親鸞聖人  正 信 偈     意訳    (11)
龍樹菩薩 1

 釈迦如来楞伽山
 為衆告命南天竺
 龍樹大士出於世
 悉能摧破有無見
 宣説大乗無上法
 証歓喜地生安楽
意訳
 釈迦如来が楞伽山に滞在しておられたとき、法座につどう人びとに、次のように告げられた。
 私が涅槃に入った後、この世界は仏のない時代にはいる。しかし、南インドに龍樹大士が誕生せられ、有無の邪見をうち砕き、この上ない大乗の教えを説き開くであろう。
 龍樹大士は菩薩となって歓喜地のさとりを開き、阿弥陀仏の安楽浄土に生まれるであろうと。
書き下し文
釈迦如来、楞伽山にして、
衆のために告命したまわく、
南天竺に龍樹大士、世に出でて、
ことごとくよく有無の見を摧破せん。
大乗無上の法を宣説し、
歓喜地を証して安楽に生ぜんと。 
語句
龍樹大士=浄土真宗の七高僧のうちで第一番目の高僧。西暦一世紀ごろ南インドに誕生。
   大乗仏教を広められた。
有無の見=有の見と無の見。見は思想・考え方。有の見は、物事を実体的・固定的に見る思想。
   無の見は、虚無的な思想。龍樹菩薩はこの二つの考え方を批判し、空・中道を明らかにした。
大乗=大乗仏教。大きな乗り物のように、あらゆる人々を救い、涅槃・浄土へ導く教えであるから
   大乗仏教という。
歓喜地=菩薩の位である十地の第一番目を初歓喜地という。この位になった菩薩は、真理を
   体得した喜びに満ちることから歓喜地といわれる。
安楽=阿弥陀仏の浄土。