『正信偈』五 資料 本願名号正定業 『正信偈大意』(真宗聖典 750頁)  「本願名号正定業」というは、第十七の願のこころなり。十方の諸仏にわが名をほめら れんとちかいましまして、すでにその願成就したまえるすがたは、すなわちいまの本願の 名号の体なり。これすなわち、われらが往生をとぐべき行体なりとしるべし。 正定業  「一心に阿弥陀仏の名号を専念すること、これを正定の業と名づける。なぜならば、阿 弥陀仏の願にかなうからである。」(善導大師 散善義・意)  「正定の業とはすなわちこれ仏の名を称するなり。称名はかならず生ずることを得。仏 の本願によるがゆえに」(選択集) 『観経』 下品下生 称名 かくのごときの愚人、命終の時に臨みて、善知識の、種種に安慰して、ために妙法を説き、 教えて念仏せしむるに遇わん。この人、苦に逼められて念仏するに遑あらず。善友告げて 言わく、「汝もし念ずるに能わずは、無量寿仏と称すべし」と。 第十七願(諸仏咨嗟の願)  たとい我、仏を得んに、十方世界の無量の諸仏、ことごとく咨嗟して、我が名を称せず んば、正覚を取らじ。 十七願成就文  十方恒沙の諸仏如来、みな共に無量寿仏の威神功徳の不可思議なることを讃歎したまう。 十一・十七・十八願成就文  仏、阿難に告げたまわく、「それ衆生ありてかの国に生ずれば、みなことごとく正定の 聚に住す。所以は何ん。かの仏国の中には、もろもろの邪聚および不定聚なければなり。 十方恒沙の諸仏如来、みな共に無量寿仏の威神功徳の不可思議なることを讃歎したまう。 あらゆる衆生、その名号を聞きて、信心歓喜せんこと、乃至一念せん。心を至し回向した まえり。かの国に生まれんと願ずれば、すなわち往生を得て不退転に住す。唯五逆と誹謗 正法とを除く。」 『選択集』  当に知るべし、上の諸行等を以て本願と為ば、往生を得る者は少なく往生せざる者は多 からむ。然れば則ち弥陀如来、法蔵比丘の昔平等の慈悲に催されて、普く一切を摂せむが 為に、造像起塔等の諸行を以て往生の本願と為たまはず。唯称名念仏一行を以て其の本願 と為たまえるなり。 正定業 『愚禿鈔』  またこの正のなかについて、また二種あり。  一つには、「一心に弥陀の名号を専念する、これを正定の業と名づく」(散善義・意) と。 二つには、「もし礼誦等によるはすなわち名づけて助業となす」(同)となり。 「行巻」(真宗聖典 189頁)  またいわく(選択集)「それすみやかに生死を離れんと欲わば、二種の勝法のなかに、 しばらく聖道門を閣きて、選んで浄土門に入れ。浄土門に入らんと欲わば、正・雑二行の なかに、しばらくもろもろの雑行を抛ちて、選んで正行に帰すべし。正行を修せんと欲わ ば、正・助二業のなかに、なお助業を傍らにして、選んで正定をもっぱらにすべし。正定 の業とはすなわちこれ仏の名を称するなり。称名はかならず生ずることを得。仏の本願に よるがゆえに」と。以上 『尊号真像銘文』(真宗聖典 521頁)  善導和尚云 「言南無者 即是帰命 亦是発願回向之義 言阿弥陀仏者 即是其行 以 斯義故必得往生」(玄義分)文  「言南無者」というは、すなわち帰命ともうすみことばなり。帰命はすなわち釈迦・弥 陀の二尊の勅命にしたがいて、めしにかなうともうすことばなり。このゆえに「即是帰命」 とのたまえり。  「亦是発願回向之義」というは、二尊のめしにしたごうて安楽浄土にうまれんとねがう こころなりとのたまえるなり。  「言阿弥陀仏者」ともうすは、「即是其行」となり。即是其行は、これすなわち法蔵菩 薩の選択本願なりとしるべしとなり。安養浄土の正定の業因なりとのたまえるこころなり。  「以斯義故」というは、正定の因なる、この義をもってのゆえにといえる御こころなり。 必はかならずという。得はえしむという。往生というは浄土にうまるというなり。かなら ずというは、自然に往生をえしむとなり。自然というは、はじめてはからわざるこころな り。 『尊号真像銘文』(真宗聖典 527頁)  比叡山延暦寺宝幢院黒谷源空聖人真像  「欲入浄土門」というは、浄土門にいらんとおもわば、というなり。  「正雑二行中 且抛諸雑行」というは、正雑二行ふたつのなかに、しばらくもろもろの 雑行をなげすてさしおくべしとなり。  「選応帰正行」というは、えらびて正行に帰すべしとなり。「欲修於正行 正助二業中  猶傍於助業」というは、正行を修せんとおもわば、正行助業ふたつのなかに助業をさし おくべしとなり。  「選応専正定」というは、えらびて正定の業をふたごころなく修すべしとなり。  「正定之業者 即是称仏名」というは、正定の業因は、すなわちこれ仏名をとなうるな り。正定の因というは、かならず無上涅槃のさとりをひらくたねともうすなり。  「称名必得生 依仏本願故」というは、御名を称するは、かならず安楽浄土に往生をう るなり。仏の本願によるがゆえなり、とのたまえり。