「山の中でひとり」  第94話
b91a34d987-1229432988.png 「着たい!」
 おばさんの可愛い服を見て、素直に私はおじさんに言った。
 厚かましいと思って後悔していたら、おじさんがかっこいい笑顔で紙袋をくれた。
「そう言うと思って、作っておいたよ。」
「いつのまに!?」
「好江さん…。社会人にはね。有給休暇って奴があるんですよ…」
「聞いてないわよ!」
「言ってませんからね。お義母に頼んでミシンを借りて作りました。」
「あななな…」
「あんまりヒラヒラしてないけど、君はシンプルな方が似合うと思ってね。それに着心地が良いように、気をつけたんだ。ほら、着替えておいで」
 怒りで声も出ないおばさんを尻目に、おじさんが棚から何か探し始めたので、隣の部屋で着替えることにした。

 着替えてくると、おじさんがおばさんをカメラで撮っていた。
「いぃぃぃぃやあああ」
 と、真っ赤になりながらおばさんは水屋の陰に隠れていて、なんだか可愛かった。
「あっ、きがえられた?」
 私はちょっとすましてポーズを取る。おじさんが写真を撮ってくれた。
「おーーー、タカヨシ。真っ赤だぞ。あっ、ちょっとクルって回って。クルって」
 色んなポーズを取る。なんだかスゴい楽しい。
 でも、おばさんが何だか寂しそうだった。少し気まずくなって、おばさんを見る。その空気を読んでおじさんが振り向く。
「えっと…。好江さん?」
「……。なによ。」
「怒っておられますか?」
 おばさんは怒っておられるようだった。

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