ラムサール条約　第９回締約国会議
決議Ⅸ.14：湿地と貧困削減

「湿地と水：命を育み，暮らしを支える」
"Wetlands and water: supporting life, sustaining livelihoods"
湿地条約（ラムサール，イラン，1971）
第９回締約国会議
ウガンダ共和国カンパラ，2005年11月８−15日

決議Ⅸ.14
湿地と貧困削減

１．決議５.６「湿地の賢明な利用」、Ⅶ.８「湿地の管理への地域社会及び先住民の参加を確立し強化するためのガイドライン」、Ⅷ.23「湿地の賢明な利用を達成するための手段としての奨励措置」、そしてⅧ.36「湿地の管理及び賢明な利用のための手段としての参加型環境管理（PEM）」など数々の締約国会議決議が貧困削減と関連することを強調し、内陸水生態系の生物学的多様性の現状と傾向及びその保全と持続可能な利用のための選択肢に関する生物多様性条約の決定Ⅳ／４との関連性を再び強調し、

２．ミレニアム開発目標１と７（「飢餓に苦しむ人口の割合の半減」と「環境の持続可能性の確保」）や、2005年までに統合的水資源管理計画を採用することを特に奨励した「持続可能な開発に関する世界首脳会議」（WSSD）のヨハネスブルク実施計画（JPoI, 2002）などを含めた国際的な合意を受けた開発戦略の実施においてラムサール条約が重要な構成要素のひとつであるという妥当性に留意し、

３．「2005年世界サミット成果文書」及び「援助効果向上のためのパリ宣言」に関する国連首脳会合の成果に再び留意し、

４．ミレニアム生態系評価の結果、特にラムサール条約への報告「生態系と人類の福利：湿地と水統合報告書」における以下の主旨の重要メッセージに重ねて留意し：

• 湿地生態系は人類の福利にとって重要な恩恵／サービスを幅広く提供する、
• 予想される湿地の相次ぐ喪失と劣化は人間の健康と福利の一層の低下を招くことになり、特に発展途上国における社会的弱者に著しいであろう、
• しかしながら、湿地の自然の機能を維持することによって住民への恩恵／サービスを提供し続けることが可能になる、
• 政策及び意思決定機関が、持続可能な開発を達成する視点から湿地生態系の恩恵／サービスの確保を重視して、緊急に、水資源管理への部門横断的な取り組みを必要としている。

５．第13回持続可能な開発委員会（CSD13）が水に関する衛生及び人間居住に関する最終コミュニケにおいて、環境の持続可能性を高めながらも、貧困削減への対策をさらに支援するよう提案したことを考慮し、

６．「ラムサール湿地の賢明な利用ハンドブック」に含まれる条約の手引きの本文の大部分は、貧困削減をもたらすような湿地の賢明な利用の促進に助けとなる点で価値を有することを意識し、

締約国会議は、

７．締約国や他の政府に対して、特に以下の分野において貧困削減に寄与する行動をとるように強く要請する：

• 人の生命と安全：湿地の持続可能な利用や湿地再生を通じて、台風、暴風雨による大波、海水の侵入、干ばつや洪水等の影響から人々を守る方策、
• 資源の入手利用：国内法や適用可能な国際的義務と矛盾が無いよう地域社会や先住民の権利を尊重しつつ、国際的および国内の法制度をも十分尊重し、土地や水ならびに魚類など湿地資源の利用がより容易になるようにするとともに、それらを持続可能な水準で利用する能力を開発する方策、
• 生態学的持続可能性：関連する主要政策部門の全てにおいて、生態系再生の方策を含め持続可能性を確保することの優先順位を高める方策、
• 統治（governance）：意思決定過程や管理制度における貧しい人々の権限を高める方策、
• 経済：湿地が提供する生態系の恩恵／サービスを、生態学的に持続可能な水準で、維持または高める方策。

８．締約国に対し、第９回締約国会議（COP9）文書33で概略が示された例を念頭に置きながら、以下の行動をとり、もしくは支援することを重ねて強く要請する：

• 湿地の劣化と貧困とは際限の無い循環をとる関係にあることへの関心を高める行動、
• 国内の貧困削減戦略文書、統合的水資源管理、および水利用効率向上計画や類似の政策において、水や湿地の保全及び賢明な利用を優先もしくは支援する行動、
• 地域からの視点を組み込み、既存の持続可能な暮らし方というやり方が尊重されることを保証するように、地域社会、開発部門と保全部門の間で新しい協力関係を築く行動、
• 貧困削減の取り組みや、生態系の恩恵／サービスの維持を可能するために湿地に依存する地域社会との間で地域レベルの合意を結ぶなどの新しい発想を助けるために、既存の融資メカニズムを再検討して改善したり、地球環境ファシリティー（GEF）などの金融機関に、湿地保存のための新しい考えを導入するよう奨励したりする行動、
• 男女の平等と地域社会への気配りが持続可能な湿地管理戦略において配慮されることを保証する行動。

９．アフリカ地域の締約国に対して、決議Ⅷ.44「アフリカの開発のための新パートナーシップ（NEPAD）及びアフリカ地域におけるラムサール条約の実施」の決議事項を基礎におきつつ、またＮＥＰＡＤの実施と貧困削減を結びつけながら、ＮＥＰＡＤの環境イニシアティブの湿地関連部分（事業領域２）を実施するように特に強く要請する。

10．締約国に対し、国連環境計画（UNEP）、国連開発計画（UNDP）、国連社会経済局、条約の国際団体パートナー、国内外のＮＧＯ、その他とともに以下の作業に取り組むことを奨励する：

• 賢明な利用のアプローチを用いた持続可能な暮らしを増進することを目指して、個々の湿地ならびに湿地一般の経済的、社会的、文化的、および人々の暮らしに対する価値の評価、またそれら湿地が提供する恩恵／サービスの評価に着手する、
• 賢明な利用の原則を基に、食料安全保障を高め、経済を多様化させ、かつ湿地関連の商品の価値を高めるように設計された活動を通じて、暮らしを改善することができるように、湿地およびその資源を持続可能な水準で利用する能力を、地域社会及び関連した助言を提供する部門^{［訳注１］}に築く、
• これらの機関に対して、締約国が真に必要とする貧困削減の支援計画やその可能性の範囲を定めようとする締約国からの相談を幅広く引き受けるよう奨励する。

11．科学技術検討委員会（STRP）に対して、この決議の実施に向けてガイドラインを作成するように指示する。

12．再生事業に仕事や技能ならびに機会の提供を組み入れることや、地域社会が依存する湿地生態系の恩恵／サービスの再生に焦点をあてることによって、湿地再生を貧困削減と結びつけることの価値を再確認する。