という。二は直ちに業用に就きて弁ず。謂く、この信心即ち広博なるが故に大という。即ち微より著に至るが運転の義なるが故に、これを名づけて乗と為す。即ちこれ起信、またこれ大乗なるが故に「大乗起信」というのみ。)KHbekki-03R

【02-01 帰敬頌】
 第二頌内第三敬意中。一頌四句。増数有四。一或総為一。謂所為事也。二或分為二。謂上句所為人。余句所成益。三或離為三。謂初句所為人。中間二句所成行。末後一句所至徳。四或散為四。謂初句所為人。第二句所離過。第三句成徳。第四句所至徳。KHbekki-03R,03L
  (第二に頌の内、第三敬意の中に、一頌四句、増数に四あり。一は或いは総じて一と為す。謂く、所為の事なり。二は或いは分かちて二と為す。謂く、上の句は所為の人。余の句は所成の益。三は或いは離して三と為す。謂く、初の句は所為の人。中間の二句は所成の行。末後の一句は所至の徳。四は或いは散じて四と為す。謂く初の句は所為の人。第二の句は所離の過。第三の句は成徳。第四の句は所至の徳。)KHbekki-03R,03L

【03 帰敬頌  最勝業遍知 色無礙自在 救世大悲者】
 第三仏宝中。或総為一。謂是仏也。或総為二。謂初頌明用。後頌二句明体相。或為三。謂初頌中二句明報身。後一句明化身。或為四。謂於報中。上句明心。下句明色。KHbekki-03L
  (第三に仏宝の中に、或いは総じて一と為す。謂く、これ仏なり。或いは総じて二と為す。謂く初の頌は用を明かす。後の頌は、二句は体相を明かす。或いは三と為す。謂く、初の頌の中に二句は報身を明かす。後の一句は化身を明かす。或いは四と為す。謂く報の中に於いて、上の句は心を明かす。下の句は色を明かす。)KHbekki-03L

【04 帰敬頌  及彼身体相 法性真如海 無量功徳蔵】
 第四法宝内功徳蔵者。蔵有三義。一蘊積義。積法内弘故。二含摂義。收摂内外故。三出生義。流徳成益故。理法中有此三義。望自性徳有初義。望彼教行果有後二義。行果復有二義。行果各自積徳有初義。更望自性及望理有第二義。果望行教有出生義。行望果教倶有出生義。教望前立三得具三義可知。KHbekki-03L,04R
  (第四に法宝の内に功徳蔵とは、蔵に三義あり。一は蘊積の義。法を積みて内に弘むるが故に。二は含摂の義。内外を收摂するが故に。三は出生の義。徳を流して益を成ずるが故に。理法の中に、この三義あり。自性の徳に望みては初義あり。彼の教行果に望みては後の二義あり。行果にまた二義あり。行果おのおの自ら徳を積む。初の義あり。更に自性に望み及び理に望みては第二の義あり。果を行教に望みては出生の義あり。行を果教に望みては倶に出生の義あり。教を前に望みて三を立て三義を具することを得。知るべし。)KHbekki-03L,04R

【05-01 立義分】
 第五立義分内。問。何故前明体大中。通一切法。不簡染浄。及其相用。唯是其善。不通不善。答。体大理曰通諸法。不得簡別。若真如外別有無明為不善体者。有多種過。且以二義顕之。一者同於外道執冥性常。以其自有。不従因生故。二者衆生畢竟無有得解脱義。以有自体不可断故。生則常生。亦可恒不生也。有此過故。真如之外。不得別立無明作不善体。不善等法。亦不得作真如相用。若是相用。亦有多過。且以二義釈之。一者因果雑乱過。随彼善因応得苦果。二者聖人証得真如。応起不善悪業。有此過故。不善不得作真如相用。KHbekki-04R,04L
  (第五に立義分の内に、問う、何が故ぞ前に体大を明かす中には、一切法に通じて、染浄を簡ばざる。その相用に及びては唯これその善にして、不善に通ぜざる。答う。体大は理なれば諸法に通ずという。簡別することを得ず。もし真如外の別に無明ありて不善の体たらば、多種の過あり。且く二義を以てこれを顕す。一は外道の、冥性常なりと執するに同ぜん。それ自有して因より生ぜざるを以ての故に。二は衆生畢竟じて解脱を得ることある義なからん。自体ありて断ずべからざるを以ての故に。生は則ち常に生、また恒に不生なるべきなり。この過あるが故に、真如の外に別に無明を立て不善の体と作ることを得ず。不善等の法もまた真如の相用と作ることを得ず。もしこれ相用ならば、また多の過あり。且く二義を以てこれを釈す。一は因果雑乱の過。彼の善因に随りて応に苦果を得べし。二は聖人、真如を証得して応に不善悪業を起こすべし。この過あるが故に、不善は真如の相用と作ることを得ず。)KHbekki-04R,04L

【05-02 立義分】
 問。若爾不善不応以真如作体。答。正以不善之法。用彼真如作体故。以違不相応。則名不善。又由違真故不離真。違真故不是用也。KHbekki-04L
  (問う。もし爾らば、不善は応に真如を以て体と作すべからず。答う。正しく不善の法は彼の真如を用いて体と作るを以ての故に、違して相応せざるを以て、則ち不善と名づく。また真に違するに由るが故に、真を離れず。真に違するが故に、これ用ならざるなり。)KHbekki-04L

【06-01 本覚・不覚】
 第六。釈本覚本不覚。各有三門。一開義。二由起。三和合。初者。本覚有三義。一無不覚義。二有本覚義。三無本覚義。不覚亦三義。一無本覚義。二有不覚義。三滅不覚義。二由起者。由無不覚故。得有本覚。由有本覚故。得成不覚。成不覚故。名無本覚也。由無本覚故。得有不覚。由有不覚故。得有性滅。故名滅不覚也。又由不覚中有無本覚義故。得有本覚義。又由本覚中有無不覚義故。得有滅不覚義。又由本覚中有本覚義故。不覚中得有無本覚義也。又上諸義相由。各各無二。共合成三句。KHbekki-04L,05R
  (第六。本覚本不覚を釈するに、おのおの三門あり。一は開の義。二は由起。三は和合。初は、本覚に三義あり。一は無不覚の義。二は有本覚の義。三は無本覚の義。不覚にまた三義。一は無本覚の義。二は有不覚の義。三は滅不覚の義。二に由起とは、不覚なきに由るが故に、本覚あることを得。本覚あるに由るが故に不覚を成ずることを得。不覚を成ずるが故に無本覚と名づくるなり。本覚なきに由るが故に不覚あることを得。不覚あるに由るが故に性滅あることを得るが故に滅不覚と名づくるなり。また不覚の中に無本覚の義あるに由るが故に本覚の義あることを得。また本覚の中に無不覚の義あるに由るが故に滅不覚の義あることを得。また本覚の中の有本覚の義に由るが故に不覚の中に無本覚の義あることを得るなり。また上の諸の義相由して、おのおの無二にして共合して三句を成ず。)KHbekki-04L,05R

【06-02 本覚・不覚・始覚】
 又依本覚得成不覚。不覚能知名義。得成始覚。始覚成故。不覚則滅。不覚則滅故。始覚則同本覚。同本覚故。則無始覚。無始覚故。則無不覚。無不覚故。則無生滅門。唯一真如門也。是故当知。至心源時。唯是真如。無生滅。無生滅故。亦不可説真如。豈有三身之別。但随衆生染機故。故説三身等也。KHbekki-05R,05L
  (また本覚に依りて不覚を成ずることを得。不覚の、能く名義を知るに、始覚を成ずることを得。始覚成ずるが故に、不覚則ち滅す。不覚則ち滅するが故に、始覚則ち本覚に同ず。本覚に同ずるが故に、則ち始覚なし。始覚なきが故に、則ち不覚なし。不覚なきが故に、則ち生滅門なし。唯一真如門なり。この故に当に知るべし、心源に至る時、唯これ真如にして生滅なし。生滅なきが故に、また真如と説くべからず。あに三身の別あらんや。ただ衆生染機に随うが故に、故に三身等を説くなり。)KHbekki-05R,05L

【07 本覚随染】
 第七随染生二相中。問。随何染得生此相。答。此有三。一智浄相。随自心中無明法力熏習等。而起不思議業。随生染機而現形化用。二此二倶随自染而起。由断自染。方能起用故。不思議業相亦爾。随自染中。三倶随他染。謂諸菩薩修万行得仏果等。皆是随衆生無明故有此事。若廃染機。即無修無得一味相也。KHbekki-5L,06R
  (第七。随染生二相の中に、問う。何の染に随りてかこの相を生ずることを得るや。答う。これに三あり。一は智浄相。自心の中の無明法力熏習等に随りて不思議業を起こす。生の染機に随りて現形化用あり。二はこの二は倶に自染に随りて起こる。自染を断ずるに由りて方に能く用を起こすが故に。不思議業相もまた爾なり。自染の中に随りて三は倶に他染に随る。謂く、諸菩薩の、万行を修して仏果を得る等は、皆これ衆生の無明に随うが故にこの事あり。もし染機を廃すれば、即ち無修無得一味の相なり。)KHbekki-5L,06R

【08 覚の二義】
 第八。問。本覚既是真如。何故名覚。答。凡言覚有二義。一覚察義。謂染所不能染故。即是断障義。二覚照義。謂自体顕照一切諸法。即鑑達義。但染則本来自離徳。則未曾別現。故其義本自有之。故云本覚。又由此二義。除二障。顕二果。並性成就。其始覚中亦有二義同前。但始覚起為異染。窮始覚。不異本覚。何以故。由二義故。一以無是本覚起。随染所成。無別性故。二覚至心源。同本覚故。無始覚之異。是故唯有一覚具二義也。一又窮此義。亦無二相。謂染離与徳之現。現即染離。故唯一真覚也。又由染本性離。無染可離。徳本性彰。無徳可現。故其真覚無覚也。是故遠離覚所覚。無覚而不彰。一切覚故名仏。KHbekki-06R,06L
  (第八。問う。本覚は既にこれ真如なり。何が故ぞ覚と名づくる。答う。凡そ覚というに二義あり。一は覚察の義。謂く、染の、染すること能わざる所なるが故に。即ちこれ断障の義。二は覚照の義。謂く、自体、一切の諸法を顕照す。即ち鑑達の義。但し染は則ち本より来た自ら徳を離れて、則ち未だ曾て別現せず。故にその義は本より自ずからこれあり。故に本覚という。またこの二義に由りて二障を除きて、二果を顕す。並に性成就す。その始覚の中にもまた二義あること前に同ず。但し始覚の起こりて染に異するが為に、始覚を窮むれば本覚に異ならず。何を以ての故に。二義に由るが故に。一は無〈元か?〉これ本覚より起こるを以て、随染の所成にして、別の性なきが故に。二は覚は心源に至りて本覚に同ずるが故に、始覚の異なし。この故に唯、一覚のみありて二義を具するなり。一はまたこの義を窮むるに、また二相なし。謂く、染離と、徳の現わるると、現即ち染離なるが故に、唯一真覚なり。また染は本性離なるに由りて、染として離るべきことなく、徳は本性彰わして、徳として現ずべきことなし。故にそれ真覚は無覚なり。この故に覚・所覚を遠離して、覚として彰われざることなし。一切覚の故に仏と名づく。)KHbekki-06R,06L

【09-01 本覚・始覚 本有・修生】
 第九真如門約本義説。故文云。一切衆生本来常住入於涅槃。無始覚之義。唯約修生説。以本無今有為始覚故。本覚之義。約修生本有説。以対始覚説本覚故。如文応知。智浄相等。約本有修生説。故文云。本覚随染生二相故。KHbekki-06L
  (第九。真如門は本義に約して説く。故に文に云く「一切衆生、本より来た常住にして、涅槃に入る〈一切衆生本来常住入於涅槃〉」。始覚の義なし。唯、修生に約して説く。本無・今有を以て始覚と為すが故に。本覚の義は、修生・本有に約して説く。始覚に対して本覚を説くを以ての故に。文の如く応に知るべし。智浄相等は本有・修生に約して説く。故に文に云く「本覚随染に二の相を生ずるが故に〈本覚随染分別。生二種相〉」。KHbekki-06L

【09-02 本覚・始覚 本有・修生】
 問。智浄与始覚何異。答。其実不別。以始覚即是本覚随染作故。今約所対不同。故説有異。異相者。謂本覚約染成於智浄。治染還本。為本之対。名為始覚。又以本覚成始。更無異法。従此義故。総名本有。不論真如門。但約生滅縁起中説本耳。又以始覚契本。方名本覚。若離始覚。一切不成。従此義故。総名修生。又以本作始覚。説本名修生本有。此之同義。唯一縁起。猶如円珠。随挙一門。無不收尽。KHbekki-06L,07R
  (問う。智浄と始覚と何んが異なる。答う。それ実には別ならず。始覚は即ちこれ本覚随染の作なるを以ての故に、今、所対の不同に約するが故に説に異あり。異相とは、謂く、本覚は染に約して智浄を成ず。染を治して本に還りて、本の対に為るを名づけて始覚と為す。また本覚を以て始を成ず。更に異法なし。この義に従うが故に、総じて本有と名づく。真如門を論ぜず。但、生滅縁起の中に約して本を説くのみ。また始覚は本に契うを以て、方に本覚と名づく。もし始覚を離れては、一切は成ぜず。この義に従るが故に総じて修生と名づく。また本は始覚と作るを以て、本を説きて修生・本有と名づく。これはこれ同義にして、唯一縁起なり。猶し円珠の如し。随いて一門を挙ぐるに收尽せずということなし。)KHbekki-06L,07R

【10-01 生滅因縁】
 第十。因縁有三義。一浄心為因。無明為縁。二妄境為縁。本識為因。此二如疏。三以前因縁為因。後因縁為縁。以本来融通一心故。思准之。此中因縁。但是所由義。与所成生滅不別。其心与無明合辺。即是因縁。亦無別法。即攬此諸法積聚集成。名為衆生。是即真心為衆生体。五意及識為衆生相。是故唯一心也。意是依止義。前三是本末依。謂末依本故。名本為意。後二是麁細依。謂麁依細故。名細為意。麁識更無所依之義。故不名意。但有了別。単名識也。KHbekki-07R,07L
  (第十。因縁に三義あり。一は浄心を因と為し、無明を縁と為す。二は妄境を縁と為し、本識を因と為す。この二は疏の如し。三は前の因縁を以て因と為し、後の因縁を縁と為す。本来融通して一心なるを以ての故に。これに思准せよ。この中に因縁は但これ所由の義。所成の生滅と別ならず。その心と無明と合する辺は即ちこれ因縁にして、また別の法なし。即ちこの諸法を攬りて積聚集成するを名づけて衆生と為す。これ即ち真心を衆生の体と為し、五意及び識を衆生の相と為す。この故に唯一心なり。意はこれ依止の義。前の三はこれ本末依。謂く、末は本に依るが故に、本を名づけて意と為す。後の二はこれ麁細依。謂く麁は細に依るが故に、細を名づけて意と為す。麁識は更に所依の義なきが故に意と名づけず。但、了別のみあるを単に識と名づくるなり。)KHbekki-07R,07L

【10-02 生滅因縁 三界唯心】
 三界唯心者。謂是本末通融。具浄心五意及識等。皆従心起者。従不相応心起。妄念生者。従相応心起。以相応心縁三細中現識境故。無心外境可以分別。故云分別自心也。若照境唯心時。心終不自取心。即能縁心尽。故云心不見心也。KHbekki-07L,08R
  (「三界唯心〈三界虚偽唯心所作〉」とは、謂く、これ本末通融せり。具には浄心・五意及び識等なり。「皆、心より起こる〈一切法皆従心起〉」とは、不相応心より起る。「妄念より生ず〈妄念而生〉」とは、相応心より起こる。相応心は三細の中の現識の境を縁ずるを以ての故に、心の外に境として、以て分別すべきことなきが故に「自心を分別す〈分別自心〉」というなり。もし境を唯心に照らす時、心は終に自ずから心を取らず。即ち能縁の心の尽くるが故に「心は心を見ず〈心不見心〉」というなり。)KHbekki-07L,08R

【10-03 生滅因縁 忽然念起】
 無明起所識。是真心与無明合時。能取自性浄故。唯仏窮了。地上証一分。故云少分知。麁惑依細惑起。細惑更無所依。故云忽然起。同経中無始無明。無有染法始於無明故也。KHbekki-08R
  (無明の起こす所の識は、これ真心と無明と合する時、能く自性浄を取るが故に、唯仏のみ窮了したまえり。地上は一分を証するが故に「少分知」という。麁惑は細惑に依りて起こる。細惑は更に所依なきが故に「忽然起」という。経の中の無始無明に同ず。染法の、無明に始まることあることなきが故なり。)KHbekki-08R

【10-04 生滅因縁】
 問。無明動真如成染心。何故染心無明縁。約位弁麁細。真心是其因。而不論優劣。答。以染法有差別。真心唯一味故也。根本智有二類。一修起如理智。二真如本覚智。世間智亦二。一修生如量智。二本覚随染智。以染心[ケン21]動。違不動平等本覚之智。故名煩悩礙。又無明不了即動是静故。是以動中不能差別而知。智礙也。KHbekki-08R,08L
  (問う。無明は真如を動じて染心を成ず。何が故に染心無明は縁なるに位に約して麁細を弁じ、真心はこれはその因なるに優劣を論ぜず。答う。染法は差別あり、真心は唯一味なるを以ての故なり。根本智に二類あり。一は修起如理智、二は真如本覚智なり。世間智にまた二。一は修生如量智、二は本覚随染智なり。染心[ケン21]〈喧か?〉動して不動平等本覚の智に違するを以ての故に煩悩礙と名づく。また無明は動に即して、これ静なりと了せざるが故に、これ動の中に差別して而も知ること能わざるを以て、智礙なり。)KHbekki-08R,08L

【11 生滅相の無明と境界】
 第十一。生滅相中無明有二義。一通能成二心。二別能成細心。故云無明滅故境界滅。又云無明滅故不相応心滅。境界亦二義。一通。是所成。二別。能起三麁心。是故無明有通能及別能。境界有通所及別能。是故境界亦能亦所。無明唯能無所也。KHbekki-08L
  (第十一。生滅相の中に無明に二義あり。一は通。能く二心を成ず。二は別。能く細心を成ずるが故に「無明滅するが故に境界滅す〈以無明滅故・・・境界随滅〉」という。また「無明滅するが故に不相応心滅す〈依因者不覚義故・・・因滅故不相応心滅〉」という。境界にまた二義あり。一は通。これ所成。二は別。能く三麁心を起こす。この故に無明に通の能、及び別の能あり。境界に通の所、及び別の能あり。この故に境界に、また能、また所。無明は唯能にして所なきなり。)KHbekki-08L

【12-01 熏習 染法熏習】
 第十二。四熏習中。染熏亦二。初通。後別。前中無明熏真有妄心者。是業相也。不覚念起者。能見相也。現妄境者。是境界相也。属三細也。今其念者。六麁中初二也。著者次二也。後二如論文。別中。増長念者。
  (第十二。四熏習の中に染熏にまた二。初は通。後は別。前の中に「無明、真に熏じて妄心あり〈以有無明染法因故。即熏習真如。以熏習故則有妄心〉」とは、これ業相なり。「不覚の念起こりて〈不覚念起〉」とは能見相なり。「妄境を現ず〈現妄境界〉」とはこれ境界相なり。三細に属するなり。今その「念」とは、六麁の中の初二なり。「著」とは次の二なり。後の二は論文の如し。別の中に「増長念〈増長念熏習〉」とは、六麁の中の初二なり。「取〈増長取熏習〉」とは、次の二なり。後二はこれ業果。論ずる所にあらざるなり。もし爾らば、何が故ぞ上の文に「境界縁の故に六相を生ず〈以有境界縁故。復生六種相〉」や。)KHbekki-08L,09R

【12-02 熏習 染法熏習】
 釈云。前拠通論。此約別剋以論。後二是妄心之化用。非親従境生也。妄心熏中。業識通合三細。従初名熏者。熏於根本無明。迷動細故。依此細動業。受変易業苦故。KHbekki-09R
  (釈して云く。前は通に拠りて論ず。これは別に約して剋して以て論ず。後の二は、これ妄心の化用。親しく境より生ずるにはあらず。妄心熏の中に業識は通じて三細に合す。初より熏と名づくることは、根本無明に熏じて細を迷動するが故に。この細動の業に依りて変易の業苦を受くるが故に。)KHbekki-09R

【12-03 熏習 染法熏習】
 経云。無明住地縁無漏業因。得変易報也。此之謂也。事識中亦具三麁。熏枝末無明。麁動造業。受分段苦也。根本無明迷理性。熏真如。成業相等三。枝末無明迷境界。熏本識。起事識。浄熏中。真如妄染法心各有能熏所熏。互為能所。染法中。真如無能熏義。KHbekki-09R,09L
  (『経〈仏説無上依経〉』に云く「無明住地は縁、無漏業は因として変易報を得るなり」。これこの謂なり。事識の中にまた三麁を具す。枝末無明に熏じて麁動して業を造りて分段の苦を受くるなり。根本無明は理性に迷いて真如に熏じて業の相等の三を成ず。枝末無明は境界に迷いて、本識に熏じて、事識を起こす。浄熏の中に、真如と妄染法心におのおの能熏・所熏あり。互に能所と為る。染法の中に真如に能熏の義なし。)KHbekki-09R,09L

【12-04 熏習 染法熏習】
 事識熏中有四劣。一能熏之識自浅薄故。二望所熏真如猶懸遠故。三不覚知有末那頼耶故。四不覚知有法執相故。是故不能疾得菩提也。意熏四勝。翻前劣故。謂能熏染厚徹五意故。余三可知。是故望大菩提速疾得也。此二熏習。是真如内熏妄心。有此厭求。還熏真如成勝行也。KHbekki-09L
  (事識熏の中に四劣あり。一は能熏の識、自ずから浅薄なるが故に。二は所熏の真如に望むに猶し懸遠なるが故に。三は末那・頼耶ありと覚知せざるが故に。四は法執の相ありと覚知せざるが故に。この故に疾く菩提を得ること能わざるなり。意熏の四勝。前の劣に翻するが故に。謂く、能熏染厚にして五意に徹するが故に。余の三は知るべし。この故に大菩提に望むるに速疾に得るなり。この二熏習は、これ真如内に妄心を熏じて、この厭求ありて、還りて真如に熏じて勝行を成ずるなり。)KHbekki-09L

【13-01 妄心熏習 分別事識熏習】
 第十三。浄熏中妄心熏内。一分別事識熏者。釈有三義。一彼二乗人。但覚事識中煩悩。而為断故。発心修行。修行即名為熏習也。二以唯覚此煩悩未能断故。猶為熏習也。三由帯此識中煩悩而発心修行名熏習。然由麁故。墮二乗地。又初唯行熏。次唯識熏。後倶熏。由帯此惑。令行成劣。故入二乗道。若帯五意中細惑。修行勝智。入菩薩位也。意中三釈准此。然皆後釈為勝。KHbekki-09L,10R,L
  (第十三。浄熏の中に、妄心熏の内に「一分別事識熏」とは、釈するに三義あり。一は彼の二乗人は、但、事識の中の煩悩を覚して断ぜんが為の故に発心修行す。修行するを即ち名づけて熏習と為すなり。二は唯この煩悩を覚して未だ能く断ぜざるを以ての故に、猶、熏習と為すなり。三はこの識の中の煩悩を帯びて発心修行するに由りて熏習と名づく。然るに麁なるに由るが故に二乗地に墮す。また初は唯だ行熏。次は唯だ識熏。後は倶熏。この惑を帯びるに由りて行をして劣を成ぜしむるが故に二乗道に入る。もし五意の中の細惑を帯びて勝智を修行して菩薩位に入るなり。意の中の三釈、これに准ぜよ。然れば皆、後の釈を勝と為す。)KHbekki-09L,10R,L

【13-02 真如熏習 体相熏習】
 体相熏中。具無漏法者。総挙法体相。備不思議業者。明有内熏功能。作境界性者。此真如非但由前句内熏妄心令其厭求。亦乃与彼厭求之心作所観境也。又釈用大為外善境。此体相亦遍通彼中。故令用大得有熏也。又釈以遍妄心。故内熏之。遍外一切境。故亦熏習衆生。如匠普覧作破木等。)KHbekki-10R,10L
  (体相熏の中に「無漏の法を具す〈具無漏法〉」とは、総じて法体相を挙ぐ。「備に不思議の業ありて〈備不思議業〉」とは、内熏の功能あることを明かす。「境界の性と作る〈作境界性〉」とは、この真如は但、前の句内に由りて妄心に熏じて、それを厭求せしむるにあらず。また乃ち彼の厭求の心のために所観の境と作るなり。また用大を釈して外善境と為す。この体相はまた遍く彼の中に通ずるが故に用大をして熏あることを得しむるなり。また釈は妄心に遍ずるを以ての故に内にこれに熏ず。外の一切の境に遍ずるが故に、また衆生に熏習す。匠の普く覧て破木等を作すが如し。)KHbekki-10R,10L

【13-03 真如熏習 用熏習 差別縁】
 用熏中差別縁内。約機生熟有遠近之縁。約四無量為行縁。約三空為受随縁。又解初利他。後自利。又初約施戒等行。後約観理行。KHbekki-10L
  (用熏の中に、差別縁の内に、機の生熟に約して遠近の縁あり。四無量に約して行縁と為す。三空に約して受随縁と為す。また解す。初は利他、後は自利。また初は施戒等の行に約し、後は観理の行に約す。)KHbekki-10L

【13-04 真如熏習 用熏習 平等縁】
 平等縁中有六。一平等人。如論仏菩薩故。二平等願。如論皆願度故。三平等心。如論自体熏等故。四釈平等行。如論以同体智力故。謂了知自他同一体性。知同之智。名同体智。五平等益。如論見聞等故。六令平等機見平等相。如論依三昧見仏故。KHbekki-10L,11R
  (平等縁の中に六あり。一は平等人。論の仏菩薩の如きなるが故に。二は平等願。論の皆願度の如きなるが故に。三は平等心。論の自体熏等の如きなるが故に。四は平等行を釈す。論の如く同体智力を以ての故に。謂く自他同一体性と了知して、同を知る智なれば同体智と名づく。五は平等益。論の見聞等の如きなるが故に。六は平等の機をして平等の相を見せしむ。論の如く三昧に依りて仏を見るが故に。)KHbekki-10L,11R

【13-05 真如熏習 用熏習 差別・平等】
 差別平等者。一約仏菩薩。摂生心愍念。利益無怨親。故名平等。随機異現名差別。二化身多門名差別。報身称性名平等。三散心所見名差別。定心所見名平等。KHbekki-11L
  (差別平等とは、一は仏菩薩に約するに、摂生の心、愍念して、利益、怨親なきが故に平等と名づく。機に随いて異現するを差別と名づく。二は化身は多門なれば差別と名づく。報身称性なれば平等と名づく。三は散心の所見を差別と名づけ、定心の所見を平等と名づく。)KHbekki-11L

【14-01 略科文】
 第十四。略科文。自下是略科文。上来従生滅門至此。明摂一切法竟。KHbekki-11R
  (第十四。略科文。自下はこれ略科文なり。上来、生滅門よりここに至りては、一切法を摂することを明かし竟りぬ。)KHbekki-11R

【14-02 略科文 四熏習】
 自下四熏習等。明生一切法。於中二。先通。後別。別中。先明染浄。後双弁尽不尽。KHbekki-11R
  (自下四熏習等は一切法を生ずることを明かす。中に於いて二。先は通。後は別。別の中に先は染浄を明かし、後は双べて尽・不尽を弁ず。)KHbekki-11R

【14-03 略科文 熏習 染浄】
 前中二。先染。後浄。染中二。先総。後別。浄中亦二。先総。後別。別中二。先別明体用熏。後双明相応不相応。前中二。先体相熏。後用熏。就相応不相応中二。先弁未相応。後明已相応。上来明浄熏竟。初染熏。次浄熏竟。KHbekki-11R,11L
  (前の中に二。先は染。後は浄。染の中に二。先は総。後は別。浄の中にまた二。先は総。後は別。別の中に二。先は別して体・用熏を明かす。後は双べて相応・不相応を明かす。前の中に二。先は体相熏。後は用熏。相応・不相応の中に就きて二。先は未相応を弁ず。後は已相応を明かす。上来、浄熏を明かし竟りぬ。初は染熏、次は浄熏、竟りぬ。)KHbekki-11R,11L

【14-04 略科文 熏習 尽不尽】
 就尽不尽中二。先明染法有尽。後明浄法無終。上来初別明染浄熏。後双弁尽不尽。合是大段別明竟。初総。後別。合是四熏習竟。上来初釈生滅摂一切法。後釈四熏習生一切法。合是大段釈生滅法畢竟。KHbekki-11L
  (尽・不尽の中に就きて二。先は染法に尽あることを明かす。後は浄法に終りなきことを明かす。上来、初は別して染浄熏を明かし、後は双べて尽・不尽を弁ず。合してこれ大段、別して明かし竟りぬ。初は総、後は別、合してこれ四熏習竟りぬ。上来、初に生滅は一切法を摂することを釈す。後に四熏習は一切法を生ずることを釈す。合してこれ大段、生滅法を釈すること畢竟りぬ。)KHbekki-11L

【14-05 略科文 義大】
 自下第二釈生滅門中所顕之義大。於中有二。初釈体相二大。後別解用大。前中二。初一句通摂標二大名。下別釈二大義。釈中。初釈体大。従畢竟常恒下。釈相大。釈相大中二。初直釈。後問答。釈用大中二。初総弁。二従此用有二下。別釈。釈中二。初別明応報。後又凡夫下。重更料簡。初中二。先応。後報。就重簡中二。先明応身。謂約凡見麁六道相也。二乗見細。不待説也。二明報身二。初約人顕麁妙。二問答釈疑。前中二。先明地前見麁。二若得浄心下。地上見細。問答中二。先問。後答。上来釈所顕義大竟。KHbekki-11L,12R
  (自下第二に生滅門の中の所顕の義大を釈す。中に於いて二あり。初に体相二大を釈し、後に別して用大を解す。前の中に二。初の一句は通摂して二大の名を標す。下は別して二大の義を釈す。釈の中に、初は体大を釈す。「畢竟常恒」より下は相大を釈す。相大を釈する中に二。初は直ちに釈し、後は問答。用大を釈する中に二。初は総じて弁じ、二に「此用有二」より下は別して釈す。釈の中に二。初は別して応報を明かし、後は「また凡夫〈又為凡夫〉」の下は、重ねて更に料簡す。初の中に二。先は応。後は報。重簡の中に就きて二。先は応身を明かす。謂く、凡に約して麁六道相を見るなり。二乗は細を見ること説を待たざるなり。二に報身を明かすに二。初は人に約して麁妙を顕す。二は問答して疑を釈す。前の中に二。先に地前は麁を見ることを明かす。二に「若得浄心」の下は、地上は細を見る。問答の中に二。先は問。後は答。上来、所顕の義大を釈し竟りぬ。)KHbekki-11L,12R

【14-06 略科文 会法帰体】
 自下明会法帰体。上来初挙生滅法相。第二明有顕義功能。第三会用帰体。三義不同。総明生滅門竟。初釈真如門。後顕生滅門。二門不同。総釈顕示正義竟。KHbekki-12R,12L
  (自下、会法帰体〈法を会して体に帰す〉を明かす。上来、初に生滅の法相を挙ぐ。第二に顕義の功能あることを明かす。第三に会用帰体〈用を会して体に帰す〉。三義同じからず。総じて生滅門を明かし竟りぬ。初は真如門を釈し、後は生滅門を顕す。二門同じからず。総じて顕示正義を釈かし竟りぬ。)KHbekki-12R,12L

【15-01 分別発趣道相】
 第十五。分別発趣道中。通論発心。総有四位。一捨邪趣正発心。位在凡地。此論不説。二捨退得定発心。位在十信満心。入十住初。是論中信成就発心也。三捨生得熟発心。位在十回向。以欲入初地。加行勝進。深発心故。即解行発心。四捨比得証発心。位在初地已上。KHbekki-12L
  (第十五。分別発趣道の中に通じて発心を論ずるに総じて四位あり。一は捨邪趣正発心。位は凡地に在り。この論に説かず。二は捨退得定発心。位は十信の満心に在り。十住の初に入る。この論の中の信成就発心なり。三は捨生得熟発心。位は十回向に在り。初地に入らんと欲するに、加行勝進して深く発心するを以ての故に。即ち解行発心なり。四は捨比得証発心。位は初地已上に在り。)KHbekki-12L

【15-02 分別発趣道相 問答】
 問。退位豈無生熟耶。何不失二発心。答。位極劣故。相不分也。問。不退望証。豈非劣耶。何故有二発心。答。位勝故。純熟相顕故。問。若爾。地上弥勝。何故不失二発心耶。答。位極勝故。所証不殊故。問。豈将入不退位。不用増上起行力耶。何不更失発心也。答。一能発心位劣。不能起加行故。二所趣位未勝。不須加行故。是故不失也。問。若爾。何故将入証位。更於加行位中有発心耶。答。能入勝故。所証難得故耳。KHbekki-12L,13R
  (問う。退位に、あに生熟なからんや。何ぞ二発心を失せざる。答う。位極劣なるが故に相い分れざるなり。問う。不退を証に望むるに、あに劣にあらずや、何故に二発心あるや。答う。位勝れたるが故に、純熟の相顕なるが故に。問う。もし爾らば、地上は弥〈いよいよ〉勝なり。何が故ぞ二発心を失せざるや。答う。位極めて勝れたるが故に、所証、殊ならざるが故に。問う。あに将に不退位に入らんとするに、増上起の行力を用いざるや。何ぞ更に発心を失せざるや。答う。一に能発心の位劣にして、加行を起こすこと能わざるが故に。二は所趣の位は未だ勝れず。加行を須いざるが故に。この故に失せざるなり。問う。もし爾らば、何が故ぞ将に証位に入るべき。更に加行の位の中に於いて発心あるや。答う。能入は勝たるが故に、所証、得難きが故なるのみ。)KHbekki-12L,13R

【16-01 修行信心分 止観門 修止 止内想慮心】
 第十六。修止中安心内有二。初止内想慮心。二従亦不得随心下。止外縁境心。前中三。初挙想令除。二止能除想。三順法体。初中二。初別止十一切処想。後一切諸想下。通止一切諸差別想。能除者有二釈。一所除縁止。故能除縁亦已。二先除有想。後亦遣除想者。除無想也。以有無之念倶是想故。下文順法体中。以一切法無想者。無有之想也。念念不生等者。以無始已来未曾生等故。KHbekki-13R,13L
  (第十六。修止の中、安心の内に二あり。初は内想慮の心を止む。二は「亦不得随心〈亦常不得随心外〉」より下は、外縁境心を止む。前の中に三。初は想を挙げて除かしむ。二は能除想を止む。三は法体に順ず。初の中に二。初に別して十一切処の想を止む。後に「一切諸想」の下は、通じて一切の諸の差別の想を止む。能除とは二釈あり。一は所除の縁を止むるが故に能除の縁また已む。二は先に有想を除き、後の「亦遣除想」とは、無想を除くなり。有無の念は倶にこれ想なるを以ての故に。下の文に法体に順ずる中に「一切の法は無想なるを以て〈以一切法本来無想〉」とは、無有の想なり。「念念不生」等とは、無始より已来た未曾生等なるを以ての故に。)KHbekki-13R,13L

【16-02 修行信心分 止観門 修止 止外境心】
 第二止外境心内有二。初止外妄縁。二是正念下。示内真観。前中二。初挙非総制。二心若馳下。示観方便。何故爾者。外疑云。既不許心縁外境。又不許以心除心。未知耶其心馳散時。云何対治。釈云摂令住正念。即云何是正念。釈云唯心無境是也。是故不許縁縁外境。若爾。倶不縁外境。縁内心応得耶。釈云亦不得也。故云即復此心無有自相可得也。故於此時。観心無寄分別也。止滅成於止行。修真如三昧耳。KHbekki-13L,14R
  (第二に外境心を止むる内に二あり。初は外の妄縁を止む。二は「是正念」の下は内真観を示す。前の中に二。初に非を挙げて総制す。二に「心若馳」の下は観方便を示す。何が故ぞ爾とならば、外に疑いて云く。既に心に外境を縁ずることを許さず。また心を以て心を除くことを許さず。未だ知らざるや、その心、馳散する時、云何が対治せん。釈して云く。摂して正念に住せしむ。即ち云何がこれ正念なるや。釈して云く。唯心無境これなり。この故に縁として外境を縁ずることを許さず。もし爾らば、倶に外境を縁ぜず。内心を縁ずること応に得べきや。釈して云く。また得ざるなり。故に云く。即ちまたこの心に自相の得べきことあることなきなり。故にこの時に於いて観心無寄分別なり。止滅して止の行を成じ、真如三昧を修するのみ。)KHbekki-13L,14R

【17 用大 問答 色心不二】
 第十七。色心不二中。心者拠体大也。智者約相大也。法身通体相也。以融摂故随説。皆得由与用為本。故能現色也。然用能物機。故上云随染業幻所作也。KHbekki-14R
  (第十七。「色心不二」の中に、心とは体大に拠るなり。智とは相大に約するなり。法身は体相に通ずるなり。融摂を以ての故に、随いて説く。皆、用の与〈ため〉に本と為るに由るが故に、能く色を現ずることを得るなり。然るに用は※能物機なるが故に、上に「随染業幻の所作なり〈随染業幻所作〉」と云うなり。)KHbekki-14R
※(「能物機」は大系本には「能順物機〈能く物機に順う〉」とある。)

【18-01 枝末不覚 三細六麁 末那識】
 第十八。問。三細六麁中。何以不説末那識耶。答。以義不便故。何者。以根本無明。動彼真如。成於三細。名為梨耶。末那無此義。故不論。又以境界縁故。動彼心海。起於六麁。名為意識。末那無此従外境生義。故不論也。雖是不説。然義已有。何以知。瑜伽云。梨耶起必二識想応。故説三細頼耶。即已有末那執相応故也。又意識得縁外境。必内依末那。故説六麁意識。已有末那為依止根也。故雖不説。而実有之。KHbekki-14R,14L
  (第十八。問う。三細六麁の中に、何を以て末那識を説かざるや。答う。義、便ならざるを以ての故に。何とならば、根本無明の、彼の真如を動じて三細を成ずるを以て、名づけて梨耶と為す。末那はこの義なきが故に論ぜず。また境界の縁を以ての故に、彼の心海を動じて六麁を起こすを名づけて意識と為す。末那はこの外境より生ずる義なきが故に論ぜざるなり。これ説かずといえども、然るに義は已にあり。何を以て知るとならば、『瑜伽』に云く。梨耶起こるに必ず二識想応するが故に。三細の頼耶を説くに即ち已に末那ありて執して相応するが故なり。また意識の、外境を縁ずることを得るに、必ず内に末那に依るが故に六麁の意識を説く。已に末那ありて依止根と為すなり。故に説かずとえいども而も実にこれあり。)KHbekki-14R,14L

【18-02 枝末不覚 三細六麁 阿梨耶識】
 問。上云根本無明者。起在何識。答。梨耶識起。KHbekki-14L
  (問う。上に云う「根本無明」とは、起こること何の識にか在るや。答。梨耶識に起こる。)KHbekki-14L

【18-03 枝末不覚 三細六麁 阿梨耶識】
 問。余論中説。梨耶自体白覆無記。一向捨受相応。故堪受熏。若起煩悩。即是雑染。豈堪受熏。KHbekki-14L
  (問う。余論の中に説かく。梨耶の自体は白〈無か?〉覆無記にして、一向に捨受と相応するが故に熏を受くるに堪えたり。もし煩悩を起こさば即ちこれ雑染なり。あに熏を受くるに堪えんや。)KHbekki-14L

【18-04 枝末不覚 三細六麁 阿梨耶識】
 答。余論中約教就麁相説。而実此識迷無相真如義辺。故有根本無明住地。若不爾者。即応常縁第一義諦。即一衆生半迷半悟。謂六七迷。而第八識悟也。KHbekki-14L
  (答う。余論の中には教に約して麁相に就きて説く。而も実にはこの識、無相真如の義辺に迷うが故に根本無明住地あり。もし爾らずは、即ち応に常に第一義諦を縁ずべし。即ち一衆生半迷半悟ならん。謂く六七は迷いて、第八識は悟なり。)KHbekki-14L

【18-05 枝末不覚 三細六麁 阿梨耶識】
 文若其仏地与円鏡智相応者。則知凡地必与無明相応。何以故。与上相違故。若言凡地余識無明与相応故非本識自有者。亦応仏地鏡智非本識起。既仏地起者。則知凡地起愚。故不疑也。KHbekki-14L,15R
  (文〈又か?〉、もしそれ仏地にして円鏡智と相応せば、則ち知りぬ、凡地にして必ず無明と相応す。何を以ての故に。上と相違するが故に。もし凡地にして余識の、無明と与〈とも〉に相応するが故に、本識自有にあらずといわば、また応に仏地の鏡智は本識に起こるにあらざるべし。既に仏地に起こらば、則ち知りぬ、凡地に愚を起こすが故に疑わざるなり。)KHbekki-14L,15R

【18-06 枝末不覚 三細六麁 阿梨耶識】
 文若一向無煩悩。則不得成無記法。何以故。若無煩悩。則一向清浄。不得名無記。是故一向清浄者。即名為善。一向染者。則名不善。染浄無二故。則非染浄名無記法。良以浄属真分。染属妄分。二分不二。名為和合刺耶無記識也。若此位中無染細者。以何簡浄成於無覆無記。既無記非浄。故知有染細也。剋実言之。唯真如是体。是故梨耶異就唯是位也。引回心声聞。故仮説也。KHbekki-15R,15L
  (文〈又か?〉、もし一向に煩悩なきは、則ち無記法を成ずることを得ざらん。何を以ての故に。もし煩悩くば則ち一向清浄ならん。無記と名づくることを得ざらん。この故に一向清浄ならば即ち名づけて善とせん。一向染ならば則ち不善と名づけん。染浄無二なるが故に、則ち染浄にあらざるを無記法と名づく。良に以〈おもんみ〉れば、浄を真分に属す。染を妄分に属す。二分不二なるを名づけて和合刺耶無記識と為すなり。もしこの位の中に染の細なくば、何を以てか浄を簡びて無覆無記を成ぜん。既に無記にして浄にあらず。故に知りぬ染細あるなり。実に剋してこれを言わば、唯真如これ体なり。この故に梨耶異就〈熟か?〉とは唯これ位なり。回心の声聞を引くが故に仮説するなり。)KHbekki-15R,15L

【18-07 枝末不覚 三細六麁 阿梨耶識】
 又意識起惑於業有三義。一起見道無明。約縁造業。二起修道惑。愛求潤未熟業令熟。三又起見愛。引已熟業令受生。相続無差違也。起信中相続識内。唯有後二義。准論知之。KHbekki-15L
  (また意識の、惑を起こすに業に三義あり。一は見道の無明を起こして、縁に約して業を造らしむ。二は修道の惑を起こして、愛求して未熟の業を潤して熟せしむ。三はまた見愛を起こして已熟の業を引きて受生せしむ。相続して差違なきなり。『起信』の中に相続識の内には、唯後の二義のみあり。論に准じてこれを知れ。)KHbekki-15L

【19-01 如来蔵中恒沙功徳】
 第十九。如来蔵中恒沙功徳。説有三門。一建立門。二分斉門。三属果門。KHbekki-15L
  (第十九。如来蔵の中の恒沙功徳を説くに三門あり。一は建立門。二は分斉門。三は属果門。)KHbekki-15L

【19-02 如来蔵中恒沙功徳 建立門】
 初中建立者。曲有四義。一依真如上義。謂依真如上義。説有此徳。非謂有別事。論云皆依真如義説故。二対染義。謂対恒沙煩悩過失。翻対顕示如此恒沙功徳。如論弁。三為因義。謂能内熏衆生。令厭求起行等。論云恒沙性徳内熏衆生等。四依持義。謂与仏果恒沙功徳為依故。説有此徳。論云以対始覚故説本覚也。KHbekki-15L,16R
  (初の中に建立とは、曲〈つぶさ〉に四義あり。一は真如の上の義に依る。謂く、真如の上の義に依りてこの徳ありと説く。別事ありと謂うにはあらず。論に云く「皆、真如の義に依りて説くが故に〈以唯依真如義説故〉」。二は対染の義。謂く、恒沙の煩悩過失に対し、翻対してかくの如きの恒沙の功徳を顕示す。論に弁ずるが如し。三は為因の義。謂く、能く内に衆生を熏じて、厭求起行せしむる等。論に云く。恒沙性徳、内に衆生に熏ずる等。四は依持の義。謂く、仏果恒沙功徳の与に依と為るが故にこの徳ありと説く。論に云く「始覚に対するを以ての故に本覚と説くなり〈本覚義者対始覚義説〉」。)KHbekki-15L,16R

【19-03 如来蔵中恒沙功徳 分斉門】
 二顕義分斉門。恒沙性徳。皆是生滅門内真如中説。非是自性不変真如門中弁。何以故。彼絶待。然四義中。初二約得道前染位。後一得道後浄位。中一約得道中染浄位。又初一差別之無差別。後三是無差別之差別。又初二是自性住仏性。次一引出仏性。後一至得果仏性。KHbekki-16R
  (二に顕義分斉門。恒沙の性徳は皆これ生滅門の内の真如の中の説なり。これ自性不変真如門の中に弁ずるにあらず。何を以ての故に。彼は絶待なり。然るに四義の中に、初の二は得道の前の染位に約す。後の一は得道の後の浄位なり。中の一は得道の中の染浄の位に約す。また初の一は差別の無差別。後の三はこれ無差別の差別なり。また初の二はこれ自性住仏性。次の一は引出仏性。後の一は至得果仏性なり。)KHbekki-16R

【19-04 如来蔵中恒沙功徳 以因属果】
 三以因属果。以因中有初義故。是故果中得有法身義。以因中有翻染義故。今果位中有解脱。以因中有内熏為因義故。今果位中成般若大智義。以因中具前三義故。今果位中有般若解脱法身三徳義也。以有第四義故。今果位中了因得有所了果法。又由此義。今果位功徳成就也。是故由前三義。別成三徳。由後一義。総摂仏果無量功徳故。由此等義故。是故因位衆生心中決定有恒沙功徳。略顕如是。KHbekki-16R,16L
  (三に因を以て果に属す。因の中に初の義あるを以ての故に。この故に果の中に法身義あることを得。因の中に翻染の義あるを以ての故に、今、果位の中に解脱あり。因の中に内熏為因の義あるを以ての故に、今、果位の中に般若大智の義を成ず。因の中に前の三義を具するを以ての故に。今、果位の中に般若解脱法身の三徳の義あるなり。第四の義あるを以ての故に、今、果位の中に了因、所了の果法あることを得。またこの義に由りて、今、果位の功徳成就するなり。この故に前の三義に由りて、別に三徳を成ず。後の一義に由りて、総じて仏果の無量の功徳を摂するが故に。これ等の義に由るが故に、この故に因位の衆生心の中に決定して恒沙の功徳あり。略して顕すこと、かくの如し。)KHbekki-16R,16L

【20-01 不生不滅与生滅和合成頼耶義】
 第二十。不生不滅与生滅和合成頼耶義。説有二門。一分相門。二融摂門。前中二門。一不生滅。二生滅。前中亦二。一麁。二細。生滅中亦二。一麁。二細。KHbekki-16L,17R
  (第二十。不生不滅と生滅と和合して頼耶を成ずる義を説くに二門あり。一は分相門。二は融摂門。前の中に二門。一は不生滅。二は生滅。前の中にまた二。一は麁。二は細。生滅の中にまた二。一は麁。二は細。)KHbekki-16L,17R

【20-02 不生不滅与生滅和合成頼耶義 分相門 不生滅】
 不生滅中。麁者是真如門。動相尽故。不生滅義麁顕着故。是違害諸法差別之相。即是真如不変義也。二細者。是真如随染門。不違動相故。自不生滅義漸隠故。是故名細。即是生滅門中。如来蔵義。亦是本覚義。是故真如望有為法有二義。一相違義。二相順義。自体亦有二義。一不変義。二随染義。是故楞伽経云。寂滅者名為一心。一心者名如来蔵。是此二也。KHbekki-17R
  (不生滅の中の麁とは、これ真如門。動相尽くるが故に。不生滅の義は麁にして顕着なるが故に。これ諸法差別の相に違害す。即ちこれ真如不変の義なり。二に細とは、これ真如随染門。動相に違せざるが故に、自ずから不生滅の義は漸に隠れたるが故に、この故に細と名づく。即これ生滅門の中の如来蔵の義、またこれ本覚の義。この故に真如を有為の法に望むに二義あり。一は相違の義。二は相順の義。自体にまた二義あり。一は不変義。二は随染義。この故に『楞伽経』に云く「寂滅とは名づけて一心と為す。一心とは如来蔵と名づく」。これこの二なり。)KHbekki-17R

【20-03 不生不滅与生滅和合成頼耶義 分相門 生滅】
 二生滅中。麁者是七識随境起尽相麁顕故。楞伽経中名為相生滅也。二細者。是無明風動浄心成此起滅。是本識相漸隠難知。故名為細。楞伽経中名為流注生滅。論云分別生滅相有二種。一麁。二細等。是故生滅有為望真如有二義。一相違義。起滅相麁故。二相順義。起滅相微。漸漸同真故。論云。随順観世諦。則入第一義。是此二門義。義門望自亦二義。一相顕。二性無。経云。一切法不生。我説刹那義等。KHbekki-17R,17L
  (二に生滅の中の麁とは、これ七識の、境に随いて起尽する相、麁顕なるが故に。『楞伽経』の中に「名づけて相生滅と為すなり」。二に細とは、これ無明の風の、浄心を動じて、この起滅を成ず。これ本識の相の、漸く隠れて知り難きが故に名づけて細と為す。『楞伽経』の中に名づけて「流注生滅」と為す。論に云く「生滅の相を分別するに二種あり。一には麁。二には細〈復次分別生滅相者。有二種。云何為二。一者麁与心相応故。二者細与心不相応故〉」等。この故に生滅有為を真如に望むに二義あり。一は相違の義。起滅の相は麁なるが故に。二は相順の義。起滅の相は微にして漸漸に真に同ずるが故に。論に云く。随順して世諦を観じて、則ち第一義に入る。これはこの二門の義、義門を自に望むるに、また二義。一は相顕。二は性無。『経〈楞伽阿跋多羅宝経〉』に云く「一切法は不生なり。我、刹那の義を説く」等。)KHbekki-17R,17L

【20-01 不生不滅与生滅和合成頼耶義 融摂門】
 大段第二融摂門者有三重。一真如二義。体同義異。以全体不変。挙体随縁。故不二也。二生滅中麁細通融。挙体全麁亦全細。故鎔融無二法也。三以真全体随縁。現斯麁細生滅。是故若約唯麁生滅。則令真隠。若就唯細生滅。則令真現細不生滅。若約唯麁不生滅。令二滅尽。総唯一真如平等顕現。若約唯細不生滅。則令細生滅漸細染住。余義准思之。KHbekki-17L,18R
  (大段第二に融摂門とは三重あり。一に真如に二義。体同義異。全体不変にして挙体随縁するを以ての故に不二なり。二に生滅の中に麁細通融して、挙体全麁にして、また全細なるが故に鎔融無二の法なり。三に真は全体随縁して、この麁細生滅を現ずるを以て、この故にもし唯麁生滅に約すれば、則ち真をして隠さしむ。もし唯細生滅に就かば、則ち真をして細の不生滅を現ぜしむ。もし唯麁の不生滅に約さば、二滅を尽くさしむ。総じて唯一真如平等に顕現す。もし唯細の不生滅に約さば、則ち細の生滅をして漸く細染にして住せしむ。余義は准じてこれを思え。)KHbekki-17L,18R

【21-01 九相義 枝末不覚 三細六麁】
 第二十一。九相義門分別。一釈名。二弁体。三生起次第。四約識分別。五約惑分別。六滅位分別。七配摂分別。KHbekki-18R
  (第二十一。九相義門分別。一に釈名。二に弁体。三に生起次第。四に約識分別。五に約惑分別。六に滅位分別。七に配摂分別。)KHbekki-18R

【21-02 九相義 枝末不覚 三細六麁】
 初釈名者。根本痴闇。名曰無明。撃動浄心。名之為業。即無明之業。依主釈也。動作状相。名之業相。則持業釈也。余八相字。皆准此釈。心体向外。名能見相。変似外境。名能現相。分別染浄。名為智相。経時不断。名相続相。遍計其事。名執取相。遍計其名。名計名字相。造作善悪。名起業相。苦楽異就。名業繋苦相。KHbekki-18R,18L
  (初に名を釈すとは、根本痴闇を名づけて無明と曰う。浄心を撃動する、これを名づけて業と為す。即ち無明の業、依主釈なり。動作の状相、これを業相と名づく。則ち持業釈なり。余の八相の字は皆これに准じて釈せよ。心体の、外に向かうを能見相と名づく。外境に変似するを能現相と名づく。染浄を分別するを名づけて智相と為す。時を経て断ぜざるを相続相と名づく。その事を遍計するを執取相と名づく。その名を遍計するを計名字相と名づく。善悪を造作するを起業相と名づく。苦楽の異就〈熟か?〉を業繋苦相と名づく。)KHbekki-18R,18L

【21-03 九相義 枝末不覚 三細六麁】
 言体性者有二。一当相出体。則初三細。以本覚及本不覚縁起不二。為其体性。後六麁即以三細縁起。及随相不覚細起稍麁。以此為体性。二窮源弁体性。即総以真如随染義為体。故論云。種種凡器。皆同微塵性相等。KHbekki-18L
  (体性というは二あり。一に当相に体を出ださば、則ち初の三細は、本覚及び本不覚の縁起不二を以てその体性と為す。後の六麁は、即ち三細の縁起及び随相不覚の、細にして起きて稍〈やや〉麁なるを以て、これを以て体性と為す。二に源を窮めて体性を弁ぜん。即ち総じて真如随染の義を以て体と為す。故に論に云く「種種の凡〈瓦か?〉器は皆同じく微塵の性相〈種種瓦器皆同微塵性相〉」等。)KHbekki-18L

【21-04 九相義 枝末不覚 三細六麁】
 三生起次第者。則如釈相次第者是。KHbekki-18L
  (三は生起の次第とは、則ち釈相の次第の如きなるものこれなり。)KHbekki-18L

【21-05 九相義 枝末不覚 三細六麁】
 四約識分別者。前三細是八識。後六麁是六識等。KHbekki-18L,19R
  (四は識に約して分別せば、前の三細はこれ八識。後の六麁はこれ六識等。)KHbekki-18L,19R

【21-06 九相義 枝末不覚 三細六麁】
 五約惑者。三細中是根本無明。是法執中細惑。後麁中。前二是枝末無明法執中麁惑。後四是人執惑也。KHbekki-19R
  (五は惑に約さば、三細の中に、これ根本無明。これ法執の中の細惑なり。後の麁の中に、前に二はこれ枝末無明。法執の中の麁惑なり。後の四はこれ人執の惑なり。)KHbekki-19R

【21-07 九相義 枝末不覚 三細六麁】
 六滅位者。三細。従仏地乃至八地断。智及相続。従初地乃至七地断。執取計名。地前三賢位断也。KHbekki-19R
  (六は滅位とは、三細は仏地より乃至、八地に断ず。智と及び相続とは、初地より乃至、七地に断ず。執取と計名とは、地前三賢位に断ずるなり。)KHbekki-19R

【21-08 九相義 枝末不覚 三細六麁】
 七配摂者。於中相配可知。余如論説。KHbekki-19R
  (七は配摂せば、中に於いて相配して知るべし。余は論に説くが如し。)KHbekki-19R

【22-01 真如二義 真如・無明】
 第二十二。真如有二義。一不変義。二随縁義。無明亦二義。一即空義。二成事義。各由初義故。即真如門也。各由後義故。即生滅門也。KHbekki-19R
  (第二十二。真如に二義あり。一は不変の義。二は随縁の義。無明にまた二義あり。一は即空の義。二は成事の義。おのおの初の義に由るが故に、即ち真如門なり。おのおの後の義に由るが故に、即ち生滅門なり。)KHbekki-19R

【22-02 真如二義 真如・無明】
 生滅門中。随縁真如。成事無明。各有二義。一違自順他義。二違他順自義。無明中初義内亦有二義。一能知名義順真覚。二返自体妄示真徳。無明後二義内亦有二義。一覆理。二成妄心。真如中初義。内亦二義。一隠自真体。二顕現妄法。後義内亦二義。一翻対妄染。顕自真徳。二内熏無明。令起浄用。KHbekki-19R,19L
  (生滅門の中の随縁真如と成事無明とに、おのおの二義あり。一は違自順他の義。二は違他順自の義。無明の中の初の義の内にまた二義あり。一は能く名義を知りて真覚に順ず。二は自体妄を返して真徳を示す。無明の後の二義の内に、また二義あり。一は覆理。二は妄心を成ず。真如の中の初の義の内にまた二義。一は自の真体を隠す。二は妄法を顕現す。後の義の内に、また二義。一は妄染に翻対して自の真徳を顕す。二は内に無明に熏じて、浄用を起こさしむ。)KHbekki-19R,19L

【22-03 真如二義 本覚・始覚・不覚】
 由無明中初二義。及真如中後二義故。得有生滅門中始本二覚義也。由無明中後二義。及真如中初二義故。得有本末二不覚也。若約諸識分相門。本覚及不本覚在本識中。始覚及末不覚在生起識中。若約本末不二門。並在一本識中。KHbekki-19L
  (無明の中の初の二義、及び真如の中の後の二義に由るが故に、生滅門の中の始本二覚の義あることを得るなり。無明の中の後の二義、及び真如の中の初の二義に由るが故に、本末二不覚あることを得るなり。もし諸識分相門に約さば、本覚及び不本覚は本識の中に在り。始覚及び末不覚は生起識の中に在り。もし本末不二門に約さば、並に一本識の中に在り。)KHbekki-19L

【22-04 真如二義 本覚・始覚・不覚】
 又本覚為始本。還頼於始顕。本不覚為末本。還藉於末資。又本不覚依本覚。末不覚依本不覚。始覚依末不覚。本覚還依始覚。如是旋還同一縁起。而無自性。不離真如。就此生滅門中。真妄各開四故。即有八門。和合唯有四。謂二覚二不覚。更摂但唯二。謂覚与不覚。総摂唯一。謂一心生滅門也。KHbekki-19L,20R
  (また本覚を始の本と為し、還りて始に頼りて顕る。本不覚を末の本と為し、還りて末に藉りて資す。また本不覚は本覚に依り、末不覚は本不覚に依る。始覚は末不覚に依り、本覚は還りて始覚に依る。かくの如く旋還して同一縁起にして自性なく、真如を離れず。この生滅門の中に就きて、真妄おのおの四を開くが故に、即ち八門あり。和合すれば唯四あり。謂く二覚・二不覚なり。更に摂すれば、但、唯二なり。謂く覚と不覚なり。総じて摂すれば唯一なり。謂く一の心生滅門なり。)KHbekki-19L,20R

【23-01 智浄相・不思議業相 十門分別】
 第二十三。智浄相。不思議業相。略作十門分別。一釈名者。智者始覚智也。浄者離染同本覚。此中有智之浄及即智浄也。不思議業者。果徳他用。故名為業。非下地測量。故不思議也。此中亦有不思之業。及不思即業等。可知也。KHbekki-20R,20L
  (第二十三。智浄相と不思議業相とに略して十門を作りて分別す。一は名を釈すとは、智とは始覚の智なり。浄とは染を離れて本覚に同ず。この中に有智の浄と、及び即智の浄となり。不思議業とは、果徳他用の故に名づけて業と為す。下地の測量するところにあらざるが故に不思議なり。この中にまた不思の業と、及び不思即ち業等とあり。知るべきなり。)KHbekki-20R,20L

【23-02 智浄相・不思議業相 十門分別】
 二出体者。生滅門中随染本覚為体。三約体用分別者。初一体。後一用。四約染浄分別者。此二倶浄。以返染故。亦可倶染。以随染所成故。五約二利分別者。初一自利。非無利他。後一利他。非無自利。六三身分別者有二義。一初為報身。後為化身。二初通法身及自受用身。後通化身及他受用身。七四智分別者。初一円鏡智。亦通平等性。後一通三智。八二智分別者。初一理智。後一量智。九本末者。初一本。後一末。KHbekki-20L
  (二は体を出ださば、生滅門の中の随染本覚を体と為す。三は体用に約して分別せば、初の一は体、後の一は用。四は染浄に約して分別せば、この二は倶に浄。返染を以ての故に。また倶に染なるべし。随染の所成なるを以ての故に。五は二利に約して分別せば、初の一は自利す。利他なきにはあらず。後の一は利他。自利なきにはあらず。六は三身分別せば二義あり。一は初は報身と為し、後は化身と為す。二は初は法身と及び自受用身に通じ、後は化身と及び他受用身に通ず。七は四智分別せば、初の一は円鏡智、また平等性に通ず。後の一は三智に通ず。八は二智分別せば、初の一は理智、後の一は量智。九は本末とは、初の一は本、後の一は末なり。)KHbekki-20L

【23-03 智浄相・不思議業相 十門分別】
 十因縁所起分別者。智浄以体相内熏為因。用本外熏為縁。同本浄智為果。不思議業。以智浄為因。衆生内熏為縁。無方大用為果。)KHbekki-20L,21R
  (十は因縁所起分別せば、智浄は体相内熏を以て因と為し、用本外熏を縁と為し、同本浄智を果と為す。不思議業は智浄を以て因と為し、衆生内熏を縁と為し、無方大用を果と為す。)KHbekki-20L,21R

【24-01 覚体相中四鏡義 性浄本覚 十門分別】
 第二十四。覚体相中四鏡義。十門分別。一釈名。如実者真徳也。空者対妄也。鏡者喩也。従法喩得名。余並准此。二因者能現諸法也。熏者内熏也。此即因之熏。故内熏也。夫此内熏能生始覚之果。故亦名因熏。此即因是熏。故名因熏也。法者体相也。出者出二痴也。離者不与根本無明和合也。縁熏者作外縁熏衆生。此亦即縁是熏也。KHbekki-21R
  (第二十四。覚体相の中に四鏡義、十門分別す。一は名を釈す。「如実」とは真徳なり。「空」とは妄に対するなり。「鏡」とは喩なり。法喩により名を得。余は並びにこれに准ず。二は「因」とは能く諸法を現ずるなり。「熏」とは内熏なり。これ即ち因の熏ずるが故に内熏なり。それはこの内熏は能く始覚の果を生ずるが故に、また因熏と名づく。これ即ち因、これ熏なるが故に因熏と名づくるなり。「法」とは体相なり。「出」は二痴を出でるなり。「離」は根本無明と和合せざるなり。「縁熏」とは外縁と作りて衆生を熏ず。これまた即ち縁、これ熏なり。)KHbekki-21R

【24-02 覚体相中四鏡義 性浄本覚 十門分別】
 二出体者。並以生滅門中本覚真如三大為体。KHbekki-21R
  (二は体を出ださば、並に生滅門の中の本覚真如三大を以て体と為す。)KHbekki-21R

【24-03 覚体相中四鏡義 性浄本覚 十門分別】
 三生起次第者。由対妄故。初説為空。以空妄故。次顕真徳。随縁成内熏。熏習故云因熏也。由有熏習力故。能治妄顕真。故次明法出離也。由出離染故。即起無辺浄用。故明縁熏也。KHbekki-21R,21L
  (三は生起の次第とは、妄に対するに由るが故に、初に説きて「空」と為す。妄を空ずるを以ての故に。次に真徳を顕す。縁に随い内熏を成ず。熏習の故に「因熏」というなり。熏習力あるに由るが故に、能く妄を治す。真を顕すが故に。次に「法出離」を明かすなり。染を出離するに由るが故に、即ち無辺の浄用を起こすが故に「縁熏」を明かすなり。)KHbekki-21R,21L

【24-04 覚体相中四鏡義 性浄本覚 十門分別】
 四約染浄分別者。初二染故在纒。名有垢真如。後二浄故出障。名無垢真如也。KHbekki-21L
  (四は染浄に約して分別すとは、初の二は染の故に在纒なれば、有垢真如と名づく。後の二は浄の故に障を出づれば、無垢真如と名づくるなり。)KHbekki-21L

【24-05 覚体相中四鏡義 性浄本覚 十門分別】
 五約因果分別者。初二在因。後二在果。因中。初一挙体。次一成因。果中。先断果。徳果。文可先果体。後果用。KHbekki-21L
  (五は因果に約して分別すとは、初の二は因に在り、後の二は果に在り。因の中に、初の一は体を挙げ、次の一は因を成ず。果の中に、先は断果、〈後は〉徳果。文〈又か?〉先は果体、後は果用なるべし。)KHbekki-21L

【24-06 覚体相中四鏡義 性浄本覚 十門分別】
 六相対分別者。初与三。二与四。各何別者。謂初自性離。三対治離。二内因熏。四外縁熏。有此差別也。KHbekki-21L
  (六に相対して分別せば、初と三と。二と四と。おのおの何か別ならば、謂く、初は自性離、三は対治離、二は内因熏、四は外縁熏。この差別あるなり。)KHbekki-21L

【24-07 覚体相中四鏡義 性浄本覚 十門分別】
 七対智浄等分別者。此中法出離与前智浄。及此縁熏与前不思業。各何別者。智浄約能観。法出約所観。不思業約智用。縁熏約法用。以始覚即同本覚故。所以随一即收余耳。KHbekki-21L,22R
  (七は智浄等に対して分別せば、この中に法出離と前の智浄と、及びこの縁熏と前の不思業と、おのおの何か別なるとならば、智浄は能観に約し、法出は所観に約し、不思業は智用に約し、縁熏は法用に約す。始覚は即ち本覚に同ずるを以ての故に、所以に随一に即ち余を收むるのみ。)KHbekki-21L,22R

【24-08 覚体相中四鏡義 性浄本覚 十門分別】
 八以約三仏性分別者。前一唯自性住。後一唯至得果仏性。因熏亦性亦引出。法亦引出亦至得果。KHbekki-22R
  (八は三仏性に約して以て分別せば、前の一は唯自性住、後の一は唯至得果仏性、因熏は亦性、亦引出、法は亦引出、亦至得果なり。)KHbekki-22R

【24-09 覚体相中四鏡義 性浄本覚 十門分別】
 九約喩分別者。虚空有四義。一物所不能壊。二容受諸色法。三色滅浄空顕。四空能現色。鏡亦有四義。一実質不入中。二能現諸影像。三磨営去塵垢。四照用諸物。法中義准之。KHbekki-22R
  (九は喩に約して分別せば、虚空に四義あり。一に物の壊すこと能わざる所なり。二に諸の色法を容受す。三に色滅して浄空顕わる。四に空は能く色を現ず。鏡にまた四義あり。一に実質は中に入らず。二に能く諸の影像を現す。三に磨営して塵垢を去〈のぞ〉く。四に諸物を照用す。法の中の義はこれに准ぜよ。)KHbekki-22R

【24-10 覚体相中四鏡義 性浄本覚 十門分別】
 十約三大分別者。初一唯体非相用。次一亦体亦相而非用。次一亦相亦用而非体。後一唯一唯用非体相。此就分別門説。若約鎔融門。四義皆具三大耳。KHbekki-22R,22L
  (十は三大に約して分別せば、初の一は唯体にして相用にあらず。次の一は亦体亦相にして用にあらず。次の一は亦相、亦用にして体にあらず。後の一は唯一唯用にして体相にあらず。これは分別門に就きて説く。もし鎔融門に約さば、四義、皆、三大を具すのみ。)KHbekki-22R,22L

【25-01 始本相依 本覚・不覚】
 第二十五。始本相依文中。問。本覚為滅惑不滅惑耶。若滅惑者。即無凡夫過。若不滅惑者。即無覚義過。答。滅惑故。非無覚義過。無凡夫者。亦非過也。何以故。以一切凡夫即涅槃相。不復更滅。是故凡夫本無。有何過也。亦非無凡夫過。何以故。以彼本覚性滅惑故。方名本覚。本覚存故。得有不覚。不覚有故。不無凡夫。是故本覚滅惑。方成凡夫。何得有過。KHbekki-22L
  (第二十五。始本相依の文の中に、問う。本覚は惑を滅すと為んや、惑を滅せざらんや。もし惑を滅せば、即ち凡夫なき過あらん。もし惑を滅ぜざれば、即ち覚の義なき過あらん。答う。惑を滅するが故に覚の義なき過にあらず。凡夫なきことは、また過にあらざるなり。何を以ての故に。一切の凡夫は即ち涅槃の相にして、また更に滅せざるを以て、この故に凡夫は本無なり。何の過かあらん。また凡夫なき過にあらず。何を以ての故に。彼の本覚の性は惑を滅するを以ての故に、方に本覚と名づく。本覚存するが故に不覚あることを得。不覚あるが故に凡夫なきにあらず。この故に本覚は惑を滅して、方に凡夫を成ず。何ぞ過あることを得んや。)KHbekki-22L

【25-02 始本相依 本覚・不覚】
 問。本覚若滅惑者。即応無不覚。以障治相違故。若有不覚。即不得有本覚。如何説言依本覚有不覚耶。答。由本覚性自滅不覚故。是故依本覚得有不覚。何者。若本覚不滅不覚者。即応本覚中自有不覚。若本覚中自有不覚者。則諸凡夫無不覚過。以不覚在本覚中。凡夫不証本覚故。不覚即不成凡夫過。又若本覚中有不覚者。即諸凡夫既有本覚。応得本覚。得覚故。名不成凡夫過。若本覚中有不覚者。聖人得本覚。応有不覚。有不覚故。即非聖人。是無聖人過。又若本覚中有不覚者。聖人無不覚故。即無本覚。無本覚故。即無聖人過。既有此義。是故本覚性滅不覚。是又若不滅不覚。即無本覚。無本覚故。即無所迷。無所迷故。即無不覚。是故得有不覚者。由於本覚。本覚有者。由滅不覚。是故当知由滅不覚。得有不覚也。KHbekki-22L,23R,23L
  (問う。本覚の、もし惑を滅せば、即ち応に不覚なかるべし。障・治は相い違するを以ての故に。もし不覚あらば、即ち本覚あることを得ず。如何に説きて本覚に依りて不覚ありというや。答う。本覚の性は自ら不覚を滅するに由るが故に、この故に本覚に依りて不覚あることを得。何とならば、もし本覚の、不覚を滅せざれば、即ち応に本覚の中に自ずから不覚あるべし。もし本覚の中に自ずから不覚あらば、則ち諸の凡夫は不覚なき過あらん。不覚は本覚の中に在るを以て、凡夫は本覚を証せざるが故に、不覚は即ち凡夫を成ぜざる過あらん。またもし本覚の中に不覚あらば、即ち諸の凡夫に既に本覚ありて、応に本覚を得べし。覚を得るが故に、凡夫を成ぜざる過と名づく。もし本覚の中に不覚あらば、聖人は本覚を得るに、応に不覚あるべし。不覚あるが故に即ち聖人にあらず。これ聖人なき過あらん。またもし本覚の中に不覚あらば、聖人は不覚なきが故に即ち本覚なからん。本覚なきが故に即ち聖人なき過あらん。既にこの義あり。この故に本覚の性は不覚を滅す。これまたもし不覚を滅せざれば即ち本覚なからん。本覚なきが故に即ち所迷なからん。所迷なきが故に即ち不覚なからん。この故に不覚あることを得るは、本覚に由る。本覚あることは不覚を滅するに由る。この故に当に知るべし。不覚を滅するに由りて、不覚あることを得るなり。)KHbekki-22L,23R,23L

【25-03 始本相依 本覚・始覚】
 問。若本覚能滅惑者。何用始覚為。答。以惑有二義故。一理無義。二情有義。由対初義。故名本覚。由対後義。故名始覚。故仏性論云。煩悩有二種滅。一自性滅。二対治滅。対此二滅。故有始本二覚。又此始覚亦是本覚之用也。何者。以依本覚故有不覚。有不覚故有始覚。是故始覚即是本覚。更無異体。唯一本覚滅煩悩也。始本相対。各有二義。本中。一是有力義。以能成始故。二是無力義。対始名本故。始中。一是有力義。以能顕本故。二是無力義。為本所成故。KHbekki-23L,24R
  (問う。もし本覚の、能く惑を滅せば、何ぞ始覚の為を用いん。答う。惑に二義あるを以ての故に。一は理無の義。二は情有の義。初の義に対するに由るが故に本覚と名づく。後の義に対するに由るが故に始覚と名づく。故に『仏性論』に云く。煩悩に二種の滅あり。一に自性滅。二に対治滅。この二滅に対するが故に始本二覚あり。またこの始覚はまたこれ本覚の用なり。何とならば、本覚に依るを以ての故に不覚あり。不覚あるが故に始覚あり。この故に始覚は即ちこれ本覚なり。更に異体なし。唯一本覚の、煩悩を滅するなり。始本相対して、おのおの二義あり。本の中に一はこれ有力の義。能く始を成ずるを以ての故に。二はこれ無力の義。始に対して本と名づくるが故に。始の中に、一はこれ有力の義。能く本を顕すを以ての故に。二はこれ無力の義。本の為に成ぜらるるが故に。)KHbekki-23L,24R

【25-04 始本相依】
 問。各有二義。有無矛盾。豈不相違耶。答。非直有無性不相違。亦乃相順便得成立。何者。始覚中。非従本所成之始覚。無以能顕於本覚。本覚中。非対始之本覚。無以成於始覚。是故始本四義。縁起一故。不可為異。然四義故。不可為一。猶如円珠。随取皆尽。護過顕徳。及違成過等。各有四句。准可知之。KHbekki-24R,24L
  (問う。おのおの二義ありて、有無は矛盾なり。あに相違せざらんや。答う。直ちに有無の性は相違せざるにあらず。また乃ち相順じて便ち成立することを得。何とならば、始覚の中に本より成ぜらるる始覚にあらざれば、以て能く本覚を顕すことなからん。本覚の中に、対始の本覚にあらずは、以て始覚を成ずることなからん。この故に始本の四義は縁起して一なるが故に、異と為すべからず。然るに四義の故に、一と為すべからず。猶し円珠の、取に随いて皆尽くるが如し。護過顕徳と、及び違成過等と、おのおの四句あり。准じてこれを知るべし。)KHbekki-24R,24L

【25-05 始本相依】
 問。是始覚有耶。答。不也。以即是本覚故。又問。本覚是有耶。答。不。即是始覚故。問。亦本亦始耶。答。不也。始本不二故。問。非本始耶。答。不也。本始具足故。此並生滅門浄縁起更説。真如門中則無此義。KHbekki-24L
  (問う。これ始覚は有なりや。答う。不なり。即ちこれ本覚なるを以ての故に。また問う。本覚はこれ有なりや。答う。不なり。即ちこれ始覚なるが故に。問う。亦本亦始なりや。答う。不なり。始・本は不二なるが故に。問う。非本始なりや。答う。不なり。本始具足するが故に。これ並びに生滅門の浄縁起に更に説く。真如門の中には則ちこの義なし。)KHbekki-24L

【26-01 染法熏習 無明妄心二義】
 第二十六。染法熏習中。無明妄心各有二種。一麁。二細。此麁細亦各有二。一依他。二成他。KHbekki-24L
  (第二十六。染法熏習の中に、無明妄心におのおの二種あり。一は麁。二は細。この麁細にまたおのおの二あり。一は依他。二は成他。)KHbekki-24L

【26-02 染法熏習 無明の細麁】
 無明細者。謂根本不覚。依他者。謂依業識染心而得存立。二成他者。即此依染心根本無明。熏於真如成業識。無明麁者。末不覚。依他。謂依分別事識而得成立。二成他者。即此依事識末無明。不了妄境生起事識。染心麁細各二義。准無明取之。KHbekki-24L,25R
  (無明細とは、謂く、根本不覚。依他とは、謂く業識染心に依りて存立することを得。二に成他とは、即ちこの染心に依りて、根本無明は真如に熏じて業識を成ず。無明麁とは、末不覚。依他は、謂く分別事識に依りて成立することを得。二に成他とは、即ちこれ事識に依りて、末無明は妄境を了せずして事識を生起す。染心麁細におのおの二義あり。無明に准じてこれを取れ。)KHbekki-24L,25R

【26-03 染法熏習 妄境界】
 妄境界亦二。謂転識境。事識境。此二各二。謂依心。起心。准之。今此論中熏習文内。但説起心。故云境界熏於妄心牽増分別。以此境界非是情識法。無可熏故不説妄心熏於境界也。KHbekki-25R
  (妄境界にまた二。謂く、転識の境と事識の境となり。この二におのおの二あり。謂く、依心と起心となり。これに准ぜよ。今この論の中の熏習の文の内には、但、起心を説くが故に、境界は妄心を熏じて分別を牽増すと云う。この境界はこれ情識にあらざる法なるを以て、熏ずべきことなきが故に、妄心の、境界を熏ずと説かざるなり。)KHbekki-25R

【27 浄分縁起 本覚・始覚】
 第二十七。浄分縁起中有四句。一本有。謂真如門。二修生本有。謂本覚以対始得成故。三本有修生。謂無分別智。是本覚随染所成故。四修生。謂始覚智。本無今有。此四義同一縁起。随挙一門。無不全收。准之。KHbekki-25R
  (第二十七。浄分縁起の中に四句あり。一は本有。謂く真如門。二は修生・本有。謂く本覚は始に対して成ずることを得るを以ての故に。三は本有・修生。謂く無分別智。これ本覚随染の所成なるが故に。四は修生。謂く始覚の智は本無今有。この四義は同一縁起にして、一門を挙ぐるに随いて全收せざることなし。これに准ぜよ。)KHbekki-25R

【28-01 真妄縁起和合不二識 真如無明四義】
 第二十八。生滅門中。真妄縁起和合不二識中。真如無明各有四義。真如中四義者。一不変義。二和合義。三隠体義。四内熏義。無明四義者。一即空義。二覆真義。三成妄義。四浄用義。真妄中。各由初義故。是本覚摂也。各有第二義故。是根本不覚摂也。各由第三義故。是枝末不覚摂也。各由第四義故。是始覚摂也。KHbekki-25L
  (第二十八。生滅門の中に、真妄縁起和合不二識の中に、真如・無明におのおの四義あり。真如の中の四義とは、一は不変の義、二は和合の義、三は隠体の義、四は内熏の義。無明の四義とは、一は即空の義、二は覆真の義、三は成妄の義、四は浄用の義。真妄の中に、おのおの初の義に由るが故に、これ本覚の摂なり。おのおの第二の義あるが故に、これ根本不覚の摂なり。おのおの第三の義に由るが故に、これ枝末不覚の摂なり。おのおの第四の義に由るが故に、これ始覚の摂なり。)KHbekki-25L

【28-02 真妄縁起和合不二識 真如無明四義】
 此上四義。復有三門。一約分相門。則各初二義在本識中。各後二義在事識中。以各初二能生各後二故。二本末不二門。以縁起無二故。則並在梨耶識中。依此義故。論中説云。此梨耶識有二義。謂覚不覚也。依分相義故。論中末不覚及始覚。並在事識中也。此上真妄八義。唯一縁起。無礙鎔融。挙体全收。無不皆尽。KHbekki-25L,26R
  (この上の四義に、また三門あり。一は分相門に約す。則ちおのおの初の二義は本識の中に在り。おのおの後の二義は事識の中に在り。おのおの初の二は能くおのおの後の二を生ずるを以ての故に。二は本末不二門。縁起無二なるを以ての故に。則ち並びに梨耶識の中に在り。この義に依るが故に、論の中に説きて云わく。この梨耶識に二義あり。謂く覚と不覚となりと。分相の義に依るが故に、論の中に末不覚と及び始覚とは、並びに事識の中に在るなり。この上の真妄の八義は唯一縁起、無礙鎔融して挙体全收するに皆尽きざることなし。)KHbekki-25L,26R

【29-01 法身義 釈名】
 第二十九。法身義四門分別。初釈名者。法是軌持義。身是依止義。即法為身。亦名自性身。KHbekki-26R
  (第二十九。法身の義を四門に分別す。初に釈名とは、法はこれ軌持の義、身はこれ依止の義。即ち法を身と為す。また自性身と名づく。)KHbekki-26R

【29-02 法身義 体性 1~5】
 二体性者。略有十種。一依仏地論。唯以所照真如清浄法界為性。余四智等。並属報化。二或唯約智。如無性摂論。以無垢無[ケイ17]礙智為法身故。謂離二障。諸徳釈云。此約摂境従心。名為法身。匪為法身是智非理。今釈一切諸法尚即真如。況此真智而不如耶。既即是如。何待摂境。三亦智亦境。如梁論云。唯如如及如如智独存。名為法身。四境智双泯。経云如来法身非心非境。五此上四句。合為一無礙法身。随説皆得。KHbekki-26R,26L
  (二に体性とは、略して十種あり。一に『仏地論』に依るに、唯、所照の真如清浄法界を以て性と為す。余の四智等は並びに報化に属す。二に或いは唯、智に約す。『無性摂論』の如し。無垢無[ケイ17]礙智を以て法身と為すが故に。謂く二障を離れたり。諸徳釈して云く。これは摂境従心に約して名づけて法身と為す。法身はこれ智にして理にあらず為んとには匪〈あら〉ず。今釈す。一切の諸法は尚即ち真如なり。況んやこの真智、如ならざらんや。既に即ちこれ如。何ぞ摂境を待たん。三に亦智・亦境。『梁論』に云うが如し。唯、如如と及び如如智、独り存するを名づけて法身と為す。四に境智双泯。経に云く、如来法身は心にあらず、境にあらずと。五にこの上の四句は合して一無礙法身と為す。説に随いて皆得。)KHbekki-26R,26L

【29-03 法身義 体性 6~10】
 六此上総別五句。相融形奪。泯並五説。逍然無寄。以為法身。此上単就境智弁也。七通摂五分及悲願等諸行功徳。無不皆是此身收。以修生功徳必証理故。融摂無礙。如前智説。八通收報化色身相好功徳。無不皆是此法身收。故摂論中。三十二相等。皆入法身摂。釈有三義。一相則如故。帰理法身。二智所現故。属智法身。三当相並是功徳法故。名為法身。九通摂一切三世間故。衆生及器無非仏故。一大法身具十仏故。三身等並在此中。智正覚摂故。十総摂前九為総句。是謂如来無礙自在法身之義。KHbekki-26L,27R
  (六はこの上の総別の五句は、相融形奪泯するに並びに五説、逍然として無寄なるを以て法身と為す。この上は単に境智に就きて弁ずるなり。七は通じて五分及び悲願等の諸行功徳を摂して、皆これこの身に收めざることなし。修生功徳を以て必ず理を証するが故に、融摂無礙なり。前の智に説くが如し。八は通じて報化の色身相好の功徳を收む。皆これこの法身に收めざることなし。故に『摂論』の中に、三十二相等、皆、法身に入れて摂す。釈に三義あり。一は相則ち如なるが故に理法身に帰す。二は智所現なるが故に智法身に属す。三は当相並びにこれ功徳の法なるが故に、名づけて法身と為す。九は通じて一切の三世間を摂するが故に、衆生と及び器は仏にあらざることなきが故に。一大法身に十仏を具するが故に。三身等、並びにこの中に在り。智正覚の摂なるが故に。十は総。前の九を摂して総句と為す。これ如来無礙自在法身の義を謂う。)KHbekki-26L,27R

【29-04 法身義 生因】
 三生因者有四。一者了因。照現本有真如法故。二者生因。生成修起勝功徳故。三者生了無礙因。生了相即。二果不殊故。四総此勝徳為所依因。即機現用為所成果。KHbekki-27R
  (三は生因とは四あり。一には了因。本有真如の法を照現するが故に。二には生因。修起勝功徳を生成するが故に。三には生了無礙因。生了相即して二果は殊ならざるが故に。四にはこの勝徳を総じて所依の因と為し、機に即して用を現ずるを所成の果と為す。)KHbekki-27R

【29-05 法身義 業用】
 四業用者亦有四。一此理法身与諸観智為所開覚。経云法身説法授与義故。二依此以起報化利生勝業用故。三或化樹形等。密摂化故。四遍諸衆生道毛端等処。熏熏自在無礙業用也。KHbekki-27R,27L
  (四は業用とは、また四あり。一はこの理法身は諸の観智の与に所開の覚と為る。経に云く。法身説法授与の義の故に。二はこれに依りて報化利生の勝業用を起こすを以ての故に。三は或いは樹形等を化す。密に摂化するが故に。四は諸の衆生道毛端等処に遍ず。熏熏〈重重か?〉自在無礙の業用なり。)KHbekki-27R,27L

【30-01 真妄心境四句義 約情有心境】
 第三十。真妄心境通有四句。一約情有心境。境謂空有相違。以存二相故。心謂二見不壊。是妄情故。或境上有空同性。以倶是所執性故。心上亦同。倶是妄見故。KHbekki-27L
  (第三十。真妄心境、通じて四句あり。一は情に約するに心境あり。境は謂く空有相違。二相を存するを以ての故に。心は謂く二見不壊。これ妄情なるが故に。或いは境の上に有空同性。倶にこれ所執性なるを以ての故に。心の上にもまた同じ。倶にこれ妄見なるが故に。)KHbekki-27L

【30-02 真妄心境四句義 法有心境】
 二約法有心境。境謂空有不二。以倶融故。心謂絶二見。無二故。或境上空有相違。以全形奪故。心上亦二。随見一分。余分性不異故。KHbekki-27L
  (二は法に約するに心境あり。境は謂く空有不二。倶融するを以ての故に。心は謂く二見を絶す。無二なるが故に。或いは境の上に空有相違。全く形奪するを以ての故に。心の上にもまた二。随いて一分を見る。余分の性は異ならざるが故に。)KHbekki-27L

【30-03 真妄心境四句義 以情就法説】
 三以情就法説。謂境則有無倶情有。有無倶理無。無有無二為一性。或亦相違。以全奪故。心謂妄取情中有。以是執心故。或亦比知其理無。以分有観心故。KHbekki-27L,28R
  (三は情を以て法に就きて説く。謂く境は則ち有無倶に情有。有無は倶に理無。無有は無二にして一性と為す。或いはまた相違せり。全奪を以ての故に。心は謂く妄に情中の有を取る。これ執心するを以ての故に。或いはまたその理無を比知す。分に観心あるを以ての故に。)KHbekki-27L,28R

【30-04 真妄心境四句義 以法就情説】
 四以法就情説。境則有無倶理有。有無倶情無。無有無二為一性。或亦相違。以全奪故。心謂見理有。以智故。見情無。以悲故。或見無二心。是一心故。此上四門中。約境各有四句。心亦各四句。総有三十二句。准思之。KHbekki-28R
  (四は法を以て情に就きて説く。境は則ち有無倶に理有。有無倶に情無。無有無二を一性と為す。或いはまた相違せり。全奪するを以ての故に。心は謂く理有を見る。智を以ての故に。情無を見る。悲を以ての故に。或いは無二心を見る。これ一心なるが故に。この上の四門の中に、境に約するにおのおの四句あり。心もまたおのおの四句あり。総じて三十二句あり。准じてこれを思え。)KHbekki-28R

【31-01 二諦無礙義】
 第三十一。二諦無礙説有二門。一約喩。二就法。KHbekki-28R
  (第三十一。二諦無礙説に二門あり。一に喩に約す。二に法に就く。)KHbekki-28R

【31-02 二諦無礙義 約喩】
 一約喩者。且如幻兎依巾。有二門。一兎。二巾。兎亦二義。一相差別義。二体空義。巾亦二義。一住自位義。二挙体兎義。此巾与兎。非一非異。KHbekki-28R,28L
  (一に喩に約さば、且く幻兎の、巾に依るが如し。二門あり。一に兎。二に巾。兎にまた二義。一に相差別の義。二に体空の義。巾にまた二義。一に住自位の義。二に挙体兎の義。これ巾と兎と非一非異なり。)KHbekki-28R,28L

【31-03 二諦無礙義 約喩 非一非異 非異】
 且非異有四句。一巾上成兎義。及兎上相差別義。合為一際。故不異。此是以本随末。就末明不異。二以巾上住自位義。及兎上体空義。合為一際。故為不異。此是以末帰本。就本明不異。三以摂末所帰之本。与摂本所従之末。此二双融無礙倶存。故為不異。此是本末双存。無礙不異。四以所摂帰本之末。亦与所摂随末之本。此二倶泯。故為不異。此是本末双泯。平等不異。KHbekki-28L
  (且く非異に四句あり。一に巾の上に兎を成ずる義と、及び兎の上の相差別の義と、合して一際と為るが故に不異なり。これはこれ本を以て末に随う。末に就きて不異を明かす。二に巾の上に自位に住する義と、及び兎の上の体空の義と、合して一際と為すを以ての故に不異と為す。これはこれ末を以て本に帰す。本に就きて不異を明かす。三に摂末所帰の本と、摂本所従の末とを以て、この二双は融じ無礙にして倶に存するが故に不異と為す。これはこれ本末は双び存して無礙にして不異なり。四に所摂帰本の末と、また所摂随末の本と、この二倶に泯ずるを以ての故に不異と為す。これはこれ本末双泯して平等にして不異なり。)KHbekki-28L

【31-04 二諦無礙義 約喩 非一非異 非一】
 第二非一義者。亦有四句。一以巾上住自位義。与兎上相差別義。此二相背。故為非一。此是相背非一。二巾上成兎義。兎上体空義。此二相害。故為非一。三以彼相背与相害。此二位異。故為非一。謂相背各相捨。相去懸遠。相害則与敵対。親相食害。是故近遠非一也。四以極相害泯而不泯。由極相背存而不存。此不泯不存義為非一。此是成壊非一。KHbekki-28L,29R
  (第二に非一の義とは、また四句あり。一は巾の上に自位に住する義と、兎の上に相差別の義と、この二は相い背するを以ての故に非一と為す。これはこれ相背の非一なり。二は巾の上に兎を成ずる義と、兎の上の体空の義と、この二は相い害するが故に非一と為す。三は彼の相背と相害と、この二位異なるを以ての故に非一と為す。謂く相背はおのおの相い捨て、相い去ること懸遠なり。相害は則ち与に敵対して親しく相い食害す。この故に近遠非一なり。四は極相害は泯じて不泯なるを以て、極相背は存して不存なるにに由りて、これ不泯不存の義を非一と為す。これはこれ成壊の非一なり。)KHbekki-28L,29R

【31-05 二諦無礙義 約喩 非一非異】
 又此四非一。与上四非異。而亦非一。以義不雑故。又上四不異。与此四不一。而亦不異。理遍通故。是故若以不異門取。諸門極相和会。若以非一門取。諸義極相違諍。極相違而極和合者。是無障無礙法也。KHbekki-29R
  (またこの四の非一と上の四の非異とはまた非一にして、義は雑せざるを以ての故に。また上の四の不異とこの四の不一とはまた不異なり。理は遍く通ずるが故に。この故にもし不異門を以て取れば、諸門は極めて相い和会す。もし非一門を以て取れば、諸義は極めて相い違諍す。極めて相違して極めて和合すとは、これ無障無礙の法なり。)KHbekki-29R

【31-06 二諦無礙義 就法】
 第二就法説者。巾喩真如如来蔵。兎喩衆生生死等。非一異亦有十門。准喩可知。又兎即生即死而無礙。巾即隠即顕而無礙。此生死隠顕。逆順交絡。諸門鎔融。並准前思之可解。KHbekki-29R,29L
  (第二に法に就きて説かば、巾を真如如来蔵に喩う。兎を衆生の生死等に喩う。非一異にまた十門あり。喩に准じて知るべし。また兎は即生即死にして而も無礙なり。巾は即隠即顕にして而も無礙なり。この生死・隠顕、逆順交絡して諸門鎔融せり。並びに前に准じ、これを思いて解すべし。)KHbekki-29R,29L

【32-01 二諦義】
 第三十二。二諦義解二門。一弁相。二顕義。初弁相。如余説。二顕義者有四門。一開合。二一異。三相是。四相在。KHbekki-29L
  (第三十二。二諦義解に二門。一に弁相。二に顕義。初に相を弁ぜば、余に説くが如し。二に義を顕さば四門あり。一に開合。二に一異。三に相是。四に相在。)KHbekki-29L

【32-02 二諦義 顕義 開合 開】
 初開合者。先開。後合。開は者。俗諦縁起中有四義。一諸縁有力義。二無力義。三無自性義。四成事義。真諦中亦有四義。一空義。二不空義。三依持義。四尽事義。KHbekki-29L
  (初に開合とは、先は開、後は合。開とは、俗諦縁起の中に四義あり。一は諸縁有力の義。二は無力の義。三は無自性の義。四は成事の義。真諦の中にまた四義あり。一は空の義。二は不空の義。三は依持の義。四は尽事の義。)KHbekki-29L

【32-03 二諦義 顕義 開合 合】
合者有三門。一合俗。二合真。三合二。初者有三。一約用。謂有力無力無二故。二約体。謂性無性無二故。三無礙。謂体用無二。唯一俗諦。合真者亦三。一就用。謂依持成俗。即是奪俗。合尽無二故。二約体。空不空無二故。三無礙。謂体用無二故。三合二者。有四門。一約起用門。謂真中依持義。与俗中有力無二故。二約泯相門。謂真中尽俗。与俗中無力無二故。三約顕実門。謂真中不空義。与俗中無性義。無二故。四成事門。謂真中空義。与俗中存事無二故。開合門竟。KHbekki-29L,30R
  (合とは三門あり。一は俗を合し、二は真を合す。三は二を合す。初は三あり。一は用に約す。謂く有力と無力と無二なるが故に。二は体に約す。謂く性と無性と無二なるが故に。三は無礙。謂く体と用と無二なり。唯一俗諦に真を合すれば、また三あり。一は用に就く。謂く成俗を依持す。即ちこれ俗を奪して、合尽無二なるが故に。二は体に約す。空と不空と無二なるが故に。三は無礙。謂く体と用と無二なるが故に。三は二を合すれば四門あり。一は起用門に約す。謂く真の中の依持の義と、俗の中の有力と、無二なるが故に。二は泯相門に約す。謂く真の中の尽俗と、俗の中の無力と、無二なるが故に。三は顕実門に約す。謂く真の中の不空の義と、俗の中の無性の義と、無二なるが故に。四は成事門。謂く真の中の空の義と、俗の中の存事と、無二なるが故に。開合門竟りぬ。)KHbekki-29L,30R

【32-04 二諦義 理事相即不相即】
 理事相即不相即。無礙融通。各有四句。初不相即中四句者。一二事不相即。以縁相事礙故。二二事之理不相即。以無二故。三理事不相即。以理静非動故。四事理不相即。以事動非静故。二相即中四句者。一事即理。以縁起無性故。二理即事。以理随縁事得立故。三事之理相即。以約詮会実故。四二事相即。以即理之事無別事。是故事如理而無礙。KHbekki-30R,30L
  (理事の相即と不相即と、無礙融通するに、おのおの四句あり。初に不相即の中の四句とは、一は二事不相即。縁相事礙を以ての故に。二は二事の理不相即。無二なるを以ての故に。三は理事不相即。理静は動にあらざるを以ての故に。四は事理不相即。事動は静にあらざるを以ての故に。二に相即の中の四句とは、一は事即理。縁起無性なるを以ての故に。二は理即事。理随縁して事は立することを得るを以ての故に。三は事の理相即。詮に約して実を会するを以ての故に。四は二事相即。即理の事は別事なきを以て、この故に事は如理にして無礙なり。)KHbekki-30R,30L

【33-01 染浄義 不思議業】
 第三十三。染浄義。問曰。不思議業者。相用倶名義大。於随染業幻中何処摂耶。答。応作四句。一一向浄。謂出纒四智等故。二一向染。謂随流有情無明未発覚故。三非染非浄。謂離言真如故。四亦染亦浄。謂相用二義大故。亦染故。随地前機染幻現故。亦浄故。随縁真如不変故。今於此四句。非第四句。為第三句。非第三句。為第四句。亦可総非四句。合作一句。互融無礙。思之可見。KHbekki-30L,31R
  (第三十三。染浄義。問いて曰く。不思議業とは、相用倶に義大に名づく。随染業幻の中に於いて何の処の摂ぞや。答う。応に四句を作すべし。一は一向浄。謂く、出纒四智等の故に。二は一向染。謂く、随流有情無明は未だ覚を発さざるが故に。三は非染非浄。謂く、離言真如の故に。四は亦染亦浄。謂く、相用二義大の故に。亦染の故に、地前の機に随いて染幻現ずるが故に。亦浄の故に、随縁真如不変なるが故に。今この四句に於いて第四の句を非して、第三の句と為し、第三の句を非して第四の句と為す。また総じて四句を非して、合して一句を作して、互融無礙なるべし。これを思いて見つべし。)KHbekki-30L,31R

【33-02 染浄義 随染業幻】
 又問。随染業幻者。約善順真。可得成。若約不善善違真。如何作幻不善。答。不善違真。許亦不全幻不善。約生厭棄。約彼生解。亦得幻不善。亦可染幻是無明。無体無真用。約彼無明差別。知名義。能詮理。詮於真故。得幻染也。又約彼無明幻体本是無。以是無故無真用。約彼知名義。是幻体不離真。KHbekki-31R,31L
  (また問う。随染業幻とは、善に約するに、真に順じて成ずることを得べし。もし不善に約せば善は真に違す。如何が幻不善を作らんや。答う。不善は真に違すれば、また全幻不善ならずと許す。厭棄を生ずるに約す。彼の生解に約せば、また幻不善を得。また染幻はこれ無明無体にして真用なかるべし。彼の無明差別して名義を知るに約せば、能く理を詮し、真を詮するが故に、幻染を得るなり。また彼の無明幻の体は本これ無なるに約して、これ無なるを以ての故に真用なし。彼の名義を知るに約せば、これ幻体、真を離せず。)KHbekki-31R,31L

【33-03 染浄義 三細六麁】
 又三細六麁。応作四句。一唯浄。謂如来蔵中恒沙徳。即四智也。二唯染。謂麁中執取計名字等四識。三非染非浄。謂離言真如。四亦染亦浄故。謂智相相続相。亦染故。智相等通在六識等中。亦浄故。智相等有漸覚義。KHbekki-31L
  (また三細六麁、応に四句を作すべし。一は唯浄。謂く、如来蔵の中の恒沙の徳、即ち四智なり。二は唯染。謂く、麁の中の執取・計名字等の四識なり。三は非染非浄。謂く、離言真如なり。四は亦染亦浄の故に、謂く、智相・相続相なり。亦染なるが故に、智相等は通じて六識等の中に在り。亦浄なるが故に、智相等に漸覚の義あり。)KHbekki-31L

【33-04 染浄義 三細六麁】
 又約三細六麁相配者。一阿頼耶識中如来蔵真本覚唯浄。二根本無明不覚唯染。三亦染亦浄。謂六麁通有始覚及支末無明。四非染非浄者。謂一切共離。又交絡作四句。一謂三細中取一本覚。及六麁中取枝末無明。二謂三細取本不覚。及六麁中取始覚。三謂三細双取本覚本不覚。四謂六麁中双取始覚及支末無明。KHbekki-31L,32R
  (また三細六麁に約して相配せば、一は阿頼耶識の中の如来蔵真本覚は唯浄なり。二は根本無明不覚は唯染なり。三は亦染亦浄。謂く、六麁は通じて始覚及び支〈枝か?〉末無明あり。四は非染非浄とは、謂く一切共に離る。また交絡して四句を作せば、一は謂く、三細の中に一本覚を取り、及び六麁の中に枝末無明を取る。二は謂く、三細は本不覚を取り、及び六麁の中に始覚を取る。三は謂く、三細は双べて本覚と本不覚を取る。四は謂く、六麁の中に双べて始覚及び支〈枝か?〉末無明を取る。)KHbekki-31L,32R

【34-01 如来蔵二門分別】
 第三十四。如来蔵。二門分別。一者喩説。二法説。言喩説者。旦如金性有二義。一随縁成器調柔義。二守性堅住不改義。KHbekki-32R
  (第三十四。如来蔵を二門分別するに、一は喩説、二は法説。喩説というは、旦く金性に二義あるが如し。一は随縁成器調柔の義。二は守性堅住、不改の義。)KHbekki-32R

【34-02 如来蔵二門分別 喩説 金・器】
 問。金是有耶。答。不也。何以故。随縁成器故。問。金是無耶。答。不也。何以故。性不改故。又問。亦有亦無耶。答。不也。一金故。不相違故。又問。非有非無耶。答。不也。金性具徳故。随縁不改故。即是顕徳門也。KHbekki-32R
  (問う。金はこれ有なりや。答う。不なり。何を以ての故に。随縁成器の故に。問う。金はこれ無なりや。答う。不なり。何を以ての故に。性は不改の故に。また問う。亦有亦無なりや。答う。不なり。一金の故に。不相違の故に。また問う。非有非無なりや。答う。不なり。金性具徳の故に。随縁不改の故に。即ちこれ顕徳門なり。)KHbekki-32R

【34-03 如来蔵二門分別 喩説 金・器】
 又問。器是有耶。答。不也。由器即金故。又問。器是無耶。答。不也。由器成故。又問。亦有亦無耶。答。不也。由是一器故。不相違故。又問。是非有非無耶。答。不也。由成器即金故。亦返即是顕徳門。KHbekki-32R,32L
  (また問う。器はこれ有なりや。答う。不なり。器は即ち金なるに由るが故に。また問う。器はこれ無なりや。答う。不なり。器成ずるに由るが故に。また問う。亦有亦無なりや。答う。不なり。これ一器なるに由るが故に。不相違の故に。また問う。これ非有非無なりや。答う。不なり。成器は即ち金なるに由るが故に。また返りて即ちこれ顕徳門なり。)KHbekki-32R,32L

【34-04 如来蔵二門分別 喩説 金・器】
 又問。金是無耶。答。不也。由成器故。所以然者。由性不改。方能随縁故也。又問。金是有耶。答。不也。由性不改故。所以然者。由成器故。性方不改也。又問。亦有亦無耶。答。不也。由是金故。又問。非有非無耶。答。不也。由是金故。KHbekki-32L,33R
  (また問う。金はこれ無なりや。答う。不なり。成器に由るが故に。然る所以は、性不改に由りて、方に能く随縁するが故なり。また問う。金はこれ有なりや。答う。不なり。性不改に由るが故に。然る所以は、成器に由るが故に、性は方に不改なり。また問う。亦有亦無なりや。答う。不なり。これ金なるに由るが故に。また問う。非有非無なりや。答う。不なり。これ金なるに由るが故なり。)KHbekki-32L,33R

【34-05 如来蔵二門分別 喩説 金・器】
 又問。器是有耶。答。不也。由器成故。所以然者。由即金故。器方成也。問。器是有耶。答。不也。由器即金故。所以然者。由器即金。器方成也。余句准也。返即顕徳門。余一切准例知之。KHbekki-33R
  (また問う。器はこれ有なりや。答う。不なり。器成に由るが故に。然る所以は、即ち金なるに由るが故に、器は方に成ずるなり。問う。器はこれ有なりや。答う。不なり。器は即ち金なるに由るが故に。然る所以は、器は即ち金なるに由りて器は方に成ずるなり。余の句は准ずるなり。返りて即ち顕徳門なり。余の一切は准例してこれを知れ。)KHbekki-33R

【34-06 如来蔵二門分別 法説 如来蔵と生滅】
 第二法説。問。如来蔵是生耶。答。不也。由随染生死不顕現故。問。既不生。応滅耶。答。不也。由随染作生死故。問。亦生亦滅耶。答。不也。由蔵性無二故。問。非生非滅耶。答。不也。由蔵性具徳故。KHbekki-33R
  (第二に法説。問う。如来蔵はこれ生なりや。答う。不なり。随染に由りて生死して顕現せざるが故に。問う。既に不生。応に滅すべきや。答う。不なり。随染に由りて生死と作るが故に。問う。亦生亦滅なりや。答う。不なり。蔵の性は無二なるに由るが故に。問う。非生非滅なりや。答う。不なり。蔵の性に具徳するに由るが故に。KHbekki-33R

【34-07 如来蔵二門分別 法説 生死と真如】
 問。生死是生耶。答。不也。由即真如。応滅耶。答。不也。由即真如。生死成故。経云依如来蔵有生死。故知不滅。問。亦生亦滅耶。答。不也。由生死縁成無二故。問。非生滅耶。答。不也。由生死虚妄。依真如成故。真妄相作。真如不生。由随染故。生死不滅。依真成故。生死不生。由即真故。真如不滅。由性不改故。真如是生。由随縁作生死故。真如是滅。由随縁不現故。真如亦生滅。由具違順性故。経云。如来蔵者。受苦楽。与因倶。若生若滅。又云。一切法不生。我説刹那義。又云。不生不滅。是無常義等。准思之。真非生非滅。何以故。性離分別故。不同所謂故。KHbekki-33R,33L
 問う。生死はこれ生なりや。答う。不なり。即ち真如に由る。応に滅すべきや。答う。不なり。即ち真如に由りて生死成ずるが故に。経に云く「如来蔵に依りて生死あり」。故に知りぬ不滅なり。問う。亦生亦滅なりや。答う。不なり。生死縁成無二なるに由るが故に。問う。非生滅なりや。答う。不なり。生死虚妄は真如に依りて成ずるに由るが故に、真妄相い作す。真如は不生なり。随染に由るが故に。生死は不滅なり。真に依りて成ずるが故に。生死は不生なり。即ち真なるに由るが故に。真如は不滅なり。性不改に由るが故に。真如はこれ生なり。随縁に由りて生死を作すが故に。真如はこれ滅なり。随縁に由りて現ぜざるが故に。真如はまた生滅なり。違順の性を具するに由るが故に。『経〈大乗入楞伽経〉』に云く「如来蔵とは苦楽を受く。因と倶に、もしは生じ、もしは滅す」。また〈『楞伽阿跋多羅宝経』〉云く「一切法は不生なり。我、刹那の義を説く」。また〈『維摩詰所説経』〉云く「不生不滅はこれ無常義」等と。准じてこれを思え。真は非生非滅なり。何を以ての故に。性は分別を離るるが故に。所謂に同ぜざるが故に。)KHbekki-33R,33L

【35-01 四謗章 増益謗・損成謗・相違謗・戯論謗】
 第三十五。四謗章。(四謗者。凡夫迷因縁故起。一者増益謗。二者損成謗。三者相違謗。四者戯論謗。)KHbekki-33L
  (第三十五。四謗章。〈四謗とは、凡夫、因縁に迷うが故に起こる。一には増益謗、二には損成謗、三には相違謗、四には戯論謗なり。〉)KHbekki-33L

【35-02 四謗章 増益謗】
 言増益謗者。夫論一切諸法。従因縁生。無作者故。作時不住。無自性故。非分別所及。諸法之性如是。不可取著。然凡夫二乗。諸法生時。即執為有。但因縁之法。其性離有。離有法上。執言有者。不称理故。名増益謗。KHbekki-33L,34R
  (増益謗というは、それ一切諸法を論ずるに、因縁より生ず。作者なきが故に、作時不住なり。自性なきが故に、分別の及ぶ所にあらず。諸法の性はかくの如し。取著すべからず。然るに凡夫二乗は、諸法の生ずる時に即ち執して有となす。但し因縁の法は、その性、有を離る。離有の法の上に執して有というは、理に称わざるが故に増益謗と名づく。)KHbekki-33L,34R

【35-03 四謗章 損成謗】
 有既成謗。無応合理。義亦不然。因縁之法性雖有。然縁起現前。不可言無。於非無法上。執言無者。不応理故。名損成謗。KHbekki-34R
  (有は既に謗を成ず。応に理に合すべきことなし。義また然らず。因縁の法性は有なりといえども、然るに縁起現前す。無というべからず。非無の法の上に於いて、執して無というは、理に応ぜざるが故に損成謗と名づく。)KHbekki-34R

【35-04 四謗章 相違謗】
 有無既是其過。亦有亦無応是道理。即答。因縁是一法。性不相違。不相違者。名因縁法。亦有亦無其性相違。之法。即非因縁。非因縁故。相違謗也。KHbekki-34R
  (有無は既にこれその過なり。亦有亦無は応にこれ道理なるべし。即ち答う。因縁はこれ一法なり。性は相違せず。相違せざれば因縁法と名づく。亦有亦無はその性相違す。この法は即ち因縁にあらず。因縁にあらざるが故に相違謗なり。)KHbekki-34R

【35-05 四謗章 戯論謗】
 既亦有亦無是違法。不称実見。非有非無応与理合。即答言。夫論道理。約因縁以顕。非有非無。乃是因縁之外。不応道理。戯弄諸法。名戯論謗。夫論有所分別。与取捨相応者。皆是情計。不応実理。離意絶相。名為中道。故経云。因縁之法。離有離無也。KHbekki-34R,34L
  (既に亦有亦無はこれ違法なり。実見に称わず。非有非無は応に理と合すべし。即ち答えて言く。それ道理を論ずれば、因縁に約して以て顕す。非有非無は乃ちこれ因縁の外なり。道理に応ぜず。諸法を戯弄すれば戯論謗と名づく。それ分別する所ありて、取捨と相応することを論ずれば、皆これ情計なり。実理に応ぜず。意を離れ相を絶すれば名づけて中道と為す。故に経に云く「因縁の法は有を離れ無を離るるなり」。)KHbekki-34R,34L

 大乗起信論別記