峠、もしくは夢の形見

 
 
詞・曲/下山田勝彦 
 
 
 
お空が1回転してみぞれの降るアスファルトに 俺も奴もほぼ同時に叩きつけられた
 
クロス・カウンターが炸裂した中で観た夢は まるで幾千の星が輝いてるようだった
 
 
 
放射冷却で透き通るほど寒い 冬の夜のことだった
 
2ヶ月後に卒業を控えて 俺達みんなで飲み明かし語り明かした
 
「一気飲み」で盛り上がっている仲間達の声の陰で
 
奴は酔い醒ましにと俺を外へ誘い出した
 
 
静寂 星空 田圃の中の道
 
遠くに2つ3つ 常夜灯の光
 
 
奴は真顔で夢を語った いつか本当にやりたいことは
 
人の心に希望や夢を与え続ける漫画書きになることだと
 
俺も自分の夢を打ち明けた いつか本当にやりたいことは
 
強い心を熱い想いを語り続ける詩人になってみせると
 
 
冷えた体に 奴と分けあって飲んだ缶コーヒーが
 
咽喉(のど)に胸に 温かだった
 
 
 
大学2年で奴は学校を辞めた 梅雨の明ける頃だった
 
誰にも理由(わけ)など話さないままで 奴はいつの間にかこの町に帰ってきていた
 
一足先に 社会という大きな渦の中に
 
奴は要領よく自分だけ まぎれこんでいた
 
 
就職活動もまともにしないまま 俺は無駄に時間を過ごしていた
 
夢に希望に学問に行き詰まり そのくせまだ夢の形見を抱きしめていた
 
頼るアテは何にもない だけれどもとりあえず
 
俺は夢に生きると恰好ばかりつけていた そんな頃にまた奴と二人で酒を酌み交わした
 
 
沈黙 憧憬 茨の峠道
 
二人の顔を照らす 赤提灯の光
 
 
奴は睨んで俺に吐き捨てた いいか自分に甘えていても
 
所詮夢など若気の幻 現実をしっかり見つめてみろと
 
俺も負けずに奴に言い返した いいかあんなに憧れていた
 
お前の夢を 熱い想いを 捨てちまってお前はそれでいいのかと
 
 
思わず俺は奴に向かって拳を振り上げてた
 
同時に奴のストレートが飛んできた
 
 
 
お空が1回転してみぞれの降るアスファルトに 俺も奴もほぼ同時に叩きつけられた
 
クロス・カウンターが炸裂した中で観た夢は まるで幾千の星が輝いてるようだった
 
 
 
俺は自分の小ささを知った とりあえず今やるべきことは
 
遠くを見すぎずただ一歩ずつ 歩き続けてまず自分を見つめることだと
 
 
着馴れぬスーツにネクタイを締めながら 部屋を出ようとして
 
ふと気が付けば ポストの中に投げ込まれていた奴からの厚い封筒
 
慌てて中を見てみれば 書き上げたばかりの漫画
 
奴の照れくさそうな文字が俺に語りかけた
 
 
「あの日俺は目が覚めた お前の心がうらやましかった
 
 とりあえずまた書いてみた まずお前が読んでくれ」
 
 
 
日溜まりを縫って椋鳥が飛ぶ いずこからかスミレの香り
 
俺は急に胸が熱くなった
 
 
嗚呼! 春爛漫
 
 
 

 
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