何度目かになる「ライダー」同士の果たし合いで、奴は相手の喉元に得物を突きつけながら、とうとうそれを振り下ろさなかった。
瞬く間に相手に逆襲されて、無様に地に転がる羽目になる。
俺に「こちら側」の連中をさんざん殺させておきながら、自分はニンゲンを殺せないというのか。
「向こう側」に戻り、皮を脱ぎ、這いつくばり…
奴は何度も地を叩き、わめき声を上げた。
お前はそんな声で啼くのか…。
俺の身体の中をじりじりと飢えが這いのぼりはじめる。
俺のいらだちにはお構いなしに、奴は無闇にうろつきまわるだけだ。
あのニンゲンの雌…
俺が最初に目を付けた、うまそうな雌のところへは結局行かなかったが。
わかっているだろう。
これはゲームだ。
お前はこういうルールだとわかって飛び込んだはずだ。
おのれの命をチップにして。
ほら、また「こちら側」のやつ…俺たちの獲物があらわれた。
ゲームを続けるため、俺の飢えを満たすため、さっさと変わるがいい。
だが、他の「ライダー」連中が姿を変えても、奴はカードを握ったまま…
とうとうその場にへたりこんでしまった。
俺は後ろから奴を見つめる。
奴は弱々しくうつむき、細い首が俺の目に晒される。
…喰らうなら今だ。
俺は奴のすぐ後ろに近寄った。
今、奴の背には、憎しみに満ちた目で俺を睨みつけた愚かしくも力強い覇気はどこにもない。
その首を前にして。
どういう訳か。
俺は小さく声を上げた。
奴は動かなかった。
聞こえたのか、聞こえなかったのか。
背がかすかに震えているようだ。
俺は俺の中の飢えを押さえ込んだ。
まだだ。
まだだ。
もう少しだけ待ってやる。
俺は大きく翼を広げた。
そしてそのまま。
奴に触れず。
奴と俺は、ただ、その場に佇んでいた。