市場広げる不動産ネットオークション
不動産流通のデファクトスタンダードになるか

 世界で初めて人口減少国に転じた日本。不動産市場に与える影響は少なくない。今後は変化に応じたよりスピーディーで的確な不動産取引がますます求められてくる。その鍵を握ってくるのがネットオークションだ。全国各地の対象物件に対し、同時に複数の入札希望者が参加する値付け方式は、不動産業界の透明性を高め、より的確な価格を引き出せる新しいマーケットプレイスとして期待が高まっている。ネットオークションの動向を占った。

不定期開催から常時開催へ。
不動産取引の新たなインフラとして定着

 不動産ネットオークションが、いよいよテイクオフ期に入った。すでに複数のサイトが運営され実績を上げているが、今年に入りこれまで不定期開催だったものが、レギュラー化されるようになった。
 「インベスターズオークション」もその一つ。ピタットハウスネットワークが、昨年5月より運営している不動産オークションサイトだ。
 毎月、新物件の公開から11日間の入札期間をはさみ、結果告知まで1ヶ月のサイクルでオークションを行う。
 その名が示すとおり、投資用物件が主体となる。同社プロジェクトリーダーの花澤徹氏によれば「ここ数年、エンドユーザーの方からの投資物件に対するニーズがピタットハウスの店舗を通じて上がってきており、そのニーズに応えようと考えた仕組みがインベスターズオークション」だという。
 同社は98年から居住用物件を対象としたリアルなオークション「マイホームオークション」を定期的に開催しており、すでに出展数累計6933件、落札累計が1990件という実績を持つ。
 インベスターズオークションにはこのリアルオークションのノウハウがベースにある。
 「オークションという形式は、従来不動産取引にあった価格への不信感や不満感を払拭できるこれからの仕組み。ただ居住用と違い、投資用物件は投資家の方が住まわれている地域から離れているケースが多い。そこで離れた地域の物件でも、安心して参加できるオークションシステムはないかと考えた時に出てきたのがネットなのです」(花澤氏)
 アイディーユーが運営するネットオークション「マザーズオークション」も今年1月からレギュラー開催化した。同社は00年5月からネットオークションを手掛けてきた嚆矢。とくに03年に、産業再生機構入りしたダイア建設の投資用中古マンション1229戸を機構から預かりオークションにかけた時は圧巻だった。45日間の入札期に約15000件もの入札が入り、うち1096件が落札、契約にいたったのだ。これは一般の不動産の年間契約数のトップ10に入る実績を、わずか1ヶ月半で上げたことになる。営業本部の鳴海大輔氏によれば、
 「投資用のマンションは、スペックさえわかれば物件として判断しやすく、ネットオークションになじむとは考えていた。実際に手掛けてみてかなりの需要があると確信しました」。
 マザーズオークションを通じ落札された件数は、投資用不動産対象で1459件(03年1月〜05年2月)。落札率は平均で6割を超えている。単純比較は難しいが、俗に「1000に3つ」ともいわれる通常のリアルな不動産販売成約率を考えれば、驚異的な数字といえる。
 一方、今年3月から稼動した「船井不動産ネットオークション」も7月から常時開催に移行した。毎週金曜日に新規物件を紹介、17日間の入札期間を1クールとして動く。「船井不動産ネットオークション」はコンサルティング会社船井総研系の船井財産コンサルタンツが運営するサイト。同じインターネットを使った不動産オークションだが、投資用を謳うインベスターズオークションやマザーズオークションとはスタンスを異にする。同社関連事業部ネットワークシステムのコンサルタント小川猛志氏はこう説明する。
 「もともと当社は全国の資産家を対象に資産保全等のコンサルティングを行っておりますが、現在のように金融資産のポートフォリオが変化していくなかでは有効な資産の買い替え、組み替えが必要となってきます。また一方、不良債権処理の進まない地方銀行などからの相談も多数受けています。融資は地場の企業にしているが、所有している物件は遠隔地にある場合も少なくありません。こうした現状を考えた時、インターネットなどをうまく使った効率のいい器ができないかと考え、たどり着いたのがネットオークションなんです。」

サイトの個性化、メニューのバラエティ化が進む

 いずれのサイトも流れ自体はほぼ同じ。物件の売却希望者はまず会員登録を行い、物件の出展を申請し、物件情報を提供。オークション運営者はこの情報をもとにデューデリジェンスを行い、オークションにかける。落札者はその物件に最高額をつけた入札者で、もし何らかの事情で契約にいたらなかった場合、その権利は2番目に高い価格をつけた入札者に移る。
 出展に際しては、この価格以下ではたとえ入札があっても応じないという出展者側の最低売却価格が設定される。これはサイト運営者が出展者の売却希望額を加味した上で定められる。従っていくら入札者がいても、最高価格がこれを下回ればオークションは不成立となる。
 一方入札希望者は、会員登録後であればネット上からいつでもオークションに参加できる。
 ただ、同じように見えるオークションサイトも細かくみると主催者の考え方やスタンスが仕組みに反映されている。
 例えばマザーズオークションの場合、出展者の「最低売却価格」を超える入札がない時でも、事前に「買取り補償価格」を設定しておけば、アイディーユーがその価格で買い取り、運用することも可能だ。もちろん価格を下げてオークションにかけることもできる。
 またインベスターズオークションには、オプションとして、最低価格以下でも最高額の入札者には第一商談権利者を与える「フリー入札」がある。
 「基本形式だと、最低価格に届かなかった場合、その物件に対する相場が出展者に分からないままになります。フリー入札を設定しておけば、だいたいの相場が分かり、次回出展する時の参考になります。また商談権もついていますので、例えば2000万円の最低価格に1900万円の入札なら、売買が成立する可能性は出てきます」(花澤氏)
 さらに「即決価格」というオプションもある。これは事前に売却していいという目標価格を設定し、その価格の入札があった段階でオークションが終了、落札者が決定するというもの。
 一方船井不動産ネットオークションは、公共事業などで採用されている一斉入札形式をとる。競り上がり方式のように、ほかの入札者動向を見ながら価格を提示できない。従って場合によっては突出した価格で入札するケースも出てくる。だが小川氏はそれでいいという。
 「路線価や公示価格などの参考価格は、必ずしも購入者が判断する価格を一致しない場合もある。しかし好きなもの、必要なものだったら自分自身が納得した価格で購入することがよいはず」
 無論船井不動産ネットオークションもこうした価格には神経を尖らす。船井の場合、最高額を提示したものに優先交渉権が与えられるが、必ずしも落札イコール契約とはならない。
 「我々もプロとして入札後の可能性など多角的に検討しています。原則としては最高額入札者が優先交渉権者だが、出展者の諸事情や出展不動産の特性などからして、価格は低いが2番目の落札者と契約を結んだ方がいいという判断が下される可能性も時にはあります」(小川氏)
 一般に公開が原則のオークションだが、場合によって非公開とする時もある。例えば稼働中の商業施設などが公開でオークションにかかれば、そこで働く従業員のモチベーションに影響を与えかねず、ひいては物件のブランド価値、資産価値の低下につながる。こうした場合は非公開が望ましい。いずれのサイトも案件によって、公開、非公開など複数のオークションを使い分けている。こうした使い分けの差、メニューの差が、今後の各オークションサイトのカラーを決めてゆくことになろう。どのサイトにどんな物件が合うのか−出展者も入札者もその個性を見極める時期に入ってきたようだ。


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