Q5.今回の改正では不動産の競売手続きについて種々改正されたということですが、どのような点ですか。

債務者・占有者に対する各種保全処分の強化〜執行妨害対策

 いわゆる占有屋等による不動産執行妨害への対策が、判例・学説の展開および法改正(平成8年・10年)によりなされてきましたが、今回の改正は、この方向を更に進めるものになっています。

保全処分の発令要件の緩和

 売却のための保全処分および担保権実行としての不動産競売開始決定前の保全処分については、従来は、不動産の価格を「著しく」減少する行為またはそのおそれがある行為を発令要件としていましたが、改正法では単に価格減少行為(価格を減少させまたは減少させるおそれがある行為)があれば足りるものとしました(民執第55条第1項・第187条第1項)。
 ただし、価格の減少又はそのおそれの程度が軽微であるときは、この限りではないという但し書が加えられています。これは、不動産の通常の用法に従った使用収益から生じる価格の減少が保全処分発令の根拠となり得ないことを明確にしたのです。
 また、執行官保管命令(改正前の民執第55条第2項・第187条の2第2項)の発令要件も緩和されました。従来は、先になされた禁止命令・行為命令を内容とする保全処分(改正前の民執第55条第1項・第187条の2第2項)に対する違反があった場合又はそのような保全処分では不動産の価格の著しい減少を防止できない特別の事情がある場合に限られていましたが、改正法は、そのような二段構造を廃して、執行官保管命令も、禁止命令・行為命令と同一の要件の下で、ただちに発することができるとしました(民執第55条第1項第2号・第3号・第187条第2項)。なお、発令要件の改正と同時に、各種の保全処分につき、禁止命令、行為命令又は執行官保管命令とあわせて執行官に公示を命じることができる旨が規定されました(民執第55条第1項・第68条の2第1項・第77条第1項・第187条第1項)。この点は、特に執行官保管命令を強化する前提として重要といわれています。

保全処分執行前に相手方を特定できない場合でも保全処分を可能とした

 執行官保管を命ずる保全処分について、保全処分の執行前に相手方(占有者)を特定することが困難とする特別の事情があるときは、相手方を特定せずに発令できるとされました(民執第55条の2第4項、第77条第2項・第187条第5項)。
 占有者をしばしば入れ替えることで特定を困難にし、保全処分の申立てや発令を困難にする執行妨害が頻発していることに対処する改正です。しかし、これは、不動産それ自体を対象として対世効を持つ保全処分(対物的保全処分)を認めるものではありません。発令時には相手方を特定しなくても良いのですが、保全処分の執行時(不動産の占有を解く際)には特定される必要があり、以後は、執行によって不動産の占有を解かれた者がその保全処分の相手方になるのです(民執第55条の2第2項・第3項)。
 問題は、その特定方法ですが、少なくとも氏名を特定するのが相当であると思われますが、住所、居所等が必要か、あるいは補完的に他の要素による特定で足りるかは今後の検討課題でしょう。いずれにしても、最終的に特定できない場合には執行は不能とならざるを得ないので、相手方不特定の保全処分の発令にあたっては、申立債権者に対し、執行場面における特定に必要な資料の提出と強力が求められることになるでしょう。

占有移転禁止の保全処分の公示と当事者恒定効

 占有移転を禁止する保全処分に、公示を前提に、当事者恒定効をもたせることで、売却後の不動産引渡命令の実効性を高める改正もなされました。このような保全処分の執行を知って不動産を占有した者(保全処分の執行後に不動産を占有した者は執行を知って占有したものと推定されます)及び保全処分執行後にそのことを知らないで相手方の占有を承継した者に対しても、不動産引渡命令に基づく強制執行ができるとされたのです(民執第83条の2・第187条第5項。民事保全第62条参照)。強制執行のためには、執行時の占有者に対して承継執行文を受けることが必要です。ただし、承継執行文の付与に対して、占有者は、占有が買受人に対抗できる権限に基づいていること、又は保全処分の執行を知らず、かつ保全処分の相手方から占有を承継した者でもないことを理由に、異議を申立てることができます(民執第83条の2第3項)。なお、今回の改正により、債務者を特定しないで執行文の付与を受け、執行時に現に占有している者を対象として引渡命令を執行できるものとしたのです(民執第27条第3項)。


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