Swan 琵琶湖水鳥・湿地センターラムサール条約ラムサール条約を活用しよう第4回締約国会議

ラムサール条約

賢明な利用という概念を実行するための指針

第4回締約国会議(モントルー,スイス,1990年)における勧告4.10の附属書として採択.

日本語訳:「アジア湿地シンポジウム議事録」(1993年)より,了解を得て再録.

 英語   フランス語   スペイン語  (以上,条約事務局)



Note: The "wise use" principle inscribed in Article 3.1 of the Convention in 1971, and its definition and application by the Conference of the Contracting Parties, have been established and have evolved completely independently from the so-called "wise use movement" that has emerged in recent years in North America. The use of the same term does not necessarily indicate that there is a commonality of understanding and/or purpose.

[はじめに]

ラムサール条約の第3条1項は、「締約国は、登録簿に掲げられている湿地の保全を促進し及びその領域内の湿地をできる限り賢明に利用することを促進するため、計画を作成し、実施する」と定めている。

1987年5月27日から6月5日までカナダのレジャイナにおいて開かれた第三回締約国会議は、湿地の賢明な利用について次のように定義している(勧告3.3、勧告付属書):

「賢明な利用とは、生態系の自然特性を変化させないような方法で、人間のために湿地を持続的に利用することである。」

「持続的な利用とは、将来の世代の需要と期待に対して湿地が対応し得る可能性を維持しつつ、現在の世代の人間に対して湿地が継続的に最大の利益を生産できるように、湿地を利用することである。」

「生態系の自然特性とは、例えば、土壌、水、植物、動物及び栄養物のような、物理的、生物学的又は化学的な構成要素並びにそれらの相互関係のことである。」

賢明な利用に関する原則は、各締約国内にある登録指定湿地及びその他のすべての湿地、並びに、それらの湿地を支えている自然系に対して適用される。賢明な利用という概念は、湿地基本政策を策定し実施すること、及び、特定の湿地を賢明に利用することの両方を目的としている。これらの目的は、持続的な開発の不可分の一部でもある。

長期的には、すべての締約国が、それぞれの国における適切な手続きにしたがって策定された包括的な湿地基本政策を備えていることが望ましい。しかしながら、レジャイナ会議の「賢明な利用に関する検討部会」の報告書が表わしているように、湿地基本政策の策定には時間がかかるため、賢明な利用という概念を広めるための行動を直ちにとらなければならない。以下に示されている指針には、従って、包括的湿地基本政策に必要とされる要素及び緊急行動に必要とされる要素の両方が含まれている。

[湿地基本政策の策定]

湿地基本政策は、できる限り、それぞれの国の管轄下の湿地に関わる以下の項目に示されているすべての問題及び関連活動について定めるべきである:

1.制度及び組織を改善するための行動。これには、以下が含まれる:

(a) 湿地が保全されているか、また、湿地の重要性が事業計画手続きの中に十分組み込まれているかについて関係者による評価を確保するための制度を設定すること;

(b) 湿地の保全と持続的開発を確保するために、湿地及び関連する自然系に関わる事業の立案及び実行過程に多角的総合的な視点を組み込むための制度と手続きを設定すること。

2.立法及び行政政策に関する行動。これには、以下が含まれる:

(a) 湿地の保全に関わる既存の法令及び政策(補助金又は助成金などを含む)を再検討すること;

(b) 湿地の保全のために、適切な場合は、既存の重要な法令及び政策を適用すること;

(c) 必要な場合は、新たな立法及び政策を採用すること;

(d) 湿地資源の保全とその持続的な利用にかなう事業に対して開発基金を活用すること。

3.湿地とその価値に関する認識と関心を向上させるための行動。これには、以下が含まれる:

(a) 湿地基本政策を策定し実施するにあたって又は湿地の保全を図るにあたって、湿地政策、湿地の保全及びその賢明な利用に関する経験及び情報を国家間で交換すること;

(b) 賢明な利用の枠内において湿地が提供している機能や価値に関する政策決定者及び一般公衆の理解と関心を向上させること。それらの機能及び価値には、次のものが含まれる:

(c) 賢明な利用に関する伝統的手法を再検討し、また、代表的な湿地タイプ毎に賢明な利用のモデルとなるパイロット事業を行なうこと;

(d) 湿地保全のための行動及び政策の実施に必要とされる技能について関係者を訓練すること。

4.各国の管轄下に存するすべての湿地について現状評価を行ない、緊急対応順位を決めるための行動。これには、以下が含まれる:

(a) 湿地分類を含め、全国湿地目録を作成すること;

(b) 個々の湿地が果たしている機能と価値(上記3(b)参照)を確認し評価すること;

(c) 個々の湿地について、各締約国の必要と条件にしたがって、その保全・管理に対する対応順位を決めること。

5.特定の混地が抱える問題のための行動。これには、以下が含まれる:

(a) 湿地に影響を及ぼす恐れのある事業計画に、その立案時点から、環境上の評価が組み込まれること。それには、事業の実施承認の前に十分な環境影響評価を行なうこと、当該事業の実施中に継続的な評価を行なうこと、及び必要とされる環境措置を完全に実行することが含まれる。湿地に直接関わる事業だけに留まらず、その水源域における事業又は間接的に影響を及ぼす事業についても、環境上の考慮及び評価がおこなわれるべきである。それにあたっては、上記3(b)に示されている機能と価値が損なわれないよう特に注意すべきである;

(b) 湿地の自然要素の利用につき、過剰利用とならないよう規制すること;

(c) その地域の住民の参加の下に、また、彼らの要求を考慮の上で、管理計画を策定し、実施し、また、必要な場合は定期的に再検討すること;

(d) 国際的に重要であるとされた湿地をラムサール条約リストに登録指定すること;

(e) ラムサール条約リストの指定地であるか否かに関わらず、湿地に自然保護区を設定すること;

(f) 機能と価値を失ってきている湿地につきその復元を図ること。

[各国における緊急行動]

湿地基本政策が策定されているか否かに関わらず、その策定を促進するため、また、湿地の保全とその賢明な利用を効果的に実施するに際して遅れが生じないようにするために、各国は、直ちに、特定の行動に対して注意を払うべきである。

締約国は、上記の[湿地基本政策の策定]に含まれている行動の中から、それぞれの国の緊急性と条件に従い、必要とする行動を選択することが望ましい。例えば、締約国は、上記の1、2及び3項に示されているような制度的、法的又は教育的な措置をとることができ、また、同時に、同様に4項に示されているような目録作り又は科学調査を始めることができる。このように、制度的、法的又は教育的な措置は、科学的知見を分析しつつ作り上げていくことができる。

同じように、湿地基本政策が策定されるのを待たずに、湿地の腎明な利用を進めていこうと考える締約国は、その国の状況と必要に基づき、以下を行なうことができる

() 最も緊急に対応すべき事柄を確認すること;

() それらの事柄のいずれか一つ又は複数について必要とされる行動をとること;

() 最も緊急に行動を必要とする湿地を確認すること;

() それらの湿地のいずれか一カ所又は複数について以下の[特定の湿地における緊急行動]に従って必要とされる行動をとること。

[特定の湿地における緊急行動]

各国レベルでは、特定の湿地について湿地としての重要な価値の破壊又は減少を防ぐための緊急行動が求められることが多い。これらの行動は、必ず、上記5に示されている項目を含んでいるため、締約国は、各国の基本政策及び必要に応じて、その中から適切なものを選択すればよい。

重要な湿地に対して影響を及ぼす恐れのある事業計画が立案された場合はいつでも、湿地の賢明な利用を促進するために、以下のすべての行動がとられなければならない:

() 湿地に影響を及ぼす恐れのある事業計画に、その立案時点から、環境上の評価が組み込まれること。それには、事業の実施承認の前に十分な環境影響評価を行なうことが含まれる;

() 当該事業の実施中に継続的な評価を行なうこと;及び

() 必要とされる環境措置を完全に実行すること。

湿地に直接関わる事業だけに留まらず、その水源域における事業又は間接的に影響を及ぼす事業についても、環境上の考慮及び評価がおこなわれるべきである。それにあたっては、上記3(b)に示されている機能と価値が損なわれないよう特に注意すべきである。


[条約事務局原注:この指針は決議5.6で採択された附属書:ワイズユースの概念の実施に関する追加の手引きでさらに拡充された.]


「議事録」表紙

[英語原文:ラムサール条約事務局,1990.Ramsar Recommendation 4.10 Annex "Guidelines for the Implementation of the Wise Use Concept", July 1990, Convention on Wetlands (Ramsar, 1971). http://ramsar.org/key_guide_wiseuse_e.htm.]
[和訳:磯崎博司安藤元一名執芳博(編集).1993.アジアの湿地の賢明な利用をめざして.アジア湿地シンポジウム議事録,湿地の賢明な利用および国際協力のあり方にかかる報告書.財団法人 国際湖沼環境委員会,草津,285頁.より了解を得て再録,2004年,琵琶湖ラムサール研究会.]
[レイアウト:条約事務局ウェブサイト所載の当該英語ページに従う.]

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URL: http://www.biwa.ne.jp/%7enio/ramsar/cop4/key_guide_wiseuse_j.htm
Last update: 2007/04/24, Biwa-ko Ramsar Kenkyu-kai (BRK).