Swan  琵琶湖水鳥・湿地センターラムサール条約ラムサール条約を活用しよう第8回締約国会議

ラムサール条約

決議.34:農業、湿地及び水資源管理

[英語] [フランス語] [スペイン語]


「湿地:水、生命及び文化」
湿地条約(ラムサール,イラン,1971)
第8回締約国会議
バレンシア,スペイン,2002年11月18-26日


決議.34

農業、湿地及び水資源管理

1.農作物生産、家畜育種、牧畜、園芸、プランテーションを含む農業は、規模の大小にかかわらず、また移動農業か定住型農業か、粗放農業か集約農業か、商業的農業か自給的農業かにかかわらず、地方、国、世界のレベルでの人間の生存と食糧安全保障にとって、また持続可能な生活にとって、不可欠な活動であることを認識し

2.世界の多くの地域で、農業活動は、湿地生態系を含む独特の特徴的な景観を創造する役割を負っていることを同じく認識し

3.農業は主な土地利用形態の一つであること、渓谷、氾濫原、沿岸低地はよく農業に利用されてきたが、それは本来農業に適していて、農業には平坦で肥沃な土地と淡水供給の得やすさが求められるからであること、したがって、農法を確実に湿地保全という目標に合ったものにすることが特に優先事項であることを重ねて認識し

4.湿地は、嵐や洪水時にその影響を緩和し、それによって居住地と農地の両方の保護に役立ち、灌漑用水源である帯水層の水の涵養に寄与し、栽培作物や牧草の野生近縁種の生育地となるなど、農業に関連する重要な役割を果たしうることを認識し

5.とりわけ開発途上国においては、小規模な自給農業、家庭への水供給、貧困軽減に直接に貢献しうるその他の利用という面で特に、地域社会が湿地の資源に大きく依存することに留意し

6.貧困者、特に女性は、その生活を湿地の資源に頼っていることが多く、湿地が劣化しまたは失われた場合には深刻な損害を被りかねないことに同じく留意し

7.このような地域の排水と集約的耕作が湿地を広範にわたって消失させ続けてきた一方で、持続可能な農業が一部の重要な湿地生態系を支えていることを意識し

8.農業が水の量と質に影響を及ぼしうること、特に農業が、a)主要な水利用者であり、かつb)肥料及び除草剤、殺菌剤、殺虫剤などの植物保護剤の流出による地表水や地下水の汚染を通じて、主要な汚染者である場合もあることを認識し、また、農業が湿地や水資源に対して正確にどのような影響を及ぼすかは、自然条件や使われる技術のタイプに応じて、地域内でも地域間でもさまざまに異なることを認識し

9.湿地の保有制度及び湿地と水資源に対する利用者の権利をめぐる不確実性が、持続可能な湿地管理と、特に湿地資源に依存する貧困な地域社会に対して、深刻な悪影響を及ぼしかねないことに留意し

10.世界の多くの地域で経済的苦境が人々に持続不可能な農法を行わせており、その結果、植生、土壌、淡水などの自然資源に劣化が生じていること、及びこのような現象は、世界の他の場所における農業政策や農法からの直接または間接の影響によって悪化しうることを重ねて認識し

11.地球規模の気候変動と砂漠化の進行は、将来の水の利用可能性と分配のパターン、湿地の機能と価値、及び農業生産に大きく影響すると予測されることを憂慮し

12.農業と湿地の保全及び持続可能な利用との間に、相互にとって有益になるようなバランスを達成するために、また世界各地で農法が湿地生態系の健全性に及ぼす悪影響を防止するかもしくは最小限にとどめるために、「環境と開発に関するリオ宣言」原則15に規定される予防的アプローチを考慮しつつ、ラムサール条約の「賢明な利用」の概念(締約国会議で定義)と整合性のある協調的な取組みが必要であることを確信し

13.農業と水の分野における国連の専門機関及び計画、ならびに関係する国際的イニシアティブの重要な役割を重ねて確信し

14.国際水管理研究所(IWMI)がとりまとめ、さまざまな国際協力機関が関わっている「水・食料・環境に関する対話」を認識し

15.湿地の賢明な利用のためのラムサールハンドブックに収載される情報と手引き、特に第7回締約国会議で採択された「河川流域管理に湿地の保全と賢明な利用を組み込むためのガイドライン」、ならびにラムサール条約事務局と生物多様性条約(CBD)事務局とが共同で立ち上げた河川流域イニシアティブ、及びラムサール条約第7回締約国会議(COP7)決議.8と決議.21段落15を考慮し

16.農業生物多様性の保全と持続可能な利用に関するCBD決定第/11、及び決定/5の複数年にわたる作業計画をさらに考慮し、またCBDとラムサール条約との「第3次共同作業計画2002−2006年」の関係する部分、とりわけ活動5を考慮し

17.今回の締約国会議が、農業、湿地及び水資源の管理に関連してさらなる手引き、特に「湿地の生態学的機能を維持するための水の配分と管理に関するガイドライン」(決議.1)、「ラムサール条約湿地及びその他の湿地に係る管理計画策定のための新ガイドライン」(決議.14)、「世界ダム委員会の報告及びそのラムサール条約との関係」(決議.2)、「気候変動と湿地:影響、適応、及び影響緩和」(決議.3)、「湿地再生の原則とガイドライン」(決議.16)に関する決議、及び影響評価に関する決議(決議.9)を採択したことを認識し、また、「2003−2008年戦略計画」(決議.25)、「湿地の賢明な利用を達成するための手段としての奨励措置」(決議.23)、「地下水利用を湿地保全と両立させるためのガイドライン」(決議.40)、及び「マングローブ生態系及びその資源の保全、統合的管理及び持続可能な利用」(決議.32)に関する決議が、農業、湿地及び水資源の管理に関するガイドラインの策定に関係することに留意し

18.本決議が農業と湿地との関係に明確に焦点を当てようとするものであり、いかなる意味でも貿易関連の協定と矛盾する農業政策を支えるために利用されることを意図していないことを確認し

締約国会議は、

19.締約国に対して、条約湿地及びその他の湿地の管理計画が、湿地の保全と持続可能な利用という目標に合致する農法と農業政策を適切に実施する必要性を十分に認める、広範な統合的流域管理方法を用いて確実に策定されるようにすることを求め、また、締約国に対して、湿地に関係する持続可能な農業システムを含め、湿地の保全と持続可能な利用のためのプラスの奨励措置を特定し、強化するよう強く要請する

20.締約国に対して、土地保有政策を見直す際には、必要に応じて、湿地とその資源の公平で透明で持続可能な管理を促進するような方法で、湿地の保有制度と利用者の権利を考慮するよう重ねて強く要請する

21.締約国に対して、自国の農業政策を見直す際には、他の国際的な権利と義務に合致する補助金や奨励措置のうちで、その領域内や世界の他の場所の水資源一般、特に湿地に対して、マイナスの影響を及ぼすおそれのあるものを特定し、かつそれらを取り除くかまたは湿地保全に寄与するような奨励措置に換えるよう強く要請する

22.以下をまだ行っていない締約国に対して、水資源、湿地及び生物多様性の保全に関連する政策の一本化を進めるための対話を、省庁内及び省庁間で国内ラムサール委員会または国内湿地委員会を設置している場合にはこれに代表を送っている機関を適宜含めて、省庁内及び省庁間での対話を開始するよう促す

23.締約国に対して、本決議を実施する際には、段落21に示される活動と支援措置が貿易関連の協定と矛盾する農業政策を支えることのないようにするよう要請する

24.ラムサール条約の国際団体パートナーに対して、農法と湿地の機能及び価値との相互作用に関する知見の現状に関し、現在なされているさまざまな検討について詳しく調べて報告するために、ラムサール条約事務局との緊密な協力のもとに、他の関連機関、特に国連食糧農業機関(FAO)と共に作業を行うよう促す

25.科学技術検討委員会(STRP)に対して、関連する国際機関と協力し、かつ国際団体パートナーに求められた詳しい検討を活用して、以下を行うことを要請する

a)農業に関係する優良実践例を特定、記録、及び普及するための枠組みを策定する。これには、湿地固有の情報や作物固有の情報、農業用湿地の持続可能な利用を明確に示す政策なども含む;

b)COP9で検討して、できれば決議.14に付属する湿地管理に関するガイドラインに組み込むために、以下を目的とする湿地タイプ別のガイドラインをこの枠組みを利用して策定する

・持続可能な農法が湿地の保全と賢明な利用に対して果たしうる積極的な役割を強化すること ;

・農法が湿地の保全と持続可能な利用という目標に及ぼす悪影響を最小限に抑えること;

・さまざまな農業システムを勘案した、湿地タイプ別の必要性と優先順位に基づいた事例を取り入れること;

26.各国のSTRP担当窓口に対して、前の段落の求める検討への準備と簡潔なガイドラインの策定に向け、締約国の情報を提供するよう促す

27.ラムサール条約事務局に対して、締約国と国際団体パートナーの支援を得て、条約湿地を含んでいる地域用に開発された農業関連の管理方法を特定し、この情報を上記段落25の求めるガイドラインの策定に活用し、またこの情報をCBD事務局及び砂漠化防止条約事務局と共有するよう要請する

28.STRPに対して、農業と湿地の問題についての適切な配慮が、地球規模の気候変動、地下水、地下水と地表水との相互作用、有毒化学物質、及び砂漠化など、STRPが取り扱うかもしれない他の関係する作業分野に確実に組み入れられるようにすることを重ねて要請する。最後の砂漠化の分野については、ラムサール条約と砂漠化対処条約との協力覚書の実施として行う;

29.さらにラムサール条約事務局に対して、COP9の承認を受けたならば、本決議の実施によって生成されたさまざまな情報を確実に「ラムサール賢明な利用ハンドブック」の将来の改訂に組み入れるようにすること、及び生物多様性条約事務局と密接に協力して、本決議の内容から導きだされた適切な共同行動を、両者の共同作業計画の次回見直しに組み入れることを重ねて要請する

30.事務局長に対して、「水・食糧・環境に関する対話」にラムサール条約の代表者を送ること、及びその対話の事務局との間にある現在の関係を活かすことを重ねて要請する

31.締約国、国際団体パートナー、STRPの委員及び国内担当窓口その他に対して、湿地と農業に関する情報を、ラムサール条約事務局が運営する「賢明な利用資料センター」に、河川流域イニシアティブの活動に、また「水・食糧・環境に関する対話」と「世界水フォーラム」の将来の会合に、提供するよう促す


ラムサール条約第8回締約国会議の記録 [和訳:『ラムサール条約第8回締約国会議の記録』(環境省 2004)より了解を得て再録,2005年,琵琶湖ラムサール研究会.]
[レイアウト:条約事務局ウェブサイト所載の当該英語ページに従う.]

[ PDF 32KB ]   [ Top ] [ Back ]    [ Prev ] [ Index ] [ Next ]


Valid HTML 4.01!    Valid CSS!