「山の中でひとり」  第97話
1d196b6ccc-1229865059.png 「色々話せない事が多くて、どう説明して良いのか…」
 そう言って駐在サンは縁側に座った。床を叩いて隣に来るように指示されたので、タカヨシ君と一緒に行く。お巡りさんって分かっていても、男の人はやっぱり怖い。
「この前に本署に来てもらった時、帰りにショッピングセンター行ったでしょ」
 私はうなずく。下手な嘘はつかない方がいい。
「そのときに落とし物を届けてくれたよね。落とし物係の防犯カメラに写ってた。えっと、中身は見た?」
 やっぱりな、と思う。防犯カメラでバレるとは思っていなかったけど…。
「中身?」
「いや、見てないならいい。ちょっと面倒な物が入っていてね…。落とした人は見た?」
「いえ…、えっと。ごめんなさい。」
「いや、それが聞ければ満足だよ。ありがとう。えっと、明日の夏祭りが終われば帰るのかい?」
「はい」
「明日の早朝からウチの若いのを3人連れて山に入る。山岳救助…というか、山岳探索。僕らはこれをスタンドバイミーって呼んでる。帰ってくるのは3日後。だから、今日でお別れだ。」
「えっと、チョッパーは使えないんですか?」
「チョッパー?あぁ、ヘリコね。お金がないんだよ。相手を見つけても、消防ヘリに頼むから…。お金がないんだよ。本当に…」
 乾いた笑い。少し自嘲気味だと思う。お巡りさんが大変なのはどの国も一緒のようだ。この人は賄賂はもらわないんだろうか?
「お巡りさんだと、毎月の給料以外じゃ一日1000円以下の手当で休みとか関係なしに使い放題だからね。3日で3000円稼いで、山で食べるご飯とか缶詰とかは自腹だから結構な赤字だね。まぁ、僕らは公務員だから仕方ないけどね。うん、市役所のお役人さんが正直うらやましいよ。」
 それじゃ、と言い残して駐在サンは帰った。きっと彼はお家に帰れる。私は駐在サンに手を振る。
「がんばってくださいね!」
 彼の事をよろしくお願いします。

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