大帝ラー・デウスが座し、リー・ケフレンの待つ広間へとレー・ワンダは向かっていた。
今まで何百回となく繰り返してきた行為。
通路の先、広間の中央に立つリー・ケフレンの後ろ姿が目に入ったとき、ワンダは足を止めた。
ほの暗き広間の中で一際暗い影が屹立している。
遺伝子シンセサイザーの放つきらめきが、かえって黒々と形を浮かび上がらせている。
ワンダはゆっくりと広間に足を踏み入れた。
影はまだ動かない。
ワンダは広間の中を見渡した。
「ガルス」
低い声で呼びかける。
「ウルク」
「キルト」
「…ネフェル」
答えは返らない。
今、ケフレンの後ろには自分しかいない。
ギリ、と手を握りしめる。
「俺しか」
この方を守るものはいない。
「遅いぞ、ワンダ」
常と変わらぬ、静かな、抗いがたい声が飛ぶ。
「は、申し訳ありません」
頭を下げる。
(お父様)
ネフェルの叫びが耳を離れない。
作りしものと作られしもの。
畏れ以外の何も抱いていなかったはずなのに。
戦うためだけにできあがった命たち。
ただ、互いへの敵対心しかなかったはずなのに。
この場に、他の何かが生まれていたというのか。
改造装置の中に自ら身を進める。
ケフレンに掴まれた肩が、じんと熱を持つ。
振り返り、黒い静かな瞳と目が合った。
ワンダの口元に笑みが浮かんだ。
ケフレンは頷き。
わずかの間、目をつぶり。
シンセサイザーの上に指を滑らせた。