「山桜さんとソメイヨシノさん」  第18話
9b470404be-1244727511.png  季節外れの花に誰も見向きはしなかった。
 目の前で死にかけているソメイヨシノさんをみて、惨めだと娘さんは素直に思った。
「おじさま…、おじさま…」
 自分の足にすがりついて大人達を乞う姿にはもう、娘さんをいじめていた頃の面影はなくなっていた。
「惨めね…」
 例え今が春でも、ソメイヨシノさんに花たる魅力は何処にもなかった。
 不意にソメイヨシノさんが正気を取り戻したとき、娘さんは容赦なく言い放った。
「多分。あなたは死ぬ。何年もかけてゆっくりと…」
「あなたもね」
「私はあなたと違う」
「そうね、せいぜい長生きしなさいな」
 ソメイヨシノさんはクスリと笑っていった。
「再来年は面白い気候になりそうね…」

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