教室

(仮面ライダー響鬼)

(注)このSSは、某成人向けの場所で、別の方が「朝早い教室でひとみが明日夢に迫り、二人がキスしたときあきらが入ってきた」という導入部分のみ書かれた後を続けたものです。若干ピンク色なのでご容赦を。

人気のない教室で明日夢とひとみが唇を重ねた瞬間、あきらが扉を開けた。

「ぁあぁ、あま……っ!?」
明日夢はあわててとびずさろうとする。
が、ひとみは明日夢の二の腕をしっかりとつかみ、取りすがってきた。
「う、うわっ」
ガターン
バランスを崩した明日夢はかろうじて椅子の上に尻餅をつき、ひとみがもたれかかる格好になる。
「持田……」
ひとみの眉根はぎゅっと寄せられ、大きな黒目が潤んでいる。長いまつげがふるふると揺れていた。
「ぃゃ……」
かろうじて聞き取れる細い声をつむぎだし、唇が再び寄せられた。
ほの暖かく、柔らかい感触が明日夢の唇に伝わる。
焦点がぼやけ、明日夢にはもうひとみの表情がよくわからない。
不意に人が近付く気配がして、明日夢は必死に横目を使った。
いつの間にかすぐ横に来ていたあきらがかがみ込み、スティックを拾い上げると机の上に置いた。
口元はきゅっと引き結ばれている。
あきらは無言のまま明日夢の視界から消えようとした。
明日夢は思わず首を巡らそうとした。
と、急に走る痛みに顔をしかめる。
ひとみが明日夢の腕をさらに強くつかみ、爪が食い込んだのだ。

必死に唇を押しつけてくるひとみ。
かすかに開いたすき間からふっと息が漏れる。
明日夢はおずおずとついばむように応えはじめた。
ふわふわと柔らかいものが触れ合う気持ちよさがじわじわと広がっていく。
今さらのように、自分の心臓がドキドキと派手に打っていることに気付く。
わずかに顔の角度を変えると、ふっとひとみの唇が半開きになった。
明日夢は誘い込まれるように自分の舌を伸ばした。
唇よりもずっと暖かく、とろりと柔らかいものに触れる。
一瞬ひとみが体を硬くする。
だがひとみは逃げなかった。
暖かく柔らかく、ぬるぬるとしたものが触れ合う感触に二人は酔いしれていた。

と。
ガシャーン!!
甲高い音が教室に響き渡る。
明日夢とひとみはビクッと体を離した。
「おー、天美じゃん、めずらしー。どしたん」
「えっと……ペンケース落としちゃって」
会話と同時に男子生徒が教室に入ってきたときには、明日夢とひとみは何ごともなかったように自分の席に座っていた。


授業中、明日夢は隣のあきらの表情をそっとうかがったが、あきらは毅然と前を向き続けていた。
その斜め前の席のひとみがふと振り向き、目が合う。
恥ずかしそうに、だが嬉しそうににっこりと笑う。
明日夢も思わずえへへ、と笑い返した。
視線を落とすと、半袖シャツからのぞく自分の二の腕に、小さな桃色の半月型の跡がぽつぽつと残っていた。


その日最後の化学の授業の後、名簿で番号が一番上に来る明日夢とあきらは実験器具を理科室に返しに行った。
かちゃかちゃと手際よく試験管を片付けていくあきらの横で、明日夢は声をかけたものだかどうか戸惑っていた。
(ペンケース落としたのってたぶん僕たちに人が来たって知らせるためだったんだろうけど、ありがとうっていうのも変だよな。ごめんっていうのも変だし……)
「安達くん」
「うわっはいっ」
急にあきらの方から声をかけられて、明日夢は悲鳴のような返事をした。
あきらは初めて出会ったときと同じようなキッとした目で明日夢を見ていた。
「あんな、いつ誰が来るかわからないところで、あんなことするなんて、考えなさ過ぎじゃない」
「あ、うん、ごめん」
何に対してごめんなのだか、とにかく明日夢は反射的に謝った。
「それに……隙あり過ぎだと思う」
「え?」
いきなりあきらは明日夢の両肩をつかみ、ぐいと押した。
明日夢はよろめいて後ずさり、どんと背中が壁に当たる。
「たっ」
声を上げようとした明日夢の口をあきらの唇がふさぐ。
ひとみに負けないくらいふっくらとした唇が、明日夢のそれに押しつけられていた。
そしてその感触とは別に。
明日夢の体に、弾力のある柔らかい感触が伝わってくる。
(うわ、こ、これって……?)
ようやく状況が飲み込めたとき、あきらが離れた。
「じゃ、また明日」
言い残して颯爽と理科室の扉を開けた。
残された明日夢はずるずると背を壁に預けたまま座り込んだ。
もっちー派かあきら派か。
耳の奥で敬愛する鬼のからかいの言葉が浮かんでくる。
「どっちも、そんなんじゃなかった……はずなんだけどなあ……」
少年は深く深くため息をついたのだった。

後書き   

BACK