今は昔…

1994年5月10日、産地にて
バナナ農園では、隙間を利用した自給自足用野菜が栽培され、アヒルや鶏も放し飼いにされていて、相変わらずのどかな風景である。農薬を多用する大産地のプランテーションとの違いは歴然としている。肥料に関しても、水源とする河川の堆積泥や鶏糞を主体としており、自然のままの有機栽培臭がある。
バナナ果実の生育状況は昨年末の冷害の影響もなく、色つや、実太りともに良好で、1コンテナ分(14t)の集荷について、すでに各農家との話し合いがされていた。果品食雑公司の白氏曰く「買い付け価格を通常の2倍にして良品のみを集荷する。専用段ボール箱、内袋、緩衝材とうの手配も万全。これで、6月2日の初出荷に向けての準備は整った。」

1994年5月31日、公司にて
ローヤルの相川氏による産地スタッフとの打ち合わせ会議が始まった。はじめに、産地側責任者の白氏から前回会議の確認事項に従って現状説明が行われた。
・バナナの生育状況はきわめて良好である。
・昨年植え付けた株は栄養状態も良く、大きな台風がなければ今年は豊作となる。
・集荷するバナナの規格については特定農家たちに周知徹底した。
・収穫後の果実の傷みを最小限にするため、特に刈り取り段階から丁寧に扱う。
・作業時間短縮のため、産地での選別は行わず、集出荷場に検査官を配置し検品する。
・作業行程は、房落とし、水洗い、水切り、乾燥、箱詰の順に行う。
・段ボール箱の底に厚紙を敷き、内袋をセットして、1房ごとに緩衝材を用いる。
・初めての経験であり、作業は前日(6月1日)の午後から開始する。
・6人のスタッフが現地に張り付いて作業指示を行う。
・集出荷場の清掃や段ボール箱(1200箱)の組み立てはすでに完了している。
・衛生検査、植物検疫ののスタッフは明日到着する。
・Kラインのコンテナ手配について不明な点が数点残る。
次に、これを受けて、相川氏より以下のアドバイスが与えられた。
・収穫からコンテナ収納までの時間短縮を最優先して作業効率を考えること。
・内袋は使いかたを間違えるとバナナを蒸らす危険性があるため、今回は使用しない。
・Kライン手配については井口氏の到着を待たねば分からない。

1994年6月1日、集出荷場にて
広東バナナの収穫が始まった。集出荷場には刈り取ったバナナを満載した小舟が次々と集まってくる。乗っているのは日に焼けた裸足の農民たちである。検査官は入り口近くに机を構え、椅子に座して待っている。机の前には大きな秤が置かれ、農民たちは大切にバナナを船から降ろして秤に載せていく。検査官は基準に合うバナナのみを選り分けて伝票を仕切っていく。農民たちにとっても緊張の一瞬である。
入荷したバナナは房ごとにカットされ、先端の花柄を落としてから水洗いされる。それぞれの行程に相川さんの目が光り、自ら実演しながら指導をしている。段ボールに規格通りのバナナを詰めるには相当な熟練を要する。
箱詰めには7〜8人が従事しているが、一向にはかどらない。50ケースを箱詰めして休憩に入った。「こんな調子では、1200ケースの梱包は不可能だ!」不安がよぎる。
白氏は「没問題」(メイウエンティ、問題なし)と言い切ったが、彼自身も不安であることに変わりはない。夕刻までに400ケースを完了したが、さらに夜間に200ケースを箱詰めしきらないと明日の出荷に間に合わない。

1994年6月2日、集出荷場にて
この日も朝から順調にバナナは入荷し、箱詰め作業の手も早くなり、正午には1200ケースの箱詰めが完了した。しかし、この集出荷場は大型トレーラーの進入路は無く、ここから積み込み場所までは、再び水上輸送である。どうやら、天気の方も夕方まで持ちこたえてくれそうな気配。4艘の小船が用意され、ピストン運航が始まった。
が、ここでトラブル発生、約束の時間を過ぎても肝心のコンテナが来ない!はるか彼方に伸びた直線道路の先を見つめて待つこと3時間30分。大型トレーラーが到着したのは暗くなり始めた午後7時。午後10時までに中国側の税関を通らなければ、香港での船積みに間に合わない。「さあ急げ!」、しかし、待機していたはずの作業員はいつの間にか半数近くに減っている。それでもかまわず作業開始、水路から道路上のコンテナまでは5m近い落差がある。徐々に作業員は戻り、バケツリレー式にバナナの箱が上がっていく。通常ならば、自ら手を汚すことのない中国人スタッフたちも我々と一緒に積み込みを手伝っている。真っ暗な土手での積み込み作業は非常用バッテリーライトの灯りのみが頼りだ。午後9時30分、作業開始から2時間強、ようやく作業終了。作業を通じて見知らぬ大勢の気持ちが1つになった。「辛苦了、再見!」(シンクーラ、おつかれさま!)挨拶もそこそこに、我々は税関に向かっていた。

(「出張報告書」1994年6月10日、井上泰介、より抜粋)

農家が持ち込むバナナを買い取り、タライで水洗いして風乾の後、箱詰めして出荷待機。


1994年6月2日、集出荷場から箱詰めバナナ初搬出。

小舟に積み込んで水路と道路の交差点まで輸送、コンテナの到着を待つこと3時間半。
トレーラーのドライバーが道に迷ってしまい、暗がりでの積み込み開始となりました。

ここから先は、1994年秋の積み込み風景です。
水路から道路上のコンテナまでの落差は約5mもあり、この作業だけでも大変な重労働でした。

炎天下での品温管理と、降雨時の箱濡れ対策に頭を悩ませていたことを思い出します。
今では、とても考えられないほどの逆境の中でのトライアルでした。

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