天台学における電子化の諸問題


                 藤平寛田(kanden@mx.biwa.ne.jp)(1997,6,20)
本稿の目的
 現在多方面で扱われ、研究に利用されているPC(パーソナルコンピュータ)環境を
紹介し、特に天台学において、その利用に際しての問題点を提示し、また実際の研究を
通して、PCを利用した成果を試論として発表するものである。
 現在、天台学を中心とした研究者においても、多少なりともPCを利用し、研究に活
用していると思われる。また、今後ますますPC利用を前提とした情報が増えるだろう
と思われる。そこで現在の状況を把握しておくことも、有益であると考える。このこと
は、パソコンを単なる清書道具とせずに、研究の上でも有効で便利な道具として活用し
ていくことを考えていきたい。

[目 次]

1.漢字処理の問題

 a 使用可能漢字文字数について

 b
文字同定作業と外字について

 c
今後の問題

2.日本語の問題

 a
漢字片仮名平仮名混在の処理

 b
舊仮名遣い

 c
国字の扱い

3.情報の公開と配布の問題

 a
基本テキストについて

 b
インターネット利用の現状

 c
特定媒体による配布の問題

4.インターネットを利用した研究試論

 a
WWW利用の調査研究報告との出会い

 b 肥後国三十三観音所調査報告に見られる天台宗寺院

 c
肥後国天台宗の廃仏毀釈とその後の寺院

 

 


1.漢字処理の問題
==================

使用可能漢字文字数について
-----------------------------
標準JIS漢字規格の確定
  現在流通しているパーソナルコンピュータに使用されているJIS漢字規格には、
  以下の規格がある。
    1)【旧JIS】<JIS78>JIS C6226-1978 漢字数6,349字
    2)【新JIS】<JIS83>JIS X0208-1983 漢字数6,353字
    3)【90年
JIS】<JIS90>JIS X0208-1990 漢字数6,355字
    4)【97年
JIS】<JIS97>JIS X0208-1997 漢字数6,355字
    5)【補助漢字】<JIS補助漢字>JIS X0212-1990 漢字数5,801字
    6)【JIS X 0221-1995 国際符号化文字集合】  漢字数20,902字
  ◇現在の主流は【90年
JIS】<JIS90>である。【97年 JIS】<JIS97>
   は、漢字の文字数や字形などは【90年
JIS】と同じある。但し、この規格も現在
   改定作業が進められている。JIS漢字拡張計画【JIS X 0213】は、1998年に公
   開レビューが予定されている。
   【JIS 第3水準】約2000字【JIS 第4水準】3000字の計約5000が追
   加される予定である。
  ▽国際的な規格としては、【ISO/IEC 10646-1】および【UNICODE】がある。
   【ISO/IEC 10646-1】に対応したものが、【JIS X 0221-1995 国際符号化文字
   集合】である。
   5)【補助漢字】は、一部使用可能な機種もあるが、一般的には使用出来ない。
   6)【JIS X 0221-1995 国際符号化文字集合】は、一般的には使用出来ない。
  *JIS規格ハンドブック『情報処理』1995/1997を参照。
  *月刊『ASCII』1997,No236/237/238/240を参照。
  *【UNICODE】については、『日経バイト』1997.6/No165を参照。

文字同定作業と外字について
-----------------------------
文字コードと新旧漢字および異体字処理
 ▲文字コード
  文字コードには、次のような規格がある。
  1)【区点コード】JIS漢字で定義に使用しているコード。10進数を使用。
  2)【JISコード】区点コードを変換して、16進数で表わしたコード。
  3)【シフトJISコード】以前はJIS規格ではなかったが、97年の改定で
    規格化された。現在のパーソナルコンピュータのデータ処理用には、基本的
    にこのコードが用いられている。
    16進数で表わしたコード。国産パソコンの主流コード。
  4)【EUCコード】(Extended Unix Code)は、ワークステーションで使用される
    コード。16進数で表わす。JISコード上位互換コード。
  5)【ASCIIコード】海外のパソコン、ワークステーションのほとんどが採用
    しているコード。全ての文字は7ビットで表現される。
  6)【ISO/IEC 10646-1】および【UNICODE】
    ISO(国際標準化機構)が標準化した情報交換用の7ビットコード。
    Windows-NTやNewtonなどで採用されているが、一般的でない。
    しかし現実には、【UNICODE】そのものの是非とは別に、現在の漢字文字数に不
    満の研究者および中国語文献関係の研究者は、【UNICODE】を採用し、研究に使
    用している場合がある。

 ▲新旧漢字および異体字処理
  基本テキストに採用する漢字は、JIS規格や文字フォントの関係上、新旧漢字が
  必ず混在する。混在を避けようとするとJIS外文字(外字)が多数必要になる。
  また、異体字については、採用の規格内で統一するのか、原典を出来るだけ忠実に
  再現するのかどうかも検討しなければならない。
  漢字の同定作業が必要になる。

JIS外文字(外字)の処理
 ◇JIS外文字(外字)領域の問題
  使用のコンピュータやオペレーティングシステムによっても変化するが、例えば、
  MS-DOSの場合、基本的には188文字である。MS-WINDOWSの場合、
  1880字である。シフトJISコードの制約があって【補助漢字】5,801字
  を全て利用することは出来ない。【補助漢字】にもない文字もある。
  【UNICODE】を採用しても尚漢字は足りない。
  また、JIS漢字拡張計画【JIS X 0213】では、外字の使用を禁止している。

 ◇JIS外文字(外字)領域を利用することで、基本テキストの外字が全て収まるか
  どうかの問題もある。
  JIS外文字(外字)領域を利用したものに、CD-ROM版『大正大蔵経』(大
  藏出版刊)がある。このCD-ROM版『大蔵経』は、MS-Windows3.1/95上で利用
  が可能である。
  外字処理は、標準の外字領域を使い、ユーザー外字フォントと大蔵経専用外字フォ
  ントを切り換えて利用する方式を取っている。

 ◇実体参照方式
  『禅ベースCD1』(花園大学国際禅学研究所刊)でも採用された方式。
  この方式は、先ずJIS外文字(外字)を予め用意しておくことが必要である。
  『禅ベースCD1』ではMS-WINDOWS上でJIS外文字(外字)を新たに
  トゥルータイプフォントを作成して、通常の文字コード位置に作字しておき、ワー
  プロソフトなどのマクロ機能を利用して、JIS外文字(外字)を画面で見たり、
  印刷したり出来るようにしている。
  この方式の基本テキストには、JIS外文字(外字)部分は、その文字が参照され
  るコードが記入されている。
  MS-DOSレベルとしては、外字タガー/ビューワー
(ver 1.01)[Endo/遠
  藤健一氏作]がある。これもDOSレベルでの実体参照方式の一つである。
  但し、このソフトは、テキスト閲覧用であり、印刷機能はない。
  ◆どちらの方式も基本テキストに英数字記号が記入される。
   [例]
     "槇" の略字体である
"槙"(木ヘンに真)という文字は PC-9801 の DOS
     上では見ることができない。この文字コードを例えば、【
&jis83.4b6a;】
     という「実体参照」表現に変換する。[巨人の
&jis83.4b6a;原投手]
                          ^^^^^^^^^^^^
◆また、最近の研究者は、『諸橋大漢和辭典』の文字番号を利用し、末尾一桁を
増やして外字番号に充てる方法が使われている。辭典に無い字を末尾番号に充
てている方法も考えられている。
◆WWW上での画像文字参照方式。これは実体参照方式の応用であり、外字を図形
 絵文字として作成して、HTMLテキスト中に埋め込むという方法である。

【例】『妙法蓮華經』序品部分
        (*[URL=http://www.biwa.ne.jp/~kanden/data/hokekyo.html])
  

 ◇どうような方式を採用するにしてもJIS外文字(外字)を用意する必要がある。
  利用するOSをある程度絞る必要があるかも知れないが、それでは、汎用性の問題
  が残ってしまう。現在数万字の文字を扱うソフトもあるが、未だ発展途上にある。

今後の問題
-------------
 今後の問題点として、JIS漢字の拡張計画による漢字文字数の増加と、文字コード
として、一部では既に利用が始まっている【UNICODE】を採用していく方向が挙げられ
る。つまりテキストの保存状態。どの文字コードを採用していくのかが問題である。
 また、今後のハードとソフトの導入問題。多様な言語処理が可能なシステムを十分考
慮して導入していく必要がある。
 また、現在JIS漢字拡張計画が進められており、計画が公開されている。但し所謂
る外字領域までも利用することになる。98年には公開される見込みである。
 また、漢字フォントなど、研究の上からも注意が必要な問題として、著作権問題など
法律に関わる問題もある。
 また、今後の問題として、使用するソフトウェアの問題もある。実際の研究作業に用
いるソフトは、出来るだけ汎用であるべきで、またそのデータも汎用的であることが必
要ある。データ入力には、OCR(Optical Character Reader)(文字認識ソフト)を利
用したり、テキストエディタや検索ソフトなどを組み合わせて使用することが重要で、
特に、事務用に使われるような、専用のデータベースソフトや文書整形ソフトなどは必
要ないだろう。

【UNICODE】を採用した例『般若心経』(Nifty-serve FJAMEA)MARO氏提供部分

  

【文字セット(Font)】「MS-song」のフォント内容例
  

 

2.日本語の問題
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漢字片仮名平仮名混在の処理
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 日本における文献を扱う場合、避けて通れない問題として、漢字片仮名平仮名混在の
処理の問題がある。また同じ漢字でも変体仮名として、扱う場合もあり注意が必要にな
るだろう。
 例えば、文献途中に現れる「和歌」などの扱いは、日本独自であり、原典での仮名の
扱いも考慮に入れて、多様な処理を施しておく必要が出てくると思われる。
 また、漢字と仮名・片仮名の原典表記の同異も文献によっては問題となろう。
 変体仮名の使用例として、例えば『天台大師和讚』を見てみると、『惠心僧都全集』
第二所収本(649頁)では、
   歸命頂禮大唐國      天台大師は能化の主
   佛の使と世に出てて    一乘妙法宣へ給ふ
とあるが、『天台霞標』(『佛全』125、459上)所収本では、
   歸命頂禮大唐國      天台大師波能化乃主
                    ・  ・
   佛乃使止世仁出弖     一乘妙法宣給布
    ・ ・ ・ ・         ・ ・
とある。同一文献でありながら、原典を素直に入力してしまうと、実際電子化に伴う問
題が見られる。こうした問題は、原典それぞれのデータ化が必要なのと、基本テキスト
にノートのメモ書きと同様な、何らかのマーク印付けが必要になってくる。このような
問題については、花園国際禅研のウルスアップ氏が既に指摘しているところであるが、
氏は特に中国佛典についての問題として取上げているが、日本の文献についても同様な
ことが言えると思われる。

舊仮名遣い
-------------
 これについても、漢字片仮名平仮名混在の処理の問題と同様に、原典表記と基本テキ
ストの間での同異が問題であろう。『天台大師和讚』でも見られるが、例えば和歌で、
『玉葉和歌集』にある、慈鎭和尚の歌を見てみる。

  【詞書】正治二年後鳥羽院に百首哥奉りける時、春哥
  【詞書の読み】しやうちにねんことはゐんにひやくしゆうたたてまつりけるとき、
         はるのうた
  【作者標準】慈円
  【和歌原表記】山里の/梅のたち枝の/夕霞/かゝるすまゐを/問人のなき
  【和歌読み】やまさとの/うめのたちえの/ゆふかすみ/かかるすまゐを/
        とふひとのなき
   (*二十一代[和歌]集検索)(国文学研究資料館URL=http://www.nijl.ac.jp)

 このような基本テキストの扱いには、あいまい検索やシソーラス検索といったものを
十分に活用しなければ、より精度の高い研究には成らないであろう。
 例えば「ゐゑを」と「いえお」の同一視や[やゆよ][ゃゅょ]の大文字小文字の同
異・同一視など注意が必要である。

国字の扱い
-------------
 国字については、『国字の字典』(東京堂出版刊)が有益な情報としてある。
国字について、本書によれば、

   本書では「日本人の造字した文字」、いいかえれば、中国にない文字(偶然、同
   字形になってしまったものもある)という範囲で、国字と呼ぶことにする。
   国字はその造字法から次のように分類できる。
   (一)漢字を合字したもの
     @意味を組み合わせたもの(会意の字)
     A音を組み合わせたもの(「麿」←麻+呂など)
   (二)漢字を省画したもの、くずしたもの
     B省画字(略字)
     C片仮名・平仮名
   (三)漢字の省画したもの、くずしたものを合字したもの
     D省画字の合字
     E仮名の合字(トモ・トキなど)

とあり、また、『大漢語林』(大修館書店刊)276頁の「国字」の説明によれば、

   (1)日本語固有のニュアンスを伴う概念を表すために、中国にはない純日本製
      漢字が出現する。
      俤(おもかげ)、働(はたらく)、峠(とうげ)、榊(さかき)など
   (2)日本製漢字を求める過程で、結果的には中国の漢字とは異なる、それでい
      て字体は偶然一致してしまうものも生じる。
      偲([日]しのぶ[中]忠告しあう)・咄([日]はなし[中]しかる)
     などに分けて考えられるが、国字の典型は地名・姓など固有名詞に表れる。


としている。
 ここで特に問題となるのは、組み合わせ文字、略字、片仮名、平仮名、仮名の合字と
いう点であろう。これらを含む原典から、どのような基本テキストを構築するかが、基
礎作業の最重要ポイントとなる。
これらの点は、日本文献のそのほとんど全てが当てはまる問題である。同様に、返り点
についても、その原典の返り点情報を活かすのか、省くのかを考慮に入れて基本テキス
トを作成する必要がある。因みに、大蔵CDの場合は、書籍版と同様の表示モードと、
検索用のモードがあり、テキストも二重に作成されているようである。
 基本テキストと同時に1つの方法として、マルチメディア辞典と同様な手法が可能で
はないかと考える。既に「岩波仏教辞典」や「浄土真宗聖典」が電子ブック版として、
一般に公開されている。活字化された文献と原典と絵などを組み合わせて、研究資料と
することも出来るだろう。
 例えば、『續天台宗全書』史傳2の『傳教大師利生記』は、原典の木版本には絵もあ
り、また文章は、変体平仮名まじり文ということから、翻刻活字文と合せて見ることも
必要な場合があるかも知れない。



3.情報の公開と配布の問題
==========================

基本テキストについて
-----------------------
 花園禅研の「禅ベースCD1」は、テキストの作成に際し、公用文などにも採用され
ているSGML(Standard Generalized Markup Language)を利用した方法で作成されて
いる。このことは同所の研究雑誌『電子達摩』を参照されたい。
 現在、天台宗典編纂所では『天台佛典CD−1』の公開に向け、鋭意校正中である。
天台学における基本テキスト。確定本を作る必要があると思われる。例えば、天台三大
部一つを取ってみても、大正藏本で對校がされていないものがあったり、または十分な
校訂がされていないものが有ったりする。このような最も基本的な作業が早急に必要で
はないかと考える。このような確定本を基に電子テキストも作成されるべきであろう。
 例えば、大正藏CD(大藏出版)では、書籍版大蔵経の通りの印刷まで可能なプログ
ラムを用意し、JIS外文字も新たに作成している。また検索用には別にテキストを作
成して、出来るだけ初心者にも使えるようにと工夫がされている。しかし、実際には基
本テキストの入力校正ミスがあったり、特定のOSに依存したシステムであり、まだま
だ改良の余地がある思われる。またOSの仕様変更に伴うプログラム変更や入力校正に
掛る人件費と配布対価の高騰など、配布基本テキストの信頼性の問題もある。

インターネット利用の現状
---------------------------
 インターネットと言えば、WWW(World Wide Web)と言われるように、現今の社会現
象である。仏教学の各方面の研究者においても、既に多くの成果を発表し、また情報の
交換の場として利用している。
 因みに、天台宗関係のホームページは、現在以下のようにある。(順不同)
<天台宗寺院>################################################################
  延暦寺[http://www.sunplus.com/fuji/hieizan/]
  清水寺[http://www.bekkoame.or.jp/~benkei/]
  斑鳩寺[http://www.sanynet.or.jp/ikaru/]
  眞如堂[http://www.justnet.or.jp/home/junsho/]
  法雲寺[http://www2.nkansai.or.jp/org/houunji/index.htm/]
  圓教寺[http://www2.nkansai.or.jp/org/houunji/syosya/index.htm/]
  龍泉寺[http://www.ryomonet.or.jp/ryusenji/ryusenji.html/]
  長保寺[http://www.nnc.or.jp/~chohoji/]
  西法寺[http://user.shikoku.or.jp/usuzumi/]
  觀音院[http://www.coara.or.jp/~kannonin/]
  両子寺[http://www.coara.or.jp/~futagoji/]
  中尊寺[http://www.kpc.co.jp/chusonji/]
  毛越寺[http://www.kpc.co.jp/motsuji/]
  天台佛青連盟[http://www2t.biglobe.ne.jp/~tendai/]
  吉野金峯山寺[http://www.threeweb.ad.jp/~sakura/]
<その他佛教学関係>==========================================================
  花園大学国際禅学研究所[http://www.iijnet.or.jp/iriz/irizhtml/indexj.htm]
  仏教関連[http://www.newciv.org/TigerTeam/sites.htm]
  仏教学(英語辞書)[http://sunsite.unc.edu/dharma/buddhist.html]
  仏教学(英語版)[http://www.kosone.com/people/ocrt/buddhism.htm]
  仏教文献(英語版)[http://www.uth.tmc.edu/~snewton/zen/index.html]
  仏教画像[http://sunsite.unc.edu/pub/academic/religious_studies/Buddhism/
          Tantric_Studies/Iconography]
  仏教芸術[http://www.webart.com/asianart/index.html]
  アジアの仏教[http://www.uncwil.edu/sys$disk1/wilsonj/Asia.html]
  道教文献[http://xuanmiao.zinbun.kyoto-u.ac.jp/~mugi/]
##############################################################################
 天台宗関係のホームページは、寺院紹介が主であって天台学を研究する上で利用出来
るものは、余りないのが現状である。絵葉書的なホームページと見る事が出来る。
しかし、寺院の什物などについての詳細な研究論文を公表しているところもある。
寺院のホームページであるから、学問的な部分が少なくなるのであろうか。
 WWW利用の例として、個人のものを一例挙げる。
 【Kanden's Home】URL = http://www.biwa.ne.jp/~kanden/lib.html
  ------------------------------------------------------------------------
怪しいライブラリー一覧
------------------------------------------------------------------------
1.【比叡山メッセージ】
2.【無量義經】
3.【妙法蓮華經】(私家版)
4.【觀普賢菩薩行法經】
5.【おつとめ】
6.【傳教大師御遺誡】
7.【慈覺大師円仁年表】
8.【慈覺大師和讚】
9.【慈慧大師和讚】
10.【和歌集】
11.【七福神】
12.【例時作法】
13.【法華懺法】
14.【宗要集研究】
15.【台宗二百題論題】
16.【法華玄義科文】(Gif画像121K)
17.【法華文句科文】(Gif画像96K)
18.【摩訶止觀科文】(Gif画像93K)
19.【一帖抄】(ICCHOU.LZH)
20.【八帖抄】(HACCHOU.LZH)
21.【法華玄義】(TENGEN.LZH)
------------------------------------------------------------------------
ホームページへ
我が家へ 美術室へ 閲覧室へ 記念館へ
------------------------------------------------------------------------
 ここには、僅かながら天台学に利用できそうな文献が見られる。このような文献など
は、基本的には、無償配布の場合が多い。但しその利用については、作者のドキュメン
トなどを十分に読んでおく必要があることは言うまでもない。また文献のみではなく、
各種ソフト、フォント、データなど様々がある。これらを有効に利用する必要がある。
 また、NEWSグループやメーリングリストなどWWWとは異なった方法による情報
収集もある。

特定媒体による配布の問題
---------------------------
 近年のPC雑誌等には、CD−ROM媒体が付録として配布されている。内容は区々
であるが、最新のソフト情報や便利なツールが紹介されている。
 研究に利用できるCDも『禪ベースCD1』や大正藏CDなど配布の形態は、CD−
ROMによるものが多い。これはCDの記憶容量がFD450枚分に相当することから
大量の情報が一度に配布できる利便性がある。しかし、CD−ROMにも問題がある。
 例えば、データのCDへの記録の方式による問題である。便利であるが、特定のOS
のみが読み込める記録方式、汎用的ではあるがシステムによっては不便なものもある。
このような点も認識しておくべきであろう。



4.インターネットを利用した研究試論
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WWW利用の調査研究報告との出会い
-------------------------------------
メールによる情報の交換とWWW利用の研究成果報告公表。
 さて、WWWによる公表されているものを挙げれば切りが無いので、ここでは特に、
メールによって知り得た情報のみを例として挙げることにする。

 〔例1〕中澤 勝氏(大津市仰木の里)
  中澤氏のホームページ【http://www.biwa.ne.jp/~nakasawa/】
  ここには、『丹波国多紀郡大山庄地頭 中澤氏の研究』という論文が発表されてい
  る。

 〔例2〕小川寛大氏(熊本県高校生)
  小川氏のホームページ【http://village.infoweb.or.jp/~fwhk4659/】
  ここには、『肥後国三十三観音所調査報告』が公開されている。

〔例3〕紀州長保寺(瑞樹 正哲氏)
  長保寺のホームページ【http://www.nnc.or.jp/~chohoji/】
  ここには、日蓮聖人真筆の斷簡文書についての論文が公表されている。

 この様な研究や調査報告との出会いは、お互いにホームページを公開していること
 と、ホームページに対する感想を電子メールにて交換していることが、そのきっか
 けとなっている場合が多い。

肥後国三十三観音所調査報告に見られる天台宗寺院
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 上記の〔例2〕の小川氏の報告を例として、肥後國の天台宗寺院の歴史的存在を再検
討してみることにする。
 先ず、「肥後国三十三観音所調査報告」の一部を見てみることにする。
(写真・地図等省略)
=======================================
肥後三十三カ所観音霊場巡礼とは
「古寺巡礼辞典」(中尾堯編著 東京堂出版)によれば、「肥後三十三ヶ所観音霊場巡
礼 熊本市内の観音の霊場巡礼で、成立などについての伝承はまったくない。ただ大正
の頃までは盛んに行われていたといわれる」とあり、確かに成立に関する資料らしいも
のは現在発見されていない。しかし、十九番高観音などにある、「西国霊場」と記され
た碑や、十番常福寺などに残される、御詠歌を記した木札などから、西国三十三ヶ所観
音霊場を模して全国各地に設けられた地方西国霊場の一つと考えられる。
 西国三十三ヶ所観音霊場は、近畿地方を中心に十数カ国にまたがって存在する、日本
最大の巡礼で、大和長谷寺の徳道上人が閻魔王のお告げによって始め、後、花山天皇に
よって確立されたものであり、これを回れば例え五逆重罪の者であっても、けっして地
獄に落ちることはないとされる。
 この肥後三十三観音も、かつては肥後に住む人々の心の支えとして参拝者も多かった
と聞くが、現在では霊場たる寺々も廃寺となったり観音を紛失していたりで、見る影も
ない。我がSARC機関は昨年度、総力を結集してこの霊場の復興調査に務め、その業
績はテレビ、新聞等でも取り上げられた。以下のものは、その第一次調査資料である。
尚現在SARC機関では、これの第二次調査プロジェクトがスタートしている。

《肥後三十三カ所観音霊場巡礼》
 1、円通寺  2、報恩寺  3、4、流長院  5、心光寺  6、三宮観音
 7、出町石仏  8、富尾観音堂  9、法成時  10、常福寺  11、威徳院
 12、岳林寺  13、石神社  14、千原観  15、禅定寺  16、本覚寺
 17、安国寺  18、法蓮寺  19、高観音  20、清水寺  21、春日寺
 22、長谷寺  23、天福寺  24、常 寺  25、延命寺  26、蓮台寺
 27、無漏寺  28、妙恵寺  29、浄国寺  30、盲観音  31、正法院
 32、松林寺  33、峰雲院
=======================================
以上が第1頁である。以下、第1番円通寺から順次紹介と調査報告が、観音堂や周辺の
地図と共に記されている。この中から天台宗に関係のあるところを挙げてみる。

第十番 常福寺
(所在) 釜尾町
(諸資料) 天台の古跡であるという観音堂。寺そのものはかなりの昔に廃寺となって
おり、周囲からは観音堂として信仰をあつめている。堂の建物は古く、柱や壁のいたる
ところに参拝者の打ち付けたと思われる木札がたくさん見える。

第十五番 禅定寺
(所在)横手一丁目
(諸資料) 曹洞宗 玉龍山
開基は肥前の戦国大名有馬家の一族という、宣安明言和尚。天正、文禄の頃(1573
〜1596)島原の江東寺より来熊し、立田にあった天台宗の常楽寺という廃寺を再興
しそこを禅刹として居住した。加藤清正の家臣であった並河志摩守は、宣安をあつく崇
信し城下に禅定院という名の寺を建立して宣安をそこの開祖とした。その後、現在の地
に移転し、その時に玉龍山禅定寺と改称した。 この寺の観音堂はたいへんつくりが珍
しいもので、その由来は八世湛然の時、月秋院(並河志摩守法名)の霊屋を普応閣と名
付け、観音堂としたものである。なお、この寺の観音は盗難にあい、紛失してしまった
という。

第二十番 清水寺
(所在) 春日四丁目
(諸資料) 天台宗 霊応山千手院
大同年間(806〜810)、坂上田村麻呂の発願により全国に建立された、音羽山清
水寺の一つではないかと思われる。建立されて後退廃に及び、寛永の頃(1624〜1
644)までは、念仏僧や山伏が堂守として寝起きするような状態であったそうだが、
神護寺二世秀円法印が中興して以来台密の寺となった。この寺の山門は、通潤橋を手が
けた石工たちの手による大変珍しいものであるということで、東京や大阪のほうからも
時々研究者が来たりすることがあるという。 明治初期に廃寺となり、跡地には長谷寺
が移転してきた。そのため現在この寺は長谷寺であるが、一般にその認識は薄くいまだ
に近辺からは清水寺と呼称されている。

第二十二番 長谷寺
(所在) 春日四丁目
(諸資料) 天台宗 清水山
聖武天皇の治世のころ天平年間(729〜749)、行基僧正により開基。和泉国の長
谷寺に擬して建立され、はじめは泊瀬山長谷寺と称し、後に普門山を名乗った。本尊の
観音像は行基の作という。一時退廃の時期があったが、慶長十九年(1614)秀海な
る僧が越後より来て再興し、これを中興開山とする。明治期に入り、廃寺となった霊応
山清水寺の跡地に移り、清水山長谷寺と号した。


第二十五番 延命寺
(所在) 二本木三丁目
(諸資料) 天台宗 遙拝山妙智院
開基の年代などは不明であるが、行基により建立された寺であると伝えられ、本尊の観
音も行基の作という。一時退廃の時期があったが、寛文年間(1661〜1673)、
大阿闍梨実智院快宣が再興し、これを中興開山とする。近代に入って再び荒廃し、現在
では延命寺観音堂としてひっそりと小さな堂があるのみである。

第三十二番 松林寺
(所在) 中唐人町
(諸資料) 天台宗 不動院
承平二年(932)、国中に流行していた悪疫を鎮めんと、国司の藤原保昌が古府中二
本木に草創した寺を始めとし、開山は比叡山僧都快勤というが、保昌が肥後の国司に任
命されるのはそれより後の年代のことであり、実際の建立についての詳細は不明。清正
の城下町造成の際に現地に移された。現在では廃寺となっており、わずかな石碑が往時
をしのばせる。
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 以上6箇寺が見出せる。この他にも什物が惠心僧都の関係であったりする所もある。
しかしそれらは、現在天台宗ではない。
 さて、この報告によると現存の寺院ばかりでなく、既に廢寺になっているところも記
されている。この廢寺の寺院も含めて、次に少し考察を加えてみたい。


肥後国天台宗の廃仏毀釈とその後の寺院
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 肥後国三十三観音所調査報告に見られた天台宗寺院について、調査する資料として、
『天台宗本末帳』(『續天台宗全書』寺誌1)を繙いてみる。
 先ず「比叡山延暦寺本末帳」(『續天台宗全書』寺誌1)をみると、67箇寺ある。
次に、「東叡山寛永寺本末帳」では、4箇寺が見られる。
次に、「扶桑台宗本末帳」では、77箇寺(西巖殿寺の37箇坊を除く)が見られる。
次に、現存寺院は「天台宗寺籍簿」九州西教区熊本部[G]で15箇寺ある。
 最大の『扶桑台宗本末帳』で77箇寺が報告されており、現在は15箇寺となってお
り、約80%ほどの寺院が廃寺となったようである。
 これらのデータを並べ替えてみると、廃仏以前と現状との比較が容易になる。また、
新たな研究の手懸かりとして、PC利用の一例として挙げておくことにする。
又このようなデータ処理をする道具(ツール)を有効に使うには、目的にあったツール
を組み合わせることで、データ処理も簡単に行うことが出来る。こうしたツール類は、
その殆どが無料配布されている。この小物ツールをどう扱うかによって、紙上のカード
を手作業で並べ替えることが、いかに時間の無駄であるのかが体感出来る。
 こうした所謂る作業の部分をPCという道具にやってもらおうという訳である。しか
も、この作業は元データが大量で莫大であればあるほど、有効な結果が期待できるので
ある。いま一例を出して、一つの調査報告が書籍媒体と同様に、研究のきっかけとして
なり得るだろう、又こうした情報にも注意する必要があるのではないかと考えられる。
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さて、先の三十三観音報告中の6箇寺について見てみる。

第十番常福寺(所在)釜尾町(諸資料)廢寺,観音堂現存
★常福寺,金浦山,普門院,肥後國宇土郡浦村,正覺院法流[比直末],H,P:18a
★常福寺[廢](社),金甫山,普門院,宇土郡浦村,三宮社社僧・山門末,F,P:534a

第十五番禅定寺(所在)横手一丁目(諸資料)現存曹洞宗玉龍山,元天台宗の常楽寺
★この禅定寺については、江戸以前にあった常樂寺という寺院を禅寺として再興したと
記されている。現資料から得られる現在の常樂寺とは、異なる寺院であると見られる。
○常樂寺,上益城郡益城町大字小池,G
○常樂寺[廢](廢),飯田山,?,益城郡小池村,山門末,F,P:533b

第二十番清水寺(所在)春日四丁目(諸資料)天台宗霊応山千手院,廢寺,現長谷寺
★清水寺,?,?,肥後國飽田郡木間,[東遠國孫末]神護寺末,T,P:126a
★清水寺[廢](廢),靈應山,千手院,飽田郡春日村,熊本神護寺末,F,P:535b

第二十二番長谷寺(所在)春日四丁目(諸資料)天台宗清水山,元泊瀬山長谷寺,普門山
現存,旧清水寺寺領
★長谷寺,熊本市春日町,G
★長谷寺,初瀬山,?,肥後國飽田郡木間村,正覺院法流[比直末],H,P:17b
★長谷寺,普應山,?,飽田郡古町,山門末,F,P:533a

第二十五番延命寺(所在)二本木三丁目(諸資料)天台宗遙拝山妙智院,観音堂現存
★延命寺,遥拜山,妙智院,肥後國飽田郡宮寺村,正覺院法流[比直末],H,P:17b
★延命寺[廢](廢),遥拜山,妙智院,飽田郡宮本村,山門末,F,P:533b

第三十二番松林寺(所在)中唐人町(諸資料)天台宗不動院,廢寺石碑のみ現存
★松林寺,大鶴山,不動院,肥後國飽田郡熊本,正覺院法流[比直末],H,P:17a
★松林寺,大鶴山,不動院,飽田郡古町,山門末,F,P:532b

 このように見てくると、禅定寺を除く5箇寺ではあるが、興味深いことが知られる。
 先ず、三十三観音の内、現在天台宗として現存する寺院は、実に長谷寺の1箇寺のみ
であること。次に、現在天台宗寺院としてはないが、観音堂が現存しているところがあ
るということ。寺院名まで残っている。更に5箇寺の内4箇寺は比叡山末であること。
東叡山末系清水寺は比叡山末の長谷寺に替り、天台宗寺院として再興されていること。
つまり、寺院の合併改称によって、荒廃から再興への道を進んだと見られるのである。
これは、明治の廃仏毀釈を乗り越える一つの手段であったと考えられるのである。この
ような例は、南總教区三合寺の場合にも見られる。(菅野康純氏『天台学報』31参照)
 第2に、肥後国全体として見てみると、これまた寺院本末関係の問題が見い出せる。
先の肥後国の一覧で、『扶桑台宗本末帳』のみに見られる寺院がある。これは幕府に提
出されたであろう『比叡山本末帳』や『東叡山本末帳』に掲載されない寺院があったこ
とを示しており、以前に少しく調査した、門跡寺院との関係やその寺院の独自な性格も
考慮しなければならないということである。(『天台学報』31,32を参照)
 例えば、九州三十三観音巡礼第十三番札所である阿蘇山の西巖殿寺が挙げられる。
『扶桑台宗本末帳』によれば東叡山末であることになるが、『東叡山本末帳』には出て
いない。
 この西巖殿寺は、一方では「総領寺」と「門葉寺」と言う関係があり、また一方で、
「衆徒」「行者」「講衆」という関係で37箇坊があったようである。しかも承応2年
(1653)に比叡山末から東叡山末となり、「行者」は醍醐三宝院当山派に属したと
記録されている(肥後国誌)。また明治4年(1871)には、延暦寺末に復している
記録がある(阿蘇郡誌)。このような資料がありながら比叡山や東叡山の本末帳には、
その記録が見当たらない。また「阿蘇山衆徒」の長善坊末に当たる大山寺も『扶桑台宗
本末帳』のみしか出ていない。この様な問題については、門跡寺院の記録を見てみるこ
とも必要になる。以前に豊後国六郷満山についての調査でも明らかになったが、この様
な一山の形態をもった寺院は、特にその寺院独自の本末関係と門跡寺院との関係に注意
が必要であった。そこで門跡寺院関係の記録を見てみることにする。

『青蓮院御門跡御末寺・妙法院御門跡御末寺・梶井御門跡御末寺』(叡山文庫蔵)を
見てみると、先ず、「妙法院御門跡」のところに、

  天台宗  肥後國藤崎八幡宮執行   神護寺

とある。肥後国については、神護寺のみが挙げられる。この資料では、青蓮院門跡・梶
井門跡と肥後国の寺院についての記録はない。
 青蓮院としては、『華頂要略』巻第五十五下(『天台宗全書』16,379頁)には、

  肥後國
   乾龍寺  池邊寺  鏡社  阿蘇山
  肥後國  千栗山

とあり、また同じく、『華頂要略』巻第八十六(青蓮院蔵)には、

  肥後國
   阿蘇山  乾龍寺  池邊寺  (中略)
   本覺寺 號拜三山多聞院 舊青門末寺。今延暦寺末。正覺院之法流云云(中略)
   拜三山。村上天皇勅願 天上寺。花山院勅願 顯神院。近衛院勅願
   叡高別院西九一社。近衛院重勅號   (中略)
   社家。有僧俗
   舊者。本覺寺。福正寺。長徳寺之三宮司也。天正年中兩寺[福正・長徳]滅亡。
   此外別院二箇寺。善逝寺。護國寺。是者不從社役云云

とある。なお梶井門跡の関係は見当たらない。
 先ず、妙法院門跡と藤崎神護寺については、『東叡山本末帳』では「直末御支配」と
あり、『扶桑台宗本末帳』では、「妙法院宮末」とか「輪王寺末」「延暦寺末」などと
記録されている。現在は藤崎八幡宮として現存するが、記録によれば、宮寺として神護
寺・彌勒寺・勝成寺・妙樂寺の4箇寺があったようである。しかし、廃仏により現在は
皆廢寺である。例祭も仏教的な名称は、皆変更されているようである。
 次に、青蓮院門跡の方を見てみると、肥前国の寺院が混在している。阿蘇山について
の記録があり、またその他の寺院も僅かながら確認できる。このことからやはり門跡寺
院との関係や神社と関わりが、明治以後の寺院復興と密接に関係があることわかる。
本末関係も宮寺としての機能が実質の寺院は廃仏に追込まれたようである。


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