「山桜さんとソメイヨシノさん」 第18話
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季節外れの花に誰も見向きはしなかった。 目の前で死にかけているソメイヨシノさんをみて、惨めだと娘さんは素直に思った。 「おじさま…、おじさま…」 自分の足にすがりついて大人達を乞う姿にはもう、娘さんをいじめていた頃の面影はなくなっていた。 「惨めね…」 例え今が春でも、ソメイヨシノさんに花たる魅力は何処にもなかった。 不意にソメイヨシノさんが正気を取り戻したとき、娘さんは容赦なく言い放った。 「多分。あなたは死ぬ。何年もかけてゆっくりと…」 「あなたもね」 「私はあなたと違う」 「そうね、せいぜい長生きしなさいな」 ソメイヨシノさんはクスリと笑っていった。 「再来年は面白い気候になりそうね…」
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