不動産登記法の改正
〜「登記原因証明情報」の準備が必要に〜


〜質問〜

3月7日から不動産登記法が全面改正されたようですが、不動産売買にあたってどのような点に注意して、業務を行えばよいでしょうか。また、改正法のポイントについても教えてください。

〜解答〜

@不動産登記法改正の概要
 不動産登記法が105年ぶりに全面改正され、3月7日から既に新不動産登記法の下での登記申請が行われています。今回の主な改正は、不動産登記のオンライン申請を可能にすることですが、すべての登記所で一斉にオンライン申請が可能になるのではなく、徐々に指定されていきます。オンライン申請の第1号庁は、さいたま地方法務局の上尾出張所です。
 オンライン申請の指定庁になると、窓口に持参していた登記申請がインターネットを通じてできるようになります。しかし、オンライン申請は、すべての書類が電子ファイルで作成されていなければならず、かつ印鑑を押印する代わりに電子署名をしなければなりません。このように電子ファイルで契約書を作成し、電子署名することはまだまだ実用的でない面が多く、実際の取引の現場で利用されるまでには、時間がかかることが予想されます。よって、オンライン申請は大きな改正点ですが、改正後にすべての登記所で実施される新たな制度について説明します。


A不動産登記申請に必要な書類
 今まで、売買の不動産登記申請は、その売買の契約書を添付することは必ずしも必須とされていませんでした。関東では、主に申請書副本という申請書の写しのみを添付し、契約書や登記用の売渡証書は添付していませんでした。今回の改正では、その売買の実態を証することが必須化され、その売買を証するため「登記原因情報」を必ず添付しなければならなくなりました。この点は、今回の改正でも最も大きな改正点であるともいえます。
 登記原因証明情報は、登記の原因を証明する書類ですから、売買契約書そのものの場合は登記に適していない場合が多いと思われます。通常、売買契約書は、実際の売買の日ではなく、その前に手付金や残代金の支払いの規定、また、売買の予定期日などが記載されていますが、実際の売買日は記載されていません。そこで、登記を行う場合には、登記申請用の登記原因証明情報を別途作成することになります。
 また、4月に施行する個人情報保護法にも配慮して、個人情報が過剰に記載されることのないように留意しなければなりません。従って、今後は登記の準備段階で別途「登記原因証明情報」を作成することを念頭においておかなければなりません。


B権利書をなくした場合の申請
 権利書は登記済証ともいい、登記の権利者であることを証明する書面です。買った不動産を次に売買する場合は登記申請に添付しなければなりません。この点は今回の改正でも全く変更はありません。
 また、紛失した場合に再発行ができない点も変更がありません。
 従来、権利書を紛失した場合は、登記を受けたことがある成年者2人が印鑑証明書を添付した保証書を作成し、これを権利書に代えて添付していましたが、この制度は廃止になりました。これからは、新事前通知を行うことになります。これは日本郵政公社の本人限定郵便を売主宛に送り、売主は運転免許証やパスポートなど本人しか持っていない証明書を提示することによってのみ受領ができます。その事前通知書の中には、書面が入っていてその書面に実印を押印して再度登記所に提出した際に登記手続きが進められます。これからは権利書があるかどうかを事前に確認すると共に、紛失している場合は別途手続きが必要になり、日数も要することに留意しておくべきでしょう。
 この事前通知が原則ですが、登記を業とすることができる代理人(司法書士、弁護士)による本人確認制度が創設されました。これら代理人が登記の申請本人であることを確認した場合は、「本人確認情報」を作成しその情報を添付すれば、原則として登記はすみやかに行われます。本人確認は、資格者代理人が、当事者に実際に会って面談し、原則として本人確認資料の提示を受けて行います。今後は、事前通知では時間がかかりますから、この本人確認情報を添付した登記申請が増えていくことになるでしょう。


C中間省略登記ができなくなる
 中間省略登記とは、AさんからBさんに売買し、BさんからCさんに売買を行った場合に、登記はAさんから直接Cさんに行う場合をいいます。途中のBさんは登記記録には表れません。
 このような登記申請は、改正前には行われていましたが、今後は「登記原因証明情報」の添付が必須となりましたので、AさんからBさんへ売買の登記原因証明情報とBさんからCさんへの売買の登記原因証明情報の2つの登記原因情報を作成しても、登記はAさんからCさんに申請しますから、適切な登記原因証明情報とはなりません。従って、今後はこのような中間省略登記はできなくなります。従って実体にあわせて、AさんからBさんへの移転登記をした後、BさんからCさんへの移転登記を申請することになります。この2つの登記申請は一度に申請することが可能といえるでしょう。


D権利書がなくなる
 現在、既に発行されている権利書は、所有権を全部移転するか、その所有者が亡くなるまでは永久に有効です。しかし、登記所がオンライン申請の指定になると、新しく所有者になる人から権利書制度が廃止されます。権利書の代わりに、12桁の英数文字列からなるいわゆるパスワード(登記識別情報といいます)が発行されます。パスワードは、書面に目隠しシールがついていて、それをはがすと表示されることになります。一度はがしてしまうと、再度目隠しをすることができないことにも注意すべきです。
 今まで紙で1つしか存在していなかった権利書から、パスワードになりますから、その管理がとても重要になるでしょう。他人にコピーされたり紛失した場合は、そのパスワードを無効にする手続きがあります。これを登記識別情報の失効手続きといいます。


E新不動産登記法の定着
 新不動産登記法は、今始まったばかりですから、実務的な運用が定着するにはまだまだ時間がかかりそうです。また、登記識別情報が多くの登記所で発行されるようになると、それを使って売買をどのように行うのかという問題もあります。今後は、不動産登記申請に関する情報をこまめにチェックしてくことをお勧めします。


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