六要鈔会本 第5巻の(9の内)
 信の巻
 重釈要義
  抑止文釈
   難治機
    引文 『涅槃経』「現病品」「梵行品」
◎=親鸞聖人『教行信証』の文。
〇=存覚『六要抄』の文
『教行信証六要鈔会本』 巻五之六

 ◎夫仏説難治機
 ◎それ仏、難治の機を説きて、SIN:SYOZEN2-81/HON-251,HOU-364

 ◎涅槃経言。迦葉世有三人。其病難治。一謗大乗。二五逆罪。三一闡提。如是三病。世中極重。悉非声聞縁覚菩薩之所能治。善男子。譬如有病必死無治。若有瞻病随意医薬若無瞻病随意医薬。如是之病定不可治。当知是人必死不疑。善男子。是三種人亦復如是。従仏菩薩得聞治已。即便能発阿耨多羅三藐三菩提心。若有声聞・縁覚・菩薩。或有説法或不説法。不能令其発阿耨多羅三藐三菩提心。已上。
 ◎『涅槃経』(現病品)に言わく、迦葉、世に三人あり、その病治しがたし。一には謗大乗、二には五逆罪、三には一闡提なり。かくのごときの三病、世の中に極重なり。ことごとく声聞・縁覚・菩薩のよく治するところにあらず。善男子、たとえば病あれば必ず死するに治することなからんに、もし瞻病随意の医薬あらんがごとし。もし瞻病随意の医薬なくは、かくのごときの病、定んで治すべからず。当に知るべし。この人必ず死せんこと疑わずと。善男子、この三種の人、またかくのごとし。仏・菩薩に従いて聞治を得已りて、すなわちよく阿耨多羅三藐三菩提心を発せん。もし声聞・縁覚・菩薩ありて、あるいは法を説き、あるいは法を説かざるあらん、それをして阿耨多羅三藐三菩提心を発せしむることあたわずと。已上。SIN:SYOZEN2-81/HON-251,252,HOU-364,365

 ◎又言。爾時王舎大城阿闍世王。其性弊悪。善行殺戮。具口四悪貪恚愚癡。其心熾盛。乃至。而為眷属。貪著現世五欲楽故。父王無辜横加逆害。因害父已〈己〉心生悔熟〈熱〉。乃至。心悔熱故遍体生瘡。其瘡臭穢不可附近。尋自念言。我今此身已受華報。地獄果報将近不遠。爾時其母韋提希后。以種種薬而為塗之。其瘡遂増無有降損。王即白母。如是瘡者従心而生。非四大起。若言衆生有能治者。無有是処。
 ◎(涅槃経・梵行品)また言わく、その時に、王舎大城に阿闍世王あり。その性弊悪にしてよく殺戮を行ず。口の四悪、貪、恚、愚痴を具して、その心熾盛なり。乃至。しかるに眷属のために現世の五欲の楽に貪着するがゆえに、父の王辜なきに横に逆害を加す。父を害し已わるに因りて、心に悔熟を生ず〈父を害するに因りて、己が心に悔を生ず〉。乃至。心悔熟〈熱〉するがゆえに、遍体に瘡を生ず。その瘡臭穢にして附近すべからず。すなわち自ら念言すらく、我今この身にすでに華報を受けたり、地獄の果報、将に近づきて遠からずとす。その時に、その母韋提希后、種種の薬をもってためにこれを塗る。その瘡ついに増せども降損あることなし。王すなわち母に白さく、かくのごときの瘡は、心よりして生ぜり。四大より起これるにあらず。もし衆生よく治することありと言わば、この処あることなけん。SIN:SYOZEN2-81/HON-252,HOU-365-

 ◎時有大臣。名日〈曰〉月称。往至王所。在一面立白言。大王何故愁悴顔容不悦。為身痛邪。為心痛乎。王答臣言。我今身心豈得不痛。我父無辜横加逆害。我従智者曽聞是義。世有五人不脱地獄。謂五逆罪。我今已有無量無辺阿僧祇罪。云何身心而得不痛。又無良医治我身心。
 ◎(涅槃経・梵行品)時に大臣あり、日月称と名づく〈名づけて月称と曰う〉。王の所に往至して、一面にありて立ちて白して言さく、大王、何がゆえぞ愁悴して顔容悦ばざる。身痛とせんや、心痛とせんや。王、臣に答えて言わまく、我今身心あに痛まざることを得んや。我が父辜なきに、横に逆害を加す。我智者に従いて、かつてこの義を聞きき。世に五人あり、地獄を脱れずと。いわく五逆罪なり。我今すでに無量・無辺・阿僧祇の罪あり。いかんぞ身心をして痛まざることを得んや。また良医の我が身心を治せんものなけんと。SIN:SYOZEN2-81,82/-HON-252,HOU-365,366-

 ◎臣言大王。莫大愁苦。即説偈言。若常愁苦愁遂増長。如人喜眠眠則滋多。貪婬嗜酒亦復如是。如王所言。世有五人不脱地獄。誰往見之来語王邪。言地獄者。直是世間多智者説。如王所言。世無良医治身心者。今有大医名富闌那。一切智見得自在。定畢竟修習清浄梵行。常為無量無辺衆生。演説無上涅槃之道。為諸弟子説如是法。無有黒業無黒業報。無有白業無白業報。無黒白業無黒白業報。無有上業及以下業。是師今在王舎城中。惟願大王屈駕往彼。可令是師療治身心。時王答言。審能如是滅除我罪。我当帰依。
 ◎(涅槃経・梵行品)臣、大王に言さく、大きに愁苦することなかれと。すなわち偈を説きて言わく、もし常に愁苦せば、愁ついに増長せん。人、眠を喜めば、眠すなわち滋く多きがごとし。淫を貪し酒を嗜むも、またかくのごとしと。王の言うところのごとく、世に五人あり、地獄を脱れずとは、誰か往きてこれを見て、来りて王に語るや。地獄と言うは、直ちにこれ世間に多し、智者説かく、王の言うところのごとし、世に良医の身心を治する者なけん。今、大医あり、富闌那と名づく。一切知見して自在定を得たり。畢竟じて清浄梵行を修習して、常に無量無辺の衆生のために、無上涅槃の道を演説す。もろもろの弟子のために、かくのごときの法を説けり、黒業あることなければ黒業の報なし。白業あることなければ白業の報なし。黒白の業なければ黒白の業報なし。上業および下業あることなしと。この師いま、王舎城の中にいます。やや願わくは大王、駕を屈〈崛〉して彼に往け、この師をして身心を療治せしむべしと。時に王、答えて言わまく、審かによくかくのごとき我が罪を滅除せば、我当に帰依すべしと。SIN:SYOZEN2-82/-HON-252,253,HOU-366-

 ◎復有一臣名曰蔵徳。復往王所而作是言。大王何故面貌憔悴。屑〈唇〉口乾[シャ02]音声微細。乃至。何所苦為身痛邪為心痛乎。王即答言。我今身心云何不痛。我之癡盲無有慧目近諸悪友。而為善随提婆達多悪人之言。正法之王横加逆害。我昔曽聞智人偈説。若於父母仏及弟子。生不善心起於悪業。如是果報在阿鼻獄。以是事故令我心怖生大苦悩。又無有良医而見救療。
 ◎(涅槃経・梵行品)またひとりの臣あり、名づけて蔵徳と曰う。また王の所へ往きて、しかもこの言を作さく、大王、何がゆえぞ面貌憔悴して、屑〈唇〉口乾[シャ02]し、音声微細なるやと。乃至。何の苦しむるところあって、身痛とせんや、心痛とせんやと。王すなわち答えて言わく、我今身心いかんぞ痛まざらん。我これ痴盲にして慧目あることなし。もろもろの悪友に近づきて、ためによく提婆達多悪人の言に随いて、正法の王に横に逆害を加す。我昔かつて、智人の偈説を聞く。もし父母仏および弟子において、不善の心を生じ、悪業を起こさん。かくのごときの果報、阿鼻獄にありと。この事をもってのゆえに、我が心怖れて大苦悩を生ぜしむ。また良医ありて救療せらるることなけんと。SIN:SYOZEN2-82/-HON-253,254,HOU-366,367-

 ◎大臣復言。惟願大王且莫愁怖。法有二種。一者出家。二者王法。王法者。謂害其父。則王国土雖云是逆実無有罪。如迦羅羅虫要壊母腹然後乃生。生法如是。雖破母身実亦無罪。騾腹懐妊等亦復如是。治国之法。法応如是。雖殺父兄実無有罪。出家法者。乃至蚊蟻殺亦有罪。乃至。如王所言。世無良医治身心者。今有大師名末伽梨拘[シャ02]梨子。一切知見。隣愍衆生猶如赤子。已離煩悩能抜衆生三毒利箭。乃至。是師今在王舎大城惟願大王。往至其所。王若見者。衆罪消滅。時王答言。審能如是滅除我罪。我当帰依。
 ◎(涅槃経・梵行品)大臣また言わく、やや願わくは大王、しばらく愁怖することなかれ。法に二種あり、一には出家、二には王法なり。王法は、いわく、その父を害すれば、すなわち国土に王たるなり。これ逆なりと云うといえども、実に罪あることなし。迦羅羅虫のかならず母の腹を壊〈やぶ〉りて、しかして後にすなわち生ずるがごとし。生の法かくのごとし。母の身を破るといえども、実にまた罪なし。騾腹懐妊等またかくのごとし。治国の法、法としてかくのごとくなるべし。父兄を殺すといえども、実に罪あることなけん。出家の法は、乃至蚊蟻を殺するにまた罪あり。乃至。王の言うところのごとし、世に良医の身心を治する者なけんと。いま大師あり、末伽梨拘[シャ02]梨子と名づく。一切知見、衆生を憐愍すること、なおし赤子のごとし。すでに煩悩を離れて、よく衆生の三毒の利箭を抜く。乃至。この師、今、王舎大城にいます。やや願わくは大王、その所に往至したまえ。王もし見たまえば衆罪消滅せんと。時に王答えて言わく、審かによくかくのごとく我が罪を滅除せば、我まさに帰依すべしと。SIN:SYOZEN2-82,83/-HON-254,HOU-367-

 ◎復有一臣名曰実徳。復到王所即説偈言。大王何故身脱瓔珞。首髮蓬乱乃至如是。乃至。為是心痛邪為身痛邪。王即答言。我今身心豈得不痛。我父先王慈愛仁惻。特見矜念。実無辜咎。往問相師。相師答言。是兒生已。定当害父。雖聞是語。猶見瞻養。曽聞智者作如是言。若人通母。及汚比丘尼。偸僧祇物。殺発無上菩提心人。及殺其父。如是之人必定当堕阿鼻地獄。我今身心豈得不痛。
 ◎(涅槃経・梵行品)またひとりの臣あり、名づけて実徳と曰う。また王の所に到りて、すなわち偈を説きて言わく、大王、何がゆえぞ、身、瓔珞を脱ぎ、首〈こうべ〉の髪蓬乱せる。乃至かくのごとくなるやと。乃至。これ心痛とやせん、身痛とやせん。王すなわち答えて言わく、我いま身心あに痛まざることを得んや。我が父先王、慈愛仁惻して特に矜念せらる。実に辜なきに、往きて相師に問うに、相師答えて言さく、この児生まれ已らば定んで当に父を害すべしと。この語を聞くといえどもなお瞻養せらる。むかし智者のかくのごときの言を作ししことを聞きき。もし人、母と通じ、および比丘尼を汚し、僧祇物を偸み、無上菩提心を発せる人を殺し、およびその父を殺せん。かくのごときの人は、必定して当に阿鼻地獄に堕すべしと。我今身心あに痛まざることを得んや。SIN:SYOZEN2-83/-HON-254,255,HOU-367,368-

 ◎大臣復言。惟願大王且莫愁苦。乃至。一切衆生皆有余業。以業縁故数数受生死。若使先生有余業者。王今殺之。竟有何罪。惟願大王寛意莫愁。何以故。若常愁苦。愁遂増長。如人喜眠眠則滋多。貪婬嗜酒亦復如是。乃至。刪闍耶毘羅肱子。
 ◎(涅槃経・梵行品)大臣また言わく、やや願わくは大王、また愁苦することなかれと。乃至。一切衆生にみな余業あり。業縁をもってのゆえにしばしば生死を受く。もし先生に余業有らしめば、王今これを殺さんに、竟に何の罪かあらん。やや願わくは大王、意を寛〈ゆたか〉にして愁うることなかれ。何をもってのゆえに、もし常に愁苦すれば、愁ついに増長す。人、眠を喜〈この〉めば、眠すなわち滋く多きがごとし。淫を貪し酒を嗜むも、またかくのごとし。乃至。刪闍耶〈邪〉毘羅胝子。SIN:SYOZEN2-83/-HON-255,HOU-368-

 ◎復有一臣名悉知義。即至王所作如是言。乃至。王即答言。我今身心豈得無痛。乃至。先王無辜。横興逆害。我亦曽聞智者説言。若有害父。当於無量阿僧祇劫受大苦悩。我今不久必堕地獄。又無良医救療我罪。
 ◎(涅槃経・梵行品)またひとりの臣あり、悉知義と名づく。すなわち王の所に至りて、かくのごときの言を作さく。乃至。王すなわち答えて言わまく、我今身心あに痛みなきことを得んや。乃至。先王、辜なきに、横に逆悪を興ず。我またむかし智者の説きて言いしを聞きき。もし父を害することあれば、当に無量阿僧祇劫において、大苦悩を受くべしと。我今久しからずして、必ず地獄に堕せん。また良医の我が罪を救療することなけんと。SIN:SYOZEN2-83,84/-HON-255,HOU-368-

 ◎大臣即言。惟願大王放捨愁苦。王不聞邪。昔者有王名曰羅摩。害其父已得紹王位。跋提大王・毘楼真王・那[ゴ02]沙王・迦帝迦王・毘舎[キャ02]王・月光明王・日光明王・愛王・持多人王。如是等王皆害其父得紹王位。然無一王入地獄者。於今現在毘瑠璃王・優陀邪王・悪性王・鼠王・蓮華王。如是等王皆害其父。悉無一王生愁悩者。雖言地獄餓鬼天中。誰有見者。大王唯有二有。一者人道。二者畜生。雖有是二。非因縁生非因縁死。若非因縁。何者有善悪。惟願大王勿懐愁怖。何以故。若常愁苦。愁遂増長。如人喜眠眠則滋多。貪婬嗜酒亦復如是。乃至。阿耆多翅金欽婆羅。乃至。
 ◎(涅槃経・梵行品)大臣すなわち言さく、やや願わくは大王、愁苦を放捨せよ。王聞きたまわずや、むかし王ありき、名づけて羅摩と曰いき。その父を害し已りて王位を紹ぐことを得たりき。跋提大王・毘楼真王・那[ゴ02]沙王・迦帝迦王・毘舎[キャ02]王・月光明王・日光明王・愛王・持多人王、かくのごときらの王、みなその父を害して王位を紹ぐことを得たりき。しかるにひとりとして王の地獄に入る者なし。いま現在に、毘瑠璃王・優陀耶王・悪性王・鼠王・蓮華王、かくのごときらの王、みなその父を害せりき。ことごとくひとりとして王の愁悩を生ずる者なし。地獄・餓鬼・天中と言うといえども、誰か見る者あるや。大王、ただ二つの有あり、一には人道、二には畜生なり。この二ありといえども、因縁生にあらず、因縁死にあらず。もし因縁にあらずは、何者か善悪あらん。やや願わくは大王、愁怖を懐くことなかれ。何をもってのゆえに、もし常に愁苦すれば、愁ついに増長す。人、眠を喜めば、眠すなわち滋く多きがごとし。淫を貪し酒を嗜むも、またかくのごとしと。乃至。阿耆多翅舎欽婆羅。乃至。SIN:SYOZEN2-84/HON-255,256,HOU-368,369-

 ◎復有大臣名曰吉徳。乃至。言地獄者。為有何義。臣当説之。地者名地。獄者名破。破於地獄無有罪報。是名地獄。又復地者名人。獄者名天。以害其父故到人天。以是義故。婆蘇仙人唱言。殺羊得人天楽。是名地獄。又復地者名命。獄者名長。以殺彼寿命長〈以殺生故得寿命〉故名地獄。大王是故当知実無地獄。大王如種麦得麦。種稲得稲。殺地獄者還得地獄。殺害於人応還得人。大王今当聴臣所説実無殺害。若有我者。実亦無害。若無我者。復無所害。何以故。若有我者。常無変易。以常住故不可殺害。不破・不壊・不繋・不縛・不瞋・不喜猶如虚空。云何当有殺害之罪。若無我者。諸法無常。以無常故念念壊滅。念念滅故殺者・死者皆念念滅。若念念滅。誰当有罪。大王如火焼木。火則無罪。如斧斫樹。斧亦無罪。如鎌刈草。鎌実無罪。如刀殺人。刀実非人。刀既無罪。人云何罪。如毒殺人。毒実非人。毒薬非罪人。云何罪。一切万物皆亦如是。実無殺害。云何有罪惟願大王莫生愁苦。何以故。若常愁苦。愁遂増長。如人喜眠眠則滋多。貪婬嗜酒亦復如是。今有大師名迦羅鳩駄迦旃延。乃至。
 ◎(涅槃経・梵行品)また大臣あり、名づけて吉徳と曰う。乃至。地獄と言うは、何の義ありとせん。臣当にこれを説くべし。地は地に名づく、獄は破に名づく。地獄を破せん、罪報あることなけん。これを地獄と名づく。また地は人に名づく、獄は天に名づく。その父を害するをもってのゆえに、人天に到らん。この義をもってのゆえに、婆蘇仙人唱えて言わく、羊を殺して人天の楽を得、これを地獄と名づく。また地は命に名づく、獄は長に名づく。彼の寿命の長を殺すをもっての故に〈殺生をもっての故に寿命の長を得るが故に〉地獄と名づく。大王、このゆえに当に知るべし、実に地獄なしということを。大王、麦を種えて麦を得、稲を種えて稲を得るがごとし。地獄を殺さば、還りて地獄を得ん。人を殺害しては、まさに還りて人を得べし。大王、今まさに臣の所説を聴くに、実に殺害なかるべし。もし有我ならば実にまた害けん。もし無我ならばまた害するところなけん。何をもってのゆえに。もし有我ならば常にして変易なし。常住をもってのゆえに、殺害すべからず。不破・不壊・不繋・不縛・不瞋・不喜は、虚空のごとし。いかんぞ当に殺害の罪あるべき。もし無我ならば、諸法無常なり。無常をもってのゆえに、念念に壊滅すべし。念念に滅するがゆえに、殺者・死者、みな念念に滅すべし。もし念念に滅せば、誰かまさに罪あるべき。大王、火の木を焼くに、火すなわち罪なきがごとし。斧の樹を斫るに、斧また罪なきがごとし。鎌の草を刈るに、鎌実に罪なきがごとし。刀の人を殺すに、刀実に人にあらず、刀すでに罪なきがごとし。人、いかんぞ罪あらんや。毒、人を殺す、毒実に人にあらず。毒薬、罪にあらざるがごとし。人、いかんぞ罪あらんや。一切万物、みなまたかくのごとし。実に殺害なけん。いかんぞ罪あらんや。やや願わくは大王、愁苦を生ずることなかれ。何をもってのゆえに、もし常に愁苦せば、愁ついに増長せん。人、眠を喜めば、眠すなわち滋く多きがごとし。淫を貪し酒を嗜むも、またかくのごとし。いま大師あり、迦羅鳩駄迦旃延と名づく。乃至。SIN:SYOZEN2-84,85/-HON-256,257,HOU-369,370-

 ◎復有一臣名無所畏。乃至。今有大師名尼乾陀若[ケン01]〈提〉子。乃至。
 ◎(涅槃経・梵行品)またひとりの臣あり、無所畏と名づく。乃至。いま大師あり、尼乾陀若[ケン01]〈提〉子」と名づく。乃至。SIN:SYOZEN2-85/-HON-257,HOU-370-

 ◎爾時大医。名曰耆婆。往至王所白言。大王得安眠不。王以偈答言。乃至。耆婆我今病重。於正法王興悪逆害。一切良医妙薬呪術善巧瞻病所不能治。何以故。我父法王如法治国。実無辜咎。横加逆害。如魚処陸。乃至。我昔曽聞智者説言。身口意業若不清浄。当知是人必堕地獄。我亦如是。云何当得安穏眠邪。今我又無無上大医。演説法薬除我病苦。
 ◎(涅槃経・梵行品)その時に大医あり、名づけて耆婆と曰う。往きて王の所に至りて、白して言さく、大王、安眠することを得んや、いなや。王、偈をもって答えて言わまく。乃至。耆婆、我今病重し。正法の王において悪逆の害を興こす。一切の良医の妙薬、呪術、善巧、瞻病の治することあたわざるところなり。何をもってのゆえに。我が父法王、法のごとく国を治めたまう。実に辜なし。横に悪逆を加す、魚の陸に処するがごとし。乃至。我昔かつて智者説きて言いしことを聞きき。身口意の業もし清浄ならざれば、当に知るべし、この人必ず地獄に堕せんと。我またかくのごとし。いかんぞ当に安穏に眠ることを得べきや。今我また無上の大医の、法薬を演説せんに、我が病苦を除くことなし。SIN:SYOZEN2-85/-HON-257,HOU-370-

 ◎耆婆答言。善哉善哉。王雖作罪。心生重悔而懐慚愧。大王。諸仏世尊常説是言。有二白法能救衆生。一慚。二愧。慚者自不作罪。愧者不教他作。慚者内自羞耻。愧者発露向人。慚者羞人。愧者羞天。是名慚愧。無慚愧者。不名為人。名為畜生。有慚愧故則能恭敬父母師長。有慚愧故説有父母兄弟姉妹。善哉大王。具有慚愧。乃至。如王所言。無能治者。大王当知。迦毘羅城浄飯王子。姓瞿曇氏。字悉達多。無師覚悟。自然而得阿耨多羅三藐三菩提。乃至。是仏世尊。有金剛智能破衆生一切悪罪。若言不能。無有是処。乃至。大王。如来有弟提婆達多。破壊衆僧。出仏身血。害蓮華比丘尼。作三逆罪。如来為説種種法要。令其重罪尋得微薄。是故如来為大良医。非六師也。乃至。大王。作一逆者則便具受如是一罪。若造二逆罪則二倍。五逆具者罪亦五倍。大王。今定知。王之悪業必不得免。惟願大王。速往仏所。除仏世尊余無能救。我今愍汝故相勧導。爾時大王聞是語已。心懐怖懼。挙身戦慓。五体掉動如芭蕉樹。仰而答曰。天為是誰。不現色像而但有声。大王吾是汝父頻婆沙羅。汝今当随耆婆所説。莫随邪見六臣之言。時聞已悶絶躄地。身瘡増劇。臭穢倍前。雖以冷薬塗治療瘡。瘡蒸毒熱但増無損。已上。略出。
 ◎(涅槃経・梵行品)耆婆、答えて言わく、善いかな、善いかな、王、罪を作すといえども、心に重悔を生じ慙愧を懐けり。大王、諸仏世尊常にこの言を説きたまわく、二つの白法ありて、よく衆生を救う。一には慙、二には愧なり。慙とは自ら罪を作らず、愧とは他を教えて作さしめず。慙は内に自ら羞恥す、愧とは発露して人に向かう。慙とは人に羞ず、愧とは天に羞ず。これを慙愧と名づく。無慙愧の者は名づけて人とせず、名づけて畜生とす。慙愧あるがゆえに、すなわちよく父母師長を恭敬す。慙愧あるがゆえに、父母兄弟姉妹あることを説く。善いかな大王、具に慙愧ありと。乃至。王の言うところのごとし、よく治する者なけん。大王、当に知るべし、迦毘羅城に浄飯王の子、姓は瞿曇氏、字は悉達多となづく。師なくして覚悟せり。自然にして阿耨多羅三藐三菩提を得たまえりと。乃至。これ仏世尊なり。金剛の智ましまして、よく衆生の一切の悪罪を破したまう。もしあたわずと言わば、この処あることなけんと。乃至。大王。如来、弟提婆達多あり。衆僧を破壊し、仏身より血を出だし、蓮華比丘尼を害す、三逆罪を作れり。如来ために種種の法要を説きたまうに、その重罪をしてすなわち微薄なることを得しめたまう。このゆえに如来を大良医とす、六師にあらざるなり。乃至。大王、一逆を作る者は、すなわち具にかくのごとく一罪を受く。もし二逆罪を造らば、すなわち二倍ならん。五逆具ならば、罪もまた五倍ならんと。大王、今定んで知りぬ。王の悪業、必ず免るることを得じ。やや願わくは、大王、速やかに仏の所に往きたまえ。仏世尊を除きて余は、よく救うことなけん。我今汝を愍れむがゆえに、あい勧めて導くなりと。その時に大王、この語を聞き已りて、心に怖懼を懐けり。身を挙げて戦慄す、五体掉動して芭蕉樹のごとし。仰ぎて答えて曰わく、天、これ誰とかせん、色像を現ぜずしてただ声のみありていわく。大王、吾はこれ汝が父頻婆娑羅なり。汝今まさに耆婆が所説に随うべし。邪見六臣の言に随うことなかれと。時に聞き已りて、悶絶して地に躄〈たお〉る。身の瘡〈かさ〉増劇して、臭穢、前よりも倍〈まさ〉れり。冷薬をもって塗り、瘡を治療すといえども、瘡蒸〈あつか〉わし。毒熱ただ増せども損ずることなしと。已上略出。SIN:SYOZEN2-85,86/-HON-257,258,HOU-370,371-

 ◎一 大臣、名日〈曰〉月称、   名富闌那。
  一 大臣、日月称と名づく〈名づけて月称と曰う〉、  富闌那と名づく。SIN:SYOZEN2-86/HON-259,HOU-371

 ◎二 蔵徳、   名末伽利拘[シャ02]梨子。
  二 蔵徳、   末伽梨拘[シャ02]梨子と名づく。SIN:SYOZEN2-86/HON-259,HOU-371

 ◎三 有一臣、名曰実徳   名刪闍邪毘羅胝子。
  三 一臣あり、名づけて実徳と曰う   刪闍邪毘羅胝子と名づく。SIN:SYOZEN2-87/HON-259,HOU-372

 ◎四 有一臣、名悉知義   名阿耆多翅舎欽婆羅。
  四 一臣あり、悉知義と名づく   阿耆多翅舎欽婆羅と名づく。SIN:SYOZEN2-87/HON-259,HOU-372

 ◎五 大臣、名曰吉徳   婆蘇仙。
  五 大臣、名づけて吉徳と曰う、   婆蘇仙。SIN:SYOZEN2-87/HON-259,HOU-372

 ◎六 迦羅鳩駄迦旃延   名尼乾陀若[ケン01]子。
  六 迦羅鳩駄迦旃延   尼乾陀若提子と名づく。SIN:SYOZEN2-87/HON-259,HOU-372