注目集める不動産オークション市場の動向 その1
2006年11月27日開催の全宅連の理事会で、不動産オークション事業について研究していくことが決定しました。
そこで、アメリカの例を踏まえながら、オークション市場の動向を概観してみます。
1.不動産オークションの歴史
「不動産のオークション」といっても、まだまだ日本では馴染みがないように思えます。日本における不動産取引では、売主と買主をマッチングさせる「相対取引」が主体となっています。
しかし、海外に眼を向けると、不動産オークションの歴史は古く、アメリカでは1980年代後半にFDIC(連邦預金保険公社)がRTC(整理信託公社)とともに全国規模の不動産オークションを実施し、債権と資産(不動産)をオークションによって売却しました。FDICが、全国規模の大規模な不動産オークションを行ったのは、1989年3月のことです。その後、各地域でオークションを行うようになりました。
オークションスキームの持つ「もっとも高く買いたい人に売却する」というルールは、売主にとっても買主にとっても「合理的」と評価されており、欧米やオーストラリアでは、今やスタンダードな不動産取引として確立しています。
日本においても、1999年6月に規制が緩和され、不動産オークションが民間企業に対して解禁されました。それまでは、日本においてオークション形式での不動産の販売は、裁判所で行う「競売」以外、認められていませんでした。言い換えると、破産しないと不動産をオークション形式で販売することはできませんでした。現在では、徐々に不動産オークションの実績が上がり始めており、東京都をはじめとし、北は北海道、南は鹿児島県まで全国で30以上の自治体が、不動産等の資産の売却(公表)でオークションを活用しています。
2.相対取引とオークション、それぞれのメリット
では、オークションは今までの相対取引といったい何が違うのでしょうか?それぞれのメリットについて見ていきたいと思います。(図表1参照)。
相対取引は、ひとことで言えば「先着順の不動産取引」であり、大きなメリットは、次の2つです。
1つ目は、迅速な客付けができる可能性があることです。集客を実施し、買主となるお客さまが見つかり次第、契約・決済に移ることが可能となります。すぐにでも物件を売却しなければならない事情を抱えている売主に適した取引といえます。
2つ目は、売却物件の情報の匿名性を担保できることです。不動産事業者が物件情報を持ち込める先は、おのずと限定されてくるため、広く世間一般に知れ渡る、という事態になることはまずありません。物件を売却しようとしていることを、公開したくないと思っている売主に適した取引といえます。
一方、オークションはひとことで言えば、「価格順の不動産取引」であり、大きなメリットは次の2つです。
1つ目は、売主・買主にとって「納得性」の高い価格決定がなされることです。オークションでは、もっとも高い価格を提示した買い手が落札者となるという、極めて「合理的」なルールのもとで価格形成がなされます。またそれによって上限のない価格形式も可能となります。そして、すべての入札についての情報を開示することにより、高い「透明性」が担保されます。価格に「納得」したい売主に適した取引方法だと言えます。
2つ目は、買主へのアプローチが充実しているということです。インターネットを利用したオークションでは、全国各地の買主に対して物件の魅力を伝えることが可能です。インターネット上では物件の写真から物件のリスク情報までの様々な物件情報を知ることができるため、遠隔地の買主でも物件を購入することができるのです。
相対取引もオークションも、それぞれにメリットがあり、どちらかが一方的に優れているとは言い切れません。この2つの取引の特徴を理解し、売主へ説明して、取引方法を選択していただくことが、売主への提案力アップに繋がるのではないでしょうか。
図表1●相対取引とオークションのそれぞれのメリット
相対取引のメリット | |
1.迅速な客付けができる可能性がある。 | ■買主が見つかり次第、決済に移ることが可能。 ■相対取引は「先着順の不動産取引である。 |
2.限定的な営業を行うことで物件の情報が 知れ渡ることが少ない。 |
■物件情報を持ち込む先は限定されているため、広く 知れ渡ることはあまりない。 |
オークションのメリット | |
1.売主・買主にとって「納得性」の高い価格 決定がなされる |
■もっとも高い価格を提示した買主が落札者になるという、 「合理的」なルールのもとで価格形成がなされる。 ■入札についての状況がリアルタイムに開示されている ので、高い「透明性」が担保される。 |
2.買い手へのアプローチが充実している | ■インターネットを通じて、全国各地の買い手に魅力を 伝えることが可能である。 |
3.アメリカの不動産オークション状況
現在のアメリカではどのような形で不動産のオークションが開催されているのでしょうか。
アメリカでも初めは銀行の不良債権処理から始まったので、抵当権の実行としての不動産オークションが活性化しています。日本の金融機関とは異なり、たとえ1円でも1ドルでも返済が滞れば、これはデフォルト扱いで債務不履行になります。
債務不履行になると、一定期間内に通知を出して、1ヶ月以内にそれを公示にかけて、その次の一定期間内に物件を売却しなければならない、という一連の手続きが存在します。この手続きを行わない場合、最悪のケースでは銀行は免許を取り上げられてしまうので必ず実行されます。ですから自動的に物件がオークションに出展されていくわけです。これが不良債権処理での制度上のオークションとなります。
<参考サイト: http://www.foreclosurefreesearch.com/ >
全米不動産協会では、2006年11月のリアルター会議で「オークションは住宅の売り手のツールとしてますます重要な部分を占める」との意見が提出されています。
インターネットに関しては、最近特にイーベイで盛んに取引が行われています。ただし、オンラインだけですべての取引が行われているわけではなく、ほとんどの場合、買い手はオークションのオファー前に物件を実際に見に行くことが多いと言われています。
●全米不動産協会 http://www.realtor.org/
●全米オークショナー協会 http://www.auctioneers.org/
●イーベイ http://www.ebay.com/
4.日本の不動産オークションの現状
日本では1999年以降、マザーズオークションだけでなく、マイホームオークション、インベスターズオークション、ヤフーオークション、船井不動産ネットオークション、SBI不動産オークションなど不動産のオークションオークション取引が多く見られるようになってきました。オークションの運営企業によってオークションのルールや物件量は異なり、それぞれの特徴は図表2のようになっています。
図表2●不動産オークション企業の特徴
マイホームオークション (スターツ) |
ヤフーオークション | Mother's Auction | インベスターズ オークション(スターツ) |
船井不動産 ネットオークション |
SBI不動産 オークション |
|
オークション 開始時期 |
1998年(ネット入札は 2006年10月から) |
1999年9月 | 2000年5月 | 2004年5月 | 2004年10月 | 2006年7月 |
オークション 開催状況 |
毎月2回開催 | 常時開催 | 常時開催 | 常時開催 | 常時開催 | 常時開催 |
入札方式 | ■最低売却価格以下の 入札一部あり ■1物件につき1人1件 しか入札できない ■入札期間終了後に 入札件数を聞いた上で の価格の変更可能 |
■最低売却価格以下の 入札一部あり ■即決価格一部あり ■競上がり方式 ■売主の希望落札価格 あり |
■最低売却価格以下の 入札一部あり(最低売却 価格の70%以上) ■競上がり方式 |
■最低売却価格以下の 入札一部あり(最低売却 価格の90%以上) ■競上がり方式 |
■最低売却価格以下の 入札あり ■即決価格一部あり ■1物件につき1人1件 しか入札できない ■「公開オークション」 「限定オークション」 「非公開オークション」 がある |
■最低売却価格以下の 入札一部あり ■即決価格一部あり ■1物件につき1人1件 しか入札できない |
5.今後のオークションについて
近年、不動産の証券化などに伴って不動産と金融が融合し、日本における不動産投資市場が拡大しています。そのような中で、国土交通省は不動産投資市場の健全な発展のために不動産投資市場の透明性を向上させることが不可欠という認識のもとで市場の整備に取り組んでいます。このような不動産市場の整備に伴い、透明性が高いとされる不動産のオークションも今後さらに発展が期待できるのではないでしょうか。
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