賃貸トラブル 防止のためのQ&A
成約前の預り金は返還されるべき
手付金とはどう違う


Q.賃貸の媒介をしている当社では、入居申込時、借受希望者に「入居申込書」の記載を求める際、「申込証拠金」として賃料1ヶ月分相当を「押さえ」として預っています。  
 借受希望者が借受けない際には、この預り金を返金しないこととしたいのですが、問題はありますか。

A.我が宅建業界では、賃貸に限らず売買でも宅建取引におけるいわゆる「預り金」は、取引が前向きに進まないことになった際は返金されるべきことを原則としています。従って、貴社の取り扱いに問題がないとはいえません。  
 この預り金の相場ですが、質問のように賃料1ヶ月分相当の例が多く、一般的には借家契約における「手付金」の額と符合しています。そこで、このような金銭の授受はそれが預り金なのか、それとも手付金なのかが問題になります。 (1)預り金または手付金の授受は、契約の成否に関し、どう相違するのでしょうか。  
 手付は、借家でも例がないわけではありません(民法559条)。手付金が借家契約の締結に際して授受され、それが解約手付であれば、相手方が履行に着手するまでの間は、借主は手付放棄で、他方貸主は手付倍返しで、いわば手付損により締結した借家契約を解除し得ることになります。  
 更に「手付が授受されれば契約が成立したことの証拠」という証約手付としての効力がその最小限度の効力としてあるのです。  
 それに対して、預り金は、通例、契約の成立の前段階で預託されています。 (2)法的性質はどうなっているのでしょうか。手付の方は、前述のとおり証約手付兼解約手付として明らかです。それに対して、預り金の性格は曖昧です。その結果、預り金をどう取り扱うべきかは、一律に決しがたいところがあります。  

 第1に、媒介業者などが預り金の預託を受けるとしたら、業法35条1項10号等の規定からして(行政が求める)「重説」への説明はどうすべきでしょうか。 @各目は、借受けの意思が確定しているような場合には、「借受け申込金」とか「申込証拠金」等が良いでしょう。しかし、一般には借受けの希望の表面程度でしょう。その場合は、法令上も使われている「預り金」で足りるのではないでしょうか。 A趣旨・目的は、「借受け意向の証し(表明)」とでもするのでしょう。 B(物件確保の)有効期間としては、長くても1週間位あれば良いでしょう。 C取り扱いとしては、(後述するように、最も問題になるうところですが)「成約をみないときは、返還されます」といった説明が相当でしょう。そこで、」預り金は受任者の受取物引渡し義務(民法646条)にもかかわらず、Bの期間内は業者において保有すべきが相当でしょう。  

 第2に、業者が預り金を預った後の取り扱いです。預り金は預ったが、成約はしない。では、その預り金はどう取り扱うべきでしょうか。  
 オフィスの借受けの媒介などで、法人借主等が、明らかに一定期間他の借主への「貸し」を見合わせてもらう趣旨で、媒介業者に預り金が預託され、そのうえ既に貸主に引渡し済み(民法646条1項参照)でもあるような預り金については、必ずしも返金されるべきものとは思われません。  
 しかし、通例の居住用借家では、一般に、申込金等と称されようと、貸主の承諾があれば直ちに成約をみる法律上の「申込み」というほど確定的なものではありません。ましてや成約の証しの手付金として交付したものでもありません。これらを勘案すると、媒介業者に預託されている預り金については、契約を前向きに進めないことになったら返金されるべきでしょう。  
 宅建業法も、95年に改正し「業者は、相手方等が契約の申込みの撤回を行うに際し、既に受領した預り金を返還することを拒むこと」を禁じています(施行規則16条の12第2号)。  
 「そもそも、水際で、預り金は預るな」と指導している行政庁等もあるのです。東京都庁(平4.6.29付通達)や福岡県庁と(社)全日不動産協会等は、「原則として、(賃貸借に関してですが)媒介業者は預り金を預ってはならない」と指導しています。



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