Swan  琵琶湖水鳥・湿地センターラムサール条約ラムサール条約を活用しよう第8回締約国会議

ラムサール条約

決議.9:戦略的環境影響評価

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「湿地:水、生命及び文化」
湿地条約(ラムサール,イラン,1971)
第8回締約国会議
バレンシア,スペイン,2002年11月18-26日


決議.9

生物多様性条約(CBD)において採択された「環境影響評価の法制度・プロセス及び戦略的環境影響評価に生物多様性関連事項を組み込むためのガイドライン」及びそのラムサール条約との関連

1.生物多様性条約(CBD)第6回締約国会議(COP6)が「環境影響評価の法制度・プロセス及び戦略的環境影響評価に生物多様性関連事項を組み込むためのガイドライン」及び「先住民の社会及び地域社会により伝統的に占有または利用されてきた神聖な場所及び土地・水域で行うことが提案されている開発、または当該場所及び土地に対して影響を与える可能性のある開発に関する文化的、環境的、社会的な影響評価の実施に対する勧告」を採択したことを歓迎し

2.湿地に関する環境上の問題を、明確かつ一般の人々に透明な方法で計画策定に関する諸決定に組み入れることを締約国が要請し、またラムサール条約科学技術検討委員会(STRP)に対し、湿地に関する環境影響評価のための現行ガイドラインを検討し、必要な場合には湿地の賢明な利用の一助としてラムサール条約のガイドラインを起草する手配をするよう締約国が求めた勧告6.2を想起し

3.「締約国に対し、ラムサール条約湿地リストに掲げられた湿地の生態学的特徴を変化させうる、あるいは領域内の他の湿地に悪影響を及ぼすおそれのある事業、計画、プログラム、政策のすべてが、厳格な影響評価の手順を必ず経るようにし、またそのような手順が政策的、法的、制度的、組織的措置の下で正式なものとなるようにすることを求め」、また、「湿地の環境影響評価及び経済評価に関する既存のガイドラインや情報を再検討するために、STRP及びラムサール条約事務局に対し、CBDや他の関連条約の類似組織及び専門家機関と共同作業を行うことを」求めるとともに、これを、賢明な利用原則を適用する機会を特定するための手段として利用できるように、インターネット上で報告できることを示した決議.16も重ねて想起し

4.CBDとラムサール条約の「2000−2001年共同作業計画」が、国際自然保護連合(IUCN)、国際影響評価学会等との協議を通じて、影響評価に関する両条約それぞれの計画を前進させ、かつ悪影響を最小限に抑える面での緊密な協力を促進したことを認識し

5.CBD決定第/18が、環境影響評価の法制度・プロセス及び戦略的環境影響評価に生物多様性関連事項を組み込むためのさらなるガイドラインを作成するよう求め、かつ影響評価の諸事項に関するSTRPとの協力に言及していることも同じく認識し

6.移動性の野生動物種の保全に関する条約(ボン条約・CMS)COP7が、同条約の科学委員会に対して、関連する手引きの空白部分を検討し特定する際にラムサール条約STRPと協力するよう特に求めた決議7.10(移動性の種に関する影響評価に関する決議)を採択したことを確認し

7.ラムサール条約事務局と国際影響評価学会の間で、2001年6月に覚書が調印されたことを歓迎し

8.水の配分と管理、管理計画策定、及び国際的に重要な湿地のリスト(ラムサールリスト)に記載されている湿地の境界を変更したり湿地への代償措置を講じたりする場合を含めた、ラムサール条約の重要なプロセスにおける影響評価の重要性を強調し、また今回の締約国会議によって採択されたこれらの事項に関する追加手引きが、影響評価の適用に言及し、かつ地域社会及び先住民が開かれた透明な方法により十分に関与することの重要性を強調していることに留意し

9.湿地の消失による影響を緩和する可能性を見きわめることを含め、湿地の再生及び回復における影響評価の役割を認識し

締約国会議は、

10.締約国に対して、STRPが作成してCBDのガイドライン本文に挿入された手引き(本決議の付属書を参照)を参考にして、CBDCOP6の決定.7として採択された「環境影響評価の法制度・プロセス及び戦略的環境影響評価にCBD関連事項を組み込むためのガイドライン」を必要に応じて活用すること、また、「湿地管理への地域社会及び先住民の参加を確立し強化するためのガイドライン」(決議.8)及び「ラムサール条約湿地及びその他の湿地に係る管理計画策定のための新ガイドライン」(決議.14)に沿って、影響評価における地域社会及び先住民の全面的な参加を促すよう強く要請する

11.締約国に対して、IUCNの「生物多様性経済」ウェブサイト http://www.biodiversityeconomics.org/assessment/ramsar-503-01.htm でまとめられた影響評価に関する手段や情報を利用するよう重ねて要請する。このサイトは、決議.16への対応として、湿地に関する影響評価において優良実践例を実際に適用する一助として開設されたものである;

12.締約国に対して、IUCNの生物多様性経済ウェブサイトで得られる情報が自国のニーズにとってどの程度有用かについてラムサール条約事務局にフィードバックを提供し、さらにこれを踏まえ、湿地に関する影響評価についての情報、助言及び手引きに対し他にどのようなニーズがあるかを具体的に示すよう要請する

13.締約国その他に対して、IUCNの生物多様性経済ウェブサイトに載せるために、湿地に関する影響評価について得られた教訓を示すケーススタディ、ガイドライン、助言の提供源などの関連資料その他の資料をラムサール条約事務局に提出するよう強く要請する

14.STRP及びラムサール条約事務局に対して、提出されたケーススタディから得られる教訓をまとめ、該当する場合には他の事項に関するラムサール条約の既存の手引きとの関連性を記載し、第9回締約国会議(COP9)のための報告書を作成し、必要に応じて専門的な助言を提供するよう要請する

15.STRPに対して、国際影響評価学会と協力して、影響評価に関する現行のガイドラインのうちの湿地に関する要素を引き続き特定し、そうしたガイドラインが締約国のニーズを十分に満たしていない重要な不足点を特定し、その不足点を埋めることのできる方法を調査するよう同じく要請する。これはCBDCOP6で採択された「先住民の社会及び地域社会により伝統的に占有または利用されてきた神聖な場所及び土地・水域で行うことが提案されている開発、または当該場所及び土地に対して影響を与える可能性のある開発に関する文化的、環境的、社会的な影響評価の実施に対する勧告」を考慮しつつ行うこととする;

16.STRPに対して、ラムサール条約事務局の支援を得て、1996年のラムサール条約COP6の分科会Aで示されたものの補遺として、ラムサール条約締約国会議の決定、ガイドラインその他のラムサール条約関連の公表物の中で影響評価に言及している部分を見直し、また特に、アプローチにおける不一致を特定し、必要な場合にはその修正に努め、その見直しの結果をラムサール条約の資料に含まれる影響評価関連部分への最新の索引として利用できるようにするよう重ねて要請する

17.締約国に対して、湿地に関する影響評価を支援するための専門知識や助言の提供源を特定することを目的として、国際影響評価学会のネットワークに属する各国の関係連絡窓口と連絡をとるよう強く要請する

18.STRPに対して、ラムサール条約の「湿地の保全と賢明な利用を促進するための法制度の見直しに関するガイドライン」(ラムサールハンドブック第3巻)及び「国家湿地政策の策定と実施に関するガイドライン」(ラムサールハンドブック第2巻)をもとに、戦略的環境影響評価の適用に関して締約国への助言を用意するよう要請する

19.締約国及び影響評価の実施担当者に対して、影響評価が影響緩和プロジェクトに関係する場合は特に、湿地の保全、管理、働きの強化、回復及び再生のために戦略的に定められた目標の採用を促しこれに貢献する機会として、影響評価の利用に努めるよう勧告する


付属書

以下のガイドラインは、生物多様性条約(CBD)の科学上及び技術上の助言に関する補助機関によって作成され、CBDCOP6(2002年4月、オランダ・デンハーグ)で採択されたものである(決定/7)。このCBDのガイドラインはラムサール条約の科学技術検討委員会(STRP)が検討し、同委員会は、ラムサール条約において湿地に関する影響評価を行う際に、これらのガイドラインを適用することが十分妥当であると勧告した。

STRPは、ラムサール条約締約国が必要に応じてCBDのガイドラインを湿地の影響評価に適用するのを支援するため、補足的な手引きを作成した。STRPの補足的な手引きは、CBDガイドラインの該当個所に、文章を枠で囲んで示した。

CBDの「環境影響評価の法制度・プロセス及び戦略的影響評価に生物多様性関連事項を組み込むためのガイドライン」

ラムサール条約:ラムサール条約との関連でこれらのガイドラインを利用する場合、対象とする問題の範囲、または関連する専門分野の範囲として「生物多様性」に言及する箇所は、ラムサール条約で扱う湿地(湖沼及び水系を含む)の保全と賢明な利用にも等しく当てはまるものとして読むことができる。以下の段落1に示される各定義を適用する際には、代替案を検討することと、影響評価プロセスに意思決定を組み入れることに特に重点を置く。

1.本ガイドラインにおいては、環境影響評価及び戦略的環境評価に対して次の定義を用いる。

(a)環境影響評価とは、プロジェクト案または開発案について、社会経済、文化及び人の健康への相互に作用しあう影響を、プラス面もマイナス面も含めて考慮し、生じうる環境影響を評価するプロセスをいう。世界各地で法律や慣行に違いはあるものの、環境影響評価の基本的な構成要素として次の段階が必ず含まれているものと思われる:

)スクリーニング:プロジェクトまたは開発計画のうち、完全な、または部分的な影響評価を要するのはどれかを判定する;
)スコーピング:生じうる影響のうち評価すべきものはどれかを特定し、影響評価における評価事項を導き出す;
)影響評価:提案されているプロジェクトや開発によって生じうる環境影響を予測、特定する。提案されているプロジェクトによる相互連関的な影響及びその社会経済的影響を考慮して行う;
)影響緩和措置の特定(開発を進めないこと、影響を回避できる代替案または代替地を探すこと、プロジェクト案に保護手段を組み込むこと、マイナスの影響に対する代償措置を提供することなど);
)プロジェクトを承認するかどうかの決定;
)開発活動、予測される影響、及び提案された影響緩和措置のモニタリングと評価。これにより、予想外の影響や影響緩和措置の失敗を把握し、時宜にかなった方法で対処できるように万全を期す。

(b)戦略的環境影響評価とは、提案された政策、計画またはプログラムの環境面での影響について、意思決定のできるだけ早い段階で、経済的・社会的問題と同等に考慮し、また適切に対処できるように、当該影響を特定・評価する、体系的かつ包括的な公式のプロセスをいう[原注1]。戦略的環境影響評価は、本質的に、プロジェクトの環境影響評価よりも幅広い活動や地域を対象とし、往々にして長期間にわたって行われる。戦略的環境影響評価は、ある部門全体(たとえば国のエネルギー政策など)あるいは一定地域(地域開発計画の場合など)に適用されることもある。戦略的環境影響評価の基本的段階は環境影響評価の手順と同様であるが[原注2]、その範囲が異なる。戦略的環境影響評価は、プロジェクトレベルの環境影響評価に代わるものではなく、その必要性を減ずるものでもないが、環境上の問題(生物多様性を含む)を意思決定プロセスに円滑に組み入れるのに役立ち、プロジェクトレベルでの環境影響評価をより効果的なプロセスにすることが多い。

1.目的と方法

2.本ガイドライン案の目的は、現行の環境影響評価手順がさまざまな方法で生物多様性を考慮していることに留意し、新規または現行の手順に生物多様性の問題を組み入れることについて、一般的な助言を提供することである。環境影響評価のスクリーニングとスコーピングの段階の取組については、既に枠組み案が作成されている。影響評価、影響緩和措置、評価及びモニタリングといった環境影響評価プロセスの次の段階や、戦略的環境影響評価に生物多様性の問題を組み入れるためには、この枠組み案をさらに発展させる必要がある。

3.各国は、その制度的・法的環境に利するよう、自国の必要性や要件に合わせてこの手順の各段階を設定しなおすことができる。環境影響評価のプロセスを効果的なものにするには、このプロセスを「付加的」なものとみなさず、現行の法制度策定プロセスに完全に組み込むことである。

4.CBDにおける生物多様性の定義は、植物、動物及び微生物を遺伝子レベル、種や群集のレベル、及び生態系または生息地レベル、さらには生態系の構成と機能という面から考察しているが、国内の法律及び手続きにおける「環境」という用語の定義に、これと同様の生物多様性の概念を十分に組み入れるべきことは前提条件である。

5.生物多様性の問題については、生態系アプローチが、活動案や政策案を評価するための適切な枠組みになる。この概念は締約国会議の決定第/6で示され、本条約(CBD)の枠組みの中でさらに推敲を検討しているものである。このアプローチにしたがって、問題の時間規模と空間規模を適切に判断するほか、提案されているプロジェクトや政策の影響を受けうる生物多様性の機能及びその機能の人間にとっての有形、無形の価値、適応型の影響緩和措置の種類、及び意思決定における利害関係者の参加の必要性を判断すべきである。

ラムサール条約:ラムサール条約の適用上、適切な空間規模は生態系よりも広い場合もある。湿地に関わる影響に取り組むには、特に河川流域(集水域)が重要な空間規模になる。また、回遊性の魚類や渡り性の鳥類など特に貴重な種への影響が問題となる場合には、該当する非在来種個体群の移動範囲(渡りルート)の規模で評価することがきわめて重要である。これにはおそらく生態系の鎖が含まれるため(生態系はおそらく連続しておらず分散)、通常の生態系アプローチよりも幅広い視野が必要になろう。

6.環境影響評価の手順は、他の関連する国内、地域、国際レベルの、法律、規制、ガイドライン、その他の政策文書を参考にすべきである。これには、国の生物多様性戦略及び行動計画書、CBD及び生物多様性に関連する条約や協定(特に、絶滅のおそれのある野生動植物の種の国際取引に関する条約(CITES)、移動性の野生動物種の保全に関する条約(ボン条約)及びその関連協定、特に水鳥の生息地として国際的に重要な湿地に関する条約、越境環境影響評価条約など)、国連海洋法条約、環境影響評価に関するEU指令、及び陸地起源の汚染から地中海を保護するための議定書などがある。

ラムサール条約:国内レベルでは、国家湿地政策(決議.6参照)がある場合にはそれも参考にすべきである。

7.戦略的環境影響評価を手段として用いて、生物多様性国家戦略・行動計画(NBSAP)と国の開発戦略の統合を進めることを考慮すべきである。この統合を進めることにより、NBSAPのプロセスを通じて保全の明確な対象を定めること、それらの対象を環境影響評価のスクリーニングやスコーピングの対象として用いること、及び影響緩和措置の策定にそれらの対象を用いることを図る。

2.環境影響評価の各段階における生物多様性の問題

(a)スクリーニング

8.スクリーニングは、どのプロジェクト案を影響評価の対象とするかを決定し、環境に有害な影響を及ぼす可能性の低いものを除外し、必要となる環境評価のレベルを示すのに用いられる。もしスクリーニング基準に生物多様性関係の尺度が含まれていなければ、生物多様性に重大な影響を及ぼすかもしれない案がスクリーニングをすり抜ける危険がある。

9.環境上の根拠から環境影響評価が法的に要求されたとしても、生物多様性が考慮されることが保証されるわけではないので、生物多様性に関する基準を既存または新規のスクリーニング基準に加えるよう考慮すべきである。

10.既存のスクリーニングの仕組みには次のような種類がある:

(a)環境影響評価が必要なプロジェクトを特定するポジティブリスト。環境影響評価の対象としないプロジェクトを特定するネガティブリストを用いている(または用いてきた)国も数か国ある。こうしたリストは、生物多様性の問題が組み入れられているかどうかを評価するために見直しを行うべきである;

(b)専門家による判定(限定的な調査を行う場合もあれば、そうでない場合もある。このような調査は、「初期環境調査」とか「事前環境評価」と呼ばれることがある);

(c)ポジティブリストと専門家による判定の組み合わせ。多くの活動においては環境影響評価を行うほうが適切であるが、環境影響評価の必要性を専門家が判定するほうが望ましい場合もある。

11.スクリーニングからは次のような結果が出る:

(a)環境影響評価が必要である;

(b)()限られた環境影響しか予想されないため、限定的な環境調査で十分である(この決定は、基準値や限界値を含む一連の基準に基づいて行われる);

()環境影響評価が必要かどうか依然として確定できず、環境影響評価が必要なプロジェクトかどうかを判断するために初期環境調査を行う必要がある;

(c)そのプロジェクトには環境影響評価は必要ない。

12.このガイドラインをどのように利用するか?

(a)環境影響評価を必要とするプロジェクトを特定するポジティブリストを使っている国は、生物多様性の問題に関して現行のポジティブリストを見直す手引きとして、適宜以下の添付文書1と2を利用する。各種の活動から生物多様性に生じうる影響を評価することによって、必要な場合には現行リストを修正することができる;

(b)専門家による判定に基づいてスクリーニングを行っている国の場合、これまでの経験からわかっていることは、専門家が「ミニ環境影響評価」を使ってスクリーニングの決定を下すことが多いことである。本ガイドラインとその付属書、及び国際影響評価学会から提出された情報文書など他のガイドラインは、こうした専門家に対して目的のはっきりした透明で一貫性のあるスクリーニングの決定をするための手段を提供できる。さらに、専門家グループには、生物多様性分野の専門家も加えるべきである;

(c)スクリーニングをポジティブリストと専門家による判定の組み合わせに基づいて行っている国の場合、その国のためのテーマ別、部門別のガイドライン(基準値や限界値が含まれていることが多い)があれば、担当者が十分な根拠をもとに、反論に耐えうる決定を行うことができる。生物多様性に関しては、テーマ別ガイドラインを策定することができ[原注3]、部門別のガイドラインについては生物多様性の問題に関する見直しが必要である。

スクリーニング基準

13.スクリーニング基準は、次の事項に関連したものになると考えられる。()活動の種類(活動の規模または介入の行われる地域の広さ、期間や頻度に関する限界値を含む)、()活動によって生じる生物物理的な変化の大きさ、()法的に特別な地位にあるか生物多様性の価値や固有性が高く、生物多様性にとって重要な地域、種のパターン、繁殖地、遺伝的価値の高い種が存在する地域を示す地図。

ラムサール条約:ラムサール条約湿地に影響を及ぼしうるプロジェクトは、上記スクリーニング基準のうち3番目のタイプの例にあたる。この判定基準は、生物多様性の点で重要な湿地だけでなく、ラムサール条約の基準に基づいて選定された湿地にも、適用されるべきである。

14.基準値や限界値を定めるというプロセスは、技術的な部分もあり政治的な部分もあるプロセスであり、その結果は国により、また生態系によって異なる。技術的なプロセスでは少なくとも以下についての記述を行う:

(a)生物の多様性に影響を及ぼす可能性のある活動の種類、及びこれらの活動から直接的、間接的に生じうる生物物理的な変化。次のような点を考慮して記述する。活動のタイプや性質、規模、範囲や場所、時期、期間、可逆性または不可逆性の別、影響が生じる可能性、その重要性。また他の活動や影響との相互作用の可能性も考慮する;

(b)影響が及ぶ地域。活動から生じる生物物理的変化を知ることで、プロジェクト対象地から離れた場所で影響が生じる可能性も含めて、こうした変化の影響が及ぶと考えられる地域を具体的に示したり予測したりすることができる;

(c)生態系や土地利用形態、それらを利用する価値と利用しない場合の価値を示した生物多様性地図(生物多様性の利用価値及び非利用価値を示したもの)。

ラムサール条約:影響が及ぶ可能性、及びラムサール条約に関連する価値に対するその影響の関連性や重要性を考える際には、生態学的特徴とリスク評価に関するラムサール条約の手引きを参照すべきである(決議.10などを参照)。

15.生物多様性国家戦略・行動計画を策定する過程では、保全の優先順位や対象といった貴重な情報が生み出され、これが環境影響評価におけるスクリーニング基準[原注4]の策定を進める際の指針となりうる。後掲の添付文書2には、今後各国が国内でスクリーニング基準を設定する際に実際に参考になるように、基準の一般的なリストが示されている。

ラムサール条約:このことは、国家湿地政策を策定するプロセスにもあてはまる(決議.6を参照)。

スクリーニングに関連する問題

16.CBDの目的、すなわち、生物多様性の保全と持続可能な利用、及びそこから生じる利益の衡平な配分を考慮し、環境影響評価に関する調査では以下のような基本的問題に答えておく必要がある:

(a)対象となる活動は、栽培品種、品種、種の個体群が絶滅する可能性、あるいは生息地や生態系の消失の可能性を増大させるような形で、物理的環境に影響を与えたり、こうした生物学的損失を招いたりするか?

(b)対象となる活動は、最大持続生産量、生息地や生態系の環境収容力、または資源、個体群、生態系への攪乱の程度が最大許容及び最小許容攪乱レベル[原注5]を超えないか?

(c)対象となる活動は、生物資源へのアクセスや生物資源に対する権利に変更をもたらすか?

17.基準を円滑に設定できるよう、上記の問題を多様性の三つのレベルに組み直し、後掲の添付文書1に掲載した。

ラムサール条約:ラムサール条約の目的、すなわち、湿地の保全の促進、湿地の賢明な利用の促進のほか、決議.10に定める湿地の生態学的特徴を維持するという黙示の目的についても、同じように考慮すべきである。上記の(a)及び(b)の問題ももちろん重要だが、湿地に関してはさらに次の二つの問題に答えなければならない:

(d)対象となる活動によって、湿地生態系の生物的、物理的、化学的構成要素やその相互作用(湿地及びその産物、機能、属性を維持するもの)に不均衡を生じさせるか(すなわち、ラムサール条約の下で定義された生態学的特徴に変化を生じさせるか)、

(e)対象となる活動は、ラムサール条約(勧告3.3、勧告4.10、決議.6など)で定義された「湿地の賢明な利用」という基本原則に反するという意味で、「賢明でない」利用にならないか?

(b)スコーピング

18.スクリーニングの段階で重要と判明した広範にわたる問題は、スコーピングによって焦点が絞られる。これは、環境影響評価の評価事項(ガイドラインと呼ばれる場合もある)を導き出すために行われる。またスコーピングにより、管轄当局(スコーピングが制度化されていない国の場合は、環境影響評価の専門家)は以下を行えるようになる:

(a)評価すべき重要な問題やその代替案を調査チームに示し、こうした問題や代替案をどのように調査すべきか(予測や分析の手法、分析の深さ)や、どのガイドラインや基準に従うべきかを明らかにすること;

(b)利害関係者に環境影響評価でその利害を考慮させる機会を提供すること;

(c)作成された環境影響評価報告書が政策決定者にとって有用であり、一般の人々が理解できるようにすること。

19.スコーピングの段階で、環境影響評価中に詳細に検討すべき有望な代替案が明らかになる場合がある。

20.次に挙げるのは、スコーピング、影響評価及び影響緩和措置を検討する際に繰り返す流れの一例を示したものであり、これを既存のデータや利害関係者間で得られる情報を利用しつつ実施すべきである:

(a)プロジェクトの種類、その性質、規模、場所、時期、期間、頻度を記述する;

(b)土壌、水、大気、動植物に起こると想定される生物物理的変化を記述する;

(c)提案されたプロジェクトから生じる社会的変化のプロセスの結果として起こる、生物物理的変化を記述する;

(d)各生物物理的変化による影響の、空間規模及び時間規模を判定する;

(e)特定された生物物理的変化によって影響を受ける可能性のある生態系及び土地利用形態を記述する;

(f)各生態系または土地利用形態について、生物物理的変化が次に挙げる生物多様性の構成要素に影響を及ぼすかどうかを判定する。構成要素(その内容)、時間的・空間的構成(生物多様性が時間的・空間的にどのように構成されるか)、主要なプロセス(生物多様性がどのように生み出され、維持されているか);

(g)生物多様性の機能で、利用されることによって、また利用されないことによって現在発揮されている機能、同じく利用されることによって、またされないことによって発揮される潜在的な機能のほか、生態系や土地利用形態によって与えられる生物多様性のあまり目に見えない長期的な利益を、利害関係者と協議して特定し、そうした機能が社会に与える価値を判定する(機能の例として、添付文書3を参照のこと);

(h)影響緩和措置を勘案し、提案されているプロジェクトによって重大な影響を受けるのは、上述の機能のうちどれかを判定する;

(i)各代替案について、見込まれる影響を回避するか最小限に抑える、あるいは埋め合わせるための影響緩和措置や代償措置の内容を決める;

(j)スコーピングに関する生物多様性チェックリスト(後掲の添付文書4を参照のこと)を利用して、どの問題が意思決定に関わる情報を提供し、現実的に調査が可能かを判定する;

(k)影響の重大さに関する情報を提供する(すなわち、検討した代替案に見込まれる影響に重みづけをする)。想定される影響を基準となる状況(ベースライン)と比較検討する(基準となる状況として、現在の状況、これまでの状況または外部の基準状況の場合が考えられる)。

ラムサール条約:ラムサール条約湿地の場合、「ベースライン」は、国際的に重要な湿地とみなされる根拠となった属性とは別の生態学的特徴に関するものでなければならない。つまりベースラインは目標となる状態(生態学的特徴)であって、管理計画の目標として掲げられたものでなければならない。このため、ベースラインは、登録時や更新時に湿地がたまたま最適の(目標の)状態を実現していた場合や、ほかにベースラインとして適当なものがない場合を除き、登録時(またはその後のラムサール情報票の更新時)に示された湿地の状態と必ずしも同じとは限らない。

(l)適切な場合には、影響が及ぶ地域の生物多様性に関する包括的な情報を収集するために、どのような調査が必要かを明らかにする。

21.提案されている活動(特定された代替案を含む)が引き起こすと想定される影響は、選択したいくつかの基準状態及び自然の展開(プロジェクトが実施されない場合に、長い将来にわたって生物多様性に何が起きるか)と比較する。何もしないことが場合によっては生物の多様性に重大な影響を及ぼすこともあり、ときには提案されている活動(劣化プロセスを押しとどめる活動など)による影響よりも悪い可能性があることを認識すべきである。

22.生物多様性の評価基準、特に生態系レベルでの基準は現在開発が遅れており、環境影響評価に生物多様性を組み込むための国内の仕組みを整備する場合には、これに対して真剣に注意する必要がある。

(c)影響の分析と評価

23.環境影響評価は、影響の評価、代替案の立案、比較を繰り返し行うプロセスでなければならない。影響の分析と評価における主な作業は次のとおりである:

(a)スクリーニングとスコーピングの段階で特定され、評価事項として示された潜在的影響の性質についての理解をより正確なものとする。これには、間接的な影響や累積的な影響、またそうした影響の原因となりうるものの特定が含まれる(影響の分析と評価)。この段階の重要な要素の一つとして、意思決定のための関連基準の特定と記述がある;

(b)代替案の見直し及び再立案、影響緩和措置の検討、影響の管理計画の策定、影響の評価、代替案の比較;

(c)環境影響評価報告書による調査報告。

24.一般に影響の評価では、その性質、規模、範囲及び効果の詳細な分析と、それらの重要性の判定(影響が利害関係者にとって受け入れられるか、影響緩和措置が必要か、まったく受け入れられないか)が行われる。生物多様性に関して得られる情報は、一般に記述的で限定的であり、数値的な予測の根拠としては使えない。影響評価に使える生物多様性についての基準を作成または編纂し、個々の影響の重要性を評価する際に対比できるような測定可能な基準や目標を定めることが必要である。生物多様性国家戦略・行動計画のプロセスで定められた優先事項や目標は、こうした基準を策定する際の手引きとすることができる。リスク評価の手法や予防的アプローチ、適応的管理を用いる際の基準など、不確実性を扱うための手法を開発する必要がある。

ラムサール条約:影響の性質、ラムサール条約に関連する価値に対するその関わりや重要性を考える際には、生態学的特徴及びリスク評価に関するラムサール条約の手引きを参照すべきである(決議.10などを参照)。

(d)影響緩和措置の検討

25.評価のプロセスで影響が重大であると判定された場合、影響緩和措置を提案するのが次の段階であり、これらはともに「環境管理計画」に盛り込まれることが理想である。環境影響評価における影響緩和措置の目的は、活動によるマイナスの影響を回避するか許容できるレベルまで軽減できるよう、そして環境上の利益が拡大するように、より有効なプロジェクトの実施方法を探ること、また、社会や個人が負担するコストがプロジェクトから生じる利益を超えないようにすることである。この場合の救済措置には、回避(または防止)、影響緩和(現地の再生や回復)、代償(防止や緩和を行ったあとに残った影響に関して行われることが多い)など、いくつかの形が考えられる。

ラムサール条約:ラムサール条約湿地に関する一定の状況において、湿地に及んだ影響の一部として湿地の減少または消失が起こる場合、代償についてはラムサール条約第4条2項の規定にしたがうとともに、決議.20によって採択されたガイドラインを適用する。

(e)報告:環境影響評価報告書

26.環境影響評価報告書は、次のことを支援するために作成される。()生物物理的環境及び社会経済的環境へのマイナスの影響を排除、または最小限に抑え、すべての当事者の利益がもっともコスト効果の高い方法で最大化されるように、プロジェクトを計画、立案、実施するよう提案すること。()政府または担当当局が、プロジェクトを承認すべきかどうかを、また適用すべき諸条件を決定すること。()プロジェクト及び地域社会や環境に対するその影響を一般の人々が理解すること、そして活動案に対する彼らの意見が政策決定者の考慮の対象となる機会を提供すること。マイナスの影響のなかには広い範囲に及ぶものがあり、影響が特定の生息地や生態系あるいは国の領域の範囲内にとどまらない場合も考えられる。このため、環境影響評価報告書に含まれる環境管理計画や戦略では、生態系アプローチを考慮しつつ、地域及び国境を越えた影響を考慮する。

ラムサール条約:複数の国にまたがる影響に関して、ラムサール条約締約国は、ラムサール条約第5条及び「ラムサール条約の下での国際協力のためのガイドライン」(決議.19)を考慮する。

(f)検討

27.環境影響評価報告書を検討する目的は、政策決定者に提供される情報が十分なものであって、重要な問題に重点が置かれ、科学的、技術的に正確なものであるようにし、起こりうる影響が環境面からみて受け入れられるものかどうか、計画が関連の基準や政策に適合しているかどうか、あるいは当局による基準が存在しない場合には、優良実践例の基準に適合しているかを確認することである。検討では、提案されている活動に関連して生じるあらゆる影響が特定されたかどうか、またそれが環境影響評価のなかで適切に扱われているかどうかについても考察する。このため、生物多様性の専門家を検討のために招聘し、当局による基準または優良実践例の基準をとりまとめ周知する必要がある。

28.少数民族も含め一般の人々の関与はプロセスのさまざまな段階で重要となるが、この検討の段階においては特にそれが重要である。すべての利害関係者の懸念や意見が検討され最終報告書に盛り込まれて、これが政策決定者に提示される。このプロセスによって、計画案は地元住民も共有するものとなり、関連する課題や問題への理解が深められる。

ラムサール条約:一般の人々の関与に関する手引きについては、「湿地の管理への地域社会及び先住民の参加を確立し強化するためのガイドライン」(決議.8)及び「ラムサール条約湿地及びその他の湿地に係る管理計画策定のための新ガイドライン」(決議.14)を参照すること。

29.また検討過程は、政策決定者がCBDの目的に適合するプロジェクトかどうかを判断するにあたって、十分な情報が環境影響評価報告書に盛り込まれていることを保証すべきである。

ラムサール条約:この段落は、必要な変更を加えたうえで、ラムサール条約に適用すべきである。

(g)意思決定

30.意思決定は、スクリーニングやスコーピングの段階から、データの収集・分析の過程での決定、代替案や影響緩和措置を選択するための影響予測、そして、プロジェクトの却下か承認かの決定に至るまで、徐々に規模を増しつつ環境影響評価のプロセス全体にわたって行われる。生物多様性の問題は、その全プロセスを通し、意思決定が行われるとき考慮すべき重要な要素でなければならない。その最終決定は、本質的には、プロジェクトを進めるかどうか、どのような条件で進めるかについての政治的な判断である。プロジェクトが却下された場合は、計画を見直したうえで再提出することができる。プロジェクトの提案者と意思決定機関は、二つの別々の主体であることが望ましい。

31.生物多様性に重大な害が及ぶリスクに関して科学的に不確実性がある場合、意思決定においては予防的アプローチをとるべきである。科学的確実性が高まるにしたがい、決定は修正することができる。

(h)モニタリング及び環境監査

32.モニタリングと監査は、プロジェクトの開始後、実際に何が起きているかをみるために行われる。予測される生物多様性への影響と同様、環境影響評価で提案された影響緩和措置の有効性もモニタリングする。適切な環境管理によって、予測される影響が予測の範囲内に収まるようにし、予期しない影響については問題化する前に対処して、プロジェクトの進行とともに、期待される利益(またはプラスの展開)が実現するようにする。モニタリングの結果から得られる情報に基づき環境管理計画の定期的な見直しや変更が行われ、またプロジェクトの全段階で優良実践例を通じて環境保護を最適なものにするためにもこの情報が使われる。環境影響評価によって生成された生物多様性に関するデータは、他者も入手して利用できるようにし、またCBDに基づいて立案、実施される生物多様性評価プロセスとリンクさせる。

33.環境監査は、プロジェクトの(過去の)実績を独立に調査、評価するものであり、かつ環境管理計画に対する評価の一環であり、環境影響評価の承認の決定の実効性を確保するのに役立つ。

3.戦略的環境影響評価への生物多様性関連事項の組み込み

34.環境影響評価に生物多様性関連事項を組み入れるために提案されたガイドラインは、戦略的環境影響評価にも適用することができるが、後者の場合は、新たな法律や規制の枠組みを策定する場合や(決定第/18第1節(c)及び第2節(a))、意思決定や環境管理計画策定の段階(決定第/18第2節(a))も含め、草案作成の初期段階から生物多様性の問題を検討すること、及び戦略的環境影響評価の性質上、より広い地域にわたるより広い活動に関わる政策や計画を対象とすることを重視する。

35.戦略的環境影響評価は、目新しいプロセスではないものの、環境影響評価ほど幅広くは実施されていない。各国での経験が蓄積されるにしたがって、このプロセスに生物多様性の問題を組み込むためのより具体的なガイドラインを作成することが必要になるかもしれない。

4.方法と手段

(a)能力育成

36.国の環境影響評価システムに生物多様性関連事項を組み込むための活動を行うときは、適切な能力育成活動も同時に行わなければならない。方法や技術、手順に関するそれぞれの地域特有の専門知識とともに、分類学[原注6]、保全生物学、生態学、伝統的な知識に関する専門知識が必要である。環境影響評価では、該当する生態系に関して幅広い知識を持つ生態学者を、評価チームのメンバーに加えるべきである。

37.評価担当者と生物多様性の専門家が、扱う問題について共通の理解を持てるように、生物多様性及び環境影響評価・戦略的環境影響評価の両方に関する研修ワークショップを設置することも推奨される。また学校や大学のカリキュラムを見直し、生物多様性の保全、持続可能な開発、環境影響評価や戦略的環境影響評価に関する教材が組み込まれるようにする。

38.生物多様性に関するデータは、生物多様性の専門家名簿を活用して、定期的に更新された利用しやすいデータベースとして整理する。

(b)法律上の権限

39.環境影響評価及び戦略的環境影響評価の手順を法律に組み込むこと、そして生物多様性等へのマイナスの影響を回避、軽減あるいは緩和する、環境面からみてもっとも健全で有効な方法をプロジェクトや政策の立案者が見出すための要件を明確にすること。これが実現できれば、立案者は、プロジェクトの承認段階よりも前、場合によってはスクリーニングよりも前といったきわめて初期の段階で、環境影響評価の手法を利用してプロジェクトや政策の立案プロセスを向上させられる。

(c)参加

40.適切な利害関係者やその代表、特に先住民社会及び地域社会は、環境影響評価に関するガイドラインや勧告の策定に参加することはもとより、意思決定を含め、彼らに関わる評価プロセスの全体にわたって関与すべきである。

ラムサール条約:地域社会や先住民などの利害関係者の参加に関しては、決議.8に基づいて採択された「湿地の管理への地域社会及び先住民の参加を確立し強化するためのガイドライン」及び「ラムサール条約湿地及びその他の湿地に係る管理計画策定のための新ガイドライン」(決議.14)を参照する。

(d)奨励措置

41.影響評価と奨励措置との連携については、締約国会議決定第/18で指摘されている。締約国会議は、この決定の段落6で、奨励措置の立案、実施の一段階として生物多様性の問題を影響評価に組み込むことを締約国に促した。影響評価プロセスとその実施を法的枠組みの中で支持することは、政策レベルで適用された場合には特に、生物多様性の保護や、場合によっては、その再生や回復のための奨励措置として作用することがある[原注7]。金銭などによる奨励措置も、プロジェクトの協議による承認パッケージの一部とすることができる。

(e)協力

42.地域協力はきわめて重要である。影響評価の基準や指標を作成する場合や、潜在的な脅威に対して早期に警告を与え、自然のプロセスと人間の活動の結果とを適切に区別する基準や指標を作成する場合などでは特に重要である。また地域内でデータの互換性を確保し利用しやすくするためには、情報の収集、集約、交換のための手法の標準化が必要である。特に本条約のクリアリングハウスメカニズムを通じ、ガイドラインの利用や、情報・経験の共有ができるようにする。

43.締約国会議の決定第/10Cの実施に対するフォローアップとして、本条約(CBD)と生物多様性関連の他の条約(特に、条約湿地や一定の種に関する拘束力のある協定を持つラムサール条約や移動性の野生動物種の保全に関する条約など)との協力、及び関連する組織や機関との協力が行われれば、環境影響評価・戦略的環境影響評価に生物多様性関連事項を組み込むための合意によるガイドラインは円滑に立案、実施することができる。こうした協力のアプローチはラムサール条約締約国会議の決議.16(「ラムサール条約と影響評価:戦略・環境・社会的影響評価」)にも具体的に示されており、こうした協力から、生物多様性に関わる諸条約のための影響評価に総合的に取り組む、包括的なガイドラインが策定される可能性もある。

44.CBDのクリアリングハウスメカニズムのようなインターネット上の情報資源により、利用可能な最善の手法や、情報や経験に関する有用な提供源についての理解が広まる可能性がある。したがって、環境影響評価に関する情報の提供や交換を目的とした、インターネットによる情報資源を整備し利用するべきである。

45.環境影響評価の実施担当者と生物多様性分野の科学者の情報交換は、緊急に強化する必要がある。ワークショップ、ケーススタディ評価[原注8]を通じて、こうした情報交換を拡大しなければならない。


添付文書1

生物多様性への影響のスクリーニングに関する問題

多様性のレベル

生物多様性の観点

生物多様性の保全(非利用価値)

生物多様性の持続可能な利用(利用価値)

遺伝子の多様性(1)

)対象となる活動は、社会的、科学的、経済的に重要な栽培植物または家畜及びその近縁種の品種、栽培品種、系統、遺伝子またはゲノムの局地的な消失を引き起こすか。

種の多様性(2)

)対象となる活動は、直接的、間接的に種の個体群の消失を引き起こすか。

)対象となる活動は、種の個体群の持続可能な利用に影響するか。

生態系の多様性(2)

)対象となる活動は、生態系や土地利用形態に深刻なダメージを与えるか、またはその完全な消失を引き起こし、生態系の多様性を減少させるか(間接的な利用価値や非利用価値の減少)。

)対象となる活動は、人間による利用が破壊的または持続不可能な方法で行われることによって、生態系または土地利用形態の持続可能な利用に影響を及ぼすか(直接的な利用価値の減少)。


(1)自然界における遺伝子の多様性が消失(遺伝子侵食)する可能性の判断はきわめてむずかしいため、正式なスクリーニングの手がかりとしては役に立たない。これが問題になるのは、個体数がきわめて少ないか、個体群がかなり分散していて絶滅の危機が大きいために法律で保護されている種(サイ、トラ、クジラなど)を扱う場合や、生態系全体が分断され、多くの種で遺伝子侵食のリスクがある場合(大型道路や鉄道をまたぐいわゆるエコダクトを建設する理由となる)のみと考えられる。こうした問題は、種のレベルまたは生態系のレベルで扱われる。

ラムサール条約:現在のところラムサール条約は、遺伝子の多様性の問題を直接には取りあげていない。

(2)種の多様性:「個体群」がどのレベルで定義されるかは、各国で使われているスクリーニング基準によって決まる。たとえば、保全に関わる特殊な地位を取得するプロセスでは、種の保全状況は国の領域内(法的保護の範囲)で評価されることもあり、地球規模(IUCNのレッドリスト)で評価されることもある。同様に、生態系がどのくらいの規模で定義されるかも、その国の基準の決め方による。

ラムサール条約:個体群の定義の参考として、水鳥に関しては、国際湿地保全連合の「国際水鳥個体数推定値」(2002年、第3版)で生物地理学的に適切な個体数が設定されている。検討の対象となる湿地が、一ないし複数の水鳥の個体群の1%を超える個体数を定常的に維持している場合には、対象となる活動が直接的または間接的に国際的に重要な水鳥の個体群の消失を引き起こす恐れがあるか、という問題が追加されうる。


添付文書2

スクリーニング基準

これはスクリーニング基準の概略を提案するもので、基準の詳細は国レベルで策定する。ここでは生物多様性に関する基準だけを取り上げているため、これを既存のスクリーニング基準に追加して使用する。

分類A:環境影響評価が義務付けられるもの:

基準が次のような正式な法的根拠に基づいている場合のみ、環境影響評価が義務付けられる:

· 国内法(保護種や保護区域に影響が及ぶ場合など);
· 国際条約(ワシントン条約、CBD、ラムサール条約など);
· 超国家的機関による指令(自然生息地及び野生動植物の保全に関する1992年5月21日発令のEU指令(92/43/EEC)や、野鳥の保全に関するEU指令(79/409/EEC)など)

環境影響評価が義務付けられる活動の例:

(a)遺伝子レベル(前掲の添付文書1のスクリーニングに関する問題に関連)

· 現地において、社会的、科学的、経済的に重要で、法的に保護されている栽培植物または家畜及びその近縁種の品種、栽培品種、系統、遺伝子、またはゲノムの消失を引き起こす(たとえば法的に保護されている栽培植物または家畜及びその近縁種の品種、栽培品種、系統に導入遺伝子を伝達する可能性を持つ遺伝子組換え生物を導入することによってなど)

(b)種レベル(前掲の添付文書1のスクリーニングに関する問題及びに関連)

· たとえば採取、汚染その他撹乱をもたらす活動によって、法的に保護されている種に直接的に影響が及ぶ;
· 生息地の減少、種の存続を脅かすような生息地の変更、保護されている種の捕食者や競争者、その寄生生物、外来種、遺伝子組換え生物の導入などによって、法的に保護されている種に間接的に影響が及ぶ;
· 渡り鳥の中継地、回遊魚の繁殖場、ワシントン条約によって保護されている種の商業取引などの重要な事例に関して、上項にあげたすべてに直接的、間接的に影響が及ぶ;
· 法的には保護されていないが絶滅の恐れがある種に直接的、間接的に影響が及ぶ。

(c)生態系レベル(前掲の添付文書1のスクリーニングに関する問題及びに関連)

· 法律による保護区域に位置している;
· 法律による保護区域の周辺に位置している;
· 法律による保護区域への排出、区域内を流れる地表水の水路変更、保護区域にまたがる帯水層の地下水の取水、騒音や光などによる撹乱、大気汚染などによって、その保護区域に直接的な影響がある。

分類B:環境影響評価の必要性またはレベルについての判定を要するもの:

環境影響評価を求める法的な根拠はないが、提案されている活動が生物の多様性に重大な影響を及ぼす可能性が疑われたり、不確実性を解消したり限定的な影響緩和措置を立案するために限定的な調査が必要となると考えられる場合。この分類には「影響を受けやすい地域」が含まれるが、この概念はよく引き合いに出されるものの、用いるのはむずかしい。いわゆる「影響を受けやすい地域」が法的な保護の対象となっていない以上、この考え方を実際に用いるのはむずかしいため、ここではより現実的な代替手法を示す。

次に挙げる基準の区分は、生物多様性に及びうる影響を示している。したがって特に注意が必要である:

(a)おそらく生物多様性と関係があると思われる法的地位を持つが、生物多様性が法的に保護されていない地域またはその周辺における活動、またはその地域に影響を及ぼす活動(前掲の添付文書1における5つの問題すべてに関連)。たとえば、ラムサール条約湿地は国際的に重要な湿地として正式にその価値が認められているが、この認識が自動的にこれらの湿地における生物多様性の法的な保護を意味するわけではない。別の例として、先住民の社会や地域社会、採取が認められている保護区、景観保護地域、ユネスコの生物圏保護地域や世界遺産地域などの自然や文化遺産の保全に関する国際条約の対象となる地域に位置する地域などがある;

(b)生物多様性への影響がありうるか、影響の及ぶ可能性が高いが、法律上は必ずしも環境影響評価の実施は必要とされない:

()遺伝子レベル:

· 遺伝子組換え生物の導入を含め、新たな品種による、農業、林業、水産業における品種・系統の交代(スクリーニングに関する問題及び)。

()種レベル:

· 非在来種を導入するすべての場合(問題及び);
· 影響を受けやすい種や絶滅の恐れのある種がまだ保護されていない場合(絶滅の恐れのある種についてはIUCNのレッドリストがよい参考になる)、影響を受けやすい種が固有種やアンブレラ種の場合、分布域の辺縁部に生息しているか分布域が限られている場合、急速に減少している種の場合に、これらの種に直接的、間接的に影響を及ぼすあらゆる活動(問題)。地域の生計や文化にとって重要な種には、特に注意する;
· 種を直接的に利用するあらゆる採取活動[漁業、林業、狩猟、植物採取(生きた植物資源及び動物資源を含む)など]。(問題);
· 種の個体群の生殖隔離につながるあらゆる活動(道路や鉄道など)。(問題

()生態系レベル:

· 生物多様性が依拠する資源の利用に関わるすべての採取活動(地表水・地下水の利用、粘土、砂、砂利などの露天採掘など)。(問題及び);
· 土地の開墾または湛水を含むすべての活動(問題及び);
· 環境汚染を招くすべての活動(問題及び)。;
· 人の移住をもたらす活動(問題及び);
· 生態系の生殖隔離につながるすべての活動(問題);
· 社会にとって価値のある生態系の機能に重大な影響を及ぼすすべての活動(自然がもたらす機能のリストについては、後掲の添付文書3を参照)。これらの機能のなかには、比較的重要視されていない分類群に依存しているものがある;
· 多様性の高い地域(ホットスポット)、多数の固有種や絶滅危惧種を含む地域、原生の自然が残る地域、移動性の種にとって必要な地域、社会的、経済的、文化的、科学的に重要な地域、あるいは代表的な、固有の(希少種や影響を受けやすい種を産する)または進化等の重要な生物学的プロセスに関係するなど、生物多様性にとって重要であるとして知られている地域でのすべての活動(問題及び)。

分類C:環境影響評価を必要としないもの

分類AにもBにもあてはまらない活動、または初期環境調査後に分類Cに指定された活動。

本ガイドラインの一般的な性質として、生物多様性の観点から環境影響評価が必要とされない活動の種類や地域を特定することは難しい。しかし、国のレベルでは、生物多様性への配慮が重要でない地域と、反対に、配慮することが重要な役割を果たす地域(生物多様性が影響を受けやすい地域)を指摘することができる。


添付文書3

生物の多様性から直接的(動植物)または間接的(水の供給など生態系が提供する公益的機能)に得られる自然環境の機能の例

生産機能

自然による生産
· 木材生産
· 薪炭材生産
· 収穫可能な草の生産(建築用及び工芸用)
· 天然飼料・肥料
· 収穫可能な泥炭
· 二次的(副次的)生産物
· 収穫可能な野生動物の肉(食用)
· 魚介類の生産
· 飲料水の供給
· 灌漑用水及び工業用水の供給
· 水力発電用水の供給
· 他の景観への地表水の供給
· 他の景観への地下水の供給

人間による自然をもとにした生産
· 作物の生産
· 植林地の生産
· 育成林の生産
· 放牧地・家畜の生産
· 水産養殖の生産(淡水)
· 海洋養殖の生産(汽水・海水)

収容機能
· 建設地としての適性
· 先住民の居住地としての適性
· 農村居住地としての適性
· 都市居住地としての適性
· 工業への適性
· インフラストラクチャーへの適性
· 輸送インフラストラクチャーへの適性
· 海上輸送・航海への適性
· 陸上輸送への適性
· 鉄道輸送への適性
· 航空輸送への適性
· 電力供給への適性
· パイプライン利用への適性
· レジャー及び観光活動への適性
· 自然環境保全への適性

処理・調節機能

土壌に関わる処理・調節機能
· 有機物の分解(地上における)
· 土壌の自然脱塩
· 酸性硫酸塩土壌の形成・防止
· 生物学的調節機構
· 季節ごとの土壌浄化
· 土壌の保水力
· 洪水に対する沿岸の保護
· 沿岸の安定化(成長・侵食の防止)
· 土壌保護

水に関わる処理・調節機能
· 水の濾過機能
· 汚染物質の希釈機能
· 汚染物質の排出機能
· 放流・浄化機能
· 水の生化学的・物理的浄化
· 汚染物質蓄積機能
· 洪水調節のための流量調節
· 河川の基底流量調節
· 保水力
· 地下水涵養力
· 水収支の調節
· 堆積力・保持力
· 水食防止
· 波食防止
· 塩水地下水の侵入防止
· 塩水地表水の侵入防止
· 疾病の伝染

大気に関わる処理・調節機能
· 大気の浄化
· 空気による他の地域への移動
· 大気への光化学作用(スモッグ)
· 風除
· 疾病の伝染
· 炭素隔離

生物多様性に関わる調節機能
· 遺伝子、種及び生態系の組成の維持
· 水平的・垂直的空間構成及び時間構成の維持
· 生物多様性の形成や維持に重要なプロセスの維持
· 送粉活動の維持

意味を表す機能
· 文化・宗教・科学・景観に関する機能


添付文書4

提案されているプロジェクトが生物多様性の構成要素に及ぼす影響を特定するためのスコーピングに関する生物多様性チェックリスト(一部)


生物多様性の構成要素

構成要素

構成(時間的)

構成(空間的:水平及び垂直)

主要なプロセス














存続可能最小個体群(同系交配・遺伝子侵食による絶滅の回避)

地域の栽培品種

遺伝子組換え生物

ある個体群内で遺伝的多様性が高い時期と低い時期の周期

自然の遺伝的変異性の分散

農作物品種の分散

個体群間における遺伝物質の交換(遺伝子流動)

突然変異による影響

種内競争





種の構成、属、科など、稀少性・豊富さ、固有性・外来性

個体数及び個体群動態

既知の主要種(基本的役割)

保全状況

季節、月齢、潮汐、日周によるリズム(移動、繁殖、開花、葉発生など)

繁殖率、繁殖性、死亡率、増加率

繁殖戦略

種の存続に必要な最小面積

移動性の種にとって必要な地域(中継地)

生態系内のニッチの要件(基質選択性、生態系内での階層)

相対的隔離性または絶対的隔離性

捕食、草食、寄生などの調節機構

種間の相互作用

種の生態学的機能







生態系の種類及び表面積

独特さ・豊富さ

遷移段階、既存の撹乱と動向(=自然の展開)

通常のリズム(季節リズム)への適応・依存

変則的事象(干ばつ、洪水、寒気、火災、風)への適応・依存

遷移(率)

景観要素間の空間的関係(局所及び遠隔)

空間分布(連続的または非連続的・パッチ状);

生態系の存続に必要な最小面積

垂直的構成(層状、水平、階層状)

生態系そのものの維持または他の生態系にとって主要なプロセスの構成



[原注]

1.Sadler and Veheem, 1996 による。
2.Saddler and Verheem, 1996; South Africa, 2000; Nierynck, 1997; Nooteboom, 1999.
3.世界植物保全戦略の提案に関して事務局長から提出された覚書で、いくつかの具体的な対象が提案されている(UNEP/CBD/SBSTTA/7/10)。
4.Treweek, 2001 による国際影響評価学会IAIAの情報文書(囲み2)に概要がある。
5.たとえば火災の場合には、その頻度が高すぎても低すぎても、生態系の完全性や健全性を維持できないことがある。
6.世界分類イニシアティブ及びその活動案(締約国会議決定第/9及び科学上技術上の助言に関する補助機関による勧告/6)を参照。
7.UNEP/CBD/COP/4/20 及び UNEP/CBD/SBSTTA/4/10.
8.UNEP/CBD/COP/5/INF/34を参照のこと。


ラムサール条約第8回締約国会議の記録 [和訳:『ラムサール条約第8回締約国会議の記録』(環境省 2004)より了解を得て再録,2005年,琵琶湖ラムサール研究会.]
[レイアウト:条約事務局ウェブサイト所載の当該英語ページに従う.]

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