『正信偈』三 資料 法蔵菩薩因位時 在世自在王仏所 覩見諸仏浄土因 国土人天之善悪 建立無上殊勝願 超発希有大弘誓 五劫思惟之摂受 重誓名声聞十方 「名号の世界」『曽我量深選集3』266頁  私は『大無量寿経』を読誦し、われの還相背景である所の、十方衆生の無明の闇夜に於 て、此闇夜の真実主観であつて、この闇の奥に、全くその姿を隠して居らせられる所の法 蔵菩薩がその救世の大使命を照顕せんがために、自然に燃す客観の方便相である所の師、 世自在王仏のみもとに於て、五劫の間師弟相対して沈思冥想せられし御姿を、いつも偲び まいらせるのである。  まことに五劫の思惟、五劫の深い沈黙、無始の闇夜と而してそれを照し破るべく理想の 自然界より応現せる化仏の光り、而してこの化仏の光りに照し現はされたる法身の菩薩の 影現、私共はこの照されたる夜の世界の神秘幽玄の光景を時にかすかに想念して、自己の 精神世界の内面の不可思議に驚異し歓喜せずには居られぬのである。  かくの如くして久しく一切衆生の無明の闇の裡に深き思惟に沈みつゝありし菩薩は、忽 然として思惟の座から起つて、永劫の旅に出でさせられた。かれの影現はかれの歩みであ る。かれは応現の化仏に発遣せられて正しく衆生の行の世界に影現したまひた。それ彼れ の本性内実はどこまでも隠れたる深き思惟の願心であるけれども、その隠れたる願力はそ の自然の本性として近く現実の衆生の行の上に影現せずに居られぬのであつた。 「名号の世界」『曽我量深選集3』266頁  現世の欲願の一切を挙げて、永遠の道に奉仕したる印度民族は生ながらにして自然の郷 土、いまだ生れざる理想の大宇宙に往生せんてふ大心願を抱き、その理想界を実現し、実 在の浄土を荘厳すべき大使命を自覚して居つた。「浄土の荘厳」は印度民族の終始一貫の 大行であつた。・・・  「浄土荘厳」の文字、何たる麗はしき、崇高なる言語であらう。専らこの一事の為めに 全民族の身命を捧げ、久しく亡国の民となれる彼の民族に向て、私共は感謝讃仰の辞がな いのである。・・・  而してこの菩薩行は単なる少数の賢善の人々の遊戯的の仕事ではない。十方衆生の全体 の事業である。大小善悪の一切の衆生、如来の本願力を憶念する時、彼等の一切の行業は 自然に悉く如来の願心海に流入して、名号海会中の波瀾となる。