二項道路の通行権
〜二項道路では必ずしも通行権は認められない〜

 二項道路に接する土地所有者から出された、道路敷地の所有者が設置した道路内の金属製ポールの撤去請求が認められなかった事例。(最高裁・平成12年1月27日判決)。


<本件の事案>

 自分の土地から公道に出る途中の道路上に金属製ポールを設置されて、車による通行が不可能になってしまった。通路敷地の所有権は持っていないが、その道路は、いわゆる建設基準法上の「二項道路」に指定されている。このような場合、一方的な妨害は排除できないのだろうか。
 本件のような妨害は排除できるとした東京高裁判決に対して、最高裁判決は、排除できないとして原判決を破棄している。

<問題の所在>

 建築基準法42条2項では、旧来から建築物が並んでいた幅員が4m未満の道でも、特定行政庁が指定することにより、4m幅の道路とみなされるとしている。「二項道路」とか「みなし道路」と呼ばれるものである。
 ここで大事なことは、「二項道路」は、建築基準法上では「道路」とみなされて、これに接道義務を果たせば建築確認が得られるが、このことと通行権が認められるかは全く別問題だということである。「二項道路」に指定されても、それにより通行権が認められたわけではなく、通行権は当事者間で別個に設定されなければならないのである。このことは、同法42条1項5号の、「位置指定道路」などでも同じである。
 しかし、このことはベテランの不動産業者でも誤解している場合が多く、「建築確認が下りて役所が道路と認めているのになぜ通行権がないのか」との声を何度も聞いたことがある。

<どんな土地が問題か>

 宅地造成地区内の道路はまず問題がない。互いに土地を提供し合っているか共有となっているので、それにより通行権を容認し合っているといえる。しかし、「二項道路」は要注意である。道路部分の土地を互いに提供し合っているのなら原則として約定通行権があるが、道路敷地が特定の者の所有地で、他の者はその土地を事実上通らせてもらっているだけというケースでは、通行権が認められないということが多い。通行権を得るためには、原則として、通行料を払うとか道路開設の負担をするなど、何らかの負担が必要である。
 要するに、タダで人の土地を通る権利はないのである。

<平成9年12月18日の最高裁判決>

 「位置指定道路」の事案であるが、通行権が認められないときに、本件のような通行妨害に出たことに対し、概略「通行について日常生活上不可欠の利益を有する者は、通行を妨害されたときに、道路敷地所有者がその通行を受忍することにより通行者の通行利益を上回る著しい損害を被るなどの特段の事情のない限り、その妨害を排除できる人格的利益がある」と判示した。
 つまり、通行権がなくても原則的に人格権に基づく妨害排除があることを認めたのである。

<本判決の意義>

 本判決は、この平成9年の判決を前提にしながら、人格権での妨害排除を認めなかったものであり、実務的には極めて重要なものである。
 本判決の事案は、@もっぱら徒歩、または二輪車による通行に供されてきた未舗装の道路で、敷地所有者の建築工事の時に1年間自動車が通行したほかは自動車が通行したことがない、A妨害排除請求者は、自分たちの母の死亡した昭和61年10月以降自己の所有地を利用しておらず、今回単に賃貸駐車場として利用しようとしているにすぎないというもので、これでは、「日常生活上不可欠の利益を有しているとはいえない」として、妨害排除を認めなかったのである(逆に、自己が居宅として利用していて、従来から自動車の通行の用に供していれば、妨害排除が認められた可能性が高い)。

<教訓>

 建築基準法で「道路」扱いされていても、通行権があるとは限らないことを改めて認識してほしい。ことに、自ら何の負担もしていないのに、人の土地を通って公道に出ているような土地は要注意である。不動産の売買の仲介をするときには、先入観に邪魔されずに、通行権の有無を厳重にチェックしてほしいものである。


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