のぞく

(仮面ライダー響鬼)

 ヤマアラシの妖姫の針に傷ついたあきらを抱きかかえ、トドロキは山の斜面を駆け下りた。
 烈雷をつかんだイブキが後に続く。
 勾配が緩やかになり、ようやく緑色の雷神のボディが見えてきた。
 ザンキが車体に腕を組んでもたれている。
 「ザンキさーん!」
 トドロキの叫びに腕組みをとき、上を見上げる。

 二人の鬼が斜面を降りきるやいなや、ザンキは雷神のドアを開ける。
 「やっぱり奴ら、落ち合ったんだな」
 言いながらシートのリクライニングを倒す。
 「はい!」
 「あきらが怪我を!」
 ザンキがうなずく。
 トドロキがあきらをそっとシートに横たえた。
 「あきら、あきら!」
 イブキが駆け寄り、呼びかける。
 「イブキ、揺らすな。トドロキ、怪我の場所はどこだ」
 「左足ッス。ヤマアラシの妖姫の針が刺さったのに、俺に必死になって烈雷を……」
 「細かい話はいい。ヤマアラシの針なんだな」
 ザンキの片眉が跳ね上がった。

 雷神の後部から、救急箱ともうひとつ小さな包みを取り出す。
 「イブキ、のいてくれ」
 あきらの横にかがみ込んだザンキが手にしたのはサバイバルナイフだった。
 「えっ、何するんです?」
 「ザンキさん!」
 二人の悲鳴のような叫びを意に介さず、ザンキはナイフの刃をあきらのデニムパンツのすそに当てた。
 ビビビビビーッ
 ちゅうちょなく、腰のあたりまで切り開く。
 あらわになった白いふともも。
 その白いキャンバスに、刷毛で乱暴に一塗りしたような赤。
 布地でこすれて広がっているが、三つの穴からまだじわじわと血が流れ出ている。
 痛ましい、はずなのに。
 どこか官能的な光景が目の前にあらわれ、イブキとトドロキは言葉を失っていた。

 いきなりザンキがあきらのふとももに吸い付いた。
 「……え……?」
 「う、うわ、ザンキさん?」
 ややあって、ザンキは足下に赤く濁ったつばを吐き出した。
 「……毒!?」
 イブキは蒼白になった。
 同じ行為を何度か繰り返し、最後にミネラルウォーターで口をすすぐと、ザンキはようやく立ち上がった。

 「あきらは?大丈夫なんですか?」
 イブキの必死の問いかけにザンキはうなずきながら救急箱を開ける。
 「鬼の俺たちはちょっと痺れるだけだがな。あきらはまだ鬼じゃないから、念を入れただけだ」
 あきらの傷を濡らしたタオルでぬぐい、包帯を巻き始める。
 「だができればここへ運ぶ前に、処置したほうがよかったな」
 「す、すんません!」
 トドロキが深々と頭を下げる。
 「ヤマアラシとやるの初めてじゃないのに、全然気ぃ回らなくって」
 「僕こそ、すっかりあわててしまって、すみませんでした」
 「いやいや、俺が悪いッス」
 「いや、師匠である僕がしっかりしないと」

 「……おいおい」
 あきらの下半身を毛布でしっかりくるみながら、ザンキが苦笑いする。
 「米つきバッタみたいになっている場合じゃないんじゃないか、二人とも」
 「あ、そうですね。じゃあ僕は竜巻を拾ってこっちに回してきます。あきらのこと頼みます」
 イブキが駆け出すと、トドロキも
 「じゃあ俺は烈雷のカバーを」
 と飛び出しかける。
 「おまえは状況報告」
 「……ですよね。とりあえず、着替えてきます」
 トドロキは替えの服をつかむと、やはり寝ているとはいえあきらのそばで 変身解除するのは抵抗があるのか、近くの藪に飛び込んだ。
 「ったく、トドロキはともかく、イブキもまだまだ青いな」
 ザンキはそういってにやりと笑ったのだった。


 おまけ

 一件落着の後。

 イブキ「あきらの様子見ていただいてありがとうございました。
     ……で……なんにもしていませんよね……?」

 ザンキ「…………未成年は守備範囲外だ」

 おしまい。

後書き   

BACK