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ラムサール条約 第9回締約国会議
決議.1付属書D:履行効果指標

日本語訳:
「ラムサール条約第9回締約国会議の記録」(環境省 2008年)より了解を得て再録. 

  PDF  (248,環境省)

条約事務局原文:
 英語   フランス語   スペイン語 

「湿地と水:命を育み,暮らしを支える」
"Wetlands and water: supporting life, sustaining livelihoods"
湿地条約(ラムサール,イラン,1971)
第9回締約国会議
ウガンダ共和国カンパラ,2005年11月815日

決議.1付属書D
ラムサール条約の履行効果を評価する“成果指向”の生態学的指標

1.第8回締約国会議(COP8)の決議.26による要請及び科学技術検討委員会(STRP)による作業により、本付属書は、条約履行の効果を評価するために選ばれた8つの側面における初期指標を盛り込んでいる。これらは、20062008年の3年間に適宜使用できるよう設定されたものである。

2.8つの初期指標(表1)は、条約履行の結果得られる生態学的成果のいくつかを評価するための基礎を提供する。したがって、条約がその使命を達成できているかどうかという根本的な問いに対して切実に求められている回答を示す助けとなる。

3.その際、これらの指標は、COP9の国別報告書様式や条約の『20032008年戦略計画』及び「条約履行のための戦略的枠組み」(決議.8)に示されるような“プロセス指向”の指標とは異なる。しかし、互いに異なるこれらの指標は全て連動し、相互補完しながら運用されるよう立案されている。実際のところ、国別報告書様式の“プロセス指向”の指標の多くが、個々の効果指標を分析・評価する際に必要となり利用されることになる。

4.この手法は、COP10への国別報告書様式の簡素化(決議.8参照)を含む、条約の下での新たな統合的なモニタリング及び報告手順の一部をなす。一体的にとらえると、これらの新しい手順は締約国が分析と報告を実施する際の負担が現行に比して増えることのないように設計される。関連の多国間環境協定への報告業務の合理化・調整の動きに合わせれば、全体的な負担が実際に削減されることが理想である。いずれにしろ、いくつかの指標は地球規模での分析に依存するものであり、個々の締約国による分析を意味するものではないことになる。

5.8つの初期指標は、検証の余地はあるが、現在のところ、既存あるいは容易に収集できるデータと情報を用いて実施が可能であると考えられる。いくつかのケースで、この情報には貴重な洞察をもたらしうる定性的な評価が含まれるであろう。

6.得られる結果は、他の地球規模の評価プロセスにも実際的な価値を持つ。ラムサール条約をうまく履行できれば、「持続可能な開発に関する世界首脳会議」(WSSD)および2010年までに生物多様性の喪失の速度を大幅に低減させるという生物多様性条約(CBD)の「2010年目標」の達成を助けることになる。また、これらの指標は、その目標に向けた諸相における実施の度合いを評価する上で役立つものとなるであろう。本付属書の効果指標に基づく報告は、2010年目標へのプロセスに情報を与えることを目的とし、2008年から2011年を目途としている。これらの指標はまた、生物多様性関連の条約間の相乗作用という趣旨に適い、締約国が内陸水及び海洋沿岸域の生物多様性に関する作業プログラムに関するCBDの目標に照らして報告を行なう上でも有用であると考えられる。

7.しかしながら、ラムサール条約の効果指標は、CBDが2010年生物多様性目標の達成度評価のために策定したような「生物多様性の現状と傾向」に関する指標よりさらに一歩前進する必要があり、かつ、そのような「現状と傾向」を示す指標の全てが、必ずしもラムサール条約の効果を明瞭に評価する目的で直接流用できるものではないことを認識しておくことが重要である。

8.8つの効果指標の情報源の地理的規模は様々である。超国家的レベルで運用され、国際的に調整されるよう設定された指標がいくつかあるが、一方でそれらは個々の湿地、流域・集水域、ならびに国レベルのデータを必要とすることもある。その他の指標は、個々の湿地、流域・集水域、あるいは全国的規模でのデータ収集にあわせて設計されたものもある。

9.各指標に関する実施の開始は、指標の主題の特定の側面に焦点を当てたひとつもしくは複数の「下位指標」を通じて行うように設計されている。いくつかの指標に関しては、将来の拡充を見込んで、さらに多くの下位指標が特定されている。それによって、先に述べた締約国の報告に係る負担という制約を考慮しつつ、一連の指標によって徐々に、条約の効果評価が、ますます情報に富みかつ役立つものに、作られてゆくものとなる。

10.表1は、指標の主題、指標と初期下位指標及びそれらの目的とともに、各指標を適用する際、締約国に期待される役割と責任を示す。さらに検討を加え、将来拡充できるように、STRPはさらに5つの指標を推奨している(表2)。

11.STRPがこれらの各指標と下位指標の適用及び運用の手引きとなるファクトシートを作成した。作成されたファクトシートは、COP9会議文書18の付属書に掲載されている。これらファクトシートの標準様式を、本付属書の添付文書1に示す。

12.指標の構築と運用を細部まで練り上げるには、さらに、下位指標、データ収集の手順と仕組み、編集、分析、評価、報告、そして得られた結果と結論の出版・普及などの作業が必要である。そして、この作業は、条約の科学技術的実施に関する行動予定(決議.2)の中で、20062008年の3年間におけるSTRPと事務局の緊急優先課題として特定されている。実行可能性その他の側面を確認するための事例検討も行われる予定である。

13.これらの側面は策定の段階にあるが、締約国その他が希望すれば国内レベルでの評価に(COP9文書18のファクトシートを用いて)これらの指標を利用することができる。これは、条約の将来的な役割と運用に磨きをかけ能率化する上での学習過程となるだろう。

14.概して、条約の生態学的効果の測定及び評価については、これまで非常に限られた基盤しか利用できなかった。これはある部分、生態学的効果に対する問題を展開する複雑さによるものであり、また、手段の基礎として妥当な尺度として利用できるデータセットが限られていたことにも関係している。本付属書が提供する“成果指向”の生態学的効果指標を用いて評価を行なうことが必要であるため、締約国会議への国別報告を完全なものにすることをはじめ、「ラムサール条約湿地情報サービス」における条約湿地に関する情報を維持しさらに拡充すること、また条約第3条2項及び決議.8に従った条約湿地の生態学的特徴の現状と傾向に関する情報の提出状況を改善することなどを通じて、効力のある最新の情報源を維持することの必要性も高まる。

表1.条約の履行効果を評価する8つの初期指標
指標の主題指標の表題下位指標の表題目的締約国の役割
湿地資源−現状 A.湿地の全体的な保全状況 .湿地生態系の規模の現状と傾向 下位指標.本指標は特定の湿地タイプの面積が時とともにどう変化したかを示すものである。条約の目的は「湿地の進行性の浸食及び湿地の喪失を阻止する」ことであるため、その履行が効果的であれば湿地面積の喪失を食い止めるか弱められるはずである。厳密に言えば、このことは各国における条約の履行以来、及び歴史を通して、条約がない場合に起こっていたであろう状況と比較することにより評価されるべきである。たとえ特定の湿地タイプの面積が減少していても、条約の効果は、喪失速度が以前あるいは予測より低い、または条約履行の対象となっていないところでの喪失速度に比べて低いなどの形で見られるはずである。生態系面積の喪失速度の増加は、条約がこの点で十分な効果を果たしていないことを意味する。 下位指標.本指標に適切なデータとなりうるものは、国内の土地面積及び資源の評価である。締約国は自国の目的のためにそのような関連データを利用するとともに、それが条約地域及び地球規模での評価に貢献できるように提供すべきである。さらに、COP9の国別報告書様式には沿岸域湿地と泥炭地の規模と現状に関する国別情報の欄が盛り込まれている。
.保全状況の傾向−定性的評価 下位指標.本指標は、湿地全体の保全状況の変化を示すものである。現在と過去の保全状況の傾向は、生態系の状態、それに作用する圧力(指標D参照)、及びそれらの圧力を減少または緩和するための対応や行動を総合した結果である。やがては湿地の生態学的特徴の変化に関する定量的データが、本指標に最良のデータセットを提供するだろうが、初期段階における保全状況の傾向は、定性的評価によって判断することができる。定性的評価の例は条約の地中海沿岸湿地のための「地中海湿地フォーラム」による2004年試験評価に示されている。バードライフ・インターナショナルの重要鳥類生息地(IBA)モニタリング・プログラムもデータ源のひとつとなるであろう。 下位指標.締約国は、適切な湿地管理者及びその他STRP担当窓口のような専門家を特定し湿地評価に参加させたり、この手法を用いて国内の湿地資源評価を実施する等して、領域内の湿地及び湿地複合体からのデータ入手を支援することができる。湿地目録、あるいはせめて本指標により評価される湿地の目録があれば、このプロセスに役立つであろう。また、COP9国別報告書様式の特定の欄、及びRIS更新時にその「保全状況」欄に提供する情報にもつながる。
条約湿地−現状 B.条約湿地の生態学的特徴の現状 .条約湿地の生態学的特徴の状況の傾向−定性的評価 本指標は、条約湿地の生態学的特徴の状況の過去と現在の傾向に注目し、条約第3条の下での責務がどの程度達成されているかを判断するものである。指標Aと同じく、初期段階では定性的評価方法により実施される。指標Aの結果との比較により、未登録の湿地と比べ、条約湿地の状況がいかに変化しているか推察できる。 締約国は条約湿地の維持、管理及びモニタリングの責任者との連携を促進し、情報を提供する必要がある。初期段階の定性的評価は、簡単な質問票(指標AとDの適用のためのデータや情報も期待できる)の形を取るだろう。

定性的評価の手法に加え、いくつかの条約湿地の定量的評価が既に可能となっているだろう。これには、例えば、欧州宇宙機関の TESEO(地球観測技術を用いた条約履行支援)や GlobWetland(地球湿地)プロジェクト、及び領域内の条約湿地で運用、報告がされているモニタリング・プログラムを有する締約国からのデータなどが利用できる。
水質と水量−現状 C.水質の傾向 .溶存硝酸塩(または窒素)濃度の傾向 下位指標.本指標は、内陸水の窒素レベルが時間とともにどう変化しているかを示し、生態系の汚染と栄養塩類の変化の両方を反映するものである。溶存窒素の絶対値は、水域のタイプと(それより割合は少ないが)季節条件により変化するが、特定の水域における窒素濃度の平均値の上昇は、流入窒素の増加を意味する。

溶存窒素濃度を引き上げる主な原因は、肥料の表面流出やその他の汚染源から来る窒素である。これは、水質モニタリングの標準的構成要素である。個々の湿地レベルでは、溶存窒素濃度の傾向は、湿地の現状を示す要素のひとつであり、湿地に直結する集水域とより広範な流域がどの程度うまく生態系の健全性を守るように管理されているかを反映する。条約の効果との関連は、条約湿地を見れば明らかである。つまり、条約湿地に指定したことがそれら湿地の保全と賢明な利用の促進に効果があったならば、大部分の条約湿地で窒素濃度が安定化、または低下しているはずである。
下位指標及び.関連するデータの多くは、研究機関及び政府機関によって実施された地域、地方、あるいは全国のモニタリング・プログラムで既に収集されている。締約国は、水質モニタリング・プログラムを維持ならびに拡充し、結果として得られたデータとメタデータを結集する必要があるだろう。しかしながら、初期段階では、関連のCBD2010年指標の評価において行なわれるような確立された国連環境計画(UNEP)の「地球環境監視システム/水質監視計画(GEMS/Water)」の仕組みを通じて得られた情報源から編集したデータセットを主に利用しながら分析作業を行うことができると期待される。
.生物化学的酸素要求量(BOD)の傾向 下位指標.本指標は、内陸水の有機汚染レベルが時間とともにどう変化するかを示すものである。特定の水域におけるBOD平均値の上昇は流入有機物の増加を意味する。これは、下水、表面流出やその他の汚染源からもたらされる可能性が高い。個々の湿地レベルでは、BODの傾向は湿地の現状を示す要素のひとつであり、湿地に直結する集水域とより広範な流域がどの程度うまく生態系の健全性を守るように管理されているかを反映する。条約湿地に関して見れば、条約湿地に指定したことがそれら湿地の保全と賢明な利用の促進に効果があったならば、BODの傾向は時とともに安定化、または低下するはずである。
条約湿地−脅威 D.条約湿地に脅威が影響を与える頻度 .条約湿地に脅威が影響を与える頻度−定性的評価 条約湿地の保全を促進し、それらの生態学的特徴を維持する(条約第3条1項及び決議Ⅷ.8)目的において、条約が効果を有するならば、湿地の生態学的特徴の望ましくない変化が、保護のための政策や意思決定の制度及び湿地の管理によって回避されるだけでなく、個々の湿地の現状に対する認識が高まり、それらの保全目標がより広く共有されるようになるにつれ、湿地に脅威を与えるようなリスクや開発計画の頻度が時とともに減少するはずである。本指標は、そのような傾向が表れるかどうかを示すように立案されたものである。初期段階では絶対的傾向しか示さないかもしれないが、脅威が(例えば国内の)全般的な脅威の傾向に比べ相対的に減少しているかどうかや、未登録の湿地に比べて条約湿地の方の脅威がより減少しているかどうかを表せるように、やがては拡充すべきものである。A及びBの指標同様、初期段階においては定性的評価方法を通じて実施される。 締約国は、条約湿地の維持、管理及びモニタリングの責任者との連携を促進し、情報を提供する必要がある。初期段階の定性的評価は、簡単な質問票(指標AとBの適用のためのデータや情報も期待できる)の形を取るだろう。加えて、締約国の国別報告書及び条約3条2項に基づく報告から関連の情報が得られるであろう。重要鳥類生息地(IBA)で、かつラムサール条約湿地に指定されている湿地に関しては、バードライフ・インターナショナルのIBAモニタリング(ここで明記するものと類似の手法をとっている)への参照が有用であろう。同じく、現在開発・事例試験実施中のWWFの湿地管理効力ツールも、締約国に寄与する仕組みを提供するものと期待されている(指標Eも参照)。
湿地の管理 E.保全または賢明な利用の管理計画がうまく実施されている湿地 .保全または賢明な利用の管理計画がうまく実施されている湿地 本指標の重要な特性は、管理計画の「実施における成功」である。すなわち、決議Ⅷ.14に従って個々の湿地の生態学的特徴に対して定めた管理目標が達成され、モニタリングを通じて評価されていることである。ここで評価されるのは、単に管理活動の有無ではなく、保全と賢明な利用がどれだけ成功しているかである。本指標は、条約湿地と、確立した管理計画策定手順を有する他の湿地の両方に適用することができる。本指標を、同じ湿地に対する指標AからDの結果と関連付けて評価することで、湿地の生態学的特徴を維持する上での条約の管理計画策定手順の効果についてさらに洞察が得られるだろう。 締約国は、領域内のラムサール条約湿地と、他の湿地の両者の維持、管理及びモニタリングの責任者との連携を促進し、情報を提供する必要がある。現在開発・事例試験実施中のWWFの湿地管理効力ツールも、締約国に寄与する仕組みを提供するものと期待されている(指標Dも参照)。
種/生物地理学的個体群の現状 F.湿地に生息する分類群における全体的な個体数傾向 .水鳥の生物地理学的個体群の状態の傾向 水鳥は湿地の健全さの指標と広く見なされており、渡り性の個体群は渡り経路に沿った生態系の状況を積分して表すものと見ることができる。多くの個体群は、一年の少なくともいくつかの時期に(集団営巣地、渡りの中継地、ならびに非繁殖期の採食地に)集結する。これらの時期の個体群は条約湿地の指定、保護及び生息地管理のための行為に反応を示す。本指標は、生物地理学的個体群レベルで、どの地域と時期に、そしてどの渡り経路で水鳥が比較的健全か不健全な状態にあるのかを示し、それによって渡り経路規模で湿地のネットワークを維持するという責務に対する条約の効果の程度を表す。これは、一般の人々にもわかりやすく宣伝効果のある指標となりうる。 本指標のために用いる主なデータセット(国際湿地保全連合の「国際水鳥センサス」(IWC)と「水鳥個体群推定」(WPE))は、超国家的な生物地理学的個体群と渡り経路規模で分析され報告されている。締約国は、決議Ⅷ.38に従い、自国が収集する個々の湿地及び国内のデータが、このプロセスに利用できるようにすることを保証する役割を有する。加えて、国内での現状と傾向の情報を生成する全国規模の水鳥モニタリング計画を有する締約国は、その結果や分析が世界、条約地域及び渡り経路規模の評価に確実に利用できるようにする役割を有する。
絶滅のおそれのある種 G.湿地に生息する生物分類群への脅威に関する状況変化 .地球規模で絶滅のおそれのある湿地に依存する鳥類の状態の傾向

.地球規模で絶滅のおそれのある湿地に依存する両生類の状態の傾向
IUCN(国際自然保護連合)のレッドリストに掲載される地球規模で絶滅のおそれのある種に関する種レベルの現状と状況変化(種よりも細かい生物地理学的個体群レベルの指標F参照のこと)は、特に絶滅のリスクにさらされる種の保護に関する選定基準2に従った条約湿地指定など、条約の手順の効果の評価を提供する。

「レッドリスト・コンソーシアム」が編纂したデータセットと分析結果は既に、鳥類及び両生類についてはこの下位指標の時系列変化を示す「レッドリスト指数」の様式で存在し、湿地に依存する種ごと及び地域ごとに分解することができる。状況変化を示す編集されたデータセットおよび解析は、レッドリスト・コンソーシアムによるレッドリスト指数としてすでに存在し、鳥類及び両生類に関する下位指標として用いることができ、また、湿地に依存する種や地域のために再編することができる。レッドリスト評価がさらに回数を重ねてゆくに従って順次、地球規模で絶滅のおそれのある他の分類群についても下位指標を設定することができると期待される。
本指標に使用される主なデータセットは、国家規模で収集・報告されるものではなく、むしろ「レッドリスト・コンソーシアム」が、地球規模・条約地域規模で専門家が参加するIUCN/バードライフ・インターナショナル/国際湿地保全連合の「専門家グループ」のネットワークを利用して、地球規模で分析・作成するものである。

加えて、条約湿地選定基準2に基づけば、国内的に絶滅のおそれのある種が利用する湿地の指定も可能となるため、締約国は、そのような種の領域内での現状と状況変化を報告する機会を有し、さらに地球規模及び条約地域規模の評価に情報提供することまでできる。
条約湿地指定の進展 H.これまで指定された条約湿地候補地の湿地タイプ/特性の項目別割合 .種々の湿地資源が条約湿地に含まれる割合 「条約湿地の指定のための戦略的枠組み」は、条約湿地の『緊密で総合的な全国的・国際的ネットワーク』を求めている。本指標は、この最終目標がこれまでどの程度達成されたかを、条約の湿地分類法に基づく様々な湿地タイプ(及び他の特性項目)ごとに評価するとともに、その達成度の条約の効果にとっての意味を評価する。本指標は、湿地を条約湿地に指定すれば、例えば、条約湿地の重要性の意識の向上による開発・改変圧力の低減、湿地を保護するための立法措置の適用、ならびに条約湿地の生態学的特徴を維持するように立案された管理計画策定手順などを通じて、それら湿地の生態学的特徴の保護が高まるという前提に基づいている。この前提は、条約湿地の生態学的特徴の現状に関する指標Bを用い、湿地の全体的保全状況に関する指標Aと関連づけて検証することができる。初期の下位指標は、条約の湿地分類法に基づく様々な湿地タイプの地球規模の分布及び重要性に関して条約湿地指定のパターンの評価に焦点を当てる。ただし、地球規模の分布データセットが揃っている湿地タイプのみ可能である。

(本指標の下でのアプローチは、将来の拡充に向けて提案されている指標I「水鳥個体群の生物地理学的分布及び渡り経路の条約湿地のネットワークによってカバーされる割合」(表2参照)の下でのアプローチと、密接な関連を持つことに注意すること。)
指標Aと同じく、全国湿地目録の情報の入手・利用状況を(決議Ⅷ.6に従って)改善することが、決議Ⅷ.10で求められた条約湿地候補地リストの確立と同様、本指標の実施範囲拡大に重要な貢献となるであろう。本指標はまた、条約湿地リストにおける『十分に選出されていない』という言葉を条約湿地の「戦略的枠組み」との関連でどう定義づけるかというSTRPの課題にもひとつのアプローチを提供するであろう。


表2.STRPが推奨するさらなる検討と将来の拡充に向けた指標
指標の主題指標の表題目的
条約湿地指定の進展 I.湿地に依存する鳥類個体群が条約湿地によってカバーされる割合 「条約湿地の指定のための戦略的枠組み」は、条約湿地の『緊密で総合的な全国的・国際的ネットワーク』を求めており、この枠組みの水鳥に関する基準5及びの長期目標は、これらの基準を満たすすべての湿地の指定である。本指標は、これまでのところ水鳥に関してこの目標がどの程度達成されたか、そして、その達成度の条約の効果にとっての意味を評価するものである。従って、本指標は、条約湿地指定を通じた条約実施のもう一つの重要な側面にかかる指標Hを補完し、また、指標Fの結果も情報源となる。20032005年の作業期間中、STRPは、潜在的に利用可能なデータ源と分析の仕組みのさらなる検討が必要であり、計画されている種の情報の組み入れによって、将来「ラムサール条約湿地データベース」が拡充されれば本指標の将来的実施が容易になるだろうと結論付けた。
湿地生態系の恩恵/サービス J.望ましくない洪水及び干ばつによる経済的費用 効果指標の8つの初期指標には、生物多様性の恩恵/サービス以外の湿地生態系の恩恵/サービスの提供に関する条約の効果を評価する指標は何も含まれていない。ここで提案する指標は後者を扱うように設計したものである。STRPは、本指標が、条約において注目度が高まっている自然災害の影響(決議Ⅷ.35及び決議Ⅸ.9)に関連して、調整的恩恵/サービスを重点的に扱うことを期待する。本指標の作業仮説は、条約の「賢明な利用」政策を正しく適用すれば、被害の発生と影響ならびにそれによる経済損失が減少するということである。

20032005年の作業期間中、STRPは、本指標の正確な定式化を実現するためにはさらなる作業が必要であり、その評価に利用できる他の組織が編集したデータ源が現存するかどうかをさらに探究する必要があると考えた。
水質及び水量−現状 K.水量の傾向 本指標及び本主題に対して考え得る幾つかの下位指標は、水質の傾向に関する指標Cを補完するように立案される。水量の様々な側面及びその湿地の生態学的特徴にとっての意味に関する現状と傾向の指標は数多く存在しているが、20032005年の作業期間中、STRPは、条約履行の効果と明確に関連するものがあるのかどうか、あるならばそれはどのように関連しているのかをさらに検討する必要があると結論付けた。
立法上及び政策的対応 L.条約の規定を反映させるために実施された法律の改正 ここに提案する指標は、一連の指標の中に条約の効果の立法的側面が確実に組み込まれることを意図して盛り込んだものである。これは「目的を対象とした」指標というより、基本的には「手段を対象とした」指標であるが、他の指標とともに評価することで、有意義かつ永続性のある変化にかかわる強力な指標である。逆効果をもたらす奨励措置の廃止などの例は、条約の明確な最終目標との関係で重要であろう。また、これは、最もはっきりと「応答指標」の範疇に組み入れられる問題の一つである。この指標の強みの一つは、他の多くの指標に比べて、変化を直接ラムサール条約に帰することが容易な点である。一旦この指標がさらに拡充されて、法の施行・遵守の適用の側面を含むものとなれば、このような立法に関する指標は「文書上」の効果の増大だけでなく、真の増大を更に反映することになるであろう。
立法上及び政策的対応 M.賢明な利用の政策 本主題を対象とする指標は、「賢明な利用」の政策の確立及び実施が、この条約の下で湿地の賢明な利用(条約第3条1項)を達成するための許認可環境を確立する効力をどの程度もつ仕組みとなっているかを、持続可能な開発の観点から審査するものである。本指標は、それ自体では「プロセス指向の」応答指標の側面を持つが、他の多くの効果指標とともに評価することで、この側面の効果が理解できるであろう。しかしながら、本指標に必要とされるさらなる検討の一環として、STRPは、これを個別の効果指標として扱うよりむしろ、締約国の国別報告書が提供するプロセス指向の指標の情報を利用して、湿地の賢明な利用政策が存在ならびに実施されているかに関連付けて行なわれる各生息地及び種の指標の評価をもとに、この問題を審査することが最も効果的であるかどうかを検討する予定である。

添付文書1
条約の履行効果指標のための標準ファクトシートの情報欄


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[英語原文:
ラムサール条約事務局,2005.Resolution IX.1 Annex D "Ecological “outcome-oriented” indicators for assessing the implementation effectiveness of the Ramsar Convention", November 2005, Convention on Wetlands (Ramsar, 1971). http://ramsar.org/res/key_res_ix_01_annexd_e.htm.]
[和訳:
表紙「ラムサール条約第9回締約国会議の記録」 「ラムサール条約第9回締約国会議の記録」(環境省 2008)[この付属書のPDFファイル: http://www.env.go.jp/nature/ramsar/09/9.01_D.pdf]より了解を得て再録,琵琶湖ラムサール研究会,2008年.]
[レイアウト:
条約事務局ウェブサイト所載の当該英語ページにおおむね従う.]
[フォロー:
COP10文書23英語原文), COP9文書18英語原文) .]

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URL: http://www.biwa.ne.jp/%7enio/ramsar/cop9/res_ix_01_annexd_j.htm
Last update: 2008/09/06, Biwa-ko Ramsar Kenkyu-kai (BRK).