中間省略登記訴訟
原告「法治行政に反する」

 中間省略登記の申請の可否を巡る行政訴訟の2回目の口頭弁論が、10月2日、東京地裁において開かれ、原告から、被告・法務省側への反論が行われた。これを受け法務省側は、更に「十分な反論をしたい」と陳述。裁判長に対し準備期間としては長期となる2ヶ月間の猶予を求めた。次回期日は、12月14日午後に決まった。

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 中心的な争点となっている「登記の自由」について、法務省側は前回、取引の安全を図るため、権利変動の過程と異なる登記をする自由はないと主張した。今回の弁論で原告側は、登記を厳格に義務付ける法律がない限り、登記をするかどうかは当事者の自由であると反論した。
 原告側は、憲法に基づく「法律による行政」という大原則を持ち出し、取引の安全というような抽象的な理念を、明確な法律の規定なしに国民に強制することは許されないと論じた。
 また、原告側は、不動産の取引実務において、過去の登記の有効性を通常は調査しないし、宅建業法でもこのような調査を義務付けていないと指摘。これは権原調査を完全に行うことが不可能なためと論じた。更に、過去において中間省略登記に起因して取引の安全が害されていたわけでもなく、これを禁止しても取引の安全にほとんど寄与しないと説明した。

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 もうひとつの中心論点である最高裁の判例の位置付けについて、法務省側は前回、中間省略登記に関する法務省の対応は一貫して判例の趣旨に合致してきたと主張した。これについて原告側は、過去の法務省の国会答弁や公式文書などを証拠として列挙し、法務省自身が最高裁の判例と対立する立場に立っていると主張した。
 証拠に挙げたのは、例えば、93年の国会における法務省民事局長の答弁。民事局長が、法務省の実務は中間省略登記を認めていないとしつつ、最高裁がそれを認容する判決を重ねて出しているとし、これについて「大変難しい問題」と述べたもの。この局長答弁について原告側は、「難しい問題でも何でもない。法務省の実務が最高裁の判例に従えばよいだけだ」と法務省の姿勢を批判した。
 最後に原告側は、判決による登記の場合に、例外として中間省略登記を認める法務省の実務の矛盾を指摘。「判決によれば、なぜ、禁止される権利変動と異なる登記をして『取引の安全』を侵して構わないのか」と、被告に対し釈明するよう求めた。

◆被告・国側の答弁
 原告は、「我が国においては、登記を『する』も『しない』も当事者の自由」である旨主張する。
 しかしながら、例えば、表示に関する登記において、表示の登記の申請義務と申請期間を定め、右所有者の申請義務の懈怠(けたい)に対しては、10万円以下の過料を課している。
 また、権利に関する登記についていえば、確かに対抗要件としての性質を有する登記においては、対抗要件をあえて取得しないという考えに立つ者が登記を「しない」ことは自由であるが、取引に入ろうとする者は、登記に公信力が付与されていないから、登記名義の存在だけでなく当該登記の有効性まで調査確認する必要があるのであり、この要請に応え、不動産登記制度の目的である鳥非違の安全を図るには、権利の徳喪変更の過程を可能な限り如実に登記に反映される可能性があるから、少なくとも、登記申請をする以上は、権利徳喪変更の過程を正確に反映した内容の申請を行うべきであり、現実の権利徳喪変更の過程と異なる内容の申請をする「自由」があるわけではない。
 従って、不動産登記について「する」も「しない」も、全く当事者の自由というわけではない。

◆原告側の反論
 この点に関しては、原告もすべての登記に関して、これを「する」も「しない」も当事者の自由である、などと主張しているものではない。
 被告がここで述べている通り、新不登法第36条などの法律で「登記申請をしなければならない」と定められているものに関しては、当然にこれを「しない」自由は存在しない。我が国は法治国家だからである。
 すあんわち、被告がここで例示した登記申請は、すべて法が登記を義務付けているものであり、であれば逆に、法が登記申請を義務付けていないものは、「登記を『する』も『しない』も当事者の自由」という結論が導かれる。
 結局のところ、「する・しないに関して当事者の自由があるかどうか」、すなわち自由という国民の権利が存在するかどうかの判断基準は、その自由を制限する(つまり登記を義務付ける)規定が法律に存在するか否かである。
 そして、すでに訴状で何度も指摘している通り、本件のような所有権移転登記を厳格に義務付けている法の規定はどこにも存在しないことから、原告は「登記をなすかどうかは当事者の自由である」と主張しているのである。
 以上の通り、被告のここでの主張は、単に被告の主張の正当性を補強する効果しか有していない。


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