改正担保法および民事執行法


Q1.「担保不動産収益執行」の創設の背景とその内容を教えてください。


 不動産市況の低迷を背景として、不動産を売却せずに収益(賃料)から被担保債権の回収をはかるため、物上代位の手続きが多くなっていましたが、今回の改正は、担保権者の需要に応えて、担保権の実行手続きとして、従来の競売手続きとは別に、強制管理類似の手続き(民執第180条第2号)を創設しました。なお、管理期間に上限は設けられませんでした。
 ところで、民法は、抵当権が不動産の収益(果実)に対してどこまで及ぶかについて、一方では債務者が果実収益権を持つという立場から、差押等がないかぎり、抵当権の効力は果実に及ばないとしていました。(民歩第371条)
 他方、先取特権の物上代位に関する規定(民法第304条)を準用しているため(民法第372条)、賃料を目的不動産の価格の変形物として物上代位できるようにも解されます(民法第304条第1項は、「目的物の賃貸」も例示しています)。前者の立場は、抵当権は目的物の価格権のみを把握し使用収益権は債務者(所有者)の手元に残っていることを重視するのに対し、後者は不動産の賃料は不動産の価格について収益還元で計算する最近の傾向に適合する考え方です。平成元年10月27日最高裁が、後者の立場に立ち抵当権者による賃料の物上代位を認めたことから、同方法が目的不動産に対する競売と並ぶ実行方法として定着しました。しかし、賃料に対する物上代位は簡易かつ迅速という長所がありますが、@不動産管理費用相当額についても差押えがなされるため管理が適切に行われなくなる、A複数の抵当権が存在する場合に抵当権の順位に従った配当ができない、などの問題点がありました。
 このようなことから、収益管理型の抵当権実行手続きは、賃料の物上代位の実務の定着も見られたことや、また、一般債権者であれば不動産の強制管理(民執第93条以下)により、収益管理型の強制執行が可能であることのバランスからも、特段の反対もなく導入されたのです。

競売と収益管理が同一不動産で併存、併用される可能性がある

 このように改正法は、競売と収益管理とを別個独立の手続きとしており、同一不動産につき二つの手続きの併存、併用があるということになりました。また、民法第371条との整合性から、「担保権に基づく強制管理」による差押えの後は、担保権の効力が天然果実および法定果実におよぶことになりました。

果実に抵当権がおよぶ場合

 同時に民法第371条が改正され、抵当権の被担保債権につき債務不履行があった後に生じた抵当不動産の果実にも抵当権の効力がおよぶものと規定されました。

「不動産競売」の名称が担保不動産競売に変わった

 従来の「不動産競売」は「担保不動産競売」に改められました。

従前の物上代位制度も併存する

 従来の物上代位の手続きによる差押えの方法については、特に法改正はなされず、新たな担保不動産収益執行手続きと併存し、担保権者の選択にまかされることになりました。
 したがって、改正法の下でも、物上代位による優先権を広く認めている従来の判例理論が維持されているかぎりは、今後担保不動産収益執行についてどの程度の申立てがなされるかは現時点では予想しにくいと言われています。むしろ、簡便な執行手続きとして物上代位が使われることが多いのではないでしょうか。担保不動産収益執行制度と物上代位との関係は後述します。

物上代位制度との違い

 新しい担保不動産収益執行が行われるのは、
@大規模な賃貸用ビルなどで賃借人の把握が困難な場合
A賃料不払いや用法違反などを理由に従来の賃貸借契約を解除する必要がある場合
B新たな賃借人を探す必要がある場合
 など、管理人を選任する費用を払うだけの実益がある事例にかぎられることになるでしょう。

担保不動産収益執行制度の具体的な内容〜物上上位との関係等

 担保不動産収益執行手続きは、強制管理の手続きに準じますが、改正法は、担保不動産収益執行の手続きへの準用を前提として、強制管理に関する規定を整備しています。
 中でも重要なのは、担保不動産収益執行手続きと賃料等の収益の給付請求権を対象とする物上代位等の債権執行手続きが競合した場合の両者調整の規律です。(民執第93条の4)
 この規律の必要性は従前の強制管理の手続きにおいても必要性が主張されていましたが、明文規定がなかったのです。
 具体的には、収益に対する執行手続き(強制管理又は担保不動産収益執行)の開始決定の効力が給付義務者(賃借人)に生じたときは、既になされていた給付義務(賃料等)に対する差押命令(又は仮差押命令)はその効力を停止するものとされ、その債権者(および債権執行手続きにおいて既に配当要求をしていた債権者)に対しては、収益に対する執行手続きにおいて、実体法上の順位に従って、配当がなされます。(民執第93条の4)
 ただし、既に債権差押えの手続きが配当要求が打ち切られる時期にまで進行した時点で、収益に対する執行手続きが開始した場合には、差押命令の効力は停止せず、逆に収益に対する執行手続きの管理人は給付義務の取りたてをすることはできません。

一般の先取特権者の保護

 既に開始されている強制管理又は担保不動産収益執行手続きに配当できる者として、執行力ある債務名義の正本を有することを証明した債権者の他に、民執第181条第1項各号の文書により一般の先取特権を有することを証明した債権者が加えられています。(民執第105条第1項)この規定を設けた目的は、主に労働者の保護にあります。一般の先取特権を有する者も担保不動産収益執行手続きを申し立てることができますが、労働者等に自らこの手続きの申立てを要求することは酷であり、他人の開始した手続きに配当要求して不動産の収益から満足を受ける簡易な方法も必要と考えたからです。

抵当権者の不保護

 これに対して抵当権者には、配当要求は依然として許されておらず、強制管理又は担保不動産収益執行手続きが開始されている不動産の収益から抵当権者が配当を受けるには、自ら担保不動産収益執行手続きを申立て、二重開始決定(民執第93条の2)を得る他に方法がありません。(民執第107条第4項1号)

誰を管理人に選任するか

 担保不動産収益執行手続きの申立てがなされた場合には、管理人に誰を選任するか問題になりますが、過去の強制管理の事例などからすると、執行官あるいは弁護士を選任し、必要に応じて管理会社を補助者とすることが考えられます。その場合、占有利用関係の調査・整理等を行ったうえで管理をするためには執行官を、特に法的な処理に問題がある場合には弁護士を選任するのが相当でしょう。(両者を併せて選任することも考えられます)これに対し、もっぱら管理のみが仕事となるような事例では、管理会社を補助者でなく管理人そのものに選任することが相当かは今後の検討課題といわれています。

管理事務の運用

 管理事務の運用ですが、改正法のもとでは、管理人が当該不動産について新たに賃貸借契約を締結しても、抵当権が実行された場合には買受人に対抗できず、明渡猶予期間が認められるにすぎませんから、そのことを前提とした契約を締結し(売却によって履行不能となった場合の損害賠償の免除条項が必要です)、賃料額もそれにふさわいいものとする必要があるでしょう。その場合、敷金は売却時に賃借人に返還する必要があるので法定果実とはいえず、配当原資にはならないと解すべきでしょう。もっとも、敷金を未払費用と相殺する場合には、その部分は配当原資になるのではないでしょうか。


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