日本不動産鑑定協会常務理事に聞く
〜他団体と連携、よりよい「基準」へ〜

 不動産鑑定評価基準の一部改正に対応して、日本不動産鑑定協会は実務指針を策定。態勢づくりを進めてきた。不動産鑑定評価基準改正の異議や協会としての取り組みなどについて、(社)日本不動産鑑定協会常務理事で世田谷信用金庫業務部の渋井和夫氏に聞いた。

より必要性高まる一般投資家の保護

Q.改正不動産鑑定評価基準施行の背景については。

A.
 「不動産証券化市場は、特殊で限定されたマーケットとしてスタートした。それがこの10年で急速に他の市場と匹敵する規模にまで成長した。今後も拡大していくことになるだろう。そんな中、キーワードとなってくるのはやはり『一般投資家の保護』だ。必要な調査事項を十分に説明する必要がより一層高まってきたわけであり、こうした精神に基づいて、今回の改正がなされたものといえる」
 「改正された鑑定評価基準は、従来と比べて特別なものではなく、これまでの理論をベースとして、手続き、手順を作っていく上での標準的なものを明確化したものだ。投資家を意識した説明責任を、基準の中でより分かりやすく記載している。

Q.投資家に対して取引の公平性を示す上で、不動産鑑定評価の役割がより重要となってくるということですね。

A.
 「投資家保護はもっとも重要だ。多くの証券化市場関係者の意見を聞きながら、遵法性に配慮し、問題に即応していくことがポイントとなる。最終的には投資家の自己責任となるわけだが、前提となる情報開示が適切になされることが重要。不動産の中身をしっかりとディスクローズすることが求められる」

各論にまとめられ実務的に見やすく

Q.改正部分は「各論第3章」の新設として、ひとまとめになりました。

A.
 「改正を付け加えるに当たって、ひと固まりの章立てとするか、既存の基準の各章にそれぞれ振り分けていくかという点で議論があった。今回、証券化対象不動産の項目『各論』の中にまとめられたことにより、ことに実務の側面からは、見やすいものになったといえるだろう」

Q.不動産鑑定評価基準全体からみて、今回の改正の意義は何でしょうか。

A.
 「不動産鑑定評価基準は従来、決まってしまうと、見直しまでに長い年月を要するものだ。基準は『物差し』としての重みがあり、あまり変更すべきでないという考え方があった。今回の改正部分については、マーケットの動き、社会情勢の変化、調査技法の変化などに即応して見直していくという性格のものとなる点が注目される」

Q.日本不動産鑑定協会としての実務指針については。

A.
 「実務指針は、不動産鑑定士が業務を行う上での拠り所として定めされているものだ。当然これについても、市場の変化に即応して進めていく」

共同研究会で各団体が議論

Q.他団体との連携については。

A.
 「日本不動産鑑定協会では証券化対象不動産の鑑定評価に関する基準・指針について、不動産鑑定業だけで判断せず、証券化市場に関係する各団体の意向を聞くことを主眼に、4月から共同研究会を開いている。参加団体は、日本不動産鑑定協会のほか(社)不動産証券化協会、(社)投資信託協会、(社)信託協会、(社)建築・設備維持保全推進協会(BELCA)、(社)土壌環境センター、日本公認会計士協会。それぞれの視点から検討課題を議論していくというものだ。日本不動産鑑定協会からすれば、鑑定の発注元となる不動産証券化協会やプレーヤ側の投資信託協会、エンジニアリング・レポートを作成しているBELCAなど、関連が不可欠な協会の専門家と話し合うことは不可欠だ。月1、2回のペースで議論を交わしている」
 「また7団体のうち、エンジニアリング・レポートに直接かかわる5団体によって『実務共同研究会』を開き、より実態に沿った指針のあり方を議論しているところだ。不動産鑑定協会独自でも、7月から不動産鑑定評価委員会を設立し、今後モニタリングなどを積極的に実施していく方針だ」

Q.不動産鑑定の立場から、今後の不動産と金融の融合の流れについては。

A.
 「不動産のルールであれば宅建業法や都市計画法であり、金融のルールでは金融商品取引法などが挙げられる。こうした異なるルールを背景に持ち、文化性の異なる領域が、不動産証券化という分野で融合しているわけだ。今後、より不動産証券化市場が変化していくという意味でも、時代の状況に即した自主ルールの必要性も高まってくるだろう」


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