疑念

奴がまた、白い建物の中の、あの雌のところへ行く。
いつも以上に多くのニンゲンが、横たわる雌の周りを走り回り、奴は身体をこわばらせる。
奴が別の部屋に入っている間に、俺は「向こう側」に滑り込む。
ツン、と鼻にくる嫌な臭い。
そして…ほんのかすかに、「こちら側」の気配が雌の横に残っている。
「こちら側」の…だが、俺たちのものではない気配。
あいつか…あの仕掛け人が…
どうやら「終わり」を早めようとしているらしい。
奴と…俺にとっての「終わり」を。


奴に残された道は、あの雌が本当に屍になる前に、他の「ライダー」たちを全部倒すこと。
ずいぶんとまた、厳しいものだ。
今までかかって、奴はまだ1匹しか倒せていない。
あと何匹残っている?

やるつもりなら、急げ。
今まで走り続けてきた、その愚かしい理由を、失ってしまいたくないのなら。
俺を絡め取り、多くのやつらを潰させてきて…
足を止めれば、俺がお前を喰らう…。
初めに決めた。俺は、そう決めた…。


奴が最初に標的にしたのは、赤い龍との契約者。
奴と同じ巣に棲み、言葉を交わし続けてきた相手。
俺には所詮、ニンゲンの考えることなんてわかりはしない。
お前が戦うというなら、その手段となるだけだ。

だがお前に…

いや。
お前は走り続けるしかない。

そいつさえ倒せば。
お前は、たぶん、きっと…


湿った空気を、俺の翼が打ちはたく。
赤い龍が、宙に身をうねらせる。
そのつもりも無いのに、馴染みになった猛き獣。
俺たちの下で、二色の「ライダー」がカードを抜き出す。
俺と龍は空を舞い、それぞれの契約相手に、得物を落とす。

飛び散り続ける、火花。

奴が、あのカードを取り出し、青と金の姿となる。

俺は、ただ次の指示を待つ。

赤い「ライダー」が、一枚のカードを取り出した。
渦巻く…力。
湧き起こる炎。
奴の風巻くカードと対となる、
火群立つカード…。
赤い「ライダー」は姿を変えた。
目の前の龍も、苦しげに身をうねらせ、見知らぬ姿となる。
こいつも…受け入れたというわけか。

まったく…。
そもそも、俺と龍とでは、基本的な力量が違いすぎる。
相手も異能のカードを手にしたからには、
俺のほうが分が悪い。

やはり、赤い「ライダー」が戦い慣れないうちに、潰しておくべきだったのだ。
本当に生き残るつもりだったのなら。

またしても…けりをつけそびれたな…。

気がつけば…俺の口から声が漏れていた。
奴に…届いただろうか…。

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RYUKI