「山桜さんとソメイヨシノさん」  第29話
3835d1b9a5-1251804411%5B1%5D.png  山桜さんが抱き上げるとソメイヨシノさんはギュッと身体を抱きしめた。
 手が震えているところを見ると、偉そうなこと言ってる割になんだかんだ言って不安なんだなと思って、山桜さんはしっかりとダッコしてあげた。
「私だ…」
 そう言ってソメイヨシノさんはソメイヨシノさんの死体を指さした。もう虫が巣くっていたし、微生物が分解を始めている。来年の冬には雪の重みに耐えきれず崩れて土に帰るソメイヨシノさん自身。
「そう。あなたね。お帰りなさい。」
「ただいま…」
 自分自身から目を離さずにソメイヨシノさんは震えながら言った。
「あなたは相変わらずあなたのままね。」
「あたりまえよ。私は私に決まってるじゃない。」
「あら、前に比べたら、生意気さが増えたような気がするわよ。」
「…ふん。」
 震えるほど不安なくせに、強がってる。なんだか可愛いなと山桜さんは思った。
「わたしね。あなたがまた、私たちのところに帰ってきてくれるのかと思って少し期待してたんだけどね」
「時間は戻せないわ。残念でした」
「そうよね。でも、あなたが帰ってきてくれた事もとても嬉しいのよ?」
 ソメイヨシノさんはプイッと顔を背けて頬を膨らませた。それをあやすように山桜さんが抱き直してから、優しく背中を叩く。
 山桜さんの着物に顔を埋めてしばらくソメイヨシノさんは動かなくなった。段々顔とか耳が赤くなってきて、それからまるで蚊の鳴くような声でもう一度言った。
「…ただいま」
「はい。お帰りなさい」

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