契約

〜KNIGHT SIDE〜

《お前は何を賭ける》
見慣れた街の風景の中で
見慣れない生き物が跋扈する世界。
黒い大きな翼を持ったモンスターは俺にそう聞いた。
この世界に足を踏み入れたとはいえ、ろくな力を持たない俺を、
その気になれば引き裂くのはたやすいことだったろう。
襲ってくれば「封印」のカードを使うしか助かる道はないが、
俺は「契約」だけを手にして、あいつを見据えた。

「俺の命」
俺の答にあいつの目が一瞬強く光った。
バサバサと翼をはためかせ、キィと発せられた声が、笑っているように聞こえた。
そしてあいつは頷いた。
《是》
目の前で広げられた大きな翼。
ゆっくりと俺を包み込む。
熱く冷たい感触が俺の中を走り抜けた。
くすんだ濃灰色だった俺の体は艶のある漆黒に変わっていた。


他人の手のひらの上で踊らされているだけだとわかっていても、
俺はこのゲームに乗らなければならなかった。
俺の目的のために。
そのためには
俺の繰り出すカードに従い使役される
あいつが必要だった。
たとえあいつが…

戦い終えて『こちら側』に戻り、膝から崩れ落ち地をつかむとき、
いつもあいつの視線を感じた。
静かに嗤っている…


とうとうライダーと戦う日が来た。
覚悟はできていた。
…はずだった。
だがあの男が使役していたモンスターに喰われる様を
俺は見ていることが出来なかった。
あれは、俺の未来の姿でありえるのに。
真っ先に俺を襲うであろう化け物に、俺の背中を守らせている。
それを押さえ込んでいるのが、ちっぽけな紙切れ一枚。
わかっていたはずなのに。
内蔵を掻き回されたようになり、足がよろめいた。
目の前に、力を蓄え、枷を外した化け物が迫っていた。


戦いの後に残された大きな力。
あいつがそれを喰らい、また強くなる。
俺が倒れれば、巨大な力の化け物を野に放つことになる。
俺は…
勝ち続けなければならない。

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