Swan 琵琶湖水鳥・湿地センターラムサール条約ラムサール条約を活用しよう第7回締約国会議

ラムサール条約 基本文書

国家湿地政策を策定し実施するためのガイドライン

日本語訳:日本弁護士連合会,2002年[許可を得て再録].

 英語   フランス語   スペイン語  (以上,条約事務局)    PDF  (536


「人と湿地:命のつながり」
"People and Wetlands: The Vital Link"
湿地条約(ラムサール,イラン,1971)
第7回締約国会議
1999年5月1018日 コスタリカ サンホセ

国家湿地政策を策定し実施するためのガイドライン

(ラムサール条約決議Ⅶ.6にて採択)

主編者:Clayton Rubec、寄稿者:David Pritchard, Paul Mafabi, Nadra Nathai-Gyan, Bill Phillips, Maryse Mahy, Pauline Lynch-Stewart, Roberta Chew, Gilberto Cintron, Joseph Larson, Sundari Ramakrishna

目次

.「湿地政策」への道をひらく

.国家湿地政策の策定

.政策文書の構成

.「政策」の実施

.文献

付属文書1:湿地政策策定のための優先事項

付属文書2:勧告6.9「国家湿地政策策定及び実施のための枠組み」

付属文書3:ラムサール条約締約国および地域による国家湿地政策と行動計画/戦略の要約

事例研究


ラムサール条約 国家湿地政策指針

1.国家湿地政策はラムサール条約のワイズユース概念を実施する際に期待される行動の中でも、鍵となる要素である。しかしながら、湿地の保全と管理を推進するための国家政策の枠組みを定め、具体的に策定し、実施することは、この(イランのラムサールにおいて1971年に採択された)「湿地条約」の多くの締約国にとってはいまだに容易ではない目標である。こういった現状を打破するために、著者らは1996年3月オーストラリアのブリスベン市における第6回締約国会議で採択された勧告6.9に答えようとしてきた。この勧告は、締約国とラムサール事務局、その他の協力によって、国家湿地政策についての『枠組みとなる報告書』を準備することを求めたものである。

2.以下に提供する「国家湿地政策を策定し実施するためのガイドライン」は、湿地政策の策定に関する経験や専門知識をもつ政府あるいはNGO関係者から報告者を募り、共同作業によって準備されたである。執筆陣は、オーストラリア、カナダ、トリニダード=トバゴ、ウガンダ、米国のラムサール条約担当政府部局、そして非政府の組織(NGO)としてバードライフ・インターナショナル、米国マサチューセッツ大学、国際湿地保全連合よりなる。

3.主たる寄稿者として Clayton Rubec 氏(今回のプロジェクトの調整員であり主著者ともなっている)、Nadra Nathai-Gyan 女史、Paul Mafabi 氏、David Pritchard 氏、Bill Phillips 氏が参加しており、また、Roberta Chew 氏、Gilberto Cintron 氏、Joseph Larson 氏は米国での経験に基づいて事例を報告しており、Sundari Ramakrishna 女史はマレーシアにおける国家湿地政策策定当初の動きに基づいて報告をしている。条約事務局の Maryse Mahy 女史は特にヨーロッパにおける国家政策資料の多くを提供してくれた。カナダの Pauline Lynch-Stewart 女史は有益な提案と多くの章の草案を提供してくれた。条約の事務局長 Delmar Blasco 氏、Michael Smart 氏(前事務局次長)、北米湿地保全協議会(カナダ)の Ken Cox 氏、IUCN(国際自然保護連合)環境法センターの Lyle Glowka 氏その他の方々もまた、有益な助言及び当報告の推敲に協力してくれた。

4.著者らは、当報告において用いられているいくつかの用語や語法が、主として英連邦の行政システムから派生したものであること、そしてまた何人かの著者らの国レベルでの経験に基づいたものであることを認識している。読むにあたって他の行政システムに携わってきた方々には、意味を汲んで必要な場合には用語を置き換えるなどして適宜代用させていただきたい。

5.当報告は国家湿地政策の草案を書くためのモデルとなっているわけではないことを強調しておきたい。むしろ、著者達が直接経験してきた内容から観察出来た事柄をまとめたものである。著者らが最も有用だと感じた経験に基づいて、全体の概要をまとめあげることから着手した。いくつかの草案が1998年に作成され、南北アメリカ地域合同会議、アフリカ大陸、オセアニア、アジア地域といった締約国の地域会合の際に参加者からコメントをもらった。これらの会合は1999年5月に中米コスタリカの首都サンホセで開催された第7回締約国会議の準備会議としての役割をもち、締約国会議の専門会議の中でガイドライン案は議論され、いくつかの改訂をされた上で最終的に採択された。

6.ガイドラインは湿地に関する国家政策や戦略を新たに策定しようとすでにしている、あるいは新たな策定を考慮中の国々にとって最も有用なものとなるだろう。各章は段階ごとになっており、それぞれで問題となる事項を扱っている。すなわち、取組の目標を定めることから始まり、適切な過程を組織立てて考え、政策文書の内容をどのように発表するか、実施のため、そして実施後のモニタリングのための戦略作りといった事柄があげられている。内容的には、すでにこれらの問題への取組がかなり進展していると思われる国々にとっても興味深いものであろう。当報告の中で検討されているトピックの中のいくつかは、そういった取組のなかにまだ取り入れられていないこともあろうし、これまでの国際的な視野での経験の分析によって、各国の個別の努力が、より広い視点からはどう見えるかといった新しい光を投げかけてくれることもあるだろう。

7.すでに示唆されているように、当報告は次のような7つの事例研究によって補完されている。すなわち、米国マサチューセッツ大学の Joseph Larson 氏による「国家湿地保全戦略におけるNGOの役割」、トリニダード=トバゴの Nadra Nathai-Gyan 女史による「国家湿地政策における利害関係者とは」、カナダの Clayton Rubec 氏による「湿地政策策定のための協議」、オーストラリアの Bill Phillips 氏による「連邦国家における湿地政策」、ウガンダの Paul Mafabi 氏による「湿地に関する分野別政策及び法律の総括」、米国 Roberta Chew & Gilberto Cintron による「合意形成の戦略」、マレーシアの国際湿地保全連合アジア太平洋支部の Sundari Ramakrishna 女史による「マレーシアの湿地政策―策定と調整のプロセス」である。

8.当ガイドラインによって、ラムサール条約締約国が各国における国家レベルの政策や戦略の再検討が促され、またその際には有用な参考文献となることを望んでいる。またさらに、ラムサール条約がこれまで培ってきた、有益な知見や体験を分かち合うという伝統がさらに高められることを期待する。


ラムサール条約 国家湿地政策指針

.「湿地政策」への道をひらく

1.1.はじめに

9.湿地はこの地球上で、農地や森林とともに、主要な生命維持システムのひとつとして認識されてきている。これはラムサール条約の『19972002年戦略計画』、『世界保全戦略』、『新世界保全戦略(かけがえのない地球)』、『ブルントラント委員会』報告、そして『アジェンダ21』の中で明確に述べられ全世界的に展開しつつある、持続的開発と環境保全に対する支持と政治的言明の中でも中心的なテーマとなってきている。湿地の役割は「生物多様性条約」においては、内陸の淡水そして沿岸の生態系保全の実施において鍵となる要素とされている。我らが湿地の重要性は、多くの絶滅の危機に瀕している動植物種の生息地であるというレベルを越えたものである。湿地は国内そして全世界的な生態系であり、そして経済活動のかけがえのない要素である。

10.湿地が今日でも引き続き喪失していることの深刻さのため、湿地管理に新しい取組が求められている。居住地域の湿地の大部分は、自然状態から、農業、都市化、産業、そしてリクリエーション利用の追求などといった他の土地利用を支えるよう改変されている。湿地はまた、植生破壊、栄養や毒物の負荷、砂泥堆積、混濁化、水流の改変といった結果を招く土地利用方法によって劣化している。浚渫、集約的な魚介類養殖、伐採そして酸性雨もまた、湿地の本来のバランスに影響を与えている。

11.湿地の持つ機能の崩壊は経済的にも、社会的にも、そして生態学的にも高いコストを伴うものとなっている。湿地の自然バランスを崩すことは、医学的そして農業上の目的のために必要とされる危機的状況の遺伝子プールをさらに破壊しかねないし、水質を改善する自然の能力に影響を与え、教育目的やリクリエーション目的での利用を妨げてしまう。価値ある湿地の破壊は止めなくてはならないし、残された湿地の多様性は保持されなくてはならない。そして可能な場合には、湿地機能の回復、湿地の復元、再創造が試みられなければならない。以下に湿地の量的そして質的喪失という課題に対する障害といくつかの可能な解決法を概略する。

12.湿地とその保全が、国民の健康や福祉のために極めて重要であることを例証することが必要である。湿地保全は、国際協定とそれらに関連した国際的責務として述べられている生物多様性保全の目的を達成するために不可欠である。湿地は『世界保全戦略』の例で説明されているように、これらの目的を達成するために重要な役割を果たしている。

  • 重要な生態学的プロセスと生命維持システムの継続:湿地はこういった機能を様々な方法で果たしている。湿地は水質を維持し改善する。湿地は水の流れを調節して洪水を減らし、夏の終わりの河川の流れを増やすことになる。湿地は地下水の供給を補充する。湿地は渡り鳥の生産そして中継地として、魚類の孵化場と稚魚の成育場所として、そしてきわめて多くの無脊椎動物、爬虫類、両生類、そして植物の生息地として重要である。
  • 遺伝的多様性の保存:湿地は、多様な動植物相に主要な生息地を提供し、野生生物の個体群を維持する上で不可欠な役割を担っている。絶滅危惧種、危急種、そして希少種と見なされている生物種の約3分の1が湿地を住みかとしている。
  • 種と生態系の持続的利用:多くの地域(州領土)の経済は、魚類野生生物、植物製品そして木材といった湿地資源に直接依存している。湿地に結びついた更新可能な資源は、先住民の伝統的な自給的生活様式の中心となっている。湿地はまた、ハンティング、釣り、バードウォッチングや自然写真の撮影といった、観光やリクリエーションに多くの機会を提供している。

13.国際的に、そして国内的に重要な湿地を保全するという挑戦に成功するためには、国内での活動の基盤、そして国際的及び国内での協力のための枠組みとなる、総合的な国家政策が求められる。そのような湿地政策は、野生生物と他の生物学的資源のため、そして現在と将来世代の人類の必要性のために、国家が管理上や生息地としての要求事項に対処しようとするものであり、価値のあるものである。

14.1971年に採択されたラムサール条約条文の中で、第3条1は締約国は(国際的に重要な湿地の)リストに掲げられている湿地の保全を促進し及びその領域内の湿地をできる限り賢明に利用することを促進するため、計画を作成し、実施するとしている。

15.ラムサール条約に対応するために締約国が考慮すべき行動として勧告がなされているもののひとつに、湿地保全を促進する国家政策の形成がある。これまでにそのような国家政策を完成させた多くの国々の例では、時に長期間で複雑な過程を伴うものであることが知られている。政策の過程が進行している間にも湿地喪失を引き続き起こしてしまう社会経済的要因に加えて、政治的な、また管轄権の間の、組織上の、法的な、財政的な制約が、そのような政策の形成に影響を与える。

16.国家レベルで湿地政策を確立し実施する過程は、財源が十分でないことや、政府機関やその他の所でも業務のやり方に変化をもたらすことに組織として躊躇すること、といった障壁を乗り越えるためには、時間がかかるかも知れないし、適切な協議が必要だということを認識しておくことが重要である。広範に効果を発揮できるために、「国家湿地政策」は広い守備範囲をもたなければならず、単に野生生物保護の政策であってはならないし、またそのように受け止められてはいけない。「国家湿地政策」の野生生物側面のみに焦点をあてることは、社会や国家にとってのその価値に限界を与えることにしかならない。「国家湿地政策」の策定は実際、多くのレベルにおいて、協力と行動を促進する『黄金の機会』なのである。「政策」は不確実性に直面しつつも策定することができる。行動を起こす前に、総合的な目録や科学的情報が求められるわけではない。

1.2.湿地保全の機会

17.課題を解決し、湿地保全を達成するための数多くの機会を以下に確認する。

政府政策において湿地保全の目標を確立する

18.連邦、州、領土の政府や市町村といった自治体では、それらの政策やプログラムにおいて湿地保全の価値を認識していることはまれである。政府に方向性が欠如すると次のような結果を生み出す。

  • 継続的かつ累積的な湿地喪失。なぜならば、個々の湿地を他の土地利用のために変換しようという決定は、一般的な自然環境保全政策の影響を受けたり、関連づけて考慮されたりすることがないからである。
  • 湿地など自然資源の自主管理(スチュワードシップ)に責任をもつ中央政府やそれに準ずる政府による十分な説明責任(アカウンタビリティ)の欠如。
  • 湿地に関連する問題への配慮の欠如。土地利用に関する決定が下される時や、再検討されようという時に、湿地の価値へ払われる配慮が不適切だという結果になる。
  • 土地利用に関する決定において、長所と短所のバランスを保つようにしなければならない政策決定者(連邦、州、領土、市町村機関、土地利用者)へのガイダンスの欠如。
  • 現在ある法律や政策を遵守させるための働きかけの失敗。

19.「国家湿地政策」は、湿地生態系の利益のために、こういった政府機関がそれらの行動の説明責任(アカウンタビリティ)を確立し、その部門の政策に変更を加える際に助けとなる。

政府機関間の調整と連絡を増強する

20.大部分の国々において湿地に関わる管轄権は、連邦、州、領土、市町村のレベルの政府の間で、そしてレベルの異なる省庁や部局の間にまたがっている。どのレベルにおいても、これら無数の部局や機関のひとつだけで、湿地管理、保全、持続的利用のすべての側面について責任を持つことはとうていできそうにない。何らかの努力が行われてきてはいるが、政府内のそして政府間の調整や連絡は不適切なままになっている。必要なのはどれかひとつの機関が湿地の面倒を見ることではなく、よりよい連絡網と、すべての政府機関が守らねばならない首尾一貫した、義務づけられた政策を強調することである。「国家湿地政策」はこういった機関間での効果的な調整、そして連絡を高め促進するメカニズムとなりうる。

21.多くの国々で、湿地保全プログラムにおいてリーダーシップを提供できる政府機関は、しばしば人員や資金の点からは資源が限られており、支持が十分には得られていない状況である。また、政府内での階層構造における政治的立場も、上位のひとつかそれ以上の他の省へ連絡を行わねばならないような、影響力のより小さい低いランクのものであるかも知れない。国の水資源、農業や開発の優先事項と比較すると、湿地のためになるプログラムの機会を調整するといったような、効果的であるべき結びつきを、政府が考慮することが難しいことがしばしばである。

湿地保全のための奨励策をより多く生み出す

22.(政府や他機関による)これまでの奨励策プログラムは、湿地保全のための努力と利害が衝突する場合がしばしばある。いくつかの国では、収入税及び資産税に関わる奨励策、排水や堤防のための補助金、農業生産物の割り当てなどがしばしば農家が湿地を耕作地に変更してしまう強い財政的誘因となっている。このような誘因がなければ、経済要因がこのような改変を通常押しとどめる働きをする。これとは逆に、土地所有者に湿地を自然状態で維持させるような奨励策は少ない。一般の人々は湿地から何らかの恩恵を得ており、政府が拠出あるいは支援する奨励策によって、保全のための努力を正当に支えることができる。「国家湿地政策」は、新しい、より良い経済的かつ部門別の奨励策の実施を促し、湿地の減少に通じる要因や障害となるような奨励策を廃止するツールとなりうる。

土地の獲得または保持の後により良い湿地管理を促進する

23.NGO、地域社会、私有地所有者、政府機関はしばしば保全目的のために土地を獲得したり保持したり湿地を管理するのに苦労している。資産税やスタッフの費用は高いことがしばしばであり、管理する者たちは生態学的に配慮したやり方で湿地を利用し歳入を得る方法を熟知していない。歳入の創出が補助となってくれる場合もあるが、長期的管理は湿地保全に関わるすべての機関にとって大きな関心を呼びつつある。「国家湿地政策」はこれらの要因に対処し、解決策を見つける機会である。

よりよい知識とその応用

24.湿地の状況、生態学的機能、そして価値(水文学的もしくは経済的価値)についての情報は限られている。多くの国々で湿地を分類し目録を作成するのに進展が見られているが、全世界的に見れば、まだまだ完璧とはとうてい言えない状況である。必要な湿地の数や種類に関して目標を立てるため、さらに多くの努力が払われなければならない。「国家湿地政策」は情報の優先事項を確立し、湿地管理のために必要な、より良い情報を獲得し利用するための戦略を立てる役に立ってくれるだろう。

25.湿地が改変される速度や、湿地の経済的価値は適切に定量化されてはいない。湿地改変に伴う経済的、社会的そして生態学的な費用と便益は未だ十分には理解されていない。しかしながら、湿地が経済学的にも、そして生態学的、社会的にも、重要であるという証拠が積み重なってきている。湿地についての現存する知識が十分に行き渡っているとは言えないし、土地利用に関する決定に影響を与えるように効果的にも利用されていない。湿地に関する知識におけるギャップは重要な障害ではあるが、保全のための行動は、展開中の調査活動による結果を待つことなく前進させなくてはならない。

26.経済的発展が困難なままとなっている多くの国々で、あるいは経済が移行状態にある国々で、環境プログラムに対する現存の社会的政治的障壁は著しいものがある。経済的な福利厚生や、持続的な水及び自然資源の利用との結びつきがはっきりしないので、湿地保全は優先順位の高くないものと位置づけられ続けることになる。自然災害や内戦あるいは国境紛争によって引き裂かれた国においては、理解できることではあるが、環境上の重要課題も政府の行動においては優先順位の低いままとなる。

一般市民、政策決定者、土地所有者、企業に向けた教育

27.湿地に関する教育プログラムは強く支持されておらず、首尾一貫していないし、自然資源のワイズユースや自主管理(スチュワードシップ)の重要性を強調してもいない。国家レベルあるいはそれに準じたレベルの多くの例で、湿地について情報をより良く提供されていれば、一般の人々は保全プログラムをより支持することが示されている。これは、湿地の価値、機能、恩恵、そして継続的な湿地の損失による結果について、より良い理解を深めるような一般向け啓発事業を通じて発展していく。

28.土地所有者は、持続的な経済的便益を生み出すよう、更新可能な自然資源の管理を改善する方法を知る必要がある。政策決定に関わる人々は、湿地問題の重要性、保全と持続的な経済発展との間の密接な関係、そして資源の計画作りや管理に生態学的理解を応用するやり方について学ぶ必要がある。教育は相互作用を持った過程である:政治的指導者、政府職員、科学者、土地利用者、そして湿地利用者は皆すべて、湿地とその保全についてお互いから学ぶことができる。全く同様に、例えば建設や観光開発といった活動も、潜在的には湿地かかる圧力を増大させる一方で、持続的管理を促進させる取組に、重要な役割を持つ利害関係者を参加させる機会となるだろう。

29.「国家湿地政策」は国家における湿地資源についての認識を高めるための、メカニズムと優先事項を共同で確立する意義深い機会となる。

NGOと地域社会の参加を促進する

30.政府は、NGOや地域社会の資金調達や保全に関する能力や努力について、あるいはこれらのグループが湿地保全や政策策定について助けとなる潜在能力について、十分認識しているとは言い難い。これらNGOや地域社会は、しばしば関心を持つ人々による資金を集めるのに適しており、湿地保全に結びつく費用を現物による貢献を通して負担する。彼らは、地域においても全国的にも湿地保全プロジェクトの実施において、特にモニタリングや監視において、政府の効果的なパートナーとなりうる。これらNGOや地域社会の場合の、管理諸経費は政府のものより小さくてすむ傾向にある。信頼できるNGOや地域に根ざしたグループは、政治的また官僚機構の『障害』を打ち破るために必要な、一般的な支持を短期間に獲得することができる。[事例研究1

1.3.ワイズユースと湿地政策についての条約の歴史的背景

31.ワイズユース(賢明な利用)概念はラムサール条約のきわだった特徴となった。ワイズユースは条文第3条1に述べられており、締約国は....その領域内の湿地のできる限り賢明な利用を促進するため、計画を作成し、実施することが期待されている。ワイズユースは、条約の実施すべき概念の中でも最も努力を必要とする要素のひとつである。その結果として、締約国によるワイズユース概念の実施を支援するために、条約では「指針」そして「追加手引き」を作成している。

32.『ワイズユース』はラムサール登録湿地のみに適用されるのではなく、締約国の領域内にあるすべての湿地に適用される。『湿地のワイズユースに関する指針』は1987年にカナダで開催された第3回締約国会議において採択された。勧告3.3では締約国が、勧告文に含まれるワイズユースの定義と、付属文書として組み込まれた指針を利用することを求めている。

33.条約によって作られた「指針」は、いくつかの締約国が国家湿地政策を策定する助けとなった。この「指針」は、「国家湿地政策」の要素として、体制や組織上の改善、法的政策的必要性への対処、湿地の価値についての知識や認識を高めること、目録作成と湿地の状況のモニタリング、優先されるプログラムの確認と個別の湿地における行動計画を策定すること、といった事項が必要であることを概略している。

34.1990年にスイスで開催された第4回締約国会議において、締約国は(勧告3.3に取って代わる)勧告4.10として『ワイズユース概念実施のための指針』を採択し、「ワイズユース概念」が湿地保全のすべての側面に適用されるべきことを再確認した。この勧告は、国家湿地政策が国内の湿地に関する可能な限り広範囲の問題や活動に対処すべきであることを指摘した。国家レベルにおいて、次のような5つのカテゴリーの行動(付属文書1 として詳細なリストが提供されている)が提案された。

  1. 機構や政府機関の組織上の改善、
  2. 湿地に影響する、既存そして将来的な法律及び他の国家政策の検討、
  3. 湿地の機能と価値についての認識と知識の発展、
  4. 個別湿地の管理のための優先事項を確立するための目録作りと湿地の経済評価、
  5. 法的保護のメカニズムや生息地復元等といった、湿地ごとの行動の確立。

35.「国家湿地政策」が準備されているか否かにかかわらず、「指針」は国家レベルで直ちに注意が払われるべきいくつかの行動を求めている。これらの行動は、国家湿地政策の準備を促し、湿地保全とそのワイズユースの現実的な実践が遅れてしまうことを回避させる。予想されるように、締約国はその国の優先事項に従って、行動を選択している。いくつかの国では組織的、法的、あるいは教育的手法を実施しているし、同時に湿地目録作りや科学的作業に着手している。同様に、国家湿地政策が策定されるのを待たずに湿地のワイズユースを促進しようと望んでいる締約国は、次のような行動をとるべきである。

  1. 最も迅速な行動が求められる課題を特定すること、
  2. これらの課題のうちひとつかそれ以上に対処する、
  3. 最も迅速な行動が求められる湿地を特定すること、
  4. これらの湿地のひとつかそれ以上で、『特定の湿地における優先行動』の下で設定された線に沿って行動すること。

36.こうしてラムサール条約は、1971年の誕生以来、そして特にこの12年間において、湿地資源のワイズユースを促進し、各国における持続的開発の目的に貢献してきた。ワイズユースの概念は、全般的な湿地政策の作成と実施、そして個別の湿地におけるワイズユースの両方を求めている。これらの行動は、持続的発展の不可欠の要素である。

37.しかしながら、第3回締約国会議の『ワイズユース・ワークショップ報告書』で認識されているように、国家湿地政策の考案は長期的なプロセスとなりうる。政治的そして国内での制限がそのような政策の作成を妨げる重要な要因であることに鑑み、第4回締約国会議では、すべての締約国が、総合的な「国家湿地政策」の作成に向けて長期的な努力を行うこと、そしてそのような政策を国家の体制や組織の実情に合わせた適切な形で策定するよう勧告している。

38.1993年、日本の釧路で開催された第5回締約国会議において、なぜ加盟国が国家湿地政策を採択できずにいるのか、そして湿地政策をどのようにして「国家環境政策」あるいは「国家自然保護戦略」との統合を図るのかが問われた。さらに、釧路会議では、社会経済的要因が湿地喪失の中心的な理由であることが注目され、「国家湿地政策」の準備過程において考慮を払うことが求められた。

39.オーストラリアのブリスベンで1996年に開催された第6回締約国会議では、『19972002年戦略計画』が採択された。過去の締約国会議における決定と合わせる形で、『戦略計画』作業目標2.1は締約国に、「ワイズユース指針」の適用を確実にするため、国家あるいは超国家的な法律、組織や運営方法を検討し修正することを求めた。またこの目標を実施するために、各締約国にその領域内の法律や運用の仕方を検討し、次回締約国会議の「国別報告書」の中で、どのように「指針」が適用されたかを記載することを求めた。

40.さらに1996年に各締約国は、個別の政策として、あるいは「国家環境行動計画」、「国家生物多様性戦略」、「国家自然環境保全戦略」といった自然保護上の他の国家計画策定における取組において、明確に区別できる構成要素として国家湿地政策を策定するために、これまで以上に多くの努力を促すことを求められた。第6回締約国会議の勧告6.9(付属文書2を参照)は、この種の政策を持っていない締約国が利用するために、「国家湿地政策」を策定し実施するための枠組みが必要だと述べている。また、このような政策の例や概略をまとめることも求められた。同勧告はラムサール事務局に、「国家湿地政策」策定及び実施のためのガイドライン作りのための作業を企画するよう指示した。

1.4.なぜ「湿地政策」が必要なのか?

41.湿地が国家レベルで、水、森林、土地、農業やその他の分野における既存の自然資源管理政策において明確に扱われていることはまれである。独自の、『単独で成り立つ』湿地に関する政策綱領もしくは戦略、あるいはその両方を策定することは、湿地の様々な問題と、それらに対処するための目標を絞った行動を認識するための重要なステップとなる。独自の湿地政策を通して、湿地がその管理や保全のためには異なった取組が求められる生態系であること、そして他分野の管理目標の陰に隠れてしまうようなものではないことを明確に認識する機会が与えられる。

42.しかしながらこれまで多くの場合、湿地政策もしくは戦略は、国家の持続的発展、水資源、あるいは他の分野の環境政策の中の構成要素となってしまいがちであった。このような場合、湿地に関するメッセージは、政府のより広範囲の目標設定の中で薄められてしまい、圧倒されてしまいかねない。多くの国々で資源管理の担当機関のスタッフが少人数であり、日々多くの要求と新しい問題や期待と対峙しており、湿地に関する誓約や目標を実施するために費やされるスタッフの時間は、より広範囲の問題に対応しなければならないというプレッシャーの下でつぶされてしまうこともあるだろう。このことは、湿地の保全目標にとって不利に働く。

43.単独で成り立つ独自の湿地政策は、特に議員達や一般の人々の湿地問題に対する大きな関心をひきつける。湿地生態系のための明確なゴールと目標を明文化することは、政府が持つ責任を明らかにし、政府がそういった約束を実際に果たしてくれるだろうという期待を生み出すことになる。

1.5.「湿地政策」とは何か?

44.何が『政策』であるのかについて明らかにしておくことは重要である。そしておそらくより重要なのは、どんなものは『政策』とは言えないかだろう。「政策」は、『組織または政府が意図するか受け入れが可能な、行動もしくは方向性を示す原則をまとめたもの』と定義されている。政策はまた、『ゾウのように、それを見た時には認識できるが定義することは難しい』ものと述べられたりもする。確かなこととして政策とは、理性的な決定や行動を導くような、考慮事項についての表明とされるべきである。ラムサール条約の下で「国家湿地政策」の策定及び実施のための以下のガイドラインはこのような政策についての定義に沿って、提案されている。

45.『国家湿地政策』という言葉は、他の場所においては『国家湿地計画』あるいは『国家湿地戦略』と同じ意味において用いられている。これらの用語について、標準的な英語、仏語、スペイン語やその他の言語での使用の際にも、こういった言葉が明確に使い分けられるように区別することは不可能である。そうではあっても、本報告の著者らは『政策』の考え方について、共通の概念を提供することができると考えている。本報告において一般的に『政策』とは、中央政府やそれに準じた政府によって明確にされ出版された声明を意味し、多くの場合、具体的な数値目標、スケジュール、態度表明、そして行動のための予算を備えたものである。『計画』や『戦略』は考えられる行動やパートナーシップのリストをあげて、政府が向かう所はどこなのかといった将来像を明文化したものであるために、このベンチマークには達していないことがあり、さらに特定のスケジュール、予算や数値目標を持った誓約を規定することが必要である。いずれにせよ、「国家湿地政策」、「計画」、「戦略」はすべて、きわめて重要だと認識されるものであり、ここでは、実際にそれらのうちのどれかを達成しようという努力を抑制することは意図していないし、どの用語あるいは特定の定義が最も適切であるかを示そうというつもりもない。

46.著者達は、湿地『政策』、『計画』、『戦略』という用語の正確な使用や標準的な定義が欠如したままであることを認識している。「国家湿地政策」に関する世界的な状況の調査段階で、著者達は実際多くの機関や政府がこれらの用語を相互に交換可能な形で使用していることに気づいた。

47.これらの用語のうち、政策は文書としておそらく最も一般的に考えられるものである。そして、確かにこのように利用しやすい形で、これらの用語をひとまとめにして考えておくことが便利だろう。また、政策作成を、合意形成、考え方や態度表明の集約、実施、説明責任と再検討をというプロセスとして考えることは有用だろう。政策は階層構造の頂点に立つものと見なすのがよいだろう。それは行政側にとって、一般の人々の意志あるいは要求・指令(mandate)を把握し、それ自身の展望の上に改善を加えるためのメカニズムである。次の国家の立法機関あるいは政府がどのようにしてこれを扱うのかという段階は、政策の域を超え、法律によるものとなろう。実施に責任を持つ機関もまた、戦略や行動プログラムによって「政策」と取り組むことになるだろう。

48.政策がその効果や正当性を獲得する源泉となるものは数多くある。いくつかの政策は、政府全体としてか、あるいは個々の大臣によってか、いずれかの方法で承認される。ある政策が政治的に承認されたからといって、そのまま『実践における』成功を保証するものではないことは覚えておくべきである。多くの場合、そして広範囲にわたる課題や様々な分野の利害を扱う場合には特に、「政策」を策定するために用いられたプロセスそのものが、政策の強さの最大の源となる。

49.「政策」は、物事に対する態度を反映し、望ましい原則を表し、意図を述べ(例えば、よく使われる表現ではゴール目標目的)、戦略の方向性に関しどのような選択肢が作られたかを示し、態度表明をし、合意のための焦点を提供し、懸念を表明し助言を提供し、役割と責任を明確にする。

50.「国家湿地政策」は、全国レベルの視点を持つと理解されているが、政府のさまざまなレベルにおいて同時にあるいは連続的に、策定されることもありうる。例えばオーストラリアやカナダでは、連邦政府と州政府の両方が湿地保全政策を策定している。このことは両国の、(湿地管理を含む)自然資源管理の法政上の担当者が政府レベル間で分割されているという、連邦制の性質を反映している。

51.いくつかの国々では、政策は、中央政府の中で実施にあたって関連組織すべてに命令を下しうるレベル(例えば内閣)による適切な手続きを通して正式に採択される。憲法上の管轄権を共有する連邦制の国家では、これが当てはまらない場合もある。連邦政府は、連邦政策を通じて湿地保全に対するその関わり方を表すことになるだろう。しかしながらその政策は、連邦政府機関と連邦管理下にある地域にのみ適用される。しかしながら適用の範囲は、国家の下に位置する管轄(例えば、州や町村政府)への法的拘束力のないガイダンス、あるいは良い例を示すといったこととにとどまらず、各国の状況によって異なるだろう。

52.「国家湿地政策」は、どのような行動が求められるか(政策自体の中に行動に関する詳細な処方箋が設定されてはいないが)、そしてどのような結果が期待されているのかについて、明確な結論を導き出させる枠組みの機能をもつ。もし政策がなかったら何が違ってくるのかが、明らかでなければならない−したがって、それ自体の付加価値を示す必要がある。もしその趣旨が湿地についての国家政策を明確に規定することであれば、ただ『枠組み』としての性質を持った短いものとなる。深く掘り下げることは重要ではないが、湿地に影響を及ぼす主要な政策課題をカバーする点においては完全でなければならない。そのいくつかが、最初に担当となった政府機関の管轄の外にあったとしても同様である(したがって幅広さが重要だ)。ここには水資源、開発計画作成、汚染制御、教育及び外交関係など、自然資源管理に関わる行政当局が含まれる。

1.6.ラムサール条約における地域ごとの「湿地政策」の状況

53.ラムサール条約締約国における湿地政策の状況に関する報告書が、第6回締約国会議に提出された(Rubec, 1996)。報告書はラムサール条約の下での7つの地域ごとに構成されており、92国家を対象としていた。

54.Rubec の報告書は、ラムサール条約締約国による国別報告書で用いられている用語に基づいて、「湿地戦略及び計画」と、単独に策定された「湿地政策」の策定を分けて報告している。Rubec(1996)は、この区別は彼の国の経験に基づいた重要な区別であり、個別の「政策」は多くの場合、明確に定義された目標、スケジュール、予算、そして実施を前進させるための構造を備えた、政府の約束の表明であるとしている。

55.個々の組織や国家政府によってこれらの用語がどのように用いられているかについては、かなりの重複があり得ることが認識されている。それゆえ分析(表1参照 )の中で、湿地に対する国家のどのような取組が、「政策」とされ、または「戦略計画」となっているかは、集計に用いられた情報源によるため、部分的には不正確となっている可能性もあり得ることを考慮に入れておかねばならない。著者達はそれらの国家的取組のどれかが、他の例と比べても良いとか劣っているとか、あるいは適切であるとかを示唆しようとするものではない。

56.Rubec の報告は、1995年のラムサール条約常設委員会のために準備された地域別報告、そして1996年3月にオーストラリアで開催された第6回締約国会議のための国別報告書から得られた情報に基づいている。この内容は1999年5月にコスタリカで開催された第7回締約国のために提出された国別報告書の中の情報に基づいて更新され、ラムサール条約HPRamsar Bureau 1998c)に掲載されている。

57.1999年4月の時点で114ヶ国あったラムサール条約締約国のうち、計44ヶ国が「国家湿地政策」の策定中、あるいは実施の最中であると報告している。それらの国々のうち大多数(39ヶ国)はまた、「国家湿地政策」に加え、これと並行して他のメカニズムを通じ、または独立した文書として、「国家湿地行動計画」あるいは「戦略」を策定中であると報告している。これらの取組はラムサール条約の7地域すべてにわたっている。12締約国のみがそのような「政策」は、政府によって採択されたものだと報告している。さらに6締約国が「国家湿地政策」は草案の段階にあり、26ヶ国がそのような「政策」の策定を考慮中あるいはすでに提案されたと報告している。カンボジアのように未だ加盟国となっていない、いくつかの国もまた「国家湿地プログラム」を策定中であった[訳注:カンボジアはその後条約に加盟]。約70のラムサール条約締約国が、まだ、いかなる形でも「国家湿地政策」を計画中であるとは示していないとしていた。

58.多くの国々、特にオーストラリア、ベルギー、カナダ、パキスタン、アメリカ合衆国のような英連邦国家または連邦制の国々では、国家に準じたレベルにおいてもまた、湿地政策や戦略を策定あるいは考慮中であることを報告している。これは、これらの国々における国家レベルや準国家レベル(例えば州)の両方において、湿地保全のための制度上の管轄権が分割されていることを反映している。いくつかの例では、湿地は準国家レベルでの管轄の下にあるため、国家的な湿地への取組は期待されていない。これら準国家レベルの政策もしくは戦略のいくつかが、付属文書3 としてリストされている。

59.第7回締約国会議における検討では、「国家湿地戦略」及び「行動計画」が、「国家湿地政策」と独立して考慮された。1999年5月の時点で、約50の締約国が「国家湿地戦略」あるいは「行動計画」を採択しており、12ヶ国で草案段階であり、39の締約国においてそのような取組が考慮中あるいは提案されていた。これらはラムサールの7つの地域すべてにわたっている。そのような国家戦略あるいは行動計画策定に向けて踏み出したとの報告がないのは13の締約国のみだ。このようにラムサール条約の締約国の大多数は「国家湿地政策」とは別の、あるいはそれに追加する形で、「国家湿地保全プログラム」を実行に移してきている。

60.第6回締約国会議の分析(Rubec, 1996)は、条約の下での湿地政策に関する情報を編纂する最初の試みであった。第3回締約国会議から第6回締約国会議までの議事録と第7回締約国会議のための国別報告書の分析によれば、1971年にラムサール条約が生まれてから1999年までに世界的なレベルで大きな進展があった。この傾向は第7回締約国会議以降も続くことが期待されている。

61.表1は1987年から1999年4月までの期間における、「国家湿地政策」、そして「国家湿地戦略」及び「行動計画」の策定や採択に関する情報の概略を示したものである。この表は、条約履行のすべての側面に対する各国の報告を基にした、国家湿地政策及び戦略について概説した会議文書を検証することによって作られた(Ramsar Bureau 1987199019931998a1998cSmart 1993Rubec 1996)。

62.この期間において、「国家湿地政策」を公式に採択した国家の数は0から12となり、さらに23ヶ国がそのような「政策」に取り組み始めているか、現在考慮中となっていた。同期間に、「国家湿地戦略」あるいは「行動計画」を作成し終わったと報告している国の数は4から50となっている。

63.1987年において、「国家湿地政策」、「戦略」あるいは「行動計画」に取り組んでいると示した締約国は5ヶ国のみであった。1999年までにこの数は少なくとも101となった。これらの国々の多くが、1999年4月までに、個別の「国家湿地政策」を策定中あるいは採択中であると報告した44ヶ国となった。このように取り組んでいる締約国の数は、第7回締約国会議の後も増え続けることが期待されている。

表1:「国家湿地政策」、「国家湿地戦略」、「国家湿地行動計画」の状況
国家湿地政策、戦略、行動計画の現状1987年レジャイナ会議(第3回締約国会議)1990年モントルー会議(第4回締約国会議)1993年釧路会議(第5回締約国会議)1996年ブリスベン会議(第6回締約国会議)1999年サンホセ会議(第7回締約国会議)
国家湿地政策
採択済み003612
草案段階01686
提案済みもしくは考慮中データなし161326
今のところ対応なし1743366570
国家湿地戦略国家湿地行動計画
採択済み4993550
草案段階1141212
提案済みもしくは考慮中データなしデータなし5839
今のところ対応なし1235333613
提出された国別報告書の数加盟国数35中1760中4576中5192中92114中107
出典:Ramsar Bureau (1987, 1990, 1993, 1998a, 1998c); Rubec (1996); Smart (1993)

1.7.政策とワイズユースの間の関係

64.湿地のワイズユースはすべてのレベルで実施可能な概念である。それゆえワイズユースの原則は、現場における特定の行動についての選択肢、それとともに政策レベルでの戦略的方向性の選択肢を形作るのを助ける指針となる。「国家湿地政策」の主要項目のそれぞれを、ラムサール条約によって確立・採択されたワイズユース定義に対比検討させ、条約のこの主要概念に対して適切であるかをテストすることができるだろう。

65.ラムサール条約を批准する国は原則的に、その領域内の湿地のワイズユースを可能な限り促進するという義務(条文第3条1)を受け入れていることになる。それゆえこの義務は自動的に、国内の湿地に関する政策として最低限持っていなければならないものとなる。「国家湿地政策」はさらに各国独自の状況を反映させつつ、このゴールに向けた国としての考え方をさらに精錬させたものとするができる。もちろん、ラムサール条約の下で採択された世界共通のものよりも、より厳密な基準を用いることができる(条約下の共通な基準が厳密でないということではない)。

66.このように「国家湿地政策」は、条約の「ワイズユース概念実施のための指針」及び「ワイズユース概念実施のための追加手引き」の中で提案された一連の行動の中でのひとつの道具である。ただし「国家湿地政策」が湿地保全のワイズユース・プログラムのために必要な行動のうち、最優先であるとか、現実的な唯一の行動であると限定して考える必要はない。

1.8.「国家湿地政策」の承認採択のレベル

67.「国家湿地政策」(あるいは準国家レベルでの取組)が採択あるいは承認されるレベルがどのレベルならば、最も効果的あるいは最も望まれるのかを決定づける要因は数多い。理想的には、「政策」は国の内閣によって採択されるものだろう。別の場合には、国の法律の下で、あるいは法制度上の改正を伴って採択することを意味するだろう。そのような動きは、ある政権から次の政権への政府の政策の連続性が標準的な過程となっている国では、常に求められているとは限らない。英国や米国では、実際に、支持的な役割を果たす一連の法的及び政策上の仕組みがセットとして一緒に用いられる。単独の湿地国家法ですべての管轄をカバーしようとしても、機能できないようになっているのである。しかしながら、より小さな国々で法制度がそれほど複雑ではない場合には、単独の国家湿地法がきわめて適切な道具となるだろう。このように、どの分野においてどの時点で法的仕組みが考慮されるかに関しては、柔軟な考え方をもつことが重要である。

68.国によっては、法律として明確に取り扱われていない事がらは、その時の政府によって見過ごされたり無視されたりすることがある。内閣あるいは政府による法令としての「政策」の採択は、このような場合に、政府が問題を認識しているということと、実行に移す意志があることを示す、最低限のレベルと見なすことができる。


ラムサール条約 国家湿地政策指針

.国家湿地政策の策定

図1:「国家湿地政策」の策定実施における主要ステップのフローチャート

第1段階:政策策定

準備的な最初の取組

草案チームの設立

「国家湿地諮問委員会」の創設

背景資料と国家的課題に関する報告書の準備

背景資料と課題報告書の配布

法律の検討

省庁間の協議

政策草案の策定

的を絞った協議と全国的及び地方におけるワークショップ

異なるレベルの政府間での会議

政策草案の改訂

追加的な省庁間協議

政策の最終案の策定

第2段階:政策の採択と実施

関係部局間での検討

実施計画と予算の準備

内閣文書の準備

中央政府財務局への提出

内閣政府の承認

公布

作業計画の実施

実施のための中心機関の創設

「国家湿地委員会」の継続的役割の設定

実施ガイドラインの作成

他の政策との調和を図る

関係する機関の研修プログラムの策定

法的実施あるいは改正

69.以下の本ガイドライン第章の部分および第章の全体は、「国家湿地政策」を策定し実施するために、配慮すべき事項と考えられるステップについて検討する。図1に「国家湿地政策」の採択及び実施に到る2つの主要な段階における、いくつかのステップの概略的なフローチャートを示す。主要な段階は、第1段階−政策の策定、そして第2段階−政策の採択と実施である。

2.1.中心となる機関の確立

70.政府機関の1つが「国家湿地政策」の策定と実施において中心的役割を果たさなければならない。まず、どのような課題があるかという報告書の策定、会議とワークショップの計画作り、そしてその後における政策もしくは戦略の原案作りには、調整作業と資源的な支援(例えば、スタッフの勤務時間、事務所の提供、旅費など)が必要となる。

71.中央政府機関が地方や地元当局と協力して、政策策定の段階を調整しつつ進めていく必要がある。多くの場合、最初の計画段階からNGOや企業関係者の参加を考慮することが極めて適切である。このプロセスを促進するために「政府」からの契約によって国内もしくは国際的NGOが協力する場合もある。

72.しかしながら、策定段階で中心的役割を果たす機関が、実施段階においても中心的役割を果たすとは限らない。これらの段階においてどの機関が、そして誰が中心的役割を果たすかは、かなりの程度まで全国的な協議の結果と政府の望むところによって決まってくるだろう。

2.2.「国家湿地委員会」の考慮

73.「国家湿地委員会」は、ラムサール条約の目標を国家レベルで実施するのに直接的な役割を果たしたり、他の機能を持ったりできるが、条約はさまざまな会議を通じて、そういった委員会を設立するためのガイダンスを提供している。いくつかの国々では、「国家湿地委員会」を創設したことが、「国家湿地政策」の策定において政府を支援する効果的な手段となったことが示された。

74.一つの例が、トリニダード=トバコであり、国家湿地委員会が「国家湿地政策」を提案し、数年間をかけて提案した政策に関する全国的な議論を大きく前進させる役割を果たした。政府が、いくつかの部門ごと(政府、研究者、NGO、産業界)の代表者を文書作成に関わる計画作りと国家政策協議に関する諮問委員会に招いた。この委員会のメンバーは慎重に選択され、それぞれの専門知識を活かすとともに異なる分野間で議論をすることが、政策策定のプロセスで役立つことが分かった(Pritchard 1997)。

75.委員会は、土地利用や土地利用に責任のある、連邦政府や様々な行政レベル(例えば、地方、州、または市町村政府など)からの代表者を全て含むようにするとよいだろう。一人かそれ以上の政府高官を含むことも、政府内において「政策」を前進させるのに効果的な戦略であるかもしれない。

76.「国家湿地委員会」はまた、中央政府によってこの過程の成功のために重要だと思われるような、NGOや産業界のような他の利益代表を含むこともあるだろう。この「委員会」は専門知識と学問範囲の広がりを通してさらに効果的となり、「政策草案チーム」に対して支援することもできるだろう。この「委員会」は、情報交換、プログラム、政策や調査の調整や協力推進により活動的になれば、国家の湿地の課題により直接的な取組ができるだろう。全国的な協議のためのワークショップ(セクション2.7参照 )の結果に基づいて、「国家湿地委員会」は現実的な湿地政策の枠組みを考慮できるようになるだろう。

77.いくつかの例では、「国家湿地委員会」が「国家湿地政策」の採択、あるいは包括的な国家湿地プログラムの実施の結果として設立されている。こういった「委員会」は、助言的役割として、湿地管理、湿地政策や科学的取組の企画や実施において、政府が国内の湿地資源を管理する助けとなることができる。

78.「政策」採択の前後いずれの場合であっても、「国家湿地委員会」の設立によって多くの部門や利害関係者からの支援を促進し確実なものとすることができ、政府にとっては賢い行動と言えよう。「委員会」は湿地保全において、利害対立を避け解決する大きな助けとなる。

2.3.国家的課題の声明文及び背景資料

79.湿地政策や戦略が必要であるという国家としての合意形成において、提案された政策の全国的な協議を始めるための手がかりとして、国家の簡単な『課題リスト』あるいは『展望に関する声明文』を準備することに価値があることが分かってきた。図2にカナダ(North American Wetlands Conservation Council Canada 1998)における湿地に関する連邦の声明文の例が示す。このような声明文は湿地保全に関する、政府の憂慮、あるいは国家の関心事項を表明する。この声明文は検討会や全国的なワークショップでディスカッションをするための、予備的な『考慮事項のメモ』("think piece")として用いることができる。

80.国家の湿地の状態や全体像に関する詳細な背景資料は、湿地政策あるいは戦略策定に向けての全国的な協議を助けてくれる貴重な道具(ツール)である。そのような資料は以下のような項目を組み込むのが良いだろう。

  1. 国内の湿地の機能と価値、
  2. 国内に現存する湿地における湿地及び湿地資源の種類、
  3. 湿地における開発の方法や影響の歴史的検討、
  4. 湿地目録や湿地の損失に関する既存の統計資料の検討、
  5. 湿地と他の分野における資源管理の問題との関係の検証、
  6. 湿地に関する既存の法的及び政府の責任の概略、
  7. プログラムの開発、パートナーシップや支援の機会の検証、
  8. 定量化された経済的価値を伴う環境や人々に対する湿地の価値。

81.背景資料の中には「国家湿地政策」のための、実施可能な目的、目標、原則や戦略的方向性についての予備的な規定を含むこともよい。背景資料は、一般に公開して、普及教育活動に役立つ資料として広く用いられるよう企画することができる。図表や写真を多く使うことは有効だろう。全国の教育関係者、環境関連機関やNGOの協力のもとに作成することもできるだろう。

図2:湿地保全における国家の展望声明文の例

展望:国民と野生生物による持続的利用のための、湿地生態系の長期的確保に向けて、政府、NGO及び民間企業は共に協力しあう。この展望を達成するために6つの目標を設定する。

目標1.総合的な湿地保全政策を実施する

  • 国家の全ての行政区において湿地管理保全の政策及び戦略を策定し実施する。
  • 資源を基盤とする産業において湿地管理方針を策定し実施する。
  • 政府の土地及び水利用政策において、湿地保全の目的を組み込む。
  • 国家の湿地保全目標を評価し検討するために全国的な湿地会議を開催する。

目標2.国内及び国際的な協力体制の改善

  • 国内の全ての地域における湿地の種類、資源や生物多様性の保全に関して協力関係を育成するために、包括的な任務を持った「国家湿地委員会」を設立する。
  • 国内で見出される専門知識や経験を国内で、そして国際的に分かち合う。
  • 自然環境保全のための国際的な取組や協定(例えば、ラムサール条約や生物多様性条約)、そしてIUCNや国際湿地保全連合のプログラムを支援する。

目標3.湿地に関するデータの管理を確実なものとする

  • 湿地の分類、目録及びデータの統合において全国的に標準化された取組を築く。
  • 定期的に国内の湿地の状況や傾向に関する調査を行う。
  • 湿地生態系の生物多様性がもたらす機能と価値を記載するために、全国的に標準化された取組を築く。
  • 国内の湿地の位置と状況に関する包括的なデータベースを設ける。

目標4.効果的な湿地科学を促進する

  • 湿地の科学的調査に関して定期的な検討を行いつつ、国としての優先事項を確立する。
  • 湿地の管理及び政策という目的に役立つよう、湿地科学を行う機関、研究者や管理担当者の間を、連絡が取り合えるような効果的な全国ネットワークでつなぐ。
  • 全国レベルや地方レベルにおける定期的な湿地科学のシンポジウムやワークショップに資金提供をする。
  • 全国レベルや地方レベルで優先される湿地調査や、専門知識センター作りを促進するために、触媒となるようなプログラムを行う。
  • 国民にとって重要な湿地課題に関して、独創性を持った科学的、社会経済的、技術的な調査を促進するため、全国レベルの湿地に関する奨学金制度を確立する。
  • 国家の生物多様性や影響を受けやすい土地や水を保全するために、国の優先事項や取組との調整がとれた効果的な湿地研究を支援する。

目標5.地方レベルでの湿地保全を達成する

  • 国内のすべての地域において湿地生息地を確保するためのプログラムを支援する。
  • 国立公園や地域管理の自然公園、野生生物地区、渡り鳥サンクチュアリや他の保護区や原生自然地域において、保護された湿地地域の全国的なネットワークを確立し、また拡張する。
  • 国全体の保全目標にとって優先されるべき湿地を確保する。

目標6.湿地の価値に関する教育を進める

  • 政府機関、NGO、民間企業すべてが協力して、最新の技術を動員して湿地に関する全国的かつ包括的な教育及び普及啓発プログラムを確立する。
  • 湿地生態系が社会に提供する、経済的、社会的、便益的な機能および価値を強調する。

2.4.全国レベルで湿地を定義する

82.ラムサール条約の定義を利用するか、国内の状況に合わせて、『湿地』という言葉を明確にしなければならない。ラムサール条約条本文では次のように定義される。湿地とは、天然のものであるか人工のものであるか、永続的なものであるか一時的なものであるかを問わず、更には水が滞っているか流れているか、淡水であるか汽水であるか塩水であるかを問わず、沼沢地、湿原、泥炭地、又は水域をいい、低潮時における水深が6メートルを超えない海域を含む。、そして水辺及び沿岸の地帯であって湿地に隣接するもの並びに島又は低潮時における水深が6メートルを超える海域であって湿地に囲まれている地域を含む(条文第1条1と第2条1)。

83.『湿地』は、永続的あるいは一時的な湿った土地、浅い水域、そして水と土地が交わる部分を全体として表すのに用いられる。湿地は、淡水であれ塩水であれ全ての水系に存在し、自然の状態では一般的に湿った条件に適応した動植物相や土壌という特徴をもつ。

84.湿地の定義が国内で採択されており、国内の科学的知見にしっかりと基づいているような場合にはそれを用いるのが適切である。このことは特に、湿地目録や保全プログラムにおいて引用されうる詳細な国内の湿地分類システムと結びつける有益である。ラムサール条約の『湿地の分類システム』は極めて一般的なものとして考案されているが、これより詳細なものが国内にない場合には貴重な情報源となる。

85.米国、ノルウェーやカナダといった国々では、湿地の定義が長い間使われてきており、それはしばしば法律や政策の中でも用いられている。これらの定義は、ラムサール条約で採択されている広い定義(段落82参照)と全般的に似通ったものとなっており、これらの国々の湿地プログラムの基礎となっている。一方でそれらは、特に沿岸や海洋システムにおいて何が湿地として含まれるかという定義の全体像においては、ラムサール条約の定義とは異なっているかも知れない。国ごとにこういった湿地の定義や分類体系が作られていることは、ラムサール条約の柔軟性の重要な要素であり、定義の違いが制限とはなっていない。重要なのはこれら違った定義が存在することを認識し、適切な管理担当機関がこのことをしっかりと意識することである。

86.国によって湿地の定義が異なる例を以下に引用するが、参考のために他の国々やラムサール条約の定義との比較についても触れておく。引用に値する例はこの他にもたくさんある。

  1. 湿地水系における水深限界−ラムサール条約では水深6を用いているが、いくつかの国では、海洋地帯における浅海湿地を干潮時2以内に制限している。
  2. 年間の水の存在期間による制限−湿地表面において水が存在する日が年間何日あるかということを、いくつかの国々では判断材料として用いている。ラムサール条約はこの点に関しては基準やガイダンスを提供していないが、いくつかの国々では7日とか14日以上という期間が必要だと設定している。国によっては、定められた最低限レベル以上の水深の水が何日か観察されることを求めている例もあるが、この場合特に日数は規定していない。
  3. 泥炭地の定義における有機物の厚さ−30,40,あるいは100というのが世界的にみられる例であり、全国的な土壌調査においてデータの一貫性を図るため、国によってそれぞれの基準が採択されていることがある。ラムサール条約はこの点についても、特に設定やガイダンスを提供していない。

2.5.利害関係者の定義

87.「国家湿地政策」における重要なステップのひとつは、「政策」の企画、討議、実施によって誰が影響を受けるか、あるいは誰が参加する可能性があるかということをしっかりと見極めることである。政策の最終成果をできるだけ達成可能であり効果的であるようにするためには、利害を持つグループあるいは様々な段階で貢献できる全てのグループを含めて協議すべきであり、そのためにこういった見極めを行うことが重要である。利害関係者には、「国家湿地政策」に興味を持つ、あるいはそれによって影響を受ける機関、組織、グループなどが含まれる。それは政府の関連部局、NGO,地方政府その他多くを含む。この範囲は国ごとに極めて異なったものとなるだろう。[事例研究2

2.6.全国的協議の着手

88.「国家湿地政策」に先立って、国として協議参加を働きかける範囲は、国によって異なるだろう。利害関係者、時間、移動、手続きの複雑さといった観点から、こういった協議がどの程度まで広く扱われるべきかを、中心的役割を果たす機関が決めなければならない。たとえば連邦制の国家では、実際的な湿地管理の管轄は明らかに中央政府のレベルよりは下位の政府レベルに依存している。また、国土が広大な国家では、中心となる機関は様々な観点からの意見を求めて、広範囲に渉って行動しなければならず、より複雑な任務に立ち向かうことになると言えるだろう。

89.全国の利害関係者が参加するワークショップを主催して、意見を求めることは有効な取組のひとつである(セクション2.7参照 )。そこには、必要に応じて主要な政府機関、企業グループ、NGOや、先住民、地域社会、一般市民の代表が一堂に会することになるだろう。そのような会合は、政策の支持基盤を作り、「政策」やその提案内容について『言葉を広めて』くれるような、よく情報を掌握したパートナーのネットワークを作り出す有効な仕掛けとなるであろう。会議に参加した個人も、特に地域社会レベルにおいて、地域協議の場を組織し、運営することができる。こういった意味合いにおいては、全国的な協議のための会合は、ある程度まで研修ワークショップとして位置づけることもできるであろう。

90.また、直接的協議の手段としては、地方レベルにおける、あるいは特定のグループや組織が参加する、数多くの小さな会合などがあるだろう。いろいろな場面での応用が可能な標準化された視聴覚機材を用いる協議用資料や配布用の印刷物を作ることができるだろう。こういった『面と向かった』会合はしばしば、省庁間や政府間の協議、そしてまた主管の地方政府やNGOとの協議に必要不可欠である。

91.担当者が直接訪問したり地域で開かれる会合をしたりしない間接的な協議には、同様の協議用資料が用いてもよい電話や郵便等をつかって実施するものなどがある。求められる回答を引き出すためには、最初の連絡の後に頻繁に接触をすることが必要となる場合もあるが、基本的には移動やスタッフの勤務時間といった点では費用が少なくてすむ。

92.この段階において、政策の影響を受ける可能性のある、あるいは影響力の強い政府機関との省庁間協議を行うことは極めて重要である。これは大臣の間の適切な連絡や、彼らが所管する政府部局の関与や貢献を促すことから始めるとよい。

93.公開協議には、公共メディアを通じた費用のかかるプログラムが必要こともあるだろう。そのような協議を効果的に行うためには、広範囲にわたる移動や、詳細で緻密な運営計画作り、そして専門知識が必要である。しかしながら、多くの国ではそのような公開協議が法によって定められており、政府による新しい取組を始めるときには避けることはできない。公開協議のためには、多くの種類の印刷資料やデジタル化された会議資料が必要となり、容易ではないかも知れないが公開の会議はたくさん必要であろう。

94.ここで重要なことは、協議の中ででてきた意見を十分に活かすためには、協議の提案ができるだけ初期の段階のもので完結的でないようにして正しいバランスをとることである。政策の選択によってどのような違いが生じてくるのかという点について、十分に考え抜かれた情報を提供した上で、意見を求められる人々や機関が、自分たちの問題だという意識をもち、自分たちの意見が活かされるのだという感覚を作り出すことが重要である(すなわち、既に決定したことを提示するのではない)。

95.全体のプロセスと中心的議題を明らかにするために、基本的なアウトラインを提供することが有益である。このプロセスの中ではフィードバックがあること、例えば草案の改訂が行われる点等を指摘することが適切であろう。プロセスが効率的であり完成されるためには、際限なく時間がかかるのではなく、理にかなった程度に押さえることも必要だ![事例研究3

2.7.全国及び地方における「湿地政策」ワークショップの開催

96.利害関係者が参加する「国家湿地政策」ワークショップの開催が合意形成のための効果的なメカニズムであることがいくつかの国々において示された。湿地保全と管理に関する課題に関して共通の理解を得るため、これらの課題を扱う上での障害や問題点を認識するため、そしてそれらの問題点を乗り越えるための解決策や手段を提案するために、これを実施してもよい。こういったワークショップは様々なレベルで実施してよい。小さな地域社会で暮らす人々は、中央の人々が主催する大きな会合では怖じ気づいてしまって、自分達にはとても参加することができないと考えることもあるので、場合によっては、地域単位の非公式な会合が不可欠となる。別の場合には、公式な全国規模の政策ワークショップが極めて妥当だということもあるだろう。

97.ワークショップの目的は、「湿地政策」のための概念及び全般的な取組を草案するための足がかりを作ることにある。二つ目の目的は教育のためのフォーラムとして機能することであり、地方から全国レベルまで、参加している人々の関心や知識に合わせて、そして問題レベルやその複雑さに適するような協議資料が準備できる。こういったワークショップは、政府が、場合によっては異なるレベルの政府がそれぞれの管轄において、効果的な湿地政策を草案し実施する上で役立つように企画される。そのようなワークショップの利点を以下に述べる。

98.ワークショップの主要な原動力となるのは、「国家湿地政策」(あるいはいくつかの国々では州ごとに異なる政策)を策定しようとする、連邦あるいは中央政府の関心や意思の表明である。一連の政策声明を作り出すにはガイダンスが必要である。そのようなガイダンスに対して幅広い政府関係者やNGO、利害グループの参加によるワークショップは、重要な基礎となってくれる。

99.もう一つの側面は、湿地資源に影響する土地利用計画の策定や地域社会に根ざした問題を議論する上での焦点を作り出すことである。国家レベルではそのような議論は中央政府、産業界、全国的なNGOや州レベルの政府の間で行われるだろう。地方レベルでは、地域の組織や国家機関と協力している地方政府を含むものになるだろう。協議は「国家湿地委員会」(上記セクション2.2参照 )によって進めるのがよいだろう。

2.8.「湿地政策」起草チームの設立

100.中心的役割を果たすよう任命された機関が、「政策」の起草、そして必要となる協議や説明用資料の準備に責任を負うことになる。報告書作成のために必要な資源が提供できるように豊富な知識を持つスタッフや起草能力のあるスタッフからなるグループをつくらなければならない。このうちの何人か、場合によっては全員が、関係する利害関係者や協議グループと連絡を密に取り合うことになるだろう。「起草チーム」設立を助けるために、他の機関や分野からスタッフを一時的に人選し任命することもありうる。彼らの業務は全国的な協議の結果に基づいたものとなる。一度設立されたら「起草チーム」は「政策」の文書化に必要な全ての事項が達成されるまで、改変されてはならない。何人かのスタッフは各地を転々と移動しなければならないことがあり、チームの他のメンバーとは定期的な打ち合わせの時にだけ会うことになるかも知れない。もっとも、あまりにもたくさんの旅行は費用もかかるし、関係する個人にとっても困難なものとなる。チームのそれぞれのメンバーは「政策」の最初の草案を準備するために、政策、科学、政治についての幅広い知識を持ち込まねばならない。

101.「起草チーム」の少なくとも一人は中央政府での業務経験を持っている必要があり、この取組を動かすことになる個別の政府機関が、『どのように機能するのか』についてはっきりと認識していなければならない。

2.9.次のステップに対する政治的支持を得る

102.それぞれのステップ(例えば草案の作成)において、進行中の作業行程や最終目標である政策の採択に対して政府からどのような支持を受けているかを示す方法として、政府高官との話し合いや大臣、総理大臣または大統領の各レベルにおける記者発表を用いることができる。大臣や政府首脳(総理大臣等)による重要な政策についての演説や記者発表は、目標となる日が設定された場合にはその日までに「政策」を完成させ、また財政的な支援を行うという政府の公約を伝えるツールである。

103.これらのステップを通じて、「政策」策定に責任のある大臣は、内閣の同僚及び彼らが所管する政府部局と定期的な連絡を取り合う必要がある。スタッフはこれらの部局やその大臣に常に情報を提供し、彼らの支持を得て、内閣レベルまで文書が速やかに到達するようにしなければならない。こういった協議を通じて、大臣たちが指摘する問題点を早い時期に解決することが、その後の「政策」の採択に極めて重要である。

2.10.時間的枠組み

104.上記のように、時間は湿地政策策定において重要な要素である。政策策定過程の全ての段階において、時間に関して合理的な理解及び決断が求められる。最初の段階で、スタッフの業務実施や政策策定過程全体の見渡しのために、十分な時間をとって適切な計画を立てなければならない。文案作成、会合、省庁間協議から、望まれる政府発表までの、詳細なスケジュールを決めたフローチャートを作り、定期的に更新しなければならない。

105.採択された場合には、「政策」自体の中に時間という要素が組み込まれている必要がある。静止したものであったり、時代遅れの文書となってはならない。定期的な検討を行い再認可することを定めた条項を含めることは、「政策」を更新し将来的な追加を行う場面で役に立つはずだ。「政策」の実施もまた明確に数えられる日程に基づいて諸活動や諸結果の日程を定めた行動計画に基づいていなければならない。

2.11.協議を終了し「政策」の追加草案を準備する

106.いくつか可能な草案の選択肢が完成したら、さらに何回かの協議を行うことは価値があるだろうし、場合によっては法的に必要とされるだろう。これらの草案のオプションはこの段階では、一般の人々やNGO機関に公開される場合もあるし、そうでない場合もあるだろう。影響を受ける省庁や政府機関、そして他の部門とは、彼らの憂慮する点に関する反応を聞くため、さらに個別的な協議をしたほうが良いこともあるだろう。継続的な協議、法的アドバイス、政府の方向性や望むところに対する反応を通して、草案はさらに練り上げられるだろう。

2.12.内閣覚え書きの策定

107.他省庁との協議がすべて終了した後は、各国の政治システムによって次のステップが決まる。いくつかの国々では、特定の様式に基づいた公式の「内閣覚え書き」、「白書」あるいは他の文書が準備されることとなり、これは関係部局の幹部専門家や管理担当者のアドバイスに基づいて、全ての大臣が承認する必要がある。そのような国家レベルでの承認のやり方としては、議会による採択、新しい法律の制定、あるいは法制度上の改正(場合によっては、憲法改正)等があり、それぞれの国の政府システムに則する。注意深く政治的配慮をすることで、大臣達によるこの最終的な検討段階における内閣内での利害衝突を避け、ときには何年もかかることもある政策採択までの道のりを円滑なものにできる。

2.13.政府の承認と公表

108.いったん内閣による承認(場合によっては大統領による承認等)が得られれば、担当機関が「政策」を一般向けに公表するための広報戦略を考慮することになる。市民向けのイベントや政府による発表等を計画することもよい。これには、短期及び長期的配布のために十分な量の印刷物、報道関係用資料、記者会見、発行部数の多い新聞雑誌の記事、そして実施のパートナーとなる特定の機関が参加する会合などが含まれる。簡潔で読みやすく、人目を引きやすい広報用資料が必要である。


ラムサール条約 国家湿地政策指針

.政策文書の構成

3.1.政策文書の章分け

109.「国家湿地政策」には以下の項目のいくつか、またはすべてを含むとよい。

  • 背景の概略 − 歴史的背景、これまでの行動;
  • 序文 − なぜそしてどのようにしてこの課題が生じたのか、政府の決意;
  • 概観 − 国の湿地資源とその社会経済的及び環境的価値を一通りざっと見てみる;
  • 中央政府の役割 − 法制度上の管轄や計画立案担当部局の状況と対比させて;
  • 共同事業(パートナーシップ)の役割 − 異なるレベルの政府や、NGO、民間企業との協力;
  • 定義 − 湿地そして使用される用語の定義;
  • 政策目的 − 簡潔なもの、かつ持続的開発及び生物多様性の目的と結びついたもの;
  • 指針となる原則 − 例えば、利害関係者及び政府の抱負、先住民族、土地所有者の権利、世界的な関心、地元の必要性といったものの認識が含まれるだろう;
  • 特定の目標 − 5つ程度の目標を具体的に声明として述べることが妥当だろう;
  • 政策戦略 − 1015の戦略。それぞれに国家の必要性に合わせた行動項目が続く。

3.2.目的と原則

110.「政策」には、国家の他の政策や文化的環境に配慮した、一つまたは限定された数の、平易な目的設定と適切な原則が含まれなければならない。これまでに策定された既存の湿地政策の多くは、平易で手短にゴールを表現している。言い回しは多少異なっているが、主として二つのテーマに沿っている。すなわち、国家の湿地が現在また将来世代の人々のために持続的なやり方で利用されること、そして、湿地保全は国家の環境上・経済上の福利厚生のために必要不可欠であることである。

111.本来、原則とは、「国家湿地政策」を実行するために、政府がその責任をどのように考えるかという責任についての表明であり、これは政府の法制上の管轄や国の文化的慣例と首尾一貫している。810程度の原則を簡潔な形で書くことが妥当だろう。これには、「政策」を通じて実施される政府の行動によって、その政府を構成する地方や州政府の権利が侵害されることはないという原則や、実施のための行動が地方や州政府との協力という精神を確実なものとするといった原則を含むとよいだろう。先住民族や地域社会に関する同様の原則を定めることもできる。原則はまた、適切な場合には、持続的発展、環境、あるいは生物多様性保全といった政府の義務と「政策」との結びつきについて言及することができよう。

3.3.国家湿地政策の目標

112.目標というものは、様々なキーワードに焦点を当てる必要がある。それらがしばしば「政策」のイメージとなるからである。目標のリストが求められる(これまで採択されたいくつかの「国家湿地政策」では、510の目標が記述されている)が、それらは「政策」発表においては、全てが同じように重要だという意図をもって示される。しかしながら実際的な政策の実施の場面では、一般の人々の注目を最も浴びるのは、それらのうちたったひとつか二つであるという結果になることがあるだろう。例えば、1992年のカナダ連邦湿地政策の発表では、湿地機能の保持、湿地に作用する土地利用計画立案の進展、連邦の土地における湿地機能の「No Net Loss(実質上の消失を生まない)」、湿地機能の向上や回復、国家的重要湿地の確保、国内の湿地における連邦政府の活動すべての影響緩和、そして湿地資源のワイズユース、これらに焦点を当てた7つの目標を持っていた。しかしながら、カナダの「政策」中で最も注目された側面は、「No Net Loss(実質上の消失を生まない)」という目標であった。

113.「国家湿地政策」草案を練る際には、次のような目標の可能性を考慮することが有益である。

  • 国内の湿地のワイズユースを確実なものとし、国際的な湿地保全の責任を果たすために、「国家湿地政策」とその下で作成されるプログラムを、土地、土壌、水、大気、野生生物保護、経済発展といった他の政策とリンクさせること。
  • 国内の湿地の現状を維持し、それらの遺伝的多様性を保存し、湿地における楽しみやその経済的利用が持続的に行われるようにすることによって、さらなる湿地の損失を防止し、国内の湿地の機能回復を奨励する。

114.「国家湿地政策に関する利害関係者ワークショップ」(セクション2.7参照 )は、これらの目標をどう奨励するか、連邦、州、領土、市町村レベルの適切な政府機関が一連の政策実施戦略を通して、どのように目標に対して行動できるかを検証するものとなるだろう。

3.4.政策実施戦略

115.「政策」は何らかの形で評価が可能な特定の実施戦略を含むべきである。政策戦略は政府の優先事項となっている主要な分野を扱わなければならないし、また、異なる利害関係グループからの参加や協力についても望まれるレベルになるよう奨励していかなければならない。戦略に組み入れることが可能ないくつかの分野が、以下で論議される。このリストはすべてを網羅したものではなく、一般的な考え方を提供するにすぎない。

116.これらの戦略と、水、生物多様性、持続的開発に関する国内の他政策に対する取組とのつながりについては、さらに進んだ検討をしなければならない。下に示されているテーマ以外でも、「国家湿地政策」にとって重要となる場合があるだろう。3.5節 では、いくつかの政府がその「国家湿地政策」の中で採択しているテーマをタイトルから検証している。以下の議論ではもっぱら、政策のために考慮するとよい8つの分野についてのみ焦点を当てており、可能なすべてのテーマを扱っているわけではない。

.共通の湿地保全目標を作り出す。これは、連邦、州、領土、地方自治体ごとの湿地政策の策定やそれらの間の調整を通じて行われる。また、湿地保全が包括的な国家土地利用計画策定の一部となるように、これらの湿地政策を、土地、土壌、水、大気、野生生物保全、経済開発といった他の政策と結びつける。
  • 湿地は陸地と水の両方にまたがることを認識する。
  • 湿地、特に海洋及び潮間帯湿地に関する、(すべてのレベルの)政府の管轄と法的責任を明らかにする。
  • 政府の取組と既存の政策もしくはガイドライン(例えば、連邦や州の農業政策、魚類生息地政策、シギ・チドリ類といった水鳥の管理、林業や農産物に関する合意)を湿地保全に関連付ける。
  • 各州や領土内において、関係するすべての機関が、地方レベルでの適切な土地利用の決定につながるように政策勧告を解釈するため、連絡網や連絡体制を確立する。
  • すべての州や領土に、包括的な湿地保全政策や戦略を策定するよう指示する。
  • 生物多様性や水、他分野における国家の保全戦略の中に、不可欠な構成要素として湿地保全を含む。
  • 湿地保護区管理のために、模範的な管理の実践手法や実用的なガイドラインを策定する。
  • 「ラムサール条約ワイズユース概念」の例を参照し、保全や持続的開発のための国際的合意や、他国で策定され成功した湿地政策をモデルにした政策を活用する。
.政府機関内やNGOとの間における協調関係とコミュニケーションを改善する。
  • 国家レベル(適切な場合には州や領土レベル)で、湿地に関する協力とコミュニケーションを調整するために、自然資源管理に関し広範囲の責任を持つ機関の中から、中心となる機関を特定する。
  • 効果的な湿地プロジェクトを促進する国家湿地プログラムの調整・実施に向けて、「国家湿地事務局」あるいは「国家湿地委員会」のような機関を通じて、適切な取組を構成・策定する。
  • 湿地に関する参考文献や湿地の生態学的データを体系化するよう、湿地保全コミュニケーションのための全国フォーラムを設立し、情報センター(an information clearing house)を確立する。
.湿地保全における地域社会及びNGOの役割やその努力を認識し奨励する。あらゆる分野からの地域社会やNGOは、湿地保全プログラムの策定と実施について力強い役割を期待することができる。
  • 政策、あるいは湿地保全戦略の下でのプログラム、もしくはその両方の策定で活躍できるよう、これらの団体に財源を供給する。
  • 湿地保全の資金調達のために役立つ、さらなる活動を促す。
  • 地域社会や湿地に関する専門知識をもつ地方・国内・国際NGOとのパートナーシップによる事業を促進する。
  • 湿地資源の自発的な、そして規制によらない自主管理様式(スチュワードシップ)において、そして地域社会、政府、環境NGOとの自然保護事業パートナーとして、企業の役割を奨励する。
.政府プログラムの調整及び合理化。湿地に対する悪影響を最小限に抑え、湿地保全を奨励するため、政府プログラムを調整し合理化する。また、土地所有者や自然保護機関が湿地を自然な状態で維持することを奨励するプログラムを創出する。
  • 湿地に影響を与える全ての政府プログラムを確認し、そのようなプログラムが湿地や農林業用地に与えている影響を評価する。
  • 土地の所有者や利用者を湿地保全に参加させることを通じ、彼らが得ている経済的恩恵や、湿地における自然資源のワイズユースに焦点を当てる。
  • 湿地における不必要な堤防建設、排水、埋め立てという結果につながる、政府提供の奨励プログラムを廃止する。
  • 政府及び民間による主要なプロジェクトにおいて、環境アセスメントが確実に行われるようにする。
  • 他の行政区域における成功例を引き合いにしつつ、特に、地方での土地所有者による自主的行動を通じ、そして連邦、州、市町村のプログラムを通じて、湿地保護区における税控除の現状を検証する。[ワイズユース・ハンドブック3参照]
  • 土地所有者との自然保護上の合意の利用等、個々の湿地における他の自主的な法的メカニズムを開発する。
  • 多くの場所で湿地を現状のまま維持するために、法律の下での要求事項や土地所有者に対する補償といった観点からの課題を評価する。
.保護区としての指定、土地獲得や保存後における湿地保護区の適切な維持管理を図る。
  • 湿地保護区管理のために、連邦、州、領土、市町村の予算の中で、十分な財的及び人的資源が確保されるようにする。
  • 国内の政府、NGO、企業そして個人の土地所有者の間における、調整のとれた協力を通じて、国家の湿地プログラムに資金を提供する。
  • 国、地方、市町村の湿地プログラムの中で、湿地の機能と価値(行政的に求められる場合には湿地面積となる場合もある)に焦点を当て、「No Net Loss(実質上の消失を生まない)」あるいは「Net gain(実質で増加させること)」を目標としたプロジェクトを企画する。
  • 湿地保全に政府やNGOが利用する資金調達のための活動を促進させる政策及び法律を、適切な場合には策定する。
  • 購入した湿地の土地所有権を保持したいと望むNGOに対して、その湿地の生態学的特徴の維持に合致する場合においては、収入を生み出すような機会を検討するよう奨励する。これは地域社会の場合には特に連続的な作物生産も考えられるだろうし、農業のために土地を貸し与えること、罠や銃による狩猟、観光、動植物の科学的研究から得られる収入等を含めて考えることができるだろう。
  • 独創的な土地保全や土地管理のメカニズムを奨励するため、科学、技術及び行政担当スタッフの教育を支持する。
  • 湿地管理に女性、地域社会やボランティアの参加を奨励、促進する。
.知識ギャップを埋める。湿地の分類、湿地目録、調査や評価において現存する知識のギャップを埋め、そしてこの知識にアクセスするために必要な知識の体系化、蓄積、照会のために適切な手段を講じる。
  • 実施戦略は国内及び国際的な関心あるいは優先事項といったものに取り組むべきである。例としては次のようなものが挙げられるが、これが全てではない。
    1. 社会経済的評価、湿地目録及び湿地の分類、
    2. 水文学及び気候変動の影響、
    3. 環境上そして生態学的な費用便益の計算、
    4. 政府プログラムによる影響、
    5. 湿地の再生、機能回復、影響緩和、湿地損失に対する代償措置、
    6. 湿地の生態学的特徴の維持。
.一般の人々の認識を高める。
  • 湿地保全を単独ではなく、むしろ生態学的な意味において、土壌、土地、水、大気、野生生物保護、そして持続的開発やワイズユースの原則と組み合わせて提示する。
  • 自然資源のワイズユース及び水質や水量の問題と湿地保全との結びつきを例証し、説明する。
  • 児童生徒向けのプログラムに加え、一般の人々や政策決定に携わる人々の教育プログラムを強調する。
  • 湿地保全の宣伝をするために、全国的なコミュニケーションの機会(例えば「世界湿地の日」、公共機関による広報活動、ビデオ、バスの広告、インターネットなど)を利用する。
  • 湿地保全に関する認識を高めるために、農業、水、その他の分野におけるプログラムの幅を広げる。
  • 土地所有者が参加するプログラム、表彰状やその他の広報に役立つ技術を通して、ネットワーク作りを奨励する。
.国際的な公約を確実に実行する。
  • 複数の国々にまたがる集水域河川流域とその中に位置する湿地の管理のために、国境を越えた協力を育成する。
  • ラムサール条約の原則や、条約の下での国家の公約を政府が実施するためのメカニズムを作り出す。
  • 水、生物多様性、持続的開発に関わる国際協定の目標や重要事項と一致するように、湿地に関する目的の統合を図る。

3.5.国家戦略の事例

117.付属文書3 は世界中の政府あるいはNGOによる、既存のあるいは策定中の湿地保全政策や戦略をリストアップしたものである。これには国家や国家に準ずる取組が含まれている。表2は既存の9例の「湿地保全政策」文書のにおいて挙げられた実施戦略の概略を示したものである。オーストラリア、カナダ、コスタリカ、フランス、ジャマイカ、マレーシア、ペルー、トリニダード=トバゴ、ウガンダにおける、採択済みあるいは草案段階の「国家湿地政策行動計画」が含まれる。これらの文書は単に『草案』であったりNGOとの『協議』のための文書であったりする場合もあるが、ここでは戦略的な取組を発展させる機会を説明するために採用した。

118.ここで引用された例を見ると、いくつかの戦略の取組でも共通の強調事項があることが明らかである。すなわち、一般の人々の認識や教育を改善すること、中央から地方まで異なる政府レベル間の協力やパートナーシップを発展させること、支持的役割を持つ法律や互いに関連した土地及び水利用に関する政策及びプログラムを策定すること、個別の湿地管理上の責任を果たすこと、科学的調査や専門知識を通して政策のためのしっかりとした基礎を構築すること、政策実施のための事務処理上及び財政的能力を発展させること、国際的公約を果たすこと、といった事項の必要性である。表2で概略された例では、全体的に見て513の戦略的項目が作られており、主要テーマに関して明確なビジョンを提供するように書き上げられ、全国的にも受け入れられやすいものとなっている。

表2:提案あるいは採択された『国家湿地政策/計画』における実施戦略

オーストラリア:

  1. 連邦の土地と水を管理する
  2. 相互に関連した政策と法律を実施する
  3. 湿地管理に住民参加を促す
  4. パートナーシップにより作業を進める
  5. 科学的基盤
  6. 国際的公約

カナダ:

  1. 普及啓発活動
  2. 連邦の土地を管理する
  3. 特別な地域の保全
  4. 他との協力
  5. 湿地の全国的ネットワーク
  6. 科学的な支援
  7. 国際的公約

コスタリカ:

  1. 一般的事項
  2. 湿地の分類
  3. 景観の分類
  4. 行政上の組織
  5. 財政面
  6. 湿地保護
  7. 湿地内で許可される活動
  8. 公共の土地や政府機関所有の土地における湿地管理
  9. 私有地における湿地
  10. 湿地がもたらす公共的恩恵の統合
  11. 例外事項及び許される活動

フランス:

  1. 理論的根拠
  2. 湿地目録及び評価手法の強化
  3. 公共政策の調和を図る
  4. 湿地の再生
  5. 情報及び広報プログラム

ジャマイカ:

  1. マングローブ及び沿岸湿地の計画作り
  2. 湿地の機能と価値を保護し高める
  3. 地方での影響に対処する
  4. 主要機関の役割と責任
  5. 法の執行と遵守
  6. 法律及び規則の検討

マレーシア:

  1. 分野を越えた調整と連結
  2. 法律とその他の政策
  3. 経済的奨励策と抑制策
  4. 土地及び水利用の計画策定
  5. 個別の湿地管理
  6. 持続的利用
  7. アセスメントとモニタリング
  8. 情報、広報と研修
  9. 国際的行動
  10. 制度上の発展と財政的支援

ペルー:

  1. 制度上の配慮
  2. 法的側面
  3. 調査研究
  4. 持続的開発
  5. 教育
  6. 普及啓発活動
  7. 能力向上(キャパシティ・ビルディング)
  8. 国際協力

トリニダード=トバゴ:

  1. 教育、普及啓発及び研修
  2. 公共の湿地の管理
  3. 湿地保護区
  4. 湿地保護のための協力
  5. 湿地の研究
  6. 制度上及び法律上の配慮

ウガンダ:

  1. 湿地における排水の中止
  2. 健全な環境管理
  3. 持続的利用
  4. 自然保護
  5. 水の供給と処理
  6. 土地利用と所有形態
  7. 湿地の再生
  8. 環境アセスメントとモニタリング
  9. 普及啓発活動
  10. 調査と目録
  11. 能力向上(キャパシティ・ビルディング)
  12. 国際的行動
  13. 法律、制度上の調整

ラムサール条約 国家湿地政策指針

.「政策」の実施

4.1.実施に責任のあるのは誰かを規定する

119.国家湿地政策の実施にあたって、誰が中心になるのかという点に関して、協議の過程を通じて明確な合意が得られることが基本である。政府の特定の部局あるいは機関が、関係ある多くの省庁、パートナー、利害関係者と密接に働く、中心的なコーディネーターあるいはファシリティターとしての役割を果たすことになるだろう。また、湿地管理に責任を持つ他の諸機関の役割を定めることも重要となる[事例研究4 ]。

4.2.実施のためのガイドラインを策定する

120.いくつかの選択肢があるが、いずれもひとつの事実に結びつく。すなわち、実施に関わる機関は、「政策」が言っていることが何で、どういう意味を持つか、誰が担当か、どのような専門知識がどこに存在するか、役割と責任がどう分担されるのか、そしてそれらに関係する多くの質問があり、これらを理解するためには、助力と訓練とを必要とするということである。「政策」の策定自体と並行する形で、『実施のためのガイド』と呼ばれる文書を作成することが出来るだろう。「政策」について数年の経験を積んだ場合には、こういった『ガイド』は、より容易に作成することが出来るだろう。

121.この『ガイド』は利害関係者と湿地資源の利用者にとって役立つものでなければならない。それゆえこれは湿地の管理者を対象に据える。管理者は政府の機関であったり、地域社会であったり、公有あるいは私有地の所有者であったり、その他の利害関係者であったりする。政府機関の場合、「政策」の採択に中心的役割を果たす個別の政府の管轄における、すべての土地管理者や政策決定者を含むものとなろう。『ガイド』は次のような分野で役に立つ:

  1. 「政策」本文の中で用いられている用語や目標の解説、
  2. 専門知識の入手先、パートナーシップの性質、主要機関の役割の記載、
  3. 利害関係者や実施担当機関の役割や責任を理解すること。

122.『実施ガイド』があれば、市民啓発のための資料製作等を通じて、「政策」が誰に適用されるのかについて明確に理解することができるようになる。

4.3.どのような資源が必要とされるかについて規定する

123.場合によっては、どのような資源が必要とされるかを定めてしまうことは、「国家湿地政策」の構成や目的・目標を十分に議論することの妨げとなってしまうかも知れない。政府機関において資源が十分にはない時には、実施のための新しい資源を管理するために最も適した位置にいるのは誰かという点に関して、重要な点に関して姿勢をはっきりさせる必要性や議論が生じるかも知れない。そのような際には、どのようなことがなされるべきかという議論と、誰がどのようにしてそれを行うかという議論を分けて考えることが有効だろう。このように誰が責任を持つか、そしてどのようにして資金を調達するかという議論から、政策策定を分けることによって、国として合意形成が難しくなるような問題を避けることが出来る場合もあるだろう。

124.国家湿地政策を実施するための予算は、承認のために政策が政府に提出される段階になってから、すなわち何がなされるべきかという点についての協議が終了してから、初めて要求されることになるだろう。こういった国家湿地政策の財政面についての記述は、文書全体に渡って述べるよりは、そのために別個のセクションを設けて提示するのが最善だろう。はじめに設定された『必要財源等の見積もり』は、政策の実施期間の間に改訂が必要となる場合もあるだろう。それゆえ、あまり詳細な費用計算を、政策文書自体の中に組み込むのは適当ではないだろう。

125.『行動計画(アクションプラン)』は有益だろう。典型的行動計画は、実際のスケジュールが付いた、政策の目的・目標を達成するための活動のリストである。さらに、予算配分された担当スタッフの配置や財源に関する記述が加われば、それは『作業計画(ワークプラン)』(後述のセクション4.8参照 )と見なすことができるだろう。作業計画では、採択された実施戦略のタイトルごとに個別の計画が作られるだろう。

126.政策実施のかなりの割合が、様々な省庁にわたってすでに存在する多くの活動を通じて実施されることになる。すなわち、湿地に関係した特定の項目を、独立して切り離すことが困難かまたは不可能な場合もあるわけである。この点に関しては、必要となる資源全体に関して大変な努力を払って定量化しようと試みることよりも、むしろ記載にとどめておくことが重要である。それゆえ、政策を効果的に実施するために「新たに」必要とされる資源の概略を記載することが有益となる。また、政策の効果的実施において、どのような形で資源節約を図ることが期待されるかについても言及すべきである。

4.4.法的要求

127.条約におけるワイズユース概念の要素の一つとして、湿地に悪影響を及ぼしかねない法を再検討し、適切な場合には、湿地のワイズユースと保護とを促進するための新しい法律を制定することを締約国に求めている。これは非常に重要なステップであり、現存する計画、政策、法律等で自然保護の実施を妨げる要素を持っているもの、そして湿地に悪影響を与えるものを見極め、新たな選択肢を提出するためには、一連の複雑な研究が必要となる場合もある。

128.湿地保全を支持する国家の法律を再検討したり新たに策定したりするための一助となるよう、ラムサール条約とIUCN環境法センターは協力して、1999年の5月に開催された第7回締約国会議で採択された決議.7「湿地の保全とワイズユースを促進するための法と制度を再検討するためのガイドライン」とその付属文書を作成した。これらの文書は、1998年7月の「湿地に関連する法と制度を再検討するための方法論の構築」をテーマとした国際ワークショップの結果を基にしたものであり、このワークショップではオーストラリア、カナダ、コスタリカ、インド、ペルー、ウガンダ、そしてワッデン海事務局からの報告がなされた。

129.いくつかの国では、新しい法律が必要とされている、あるいは期待されている。例えばアフリカ諸国の多くは、法律に従わない場合に関して明確な法律の規定や罰則を設けることが望ましい。他の国々では、自主的な取組や、土地の管理者としての自覚を持った取組(スチュワードシップ)のような、規制によらない解決策を推進することに比べると、新しいあるいは追加の法律を作ることは効果的ではないと思われる場合もあるだろう。こういった政策の実行にあたっては、NGOや地域の組織が効果的なパートナーとなるだろう。法律が必要かどうかといった点や法律に関わる取り決めが国によって異なるので、この課題に関する標準的な規則や公式といったものはない[事例研究5 、事例研究6 ]。

130.法律や政策における相互互換性、共同作用、利害の衝突といった事項を分析することが(認識された利害の衝突を解決することを目的として)必要となる。既存の法的メカニズムを利用できる場合もあれば、新しい法律を考慮することが必要な場合もある。法的検討はまた、政府の湿地保全目的とは相容れない、あるいは時代遅れになってしまったと考えられる法律や政府政策を改正したり廃止したりすることを意味する。これは政府内部での競合する利害による対立を招いてしまい、困難となる場合もあり得る。

131.法的必要性や機会は国によって異なり、特に途上国と先進国の間で、さらに経済状態や政治的体制が著しく異なる場合にその違いが顕著である。新法の導入と、その実施及び遵守が成功するためには、新法が機能するように図る関係者の忍耐力がテストされることになるだろう。

132.原則的には、法律によってもたらされる強制的な取組よりは、自主的な行動の方が好まれる傾向にあると言えるだろう。しかしながら、最終的には強制的に実行させることも可能だという条項を設けることによって、関係者が自主的に取り組もうとしなくても求められる結果をもたらせるよう基本的な能力は確保しなければならない。

4.5.省庁間の調和を図る

133.湿地政策は、他の政府機関の(おそらく利害的には対立しかねない)優先事項や政策との協議を図り、調和を保つように実施されなければならない。すなわちひとつの機関が、プロセス全体を機能しうるようにするために、十分な影響力あるいは権限を備えて中心的役割を果たさなければならない。こういった場合には、高級幹部が参加(例えば副大臣レベル)し、閣僚に直接報告する義務を持った、省庁間にまたがる湿地政策委員会が効果的となるだろう。

134.政策では「何が優先されるか?」という質問に対して、単純な答えはない。他の省庁の責任、義務、あるいは法的権限が、湿地の保全とワイズユースに関して政府が望む目標と利害が対立することもあるだろう。中央省庁が政策を策定し徹底させる実権を与えられている国家もあれば、より非公式な、助言を提供する立場としてしか機能しない国もある。省庁が主導し実施する程度というのは、中央政府の個々の分野における責任機関の強さや弱さをしばしば反映するものであるし、その組織の憲法上の位置づけにもよる。

135.先に述べたように、「国家湿地政策」の実施において、その策定や協議段階の初めから、影響を受ける省庁が関与することが必要不可欠である。いくつかの例で、「湿地政策省庁連絡委員会」は政策の採択前、そして採択後にも効果的であった。こういった委員会は、様々な課題において意見の一致を生み出し、利害対立を解決し、省庁間の実施に関わる手続きを簡略化するのに役立つ。

136.政策のための多くの戦略が、政府機関(そしてNGO)の既存のプログラムや関連組織の活動を協調させることによって、実施可能である点もまた認識されてよい。そのためには、そういったプログラムを一部手直しする場合もあり得る。こういった取組において重要なのは、既存の予算とスタッフを効果的に用いることによって、「政策」実施のための新しい予算措置において大きな節約となりうる点である。また、このことは、各国にとって、援助を必要とする明確かつ個別の必要性のみに国際的な援助の焦点を絞るにあたって、大きな助けとなる。

137.こういった既存のプログラムを手直しするための技術としては、既存の優先事項の評価、特定のスタッフの業務における方向性の修正、そして職員研修が実施できるよう合理的かつ注意深い態度で新たな取組や技術の統合を図ること、等がある。こういった方法はすべて、官僚として働く人々が業務過剰になることや未知の取組に対して恐れをいだくのではなく、むしろ彼らの支持を生み出すように機能させなければならない。

4.6.調整の必要

138.政策や科学的事項に関する専門家をスタッフとして擁するだけの資源を備えて、中央政府の特定機関を政策実施の中心機関として任命しなければならない。この機関は、アドバイスの提供、研修の企画、そして省庁間の相互調整を行うことになるはずである。理想的には、国内の湿地に関する専門能力を有し、組織として湿地や環境保護に関する国内及び国際レベルでの経験を持っている機関であるべきである。多くの場合、ラムサール条約における責務履行の担当機関として任命されている機関と一致することになるだろう[事例研究7 ]。

4.7.実施計画の策定

139.『実施計画(作業計画)』にそれぞれの戦略が短期的そして長期的にどのようにして、そして誰によって実施されるかを記してもよい。もし新しい財源が利用できるようであれば、国家にとって計画実施のために適切な期間の展望、例えば5年10年といった期間に基づいて必要となる予算やスタッフを規定することになる。新たな財源が供給されない場合には、こういった予算に関する段階は必要でないが、個々の政府機関がそれぞれ既存の予算やプログラムを用いて政策を実施するように求める戦略が必要となる。

140.個別の状況に応じて、行動計画やプログラムを提供する最善の方法が決まってくる。例えば、それらが「政策」自体の一部として(付属書として等)提出される場合もあるだろうし、担当省庁の既存手段の中に組み込まれるのが最良の場合もあるだろう。

141.「国家湿地政策」の鍵となるのは、政府が明らかにした公約を確実に実行に移せるようにすることである。ここには、誰がいつまでに、どのような水準まで、何をしなければならないか、そしてこういった情報がどこで入手できるか、といった事項について明確にすることが含まれる。この「確実に実行に移せるようにする機能」に対して責任のある担当者はこの段階で、扱う範囲に見落としがないか、すなわち、「政策」の中で示唆されたすべての行動が実際に「実施計画」の中に見いだされるかをチェックし、そしてギャップが有ればそれを埋めるような手段を講じなければならない。行動を段階的に実行するようにすること、それらを連続的に構成することが、関連する箇所に明確に記されていなければならない。行動計画では、(あるレベルにおいて)行動が計画されたように実施されなかった場合にどうすべきかも示唆しておかねばならない。

4.8.研修

142.湿地管理官たちのための環境影響評価に関する研修、あるいは企画担当官のための「政策」全体像に関する研修、そして全般的な湿地についての研修は、湿地政策実施の成功のためには絶対必要である。これは取捨選択可能なオプション、または良識だと考えてはならない。湿地の調査、管理、そして監視についての研修を促進することは、ラムサール条約第4条5項の下での責務である。

143.湿地研修に関しては多くの取組の例がある。これらの中には、様々な機関が実施している、地域を対象にしたものや国家レベルでの研修コースやワークショップが数多く含まれる。例えば日本の海外援助担当機関(JICA)は、第一段階として1994年から5年間、湿地保全と渡り鳥に関する国際研修コースを設立した。オランダの Lelystad の「湿地諮問及び研修センター」が運営する「湿地管理に関する国際研修コース」では、毎年6週間に渡る総合的なプログラムが提供されている。ラムサール事務局は湿地研修コースについての国際的な調査を行った。これは『湿地管理研修の機会目録』(Ramsar Bureau 1998b)として出版され、16ヶ国に及ぶ67以上の研修の取組がリストアップされている。

144.「国家湿地政策」もしくは「国家湿地戦略」を扱うための、特別な実践ガイドそして研修コースを設立した国も若干ある。ひとつの例は、『連邦土地管理者のための実践ガイド』(Lynch-Stewart et al. 1996)である。カナダ政府とその提携機関、「北米湿地保全協議会」(本部カナダ)は、『湿地とともに働く』と銘打った研修コースを実施している。これはカナダにおける連邦政府機関に合わせた形で、いくつかのプログラムで提供されている。研修コースは20名程の管理者達を対象として開催され、講義、事例研究、そして実際の湿地への視察などが含まれている。オーストラリア政府も同様の研修を検討中である。また、ウガンダでは「国家湿地政策実践プログラム」が樹立されている。

145.「国家湿地政策」が採択されればすぐに、国家レベルで湿地研修における『必要項目の評価』を行うことができるだろう。これは中身について細かく記載したものである必要はないが、課題や中心となる研修手法、主要な必要事項と欠点がどこに存在するかといった点について、概要を提供するものとなるべきである。国家レベルで考慮する価値のあるもうひとつの側面は、研修を提供する側の評価である。これには、確認された必要事項に対処するために関係しそうな、資源、コース内容、機関やコンサルタントの目録が含まれる。

4.9.各国の経験を分かち合う

146.ラムサール条約の最も興味深い側面のひとつに、各国の経験に基づいた情報を交換する伝統がある。「国家湿地政策」の分野でも、湿地政策の専門家や研究者の世界的な交流が行われてきている。本ガイドラインの著者達のうち何人かは、新たに「国家湿地政策」に取り組もうとしている国々に自分達の経験を提供してきた。例えばカナダは、マレーシア、オーストラリアや他のいくつかのラムサール条約締約国が「国家湿地政策」を策定するために、非公式に助言を提供してきている。同様に、オーストラリアとウガンダは非公式な形で、アドバイスをボツワナに提供しているし、バードライフ・インターナショナルはトリニダード・トバゴに助言のできる専門家を派遣した。

147.こういった交流では、招聘による短期間の訪問やサバティカルの利用といった例もあれば、内々での助言や政府原案の検討等に関わる非公式な文書交換といった場合もある。協議のためのワークショップ、NGOとの共同作業、政府高官との話し合い、財源確保のための仕組みを探る方法、そして草案作成といった事項への提案が含まれている。こういった提案内容は関係者によって、有益であり積極的な取組となったと見なされている。今日までこういった取組はどちらかといえば非公式なものであったが、非公式であるが故に、招聘された専門家が短期コンサルタントかつアドバイザーとして、1国から場合によっては数ヶ国に及んで旅行することもできた。「政策」策定に関してある締約国が得た経験を分かち合うことで、地方レベルでも専門的能力が高められる。どの場合でも、地域の必要性や状況に適合させるために大幅な応用が必要となる。ラムサール事務局は、条約締約国の間のそういった交流を促すよう支援してくれる。

4.10.国内のモニタリング計画の設立

148.「国家湿地政策」とその関連プログラムの実施において、独立してはいるが必要不可欠な要素として、2種類のモニタリングの実施がある、すなわち、湿地の健全性と土地利用に関するモニタリング、そしてプログラムの成功に関するモニタリング、である。いずれも、湿地に関する取組を、「政策」の方向性や政策を必要とした課題に対応するよう助けてくれるだろう。

149.湿地モニタリングには、気候変動、汚染その他、長期的影響に対応して変化する湿地の生態学的事項、すなわち、動植物相、水文学あるいは化学についての認識が含まれる。国家や地域レベルでの野生生物生息地土地利用の研究をとおして、直接的な自然環境保全の取組が成功しているか否かを評価できるようになるだろう−すなわち、湿地の喪失はまだ起きているのか? もしそうならそれはなぜか? といった疑問に対する答えを提示してくれる。

150.「政策」が成功したかどうかについてのモニタリングは、通常プログラムごとあるいは組織レベルで行われる。例えば、スタッフの勤務時間が拡充されるように資源が提供されているならば、それはよく目標に合致したものであるのか? 現在のデータシステムは、プログラムがどこでどのようにして機能しているのかについて、政府に適切な情報を提供しているか? 「政策」の目的は達成されつつあるのか? 「政策」は、それがうまく機能しているかどうかを判断する方法、自己モニタリングの手法、さらに究極的には、必要があれば調整を行うための手法、これらが備わっている必要がある。

4.11.文献

151.「政策」の最後の部分は、文書内で引用された文献の目録である。報告書はまた、さらなる研究や、引用文献の内容をさらに深めるために選択された、国内そして国際的に興味深い文献についての総合リストを付属文書として含むこともできるだろう。どの場合でも、一般の人々が参照することができる資料のみを含むようにすることが望ましい。もしいくつかの資料が特定の人々しか利用できない部類のものだったり、絶版のものだったりすれば、そのような文献リストはあまり役に立たない。


ラムサール条約 国家湿地政策指針

.文献

Lynch-Stewart, P., P. Niece, C. Rubec and I. Kessel-Taylor. 1996. The Federal Policy on Wetland Conservation, Implementation Guide for Federal Land Managers. Canadian Wildlife Service, Environment Canada. Ottawa, Canada. 32 p.

North American Wetlands Conservation Council Canada. 1998. A Wetland Conservation Vision for Canada. Booklet. Ottawa, Ontario. 8 p.

Pritchard, D. 1997. Implementation of the Ramsar Convention in Trinidad and Tobago. Royal Society for Protection of Birds and BirdLife International. RSPB Sabbatical Report. Bedfordshire, United Kingdom.

Ramsar Bureau. 1987. Review of National Reports Submitted by Contracting Parties and Review of the Implementation of the Convention Since the Second Meeting of the Conference in Groningen, Netherlands in May 1984. Document C.3.6, Proceedings, Third Meeting of the Conference of the Contracting Parties. Convention on Wetlands. pp. 231-236. Regina, Canada.

Ramsar Bureau. 1990. Review of National Reports Submitted by Contracting Parties and Review of the Implementation of the Convention Since the Third Meeting of the Conference in Regina, Canada in May/June 1987. Document C.4.18, Proceedings, Fourth Meeting of the Conference of the Contracting Parties. Convention on Wetlands. Vol. 3: pp. 351-354. Montreux, Switzerland.

Ramsar Bureau. 1993. Review of National Reports Submitted by Contracting Parties and Review of the Implementation of the Convention Since the Fourth Meeting of the Conference in Montreux, Switzerland in June/July 1990. Document C.5.16, Proceedings, Fifth Meeting of the Conference of the Contracting Parties. Convention on Wetlands. Vol. 3: pp. 469-485. Kushiro, Japan.

Ramsar Bureau. 1998a. Regional Overviews of the Implementation of the Convention since the Sixth Meeting of the Conference in Brisbane, Australia in March 1996. To be published in the Proceedings, Seventh Meeting of the Conference of the Contracting Parties. Convention on Wetlands. San José, Costa Rica.

Ramsar Bureau. 1998b. Directory of Wetland Management Training Opportunities. First Edition. October 1998.

Ramsar Bureau. 1998c. National Reports of Contracting Parties submitted for COP7. Available from Ramsar Web Site http://ramsar.org; also summary papers by Regional Coordinators for Ramsar Standing Committee Meeting, October 1998.

Rubec, C.D.A. 1996. Status of National Wetland Policy Development in Ramsar Nations. Proceedings, Sixth Meeting of the Conference of the Contracting Parties. Convention on Wetlands. Vol. 10/12A: pp. 22-29. Brisbane, Australia.

Smart, M. 1993. Summary of Comments in National Reports: Guidelines for the Establishment of National Wetland Policies. Proceedings, Fifth Meeting of the Conference of the Contracting Parties. Convention on Wetlands. Vol. 2: pp. 152. Kushiro, Japan.

Shine, C. and L. Glowka. 1999. Guidelines for Reviewing Laws and Institutions to Promote the Conservation and Wise Use of Wetlands and Reviewing Laws and Institutions to Promote the Conservation and Wise Use of Wetlands, by Clare Shine. Ramsar Bureau. IUCN Environmental Law Centre Report to COP7 Ramsar Convention. San José, Costa Rica.


ラムサール条約 国家湿地政策指針

付属文書1:湿地政策策定のための優先事項

ラムサール条約の下で期待されている中心的なこととして、「国家湿地政策」を通じてワイズユースを実施することがある。ワイズユース実施を支持する「国家湿地政策」に関する行動は(勧告4.10「ワイズユース概念履行のためのガイドライン」に基づき)、5つのカテゴリーに分けられた。

「国家湿地政策」策定のために優先される行動

1.制度や組織上の取り決めを改善するための行動。以下の行動を含む:
  1. どのように湿地保全が達成されるか、そしてどのように湿地に関わる優先事項が、十分に企画立案過程に組み入れられるかということを、関心のある人々が確認できるようにする、制度上の取り決めの確立。
  2. 湿地保全と持続的開発を確実なものとするために、湿地と湿地を支えるシステムに関する事業の計画と実行に、多岐の専門分野に渡る総合的なアプローチを取り入れるための仕組みと手続きの確立。
2.法律や政府政策に取り組む行動。以下の行動を含む:
  1. 湿地保全に影響する既存の法律及び政策(助成金や奨励策を含む)の見直し。
  2. 湿地保全のために重要な、既存の法律及び政策を適切な場合に適用すること。
  3. 必要な場合には、新しい法律や政策の採択。
  4. 湿地資源の保全や持続的利用を可能にする事業のための開発資金の利用。
3.湿地とその価値についての知識と認識を高めるための行動。以下の行動を含む:
  1. 国家湿地政策を準備中やすでに実施している国々、あるいは湿地保全の努力を続けている国々の間で、湿地政策、湿地保全とワイズユースについての経験や情報の交換。
  2. ワイズユースの観点から、湿地の恩恵と価値について十分に、政策決定者や一般の人々のもつ認識や理解を高めること。湿地の内外で発生するそれらの恩恵と価値には、以下のようなものがある:
    • 沈殿物堆積や侵食の制御、
    • 洪水制御、
    • 水質維持と汚染の緩和、
    • 地表水や地下水供給の維持、
    • 漁業、牧畜業、農業の支持、
    • 人間社会のための野外レクリエーションや教育、
    • 野生生物、特に水鳥の生息地の提供、
    • 気候安定化への寄与。
  3. ワイズユースの伝統的手法の検討、そして典型的な湿地タイプのワイズユースを示すパイロット事業の創出。
  4. 湿地保全に関わる行動や政策の履行を支援する分野での、適切なスタッフの研修。
4.全国規模ですべての湿地の状況を見直し、必要な優先事項を確認する行動。以下の行動を含む:
  1. 湿地の分類を含めた国家湿地目録の作成。
  2. それぞれの湿地における恩恵や価値の確認と評価(上記3b参照)。
  3. 各締約国の必要性や条件に応じて、それぞれの湿地における保全や管理のための優先事項の確認。
5.特定の湿地における問題に取り組むための行動。以下の行動を含む:
  1. 湿地に影響を及ぼしかねない事業の計画の最初から、環境上の配慮を組み入れること(承認前に環境影響について十分なアセスメントを行うこと、事業実施中にも評価を引き続き行うこと、そして必要な環境対策の十分な実施を含む)。計画立案、アセスメント、そして評価は、湿地そのものにおける事業、湿地上流部における事業、そして湿地に影響を与えかねないその他の事業を対象とすべきであり、上記3bに列挙された恩恵と価値を維持することに特別な注意を払うべきである。
  2. 湿地生態系の自然要素が過剰に利用されないよう、利用を規制すること。
  3. 地域住民を巻き込み、彼らが必要とする事項を考慮に入れた管理計画の策定、実施、そして必要な場合には定期的に改訂すること。
  4. 国際的に重要な湿地であると認識される湿地をラムサール条約の『登録湿地』に指定すること。
  5. 登録湿地であるかどうかに関わらず、湿地において自然保護区を設立すること。
  6. その恩恵や価値が喪失したり、低下した湿地の復元を真剣に考慮すること。

ラムサール条約 国家湿地政策指針

付属文書2:勧告6.9「国家湿地政策策定及び実施のための枠組み」


ラムサール条約 国家湿地政策指針

付属文書3:ラムサール条約締約国および地域による国家湿地政策と行動計画戦略の要約

以下の湿地政策文書の一覧表は、現在入手可能な多くの参考資料を基にした初期段階の概略を提供しているが、多くの国々で新たな取組が定期的に現れているので完璧なものとは言えないだろう。第7回締約国会議のために提出された、106ヶ国の国別報告書の中に記載されている詳細を基に、さらなる改訂が加えられており、またラムサール事務局のホームページからも入手することが出来る。もし見落としや記述の誤りがあった場合には筆者らの責任であり、陳謝したい。もし読者が特定の報告書を入手したい場合には、ラムサール事務局がコンタクトすべき住所を提供できる。この文書は、国別もしくは一般的な地域に分けてまとめられている。引用された各報告には分類を示す略語が記載されており、次のような意味を持っている:

GOP
政府による政策(government policy)、
GOS
政府による戦略文書行動計画あるいは計画立案文書(government strategy paper / action plan or planning document)、
NGO
NGOによって提案された政策もしくは戦略文書。
アルジェリア
「湿地行動計画」を組み入れた「国家生物多様性戦略」を策定するために、地球環境ファシリティに資金提供を申請している。
アルゼンチン
湿地の保全やワイズユースのための行動を含む「国家生物多様性戦略」は、策定のための最終段階にある。
アルメニア
政府は湿地に関する手法を含んだ「Sevan 湖行動計画」を策定した。
オーストラリア
「国家湿地政策諮問委員会」を設立し、1997年2月に政策を発表した。すべての英連邦(Commonwealth)担当局が、ひとつの共通目的声明文の下で、共通した一連の目標を採用するよう取り決めが行われた。また、「国家行動計画」及び州ごとのプログラムがある。いくつかの州はそれぞれの湿地政策を準備中あるいはすでに実施している。
GOP
『オーストラリア英連邦政府による湿地政策』。1997年1月発行。オーストラリア政府環境省、生物多様性グループ、湿地・水路及び水鳥局(キャンベラ、オーストラリア)。38頁と付属文書。
GOP
『ニューサウスウェールズ湿地管理政策:管理ガイドライン』。1996年。土地・水保全部(シドニー、オーストラリア)。
GOS
『ノーザンテリトリー州湿地における生物多様性保全戦略』。1999年。草案報告書、一般協議中。ノーザンテリトリー州政府。
GOS
『クイーンズランド州湿地保全管理戦略』。1999年。草案報告書。クイーンズランド州政府。
GOP
『サウスオーストラリア州湿地政策』。1999年。草案報告書、一般協議中。サウスオーストラリア州政府。
GOP
『タスマニア州湿地政策』。1999年。草案報告書、一般協議中。タスマニア州政府。
GOP
『ビクトリア州湿地保全プログラム』。1988年。ビクトリア州、水担当局及び企画環境省、自然保護・森林・土地局。43頁。
GOS
『ビクトリア州生物多様性戦略 管理指令 Part II:湿地』。1997年。ビクトリア州、水担当局及び企画環境省、自然保護・森林・土地局。
GOP
『ウエスタンオーストラリア州湿地保全政策』。1997年。自然保護土地管理局及び水河川委員会(パース、オーストラリア)。23頁。
オーストリア
「国家湿地戦略」が策定され、「国家環境行動計画」と「国家生物多様性戦略」とに統合が図られる予定である。
バハマ
「国家湿地戦略」が「国家生物多様性行動計画」と調和する形で策定される。
バーレーン
Tublibay 地域が、住宅自治体環境省環境問題局の指導の下に、湿地研究、一般教育、バードウォッチングを促進するための「湿地保護区」の中心として提案されている。
バングラデシュ
環境森林省のためにIUCNが「国家湿地政策」を草案した。これは湿地のワイズユース戦略を含んでいる。
ベラルーシ
提携機関による考慮のために地域レベルでの提案がされている。
NGO
Pripyat 及び Yaselda 湿地−Polesiaの自然遺産』1997年。展示用小冊子。ベラルーシ科学アカデミー及び「Michael Otto 環境保護財団」。ミンスク。
ベルギー
北海地域を除く湿地管理は地方政府の管轄になっている。「北海法」が1997年に採択され、海洋環境と自然保護に焦点をあてている。フランダース地方は1997年に湿地保護区に関する法律を採択した。ウォーロン地方では、1989年に「生物学的に重要な湿地地帯」を設定するための法律を確立した。湿地要素を持った「自然行動計画」とプログラムが、1999年から開始するために現在完成を目指している。ブリュッセル地方では、とりわけ水路に関して、「首都地域」の総合計画プログラムの下で、広範囲に渡って考慮されている。
黒海地域
関連する7ヶ国政府と提携機関による協力の仕方を探る地域計画がある。
NGO
『黒海湿地の保全:総括及び初期的行動計画』国際水禽湿地調査局(IWRB)出版物第33号、1994年。またがる地域は、トルコ、ジョージア、ロシア連邦、ウクライナ、ルーマニア、モルドバ、ブルガリア。IWRB(スリムブリッジ、英国)。77頁。
ボリビア
「国家生物多様性戦略」は湿地保全プログラムに関わる要素を含む。
ボツワナ
「国家湿地政策及び戦略」が策定中であり、1999年の完成が提案されている。
ブラジル
既存の法律プログラムと調和させた『国家湿地戦略』が策定中。
ブルガリア
1995年に「国家湿地行動計画」が策定された。一カ所を除く15カ所の重要な湿地すべてにおいて地方レベルの保護策がとられている。国家目録を含むすべての湿地に対する包括的な「国家湿地計画」が必要であること、そしてこのことはNGOや海外援助機関による多大な支援が必要であることが認識されている。
GOS
『ブルガリアにおける最も重要な湿地保全のための国家行動計画』1995年、環境省(ソフィア)。55頁。
ブルキナファソ
IUCN西アフリカプログラムと環境水資源省との協力の下で「国家湿地プログラム」に着手した。湿地のワイズユースに向けて実施すべき一連の国家行動を含んでいる。「国家湿地政策」は1999年の完了をめざして着手されている。
カンボジア
「国家湿地行動計画」と政策は検討中。
GOS/NGO
『カンボジア王国湿地行動計画』1995年10月、報告原稿。国際湿地保全連合(クアラルンプール)。81頁。
カナダ
1991年に内閣が承認した包括的な連邦湿地政策を確立している。10州のいくつかは現在、州の湿地保全と管理のための政策を起草中もしくはすでに実施中である(アルバータ、サスカチュワン、ニューブランズウィック、マニトバ、オンタリオ州は、州の内閣レベルで承認し出版された政策を持っている)。
GOP
『連邦湿地保全政策』1991年。カナダ政府環境省(オンタリオ州オタワ)。14頁。
GOS
『連邦湿地保全政策:連邦土地管理者のための実施ガイド』カナダ環境省、1996年。32頁。
GOP
『湿地:オンタリオ州政府の政策声明』1992年、協議会命令1448/92、オンタリオ計画策定法第3項。1996年、1997年改定。オンタリオ州自然資源省(トロント)。
GOP
『アルバータ州居住区における湿地管理:アルバータ州農地の政策』、『アルバータ州泥炭地及び非居住区における湿地の管理のための政策』、アルバータ州水資源委員会、1993年(エドモントン)。
GOP
『サスカチュワン湿地政策へのガイド』1995年、サスカチュワン政府(レジャイナ)。
GOP
『ニューブランズウィック湿地政策』草案。1999年。ニューブランズウィック政府(フレデリクトン)。
チャド
1994年に行われた環境と砂漠化に関する省庁間の協議が、「自然資源のワイズユースのための国家行動計画」の設立の役に立った。これは湿地管理も含んでいる。湿地要素を含む「国家生物多様性戦略」もまた策定中である。
チリ
「国家湿地戦略」は、同様に策定中である水や環境の国家政策と調整を図って、1999年初期に完成させることが提案されている。
中国
「中国湿地保全行動計画」は、17の政府機関の代表者によって編集されている最中である。関連する会議が1996年と1997年に開催された。この「計画」は国家協議会によって承認される予定であり、国家林業庁を通じて全国の湿地資源の調査を実施することを含んでいる。他の様々な省や機関もまた関係している。WWF中国と国際湿地保全連合はこのプロジェクトに協力を提供している。
GOS
『中国湿地保全行動計画』。1999年。協議のための中国語原稿が1999年に策定された。国家林業庁(北京)。
コロンビア
沿岸や海洋湿地は、1998年の「コロンビアにおける沿岸地帯の持続的開発戦略」に含まれている。「淡水湿地行動計画」もまた、1999年策定のため検討中である。
コモロ
1993年の「国家環境政策」と1994年の「行動計画」は、多様な湿地、水域、沿岸の生物多様性に関する取組を含んでいる。次の「国家環境行動計画」に湿地評価と保護に関する取組を組み入れることが提案されている。
コンゴ
湿地は、国家の環境や林業行動計画、そして「地方開発ガイドライン」に部分的に組み込まれている。これらは湿地に関しては幾分限られたものであると認識されている。したがって、8つの目標を持った『国家湿地戦略及び行動計画』が策定中であり、1997年から2002年の期間において4つの段階を経て実施される予定である。
コスタリカ
1996年に全国湿地地図と「国家湿地行動計画」を公表した。
NGO/GOP
『コスタリカ湿地保全及び持続的開発国家戦略』。ラムサール事務局、IUCN南米地域事務所、環境エネルギー省、熱帯農業研究センター。1997年2月草案。「湿地保全法」草案を含む。
コートジボアール
特に湿地にある自然資源のワイズユースのための「国家水自然環境行動計画」や法律が制定されてきた。「国家湿地政策」は計画中である。
クロアチア
『国家生物学的・景観戦略と行動計画』は、1999年に採択が期待されている。これは、11項目に及ぶ「湿地保護戦略」を含む16の目的を持っている。
チェコ
「国家生物多様性戦略」において湿地は組み込まれている。
コンゴ民主共和国
国家湿地目録が完成したら、「国家湿地政策及び戦略」が考慮されるだろう。いくつかの湿地は「国家生物多様性戦略」と「環境の戦略的管理における国家政策」を通じて、保護されるべきものとして認識されるだろう。この国の現状では今のところ進展が期待できない。
デンマーク
『自然保護法』は、国内すべての湿地に適用されており、塩性湿原、低層湿原、高層湿原、及び沼沢地に関しては特別な規制が含まれている。0.25ヘクタール以上の全ての湿地が保護されている。湿地を修復し復元するため、そして以前湿地だった地域のさらなる開発を防止する主要なプログラムは1998年に採択され、『水生環境のための行動計画』を含んでいる。
エクアドル
現在策定中の「国家生物多様性戦略」の中に「国家湿地戦略」が含まれるだろう。
エジプト
MedWet(地中海湿地プログラム)の下での「国家湿地政策及び行動計画」は、「国家生物多様性戦略」と調整した上で、1999年の開始が期待されている。
エストニア
湿原、湖、半自然状態の湿地を対象とした「国家湿地政策」は、1997年3月に採択された。世界銀行の協力を得た「国家湿地戦略」は、1998年後期に公表されることが期待されている。
EU
西ヨーロッパにおける政府間の誓約の検討。
GOS
『湿地保全:ECが誓った行動』。1996年。EC委員会、「環境・核の安全及び市民の保護」に関する事務局長令(ブリュッセル)。32頁。
フィンランド
開発あるいは保護に適した泥炭地を特定するための全国的な計画作りを実行した。泥炭地保全はフィンランド国家自然保護政策の構成要素である。
GOS
『フィンランドにおける泥炭地の自然保護基本計画』。1987年。フィンランド泥炭学会誌「Suo」38巻:99−103頁。E. Kaakinen and P. Salminen 著(ヘルシンキ)。
フランス
「国家行動計画」を1995年3月に採択した。
GOS
『湿地行動計画』。1995年。環境省(パリ)。6頁。
ガンビア
現在設立中の「国家湿地委員会」が、「国家環境行動計画」、「国家生物多様性戦略」、「沿岸地帯管理戦略」と調和させた「国家湿地政策」の要素を考慮する。
ジョージア
提案された「国家生物多様性戦略及び行動計画」は湿地に関する要素を含む。さらにその後、個別の「国家湿地戦略」が策定されるべきかどうかが決定される。
ドイツ
「国家湿地政策」準備のための過程が開始された。ドイツにおける個々の州は、多くの泥炭地や湿地を管理している。
ガーナ
1998年8月に「国家湿地戦略」草案が完成した。1997年に湿地政策の準備会合として、沿岸湿地に関する全国規模のワークショップが開催された。政策草案はガーナ政府によって、1998年後半に考慮されることが期待されている。
GOP
『ガーナの湿地を管理する:政策、戦略、そして行動計画』ガーナ政府土地森林省。
ギリシャ
1995年2000年を対象とした11項目に及ぶ「国家湿地政策」が実施されている。「国家環境政策」の一部として、2000年2005年「湿地資源のための国家戦略」もまた策定中である。
グアテマラ
「国家生物多様性ワイズユース及び保全戦略」との調和が図られた「国家湿地行動計画」が現在策定中である。「湿地計画」は全国的な湿地の現状について概括するとともに、短期及び中期的な、既存及び提案されている保全の先駆的取組を確認する。
ギニア
沿岸地帯管理プログラム、マングローブ管理ガイドライン、そして試験的マングローブ管理事業に着手した。「国家湿地政策」は、責務を負う政府機関による策定が提案されている。
ホンデュラス
「国家生物多様性戦略」の一部として、湿地のワイズユースが扱われる予定。
ハンガリー
「1996年自然保護法」には湿地を扱ういくつかのセクションがある。
アイスランド
1996年1999年を対象とした「持続的開発計画」は、「自然保護戦略及び国家生物多様性行動計画」の一部として、湿地の保護と復元を扱っている。
インド
「湿地・マングローブ・サンゴ礁に関する国家委員会」によって「国家湿地政策」草案が提案されている。「国家湿地行動計画」が「キャパシティ21プロジェクト」の下に、「インディラ・ガンジー開発研究所」によって準備された。これは今日までのところ、NGOによる取組となっている。提案された「政策」は政府によって検討されている。
NGO
『インド湿地政策と湿地のための行動計画に関するワークショップ議事録』1998年。インディラ・ガンジー開発研究所(デリー)、準備中。
インドネシア
『インドネシアの湿地管理のための国家戦略及び行動計画』が、11の政府機関からなる「国家委員会」と協議の下、林業省森林保護及び自然保護庁によって完成された。
イラン
現在策定中の「第三次開発計画」の一要素として、国家政策は国際的に重要な湿地の保護に限られている。
アイルランド
1997年に採択された「国家持続的開発戦略」は湿地等の自然保護を含んでいる。NGOが企業や政府機関、国際機関等と協力して、アイルランドの湿原保全計画を促進している。
NGO
『2000年アイルランド泥炭地保全計画』1996年。アイルランド泥炭地保全協議会。By P. J. Foss and C. A. O'Connell(ダブリン)100頁。
イスラエル
湿地保護は「国家生物多様性戦略」の一部となっている。自然保護や生物多様性プログラムを通じて提供される、8つの目標を持った「湿地保全政策」草案が環境省によって提案されている。
イタリア
保護区や環境戦略との調整が図られた、5項目からなる「国家湿地戦略及び行動計画」を策定することが1999年に提案されている。
ジャマイカ
次に示す2つの政策が「グリーン・ペーパー(緑の白書)」として完成され、現在一般からのコメントを求めている最中である。8つの戦略を持った、マングローブ、泥炭沼沢地、沿岸湿地に関する国家政策の草案、6つの戦略を持ったサンゴ礁政策。1999年に内閣及び議会への提出が期待されている。
GOP
『マングローブ・沿岸湿地保護政策及び関連法草案』第二稿が1998年に完成。沿岸地帯管理部自然資源保全局(キングストン)、46頁。
GOP
『サンゴ礁保全政策及び関連規則』草案第二稿、1998年。沿岸地帯管理部自然資源保全局。
日本
「生物多様性条約」に基づいた「生物多様性国家戦略」があり、湿地に関する政策を含んでいる。
ヨルダン
『1995年環境保護法』は湿地保護とそのワイズユースを支持する様々な側面を持っている。
ケニア
持続的開発に関連し湿地の機能と価値を認識する「国家湿地政策」を策定中。「国家湿地常設委員会」が中心的役割を果たし、「政策」の最初の草案を完成させた。国家湿地戦略もまた提案されている。いくつかの地域ごとのワークショップも開催されており、「ケニア野生生物局」が議長を務めている。
ラトビア
ラムサール条約のワイズユースガイドラインはラトビアの『1995年環境政策計画』の一部門となっている。
リトアニア
「国家生物多様性行動計画」は沿岸湿地、バルト海湿地、そして内陸湿地の保護のための行動計画を含んでいる。これらの「計画」はプログラム実施のための財源不足のために、まだ実施されてはいない。
マラウイ
「国家湿地戦略及び行動計画」は提案されているが資金を待つ段階である。これは、「国家環境行動計画」、「国家生物多様性戦略」、そして林業、環境保護、野生生物に関する既存の法律と関連させて策定される。
マレーシア
NGOとの連携を強力に持ちながら、「国家湿地政策」が完成されようとしている。これに関連した全国的なワークショップも何回か開催されている。「政策」は内閣による検討を受ける準備段階にある。「国家行動計画」は存在している。中心的役割を果たすのは科学技術環境省である。
NGO
『国家湿地政策枠組み策定に関するワークショップ背景資料』1996年4月、国際湿地保全連合(クアラルンプール)、44頁。
マリ
「国家湿地政策及び戦略」策定のため、国際湿地保全連合の協力を要請中。国内法のいくつかの部分がラムサール条約履行を支持している。
マルタ
国内にある2箇所の湿地はいずれもラムサール登録湿地となっており、規制の対象となっているとともに、環境教育やリクリエーションの場として利用されている。これらは『希少生息地保護政策』の対象となっており、すべての開発は禁止されている。
メキシコ
野生生物や保護区戦略と結びついた積極的な「国家湿地プログラム」が存在している。
モナコ
湿地は公国の生物多様性や景観保護政策の一部として扱われている。
モンゴル
1997年の国家ワークショップにおいて勧告された「国家湿地政策」の策定を政府は約束している。「政策」及び「国家湿地行動計画」は、「国家水戦略」と調整されたうえで、1999年の完成が提案されている。
モロッコ
国家湿地戦略の策定を政府は約束している。戦略によって概略が述べられる「行動計画」は政府によって実施される。
ナミビア
「国家湿地政策」は環境観光省を通じて策定中であり、国家の土地利用計画や持続的開発プログラムとの調整が図られている。
ネパール
いくつかの重要な湿地に関して湿地管理計画がある。
オランダ
湿地保護を組み込むためにいくつかの国家政策が報告されており、その中には『1991年自然政策プラン』、『第三次水管理政策プラン』、『国家環境政策プラン』が含まれている。
ニュージーランド
「国家湿地政策」は1986年に採択された。これは1998年に策定された「国家湿地行動計画」によって再び活性化され、「国家生物多様性戦略」や地方政府の取組との調整が図られている。
ニカラグア
湿地、沿岸地帯、保護区での取組を統合する「国家湿地戦略」が提案されており、1999年に完成予定である。
ニジェール
4つの中心要素を持った「国家湿地戦略」が完成している。
ノルウェー
1997年までを対象とした「国家生物多様性戦略」と自然管理プログラムは湿地に関する手段を持っている。沿岸地帯に関する報告書が1999年春に政府によって検討される予定である。
パキスタン
『パキスタンの湿地管理のための国家行動計画』が策定されており、国家の湿地問題について歴史、現状、そして可能と考えられる解決策が概略されている。この「計画」はまだ政府による承認や実施が行われていない。今後、州レベルでの「湿地行動計画」を策定することが提案されている。
パナマ
「国家生物多様性行動計画及び国家環境戦略」は、湿地システムのものを含んだ自然資源管理やワイズユース・プログラムを扱う予定である。
パラグアイ
5つの目標を持った「国家湿地行動計画」が提案されている。これらの目標達成に対処するために、既存の取組や新たな取組の提案が含まれる予定である。
ペルー
1996年に「国家湿地政策」を採択した。
GOP/NGO
『ペルーの湿地保全のための国家戦略』1996年。ペルー湿地保全及び持続的開発プログラム、IUCNUNALMPronatureza、国際湿地保全連合、WWF、農業省、国家自然資源研究所(INRENA)、(リマ)、44頁。
フィリピン
「国家湿地行動計画」が完成した。この「計画」は3つの中心要素を持ち、1999年2004年を対象とした「国家生物多様性戦略」の一部として採択することが提案されている。湿地はまた、「自然計画策定のための枠組みプラン」の土地利用保護の取組においても考慮されている。
NGO/GOS
『フィリピン共和国国家湿地行動計画』。環境自然資源局(ケソン市)及び国際湿地保全連合(クアラルンプール)。
ポーランド
「ポーランド国家湿地管理計画」草案が完成している。
ポルトガル
「自然環境保全研究所」が、「国家湿地保全戦略」を策定中である。この「戦略」は19992003年までの期間に焦点を当てており、5つの目標が概説されている。この「戦略」が国家湿地プログラムへと発展することが望まれている。
韓国
「湿地保全法」を国民議会に提出した。これは「国家湿地政策」と「行動計画」の基礎となるだろう。
ルーマニア
「国家生物多様性保全戦略」の一部として、「国家湿地行動計画」が1996年に採択された。
GOS
『ルーマニアにおける湿地の生物多様性に関する戦略と行動計画』。1996年。水資源森林環境保護省、環境保護局(ブカレスト)。
ロシア連邦
詳細な「国家湿地保全戦略」草案(ラムサール条約第7回締約国会議へのロシアの国別報告書の付属文書として提出されている)を、国際湿地保全連合の協力の下で策定した。1998年2月に開催された「国家湿地ワークショップ」の中心テーマであった。戦略と目標の実施は、資源配分次第となるだろう。
NGO/GOS
『ロシア連邦における湿地保全のための戦略:概念的枠組み』。1998年。V. G. Vinogradov。国際湿地保全連合アジア太平洋(モスクワ)。
セネガル
地域住民、NGO、農業や水資源に関わる政府機関による、地域社会レベルでの湿地管理の実施に焦点をあてた、新しい「環境法典」が採択された。
スロバキア
19972002年の期間を対象とした、9つの戦略と22のプログラム行動を備えた「国家湿地管理プログラム」が提案され、政府によって検討中に留まっている。いくつかの要素は実行されている。
スロベニア
8つの要素を含む「国家湿地戦略」が1998年秋に起草された。
南アフリカ
環境観光省が調整役となり、8つの実施戦略を備えた「国家湿地政策」が起草され、検討中である。
スペイン
「湿地戦略計画」が策定中である。
スリランカ
20ヶ所の重要湿地についての個別管理計画、それとともにマングローブシステムの管理計画が準備された。
スリナム
いくつかの国家法が何らかの湿地保護を担っている。
スウェーデン
1994年に「国家湿原保全計画」を採択し、実施中である。1995年の「生物多様性行動計画」は湿地に関して特別な章があり、「自然保護法」は湿地排水に関して2つのセクションを持っている。湖と水路についての全国調査が進行中である。
スイス
1987年に実施された憲法に関する国民投票、そして1988年と1996年の法改正によって、すべての湿原(高層湿原及び低層湿原)と湿原景観は保護されている。
GOP
『特に美しい湿地及び国家的に重要な湿地の保護に関する条例』(仏語)。1996年5月1日。
GOP
『自然と景勝地の保護に関する連邦法』1966年7月1日採択、1995年3月24日改正。第23条b項3e節及び第23条c項1節。(ベルン、スイス)。およびその他の関連条例。
タイ
内閣によって1997年9月、「国家湿地政策と行動計画」が採択された。「湿地管理に関する国家委員会」を通して実施されている。
トーゴ
地域社会の環境委員会を設置するための全国的に調整された取組が、地域の人々が湿地を認識しそれらの管理に携わるようにするだろう。「国家生物多様性戦略」と「国家環境行動計画」に結びつけられるワイズユースに関する「国家湿地政策」が提案された。
トリニダード=トバゴ
1996年に「国家湿地政策及び計画」の草案を完成させた。「国家湿地委員会」が設立された。「政策」は内閣の承認を得るため審議待ちである。「政策」は、提案理由、財源、そして戦略を含んでおり、その原則は「ワイズユース概念」に従っている。
GOP
『トリニダード=トバゴ湿地保全政策』案。1996年10月。国家湿地委員会(ポート・オブ・スペイン、トリニダード=トバゴ)。17頁と付属文書。
チュニジア
ラムサール条約に関する湿地法の提案を含んだ、「地表水に関する国家戦略」が策定された。
トルコ
環境観光省が担当し、省庁間やNGOとの協議過程を通して策定されることになる、「国家湿地政策」が提案された。
ウガンダ
1994年に「国家湿地政策」が策定され、1995年に「実施戦略」が始められた。「政策」は1996年に政府によって正式に承認されている。また、国家政策と適合するような形での、県や地方レベルの湿地政策も提案されている。
GOP
『湿地資源の保全と管理のための国家政策』。ウガンダ共和国。1995年。自然資源省(カンパラ、ウガンダ)。16頁。
ウクライナ
「国家湿地政策」は国際湿地保全連合の助力を得て策定され、これは「自然保護計画」の一部である。「湿地保全行動計画」が、「国家生物多様性行動計画」の一部として提案されている。これは沿岸や海洋、川辺、氾濫原、湖そして湿原のような湿地に関する提案を含むことになる。
アメリカ合衆国
1998年初期に、『水質浄化イニシアチブ』と「行動計画」に着手した。これは2005年から毎年、少なくとも40,000ヘクタールの湿地の実質増加を達成するという戦略を含んでいる。1993年のクリントン政権による「湿地計画」は、『全般的な湿地の No Net Loss(実質上の消失を生まない)』という中間目標と、国内湿地の質と量を増加させるという長期目標を再確認した。この政策を支持しているのは25の連邦法である。その中には、『水質浄化法』、『国家環境政策法』、そして「北米水鳥管理計画」を支える『北米湿地保全法』があり、36の連邦機関、州や地方レベルの多くの法やプログラム、企業やNGOによる取組が含まれている。関係する重要な連邦機関には、陸軍工兵隊、農業省農家サービス庁と自然資源保存局、内務省の魚類野生生物局、商務省のNOAA(国家海洋大気局)そして環境保護庁がある。
GOP
『アメリカの湿地を保護する:公平柔軟かつ効果的な取組』1993年8月。ホワイトハウス環境政策室。ワシントンDC。26頁。
GOP/NGO
『アメリカの湿地を保護する:行動アジェンダ』湿地政策フォーラム最終報告書。1989年。Michele Leslie, Edwin H. Clark II, and Gail Bingham(編)、169頁。
GOP
『連邦湿地政策』米国環境保護庁HP。ワシントンDC。http://www.epa.gov/owow/
英国
様々な包括的な国家法や戦略は、湿地や泥炭地保全のための手段を備えている。これらは、河口域での計画、持続的開発政策や沿岸域での計画に関わる国内委員会である「共同作業部会」によって調整された、地方や地域レベルでの数多くのパートナーシップによって実施されている。北アイルランドは泥炭地管理に関して特別な「政策」をとっている。
GOP
『北アイルランドの泥炭地を保全する:政策声明』北アイルランド政府環境局。ベルファスト、1993年6月。9頁及び付属文書。
ベネズエラ
1996年、「国家湿地保全戦略」草案は、NGOや民間企業の組織によるグループによって策定された。これは検討されている最中であり、1999年に「国家ラムサール当局」へ提出する準備がなされるだろう。
ベトナム
IUCNの助力を得て、「国家湿地戦略」の提案がなされている。
NGO
『ベトナム国家湿地保全管理戦略』1996年。IUCNベトナム事務所(ハノイ)。
ユーゴスラビア
『環境保護法』は湿地に関する条項を含んでいる。「湿地保全及び持続的利用戦略」が1998年に着手された。
ザンビア
「国家湿地プログラム」が策定中である。「国家湿地政策」が1999年に完成するように提案されている。

事例研究

事例研究1
国家湿地保全戦略におけるNGOの役割(Joseph Larson,アメリカ合衆国マサチューセッツ大学)
事例研究2
国家湿地政策における利害関係者とは(Nadra Nathai-Gyan,トリニダード=トバゴ政府野生生物課)
事例研究3
湿地政策策定のための協議(Clayton Rubec,カナダ政府環境局)
事例研究4
連邦国家における湿地政策(Bill Phillips,ラムサール事務局、前オーストラリア環境省)
事例研究5
湿地に関する分野別政策と法律の総括(Paul Mafabi,ウガンダ政府国家湿地プログラム)
事例研究6
合意形成の戦略(Roberta Chew,米国国務省と、Gilberto Cintron,魚類野生生物局)
事例研究7
マレーシアの湿地政策−策定と調整のプロセス(Sundari Ramakrishna,国際湿地保全連合アジア太平洋地区)

ラムサール条約 国家湿地政策指針

事例研究1:国家湿地保全戦略におけるNGOの役割

Joseph Larson,アメリカ合衆国マサチューセッツ大学)

アメリカにおける湿地保全は、公的機関の戦略と民間による戦略とを組み合わせて達成されている。すなわち、政府による規制、政府や民間NGOによる湿地購入、個人所有者によるNGOへの湿地の自主的な贈与、個人所有者による開発権の贈与や売却、そして政府補助金の変更等がそれにあたる。基本的に土地利用は州や、地方政府の責任と考えられている。一方で国や州の憲法は、私有地所有者の土地利用において、政府が財政的支払いなしに個人の土地所有者に対して制限を課すのを許していない。連邦といくつかの州政府は、湿地における目標として「No Net Loss(実質上の消失を生まないこと)」を採用している。けれども、憲法によって、特定の土地利用方法を指定する政府能力には限界があり、このことが他の国々によって作成されているような「国家湿地戦略」の採択が促進されない理由となっている。

土地権利の購入は、合衆国における湿地保護のための戦略としては、最も長い歴史を持ったものとなっている。土地所有者達は政府機関や民間の土地保護トラスト団体へ、湿地の開発権利を証書を作って譲渡することを奨励されてきた。この方法では、湿地は民間による所有のままにとどまり、地方政府に対する資産税を生むことになる。しかし、土地所有者は、売るか贈与することにより、湿地を開発するすべての権利を公的機関やNGOに永遠に譲渡することができる。多くの場合、証書による譲渡においても、政府機関による政策の将来的な変更が起こった場合に対して、その土地を保護することを恒久的な法的義務としている。湿地の獲得と贈与は、1930年代からの合衆国の湿地保護においてきわめて重要な戦略であったが、私たちの湿地の価値を保存するにはこれだけでは十分ではない。NGOによる湿地の所有は、合衆国における湿地保護を確実にする最も重要な戦略の1つである。民間の所有者から湿地を購入する機会に、政府が十分すばやく対応できない場合でも、NGOはすばやく行動しこれらの場所を獲得できることがある。NGOはまた、土地の購入者に証書によって恒久的に自然を保全するということを受け入れさせることができるだろうし、あるいは、NGOが継続的に監視する権利を保有するところもある。開発権利の売却や贈与は、多くの地域で定着してきており、湿地保全における中心的な役割を果たすことができる。

湿地に関する規制は、国家の湿地保全の目標を達成するための中心的なツールとして発展してきた。こういった規制プログラムに加えて、すべての沿岸の州は、州の潮間帯湿地についての規制を採択している。また、おそらく14の州で淡水湿地に関する規制をもっている。地方レベルでは、湿地に関する規制は、応用の仕方とその効果において著しく異なっている。同じ地域の州でも、しばしば異なる規制プログラムがあり、州をまたがる集水域についての首尾一貫したプログラムを確立するのを困難にしている。国家による湿地に関する規制プログラムも、異なる地域の間で応用の仕方も異なるという歴史を持っている。しかしながら、土地利用に制限を加える政府能力には限界があることから、規制プログラムは合衆国では重要なツールであり続けるだろう。しかし、これは他の国々ではそのまま適用されないだろう。

湿地に関する規制では、個人、企業、あるいは公的機関が、排水や埋め立てといった湿地の変更を行う前には、通常、担当の政府機関から許可を得なければならない。合衆国最初の湿地に関する規制プログラムは、マサチューセッツ州の地方レベルでスタートした。ここでは沿岸部での地域社会からの要請によって、州政府は、州の潮間帯の塩性湿原の破壊を止める規制を制定した。地域社会の市民たちはこれらの湿原が地域経済にとって重要な魚介類の大事な生育場であり、エサの供給源であると認識したのである。裁判所は人々の福利厚生を守るという点から、湿原所有者への補償が伴わなくてもこの規制を支持した。

時とともに、魚類及び野生生物の重要な生息地の保護は、合衆国の湿地に関する規制の公的目標として、法律的にもより広く受け入れられ始めている。治水における軌道修正、洪水に対する保険と災害軽減政策もまた受け入れられ始めた。これらのことは、大きな河川システムにおける氾濫源湿地の将来を約束するものであり、規則的で大規模な洪水発生の恐れがあるような氾濫源を人々が利用している場所においても、幅広く応用される具体的な原則となってきている。また、歴史的には農業が合衆国における湿地損失の中心的な原因となっているので、特定の作物を栽培させたり、土地の特定の取り扱い方法を採用させるような、農家に対する政府補助金は、合衆国における湿地保護のきわめて重要な課題となっている。農業が湿地保全に与える悪影響を減らすために、作物助成政策の修正をしたり、土地利用法の改善を促進することに、これまで以上の注意が払われている。


ラムサール条約 国家湿地政策指針

事例研究2:国家湿地政策における利害関係者とは

Nadra Nathai-Gyan,トリニダード=トバゴ政府野生生物課)

トリニダード=トバゴでは国家湿地政策を準備することが、ラムサール条約履行のための国としての主要義務とみなされていたが、国内唯一のラムサール登録湿地であるナリバ湿地(もしくはナリバ沼 Nariva Swamp)が破壊されるのではないかと極めて大きな論議を呼んだ結果、緊急の課題となった。この問題は国内のみならず国際的にも重要であると考えられ、いくつもの組織が関与し議論は長引いた。その組織には、林業管理部野生生物課(ラムサール条約担当の政府機関)、Pointe Pierre 家禽トラスト(湿地問題に焦点を当てたNGO)、他の環境NGOからこの問題に関心を持ち参加した人々、ナリバ地域の利用者グループ、とりわけ関心を持っている一般大衆からのグループ、等が含まれた。新聞雑誌及び放送関係双方のメディアの効果的利用や、そういったマスコミによる高い関心によって、こういった利害関係者グループの意見は広く伝えられる結果となった。

この過程で、議論全体の中心機関と位置づけられた国家湿地委員会による、利害関係者グループへの理解が自然と深められた。ナリバ湿地問題に関係しているいくつかの機関や個人も、国家湿地委員会のメンバーとなり、その結果最初の「国家湿地政策」草案編纂において、利害関係者としての見地から彼らの経験や専門知識を提供してくれた。利害関係者グループの中心となっている何人かは、この草案執筆に直接携わった。ここで協調すべき重要な点は、利害関係者の意見を求め、焦点をあてた議論や意味のある貢献を促すには、そのために統合整理された文書が必要であるということである。

「特定の問題に関心を持つ人」という、最も広義の定義による利害関係者を考慮に入れ、また、利害関係者が意見を表明できるプロセスを合理的に説明するため、2つの戦略が採用された。最初の戦略は、一般の中で関心を持つ人々、関係する政府省庁、NGO、研究機関や主要利用者グループの考えを把握するために、全国的な協議を行うことだった。これらの人々や機関を対象として、国家湿地委員会のメンバーによって「政策」草案が提出され、その後に段階的な議論のための期間が設けられた(会議の前にすべての参加者にコピーが提供された)。基調講演の形で閣僚による支持が表明されたことは、こういった取組に対する政府の決心を伝えるものとなった。

湿地のごく近くで生活している地域住民の大部分は、地域の資源に対する依存度合いが極めて高いのだが、そういった地域社会からのインプットが十分ではなかったことが、全国協議の結果明らかになった。社会経済的要因を含む数多くの要因により、彼らがこのような公式の雰囲気のものから遠ざかってしまったのである。それゆえ、国家湿地委員会の決定により、委員会メンバーのうち当該地域社会に詳しい人々が、これらの地域においてさらに協議を行うよう任命されることになった。地域におけるこの一連の協議は熱心に運営され、地域内のよく目に付く場所にチラシを掲示するなどして宣伝された。会議はくだけた雰囲気で行われ、簡単なプレゼンテーションに続いて、参加者は一見直接には関係なさそうな事柄も含めて自分達の意見を述べるよう促された。ここで表明された懸念と照らし合わせることによって、政策目標が現状に適したものであることが一層確信されたことは興味深い点だろう。

この経験から学ばれた重要な知見は、すべての利害関係者が参加すべきだということ、どういった参加の仕方をとるかは状況に応じて考慮しなければならないこと、そして考えられうる関係者のうち最も関係が深いと思われる利害関係者の意見を把握するためには、最大限の努力を払わなければならないということである。


ラムサール条約 国家湿地政策指針

事例研究3:湿地政策策定のための協議

Clayton Rubec,カナダ政府環境局)

1987年初め、カナダ政府は『連邦湿地保全政策』策定に着手した。手始めに行うべきことは、カナダ中の利害関係者との協議を行うために、その範囲や手続きを考えることだった。そのための最初のステップとして、1987年2月に「国家諮問ワークショップ」が開催され、NGOとの協議が行われた。この会議には、全国的な環境団体の代表者と、罠かけ猟、農業、スポーツフィッシングといった湿地資源の利用者団体からの代表者、計25名が出席した。この会議の報告書が出版され、連邦及び州政府の関係する大臣に直接送付された。この中には、協議を実施するために連邦政府がこれまで用いてきた一連の行動が順序立てて説明されていた。これに引き続いて、連邦・準州・地方政府の幹部代表を含む、カナダ土地利用委員会の会議が開催された。この会議もまた報告書を作成したが、ここでは、提案されている法的拘束力を持つ湿地政策を創出するための作業の流れが図示されていた。これによりワンセットになったいくつかの政策群、もしくは一つの国家政策のどちらかが必要であることが認識された。

1987年の終わりに、連邦政府職員が最初の連邦政策草案を執筆し、情報収集のための最初の会議ひとしきりを実施した。それらの会議にはカナダ環境省や、他の関連する連邦政府機関の本部及び地方事務所の職員が参加した。これらの会議は政策草案の中心を定め、草案の長さや構成を再考するのに役立った。政策第二稿が用意され、これが綿密で全国的な協議プロセスの基礎となった。連邦政府は、3つの異なるレベルの協議のいずれかを実施することができると判断した。すなわち、1)閣僚間の協議、2)政府機関及び全国的環境団体や利害関係者グループの間の協議、あるいは3)一般市民の間における協議、である。カナダでは、地方において私有地を所有する者がその土地をどのように利用するかを決定する際に、連邦政策が直接影響を及ぼすことはない。すなわち、連邦政府の影響は連邦所有の土地管理及び連邦政府の管轄下にある地域に限られたものになる、と考えられたため、限定的な協議を行うという二番目のオプションが選ばれることとなった。協議のために利用できる資源的制約を考えると、このオプションが旅費やスタッフの時間の観点から、より簡単で費用もかからないと判断された。

19881989年の6ヶ月以上の期間に渡り、カナダ全土の12の州都すべてや他の地方都市において、連邦政府と州政府機関の両者が参加する形で合計18回の会議が運営された。これらの会議のために、提案されている政策が要約され、専門家の手により視聴覚機材を利用したプレゼンテーションが英語とフランス語で準備された。この中には標準的なQ&A(質疑応答集)も含まれていた。多くの場合、連邦政府内の検討チームから2名のメンバーがそれぞれの会議に出席し、ひとりがプレゼンテーションを行い、他方がコメントや質問を記録するという形をとった。特に北方の領土で目的地までの旅費がかさむ場合をはじめ、いくつかの会議ではチームからは1名のみが参加した。36団体のNGO、そして20団体の資源利用者グループや産業の連合会といった組織を対象として、協議会合、手紙によるやりとり、電話によるインタビューが実施された。プレゼンテーションは、財務省不動産局(the Treasury Board Real Property Bureau)や水に関する連邦部局委員会の年次会議といった連邦政府の会議においても発表された。それぞれの会議ですべての参加者に、二カ国語で作成された協議用資料が配布された。検討チームは、こういった会議でプレゼンテーションを行うために、広く航空機で旅行を行った。地域ごとの運営は手のかかるものであり、会合場所の設定から必要な資材の確保、多くの関連部局の主要職員に招待状を発送すること等、様々な準備に関係者の協力が必要となった。

政策第二稿に関する協議で表明された意見や懸念を基にして、1990年初めまでに政策第三稿が作成された。連邦内閣に提出する段階となり、第三稿における特定の表現をより受け入れられやすい形に書き直すため、枢密院での経験を持つ政策草案の専門家が雇われた。そうして、この政策実施によって影響を受けると考えられる連邦政府機関に対して、この草案が再び配布された。ここでの議論は実施のための資源や戦略を考慮し、政策の補完となる提案書を草案し財務省へ提出するといった最終ステップに焦点を当てたものとなった。1991年終わりに湿地政策は最終的な検討のために、『緑のプラン』と呼ばれる「政府環境イニシアチブ及び内閣への覚え書き」の一部分として、連邦政府機関へ配布された。これは1991年12月に採択され、その後も適切な機会を通じて政府機関内での協議が続けられ、最終的には1992年3月に連邦政府環境大臣によって公布された。


ラムサール条約 国家湿地政策指針

事例研究4:連邦国家における湿地政策

Bill Phillips,ラムサール事務局、前オーストラリア環境省)

連邦制をしいている国家においては、湿地の保全やワイズユースを確かにする適切な政策機構の考案策定はとりわけ大きな挑戦となる。オーストラリアの例でも、大部分の連邦制国家と同様、土地と水資源の管理について日常的な法的責務を持っているのは州政府である。したがってオーストラリアが、ラムサール条約のガイドラインに従って湿地政策について国家的な取組を行うことを決定した際、すべての州と領域の管轄とともに英連邦(国家)政府の関与を確実なものとすることが必要とされた。

オーストラリア政府が『オーストラリア連邦政府湿地政策』を1997年の「世界湿地の日」(World Wetlands Day)に立ち上げたとき、(全8州のうち)一つの州(ニューサウスウェールズ州)はすでに同様の政策を持っていた。連邦政府の湿地政策には6つの戦略があり、その中の一つには『州/領域及び地方政府とのパートナーシップでの活動』が含まれている。この戦略の下での優先事項は、「州/領域政府とのパートナーシップで、彼らがその管轄区域における湿地政策もしくは戦略を策定するために協力する」こととなっている。

この時点から、オーストラリア政府は中央政府の湿地政策の補完となる、州や領域における湿地政策の策定を奨励し、支援してきた。1997年終わりには西オーストラリア州政府が州湿地政策を採択した。ビクトリア州政府は、湿地に関わる特別なセクションを組み込み州全体を対象とした『生物多様性戦略』を採択した。他の4地域(ノーザンテリトリー、クイーンズランド州、南オーストラリア州、タスマニア州)は、いずれも政策の準備中でありそれぞれ異なる段階にある。こうして、中央政府とこれら7地域に続いて、湿地政策を考慮すべきはただひとつ、首都地域のみとなった。

このオーストラリアの事例からは学ぶべき多くの教訓がある。連邦政府がまずそれ自体の湿地政策を制定することによって、州政府に対してリーダーシップを見せることが重要であった。この政策は、取り組むべき幅広い問題を扱うという点において、モデルとなった。同様に重要なのは、連邦政府が連邦の湿地政策を策定する過程全般において、地方政府と協議を行ったことであった。このことは、これらの行政当局との業務パートナーシップに関する文書で確認されている。

いったん連邦湿地政策が採択されてからは、他の行政当局が湿地政策を策定するよう奨励する過程は、部分的には政治的手段や財政的手段を通じて達成されている。オーストラリアは連邦政府内に各州の環境大臣による協議会を有しており、彼らの間においても独自に協力業務に関して協議し合意形成を行うための定期的な会合を持っている。湿地政策の補完となる枠組み策定は、こういった会合の支持を得ている。また、ラムサール条約の国内での履行に関する「作業部会」があり、合意を得た上での国家的な取組に向けての活動を担っている。

連邦政府はまた、生物多様性保全と自然資源管理に資金を提供する主要プログラム(「自然遺産トラスト」)を設立している。このプログラムを通して、州政府によって優先される政策策定やその他の活動、さらに地域レベルでの現場プロジェクトに資金が配分されている。このプログラムの下で、連邦政府は8地域の州政府に対して、それぞれの湿地政策策定を含め、適切な湿地プロジェクトへの財政的支援を提供している。この協力基金アプローチは、政策策定過程を加速するのに役立っている。これはまた、湿地管理能力の改善や湿地に関する知見を高めるために必要となる資源を、州政府に提供している。


ラムサール条約 国家湿地政策指針

事例研究5:湿地に関する分野別政策と法律の総括

Paul Mafabi,ウガンダ政府国家湿地プログラム)

湿地管理に直接あるいは間接的に影響を及ぼす、複数の政策が存在する場合がしばしばある。湿地の保全と管理は、たくさんの機関や組織が責任を共有している。「国家湿地政策」の策定では、重複を避けるために、これら分野別の政策の成功、失敗、そして関連性を考慮すべきである。同様に新しい政策が既存の法律と対立しないようにするために「国家湿地政策」は湿地に関わる既存の法律を考慮しなければならない。

既存の政策と法律の検討では、政策形成の過程を指導し、様々な省庁とそれらの機関に関する問題を「国家湿地政策」の中に正しく文書化され統合されるように図る、「関連省庁間の委員会」の設立が助けとなる。

ウガンダの場合、特に既存の法律を検討するために一連の研究が行われた。この研究によって、ウガンダ国内には湿地保全全般に直接関わる法律はないことが明らかになった。しかしながら『公有地法』と『公衆衛生法』において、沼地(湿地の一つにすぎないが)に関する言及があった。研究ではまた、これらの法律の執行は、湿地保全を保証する上では十分ではないということがわかった。この研究は「ウガンダ国家湿地政策」の最初の草案の準備において欠かすことのできないものとなった。

法律は、それ自体では十分でないとしても、特定の政策の支援するうえで役立っている。様々な分野別の法律に湿地問題を取り込んでいくことは、それぞれの部局に関する限りにおいて役立つだけであり、湿地の持っている様々な分野にまたがるという性質を反映しない恐れがある。湿地政策に先立って法律を制定する、あるいはその代わりとして法律を位置づけることは、好ましくない影響をもつかも知れない。ウガンダの場合、法律が過去において人間活動を制限するように意図されており、湿地保全のための奨励策は全くと言っていいほど含まれていなかったからである。

法律の検討はまた、湿地に影響を及ぼす政策の悪い側面や、法律を修正するために必要な行動を確認するために重要である。このようにして新しい法律が既存の法律と対立しないようにし、あるいはそれらが機能しなくなるようなことを避ける。こういった検討はさらに、湿地管理に責任をもつ機関が実施すべきことを見極めるのに役立つものとなる。

ウガンダで「湿地政策」が一旦採択されてからは、この政策の実施を支援するために法律を制定することが不可欠であると考えられた。このための法律は、国会が制定する法律として独立した法律、あるいは環境に関する法律、規則、条例の傘下の一部という形をとることができると確認された。ウガンダでは内閣が、「国家湿地政策」実施のための法律準備に関するガイドラインを承認している。政府は当時また、「国家環境政策」を考案中であった。この結果として、湿地保護のための条項が『国家環境法令』の中に組み込まれることになった。これは国家レベルでの詳細な規則、そして県および地方レベルではそれぞれ適切な条例や法令によって補足される。


ラムサール条約 国家湿地政策指針

事例研究6:合意形成の戦略

Roberta Chew,米国国務省と、Gilberto Cintron,魚類野生生物局)

アメリカ合衆国では、アラスカとハワイを除く48州においてかつては8900万ヘクタールあったと推定された湿地のほぼ半分が1700年代以降に消失している。最近では消失の速度は劇的に減少してはいるものの、合衆国では毎年実質約4万ヘクタールの湿地が減少を続けている。我々の湿地への取組は、湿地を含む土地において個人や政府が行う活動の規制を、様々な連邦政府機関や自治体が実施できるように、法律をつなぎ合わせることで年々発展してきたと言える。

1899年以来、湿地に関係する25の連邦法が制定されている。最初の法令は、1899年の「河川及び港湾法」で、湿地を含む水路において運航を妨げる恐れのある、浚渫、埋立、その他の活動を行う場合には、陸軍工兵隊の許可を必要とするというものであった。これらの法律は全般的に見ると、湿地として指定された地域で実施される活動の規制、排水や埋立といった特定の活動を防ぐために、購入や保護のための地役権を通じた湿地の獲得、破壊された湿地の復元や新しい湿地の創造、湿地の改変を抑えるような方策、あるいは湿地を自然状態で保護するための奨励策、といった手法を含んでいる。

多数の法律と36の連邦政府機関が関わっているにもかかわらず、多分むしろそのせいでと言っていいだろうが、湿地に関する連邦政府の努力を改善し調整するための試みは、1970年代後半まで実施されなかった。カーター大統領は連邦政府機関の行動を指示する、2つの大統領令を発令した。一つ目は、湿地の破壊を最小に抑え、連邦政府による土地の収得や処分において責任を果たす際に湿地がもたらす恩恵を保存し向上するよう、また、湿地地域における新たな建造物の建設助長を避けるように指示し、水資源及び関連する土地資源における計画策定、規制実施、許可制度の運用といった、土地利用に影響するプログラムを連邦政府機関が実施する際の指針を提供したものであった。二つ目は、洪水管理に焦点を当てたものである。

1989年にブッシュ大統領は『湿地のNo Net Loss(実質上の消失を生まない)』を国家目標として設定した。彼はまた、国家目標として「湿地のNo Net Loss」を達成する方法を検討するため、「国内政策協議会」の中の「環境、エネルギー、自然資源作業部会」の下に、政府機関間の協議による最初の「湿地検討部会」を設立した。「検討部会」がやるべき業務は、湿地の保護、維持、復元の強化、実施、執行のために連邦政府機関に明確な指示を提供すること、No Net Loss」目標達成のために政府機関の関与を調整すること、そして、今後どのような段階が必要となってくるかを決めるために連邦、州、地方政府による「No Net Loss」目標の実施程度を評価すること、となっている。1993年、クリントン政権は、中期目標として国内に残っている湿地の「全体として実質上の消失を生まない」こと、そして長期目標として国内湿地の質と量とを向上することを宣言した湿地計画を発表した。1998年の「水質浄化行動計画」で、クリントン政権は2005年から毎年2万ヘクタールに及ぶ湿地を実質で増加させる(net gain)ための戦略を公表した。現在、「連邦湿地政策に関する政府機関作業部会(ホワイトハウス湿地作業部会)」が連邦湿地政策に焦点をあてた話し合いを進めている。この作業部会では、湿地資源を保護するための主要手段として規制措置に依存している連邦政府のやり方を改め、規制によらないプログラムを強化することによって、長期的に湿地を増加させることを目的としている。1998年6月には、連邦政府機関がそのプログラムと活動を、国内のサンゴ礁を保護するために利用するように、大統領令によって指示が行われている。

湿地の消失を生まないように、政府プログラムの効果が改善され続けるとしても、合衆国の湿地戦略全般において、湿地における規制とその執行は今後も重要な役割を果たすことになる。湿地の実質上の増加を達成するためには、規制プログラムによって全体として実質上の湿地消失が生じないようにすると同時に、湿地の復元や機能向上を奨励し支持するように、土地所有者や地域社会と協力的に行動することが必要となる。湿地を復元する連邦の努力と同時に、州、部族、地方、企業や個人において、継続的な前進を達成していくことが戦略の重要な構成要素となる。連邦政府のプログラムとそれ以外の努力との間のパートナーシップを強化することもまた、実質上の湿地増加という目標達成のために重要となる。


ラムサール条約 国家湿地政策指針

事例研究7:マレーシアの湿地政策−策定と調整のプロセス

Sundari Ramakrishna,国際湿地保全連合アジア太平洋地区)

マレーシアは1994年にラムサール条約に加盟し、1995年に国家湿地政策策定を支援するために、条約の小規模助成基金から資金を受け取った。これは科学技術環境省(the Ministry of Science, Technology and the Environment: MOSTE)の政務官(Secretary General)が議長を務める、ラムサール条約国家運営委員会によって管理された。メンバーには、連邦及び州政府の関連機関、大学、研究機関、国際湿地保全連合アジア太平洋地区の代表等が含まれている。

最初の段階においては、他の国々のおける湿地政策の多くの例が検討、研究された。カナダの湿地政策の専門家が、ラムサール条約国家運営委員会が主催した連邦湿地保全政策策定会議に招待され、カナダの経験に基づいて講演を行った。3種類の異なる湿地所有形態に関する課題がとりあげられた。すなわち、連邦、州、そして私有地における課題である。政策を策定する手順と枠組みが提案され、委員会はこれを了承した。検討チームが作られ、そのメンバーは、農業省、林業省、灌漑干拓省、水産省、野生生物国立公園省、それと共にマレーシア森林研究所、経済企画局、法務長官官房室、マレーシア国立大学、科学技術環境省、国際湿地保全連合アジア太平洋地区の代表からなっていた。検討チームの業務は、背景説明文書及び政策要旨の作成、そして議論が進展し形が整っていくにつれてそれらの内容の再検討に協力することであった。

背景説明文書は、マレーシアの州及び連邦政府の主要機関及び関連すると思われる機関すべてに配布された。マレーシアには13の州がある。国際湿地保全連合アジア太平洋地区と科学技術環境省によって、1996年4月に「国家湿地政策枠組み策定に関する全国ワークショップ」が開催された。ワークショップの主要な目的は、背景説明文書を改善するために、様々な利害関係者による意見を交換しそれらを反映させることにあった。文書は3つのセクションに分かれていた。湿地政策が必要な理由、目標についての声明文、そして戦略と提案された戦略それぞれの実行計画、であった。ワークショップから出された勧告はすべて背景説明文書に組み込まれた。全国ワークショップに十分な形で代表団を派遣できなかったいくつかの州においても、協議のための個別のワークショップがその後開催された。これらで論議された点は文書の中に反映され、さらに検討チームが改訂を行った。

1997年7月に、背景文書を基にして政策を準備するための「起草委員会」が組織された。科学技術環境省の政務官が、マレーシア森林研究所(the Forest Research Institute of Malaysia: FRIM)の所長を起草委員会の委員長に任命した。委員には、マレーシア森林研究所、科学技術環境省、連邦経済企画局、灌漑干拓省、マレーシア国立大学、そして国際湿地保全連合アジア太平洋地区の代表がなった。委員会は草案を考案するために、1997年7月から1998年5月までの間に5回会合を持った。こうして政策案は形となり、1998年3月に公布されたマレーシア国家生物多様性政策の策定に関わったメンバーによって補強された。1998年6月、政策案は科学技術環境省の政務官に、検討のために提出された。

国家委員会の勧告において、科学技術環境省は政策案を議論するために、最終的な全国ワークショップを企画することを求められていた。国際湿地保全連合アジア太平洋地区と科学技術環境省はこのワークショップを企画し、1998年11月に開催した。ワークショップに先立って、政策案は連邦政府機関、様々な州の経済企画局、そしてNGOに配布され、ワークショップに参加する前に意見をまとめるための十分な時間が与えられた。ワークショップでは、多くのコメントや提案がなされた。『湿地』の定義、「政策」が必要となる根拠、湿地の機能と恩恵、湿地への主要な脅威、湿地の管理主体、法的枠組み、目標に関する声明、目的、ガイドとなる原則、戦略と適切な行動計画、そして専門用語の解説といった事項で話が進められた。さらに参加者は、コメントを書いて1998年12月終わりまでに事務局に送付することが求められた。

この次にはどうなるのか? 起草委員会は1999年初めに会合を持ち、すべてのコメントを考慮することになっている。次のステップは、最終的な国家湿地政策案をすべての関係者、特に各州の経済企画局に送付することである。もし最終案が支持されれば、承認のため科学技術環境省に提出される。そして科学技術環境省の大臣が、『湿地に関する国家政策』の内閣承認を求めることになる。近い将来にこれが実現することを望みたい。


[英語原文:ラムサール条約事務局,1999.Ramsar Resolution VII.6 Annex "Guidelines for developing and implementing National Wetland Policies", May 1999, Convention on Wetlands (Ramsar, 1971). http://ramsar.org/key_guide_nwp_e.htm.]
[和訳:日本弁護士連合会.2002.第45回人権擁護大会 シンポジウム第3分科会基調報告書 資料編「うつくしまから考える豊かな水辺環境−湿地保全・再生法制定に向けて−」:81137頁.
 許可を得て再録,琵琶湖ラムサール研究会,2006年9月.]
[レイアウト:条約事務局ウェブサイト所載の当該英語ページにおおむね従い.本文中に上向き[]及び下向き[]の指差し印を用いて頁内リンクを加えた.]

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Last update: 2006/09/27, Biwa-ko Ramsar Kenkyu-kai (BRK).