競売不動産市場に変化 バブル処理型から不況破綻型へ

 バブル崩壊後の競売市場の最近の特徴や競売不動産そのものが持つ性質などを概観し、個人参加を考える人に基本的な図書や代行業者の状況を説明してみたい。一方、競売市場をビジネスチャンスと考えている不動産関係者には、買い取り転売、危険の高い素地取得後造成転売、競売代行業などを実話を交えて紹介してみる。最後に、揺れ動く最低売却価額制度や廃止になりそうな短期賃貸借制度のもとで、競売市場の将来的な展望にも触れてみたい。

変わり始めた競売不動産の実態

 競売に付される物件が生活密着型不動産に変わってきている。バブル型の物件には、規模が大きく、内部造作も例えばイタリア製の大理石をふんだんに使用した建物もあった。しかし昨今は公庫融資物件、ファミリーマンションや下町の小工場など生活密着型の競売物件が多い。ただし、収益物件は今も昔もさほど件数や内容に変わりがないと思われる。 
 収益性の高い優良物件は、競売市場に持ち込まれる以前に換金されてしまい競売になることはほとんどないといわれている。これらの物件情報は、東京と大阪の民事執行裁判所の公式サイトがあるので、のぞいて見るのもよいだろう(http://bit.sikkou.jp/)。  ここには、入札期間中の競売物件の「物件明細書」「現況調査報告書」「評価書」の俗に言う3点セットが無料で公開されている。

開かれた競売市場が好調を呼ぶ

 競売市場のイメージは、所有者の意思に反してその不動産が売却されるため、決して明るいものではない。また競売物件の特徴として、@売主の協力が期待できない、A物件の内覧ができない、B瑕疵担保責任の追及ができない、C代金を即刻納付しなければならない、D占有の引渡を受けるために訴訟を起こさなければならないこともあるという点が指摘されている。
 しかし、96年(平成8)や98年の度重なる法改正で、引渡命令の相手方の範囲の拡大や代金納付におけるローンの活用等が整備された結果、競売制度は、使いやすさや身近さが増幅され、最近では最終需要者も競売市場に参加する傾向が見られる。
 このようなことから、東京地裁の新件の売却率は80%前後と非常に好調である。売却の実務は執行官が行うので、参加希望者は一度足を運んでみると実感できるであろう。

競売市場参加への対策

 これから競売に関心を持とうという人には、書物を薦めたい。競売に関する書物は、数多く出版されているが、その傾向を分析すると、大きく3つに分けられる。第1は裁判所の書記官などが手続きに関して記載している書物、第2は外部の専門家が手続きに関してポイントとなる部分を記載している書物、第3は実務家が執行妨害とその対策を記載した書物である。手続きに参加する人にとっては3番目の書物が特に重要で、その内容を充分に理解しておかないと思わぬ難題にぶち当たることになろう。

注目される個人参加−その注意点

個人が競売に参加する方法もあるが、競売代行業者に依頼するのも良い方法である。しかし注意しなければならないことは、人気の高い物件は落札額が高く、競売の有利性である安価な取得が達成できない場合もあるということである。競売代行業者は大勢いて競争が激しいので、「絶対に競落させます」とか「絶対に占有の引渡を受けます」といううたい文句を挙げている者もあり、警戒した方がよい。
 業務代行報酬は法定規定がないので、納得いく説明を受けることが大切である。業務内容にもよるが一般的には競落価額の5〜10%程度の代行報酬が多いようである。

不動産再生ビジネスとして

 競売をビジネスチャンスと考えている人も多いと思われる。不動産仕入転売業者として、競売ビジネスに参加している地方の取引業者は、所有者占有物件を中心に競落し、引渡命令を取りながら占有引渡交渉を自ら行っている。交渉では引っ越し費用相当額程度を準備し、速やかな転居を促すことにしているという。
 地方では所有者占有の不動産が多いので、占有を確保することは、さほど困難ではないようである。多くの物件を競落したこの業者によると、競売物件には特有の「競売臭」が漂っているそうで、内装の張り替え、特に動物を屋内で飼育していた場合は念入りなクリーニングを行わないと、商品化できないという。最近の例で1700万円で落札し、経費をかけて相場よりやや安い2400万円で販売した。約2割程度の粗利が確保でき、業としてやりがいがあるといっている。
 また初回、2回、3回でいずれも応札者がいない物件を坪6万円で競落し、4つに分割し造成をして、坪24万円の宅地として完売した例を話していた。この事件は、物件の中に墓地があり、誰も手を出せなかったが、調査の結果墓地の範囲が特定でき、更に年代から祀られている承継物がないだろうと判断できたので、造成工事で移設可能と考えて応札したというもの。

競売市場の今後の展望

 最後に、最低売却価額の評価について少し触れたい。今の競売制度の中核として、最低売却価額制度がある。買い手側からは、それ以下では売却許可が下りないというハードルの制度である。債務者・所有者から見ると、最低売却価額制度が確保されているから、強制的に自分の財産が売却されても、財産権(憲法29条)を剥奪された訳ではないということになる。このハードル制度を廃止すべきであるという議論が、不良債権処理を促進させようとする立場から主張されている。もしこれが取り入れられると、買い受け希望者は入札額に困惑し、所有者は売る売らないという自由意志は当然として、財産権も剥奪される可能性があり、担保権者は債権回収の目安が全く立たなくなる。杞憂であることを望むが、最低売却価額制度が廃止されてしまうと競売制度が衰退するのではないか(逆に国有地の売り払いに最低売却価額制度を導入したところ、落札率が70%に迫り大幅に上昇している事実がある。(02(平成14)年3月24日、日経朝刊)。
 また、短賃制度の廃止が俎上に上がっている(住宅新報5月30日号)。短賃制度が廃止された後に、賃貸住宅が競売に付されると、競落人は敷金返還債務を承継しないため、敷金などが返却されない可能性が高い。これに対応するため、例えば貸主の財産状態の開示や敷金の担保方法等賃借人の要望が強くなると予想され、賃貸借の成約が今よりも煩雑になりそうである。抵当権を設定していないアパートや賃貸物件はごくわずかと思われるので、短賃制度が廃止されると、賃貸市場の秩序が徐々に狂いだす危険性がある。
 最低売却価額制度や短期賃貸借制度の廃止に向けての議論には不動産業界が大きく揺れ動く可能性があるので、その動向には注意が必要である。



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